表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/58

13:死なないだけがとりえの男(1)

 通い始めて1週間。やっと見慣れた教室に、見慣れない男の人がひとり。


 真っ黒な髪、真っ黒な服、真っ黒な靴。その隙間から見える肌は、まるで陶器のような白。細められた目から覗くのは、キラキラとした琥珀の瞳。


 背は高いけど痩せてはいない、だけども筋肉質ではない。人当たりのいいイケメン、といったふうなその人は。



「ええと……昨日は死んでてごめんね!」



 教卓に手をつきながら、軽い調子でそう言った。



「……あれ? あまり面白くなかった? 鉄板の持ちネタなんだけど」



 ざわつく教室を見回しながら、あれー? と首をひねる死んでた人。いや、正確には『死なない人』なんだっけ。


 廊下でこの人とぶつかってしまった俺は、道すがらに簡単な説明を聞いてはいる。どうやら今から、それをみんなに話してくれるみたいだ。



「それじゃあ、普通に自己紹介をしようかな。僕の名前は(とき)(しま)彼方(かなた)。今日からこのクラスの担任として、君たちをビシバシ指導します。当然僕も異能者なんだけど……」



 言いながら時島先生は、ホワイトボードになにかを書いていく。


 妙に凝った字体で書かれたそれは『不死』という漢字2文字。



「これが僕の持つ異能。効果は読んで字のごとく、なにをされても死なない……んだけど、自動でケガが治るわけじゃなし。動けなくなるようなケガをすればおしまいでね。昨日はただの役立たずで、いやいやほんとに申し訳ない」



 ということらしく、昨日はお腹に大穴が空いていた状態で元気に生存していたらしい。いや元気ではないんだろうけど。



「お詫びと言ってはなんだけど、聞きたいことがあったらなんでも答えるよ。プライベートな質問でもどんとこいだから、積極的に手を上げてほしいな」



 そうして笑顔で待ちの姿勢。とはいえこんな状況で、質問のできる人間がいるものか。



「……はい!」



 いたわ。そうでしたね秋穂さんはそういう人でしたね。



「先生の年齢は! おいくつですか!」


「ざっくり20代後半かな!」


「辛いものは食べられますか!」


「激辛どんとこいだよ!」


「犬派ですか!」


「猫派でごめんね!」


「鳥さんもかわいいですよね!」


「ハムスターも好きだよ!」


「わかります! カラっと揚げて食べちゃいたくなりますよね!」


「ごめんそれはわからない! でも君は君の感性を大事に育ててほしいな!」



 ……なんだこれ、という空気が教室に流れていく。なんなんだこれ。



「……私も、いいですか?」



 耐えきれなくなった、という顔で手を上げたのは冬華。いつも苦労するなあお前も。


 秋穂と戯れていた先生は、軽く手を振りいいよと合図。それを見て、冬華はゆっくりと立ち上がり。



「昨日起こったことは、いったいなんだったんですか? あの角を持った異形は?」



 みんなが聞きたかったことを、正面から尋ねてくれた。


 それを聞いた先生は、あくまで軽い口調のまま。



「あれは『(じゅう)(さん)()』って言ってね、簡単に言うと異形の親玉なんだよ。普通の異能者じゃ文字通りの秒殺だから、死人がひとりも出なかったのはとんでもない幸運だったね」



 聞き流せないようなことを、しれっとさらっと言ってのけた。



「それに対して、異能者の側にも僕みたいな『(ろっ)()(せん)』っていうチートの使い手がいてね。やり合うと無事じゃすまないことはわかりきってるし、互いに不可侵みたいな状況……だったはずなんだけど」


「――そう油断していた時島が『秒殺』されまして。そのせいで皆様に危害が及んだこと、深くお詫び申し上げます」



 突然挟まれてきたのは、とても落ち着いた女の子の声だった。


 いつの間にか教室の入り口に立っていたその子の歳は、小学校の高学年くらいだろうか。急に現れたというのに、先生が驚く様子はない。


 着ているものは制服ではなく、シンプルなブラウスとロングスカート。長い黒髪と金の瞳を持つその顔立ちは、どことなく先生と似ているようにも見える。



春待(はるまち)はいつも僕に厳しいよね」


「純然たる事実ですので」



 でも表情は正反対。ずっとにこやかな先生とは対照的に、女の子は静かな表情のままだ。




 ……先生の妹かなにか? でも、それならなんでこんなところに? あの子も異能者?




 そんな疑問が口から出そうになった、そのとき。



「ろっくんろっくん。あの子がね、みんなのケガを治してくれた異能者さんだよ」



 隣の席の秋穂がこそっと、そんなことを教えてくれた。



「え? あんな小さな女の子が?」


「すごいよねえ。とっても慣れてる感じでね、本当のお医者さまみたいだったんだよ」


「へえ……でもそうか、子供の異能者がいてもおかしくはないもんな」


「私たちよりもベテランさんなんじゃないかな?」


「はーいそこ、私語は慎むようにねー。あ、いいよいいよ謝らなくて。1回言ってみたかっただけだからねこれ」



 慌てて口を閉じた俺たちにも、やっぱり先生は笑ってくれる。そのまま女の子を手招きして、自分の隣に呼び出すと。



「そうそう、この子は僕の……助手、かな? 長い付き合いになるだろうし、みんなにも紹介しておくよ」



 どうぞ、と手を差し出して、女の子を促していく。


 それを見ても、やっぱり女の子は表情ひとつ変えないけれど。



「あらためまして、春待と申します。()が皆様にご迷惑をおかけするとは思いますが、私も全力で補助に当たらせて頂きますので、どうかご容赦頂けますよう……」



 無表情のまま、わりとヤバいことを言ってのけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

評価・ブクマ・感想などお気軽に!
続きはみなさまの評価次第です……!


応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ