12:「双子姉妹のあとさきを考えないほう」
1話がみじかいので、今日も二回更新します。
冬華と秋穂は双子の姉妹。とはいえ、寮の部屋まで同じというわけではなく。
「それじゃあ、またあとでね!」
「はいはい。二度寝なんかしないようにね」
隣同士の部屋の前、いつものように別れようとしたところで。
「……じゃないや。さすがに今日のはひどかったから、ちょっとだけいい?」
「ひどかったって、朝ご飯の話? わたし、どこか失敗しちゃった?」
「ううん、いつもと同じで美味しかったし、ご飯まで炊いてくれてありがと……でもなくて! ちょっとこっち来て!」
冬華は秋穂を手前の扉――自分の部屋まで引っ張り、玄関へと連れ込んだ。
そのまま経つこと数十秒。なにかを言いかけてはやめてしまう冬華に対し、秋穂はにっこり笑いながら、姉の言葉を待っている。
「……今朝のこと、よ。ベッドまで運んでくれたのはお礼を言うけど、さすがにその、六哉と一緒に寝るなんて、問題が」
「ええー? なにも問題なんてないよー?」
「あるでしょうが! 六哉だってれっきとした男子なのよ!? なのにそんな、アイツの隣で、裸で寝てる、なんて」
「だからー、裸じゃないよ。ちゃんと下着は脱がさなかったよ!」
「同じでしょうが! あんたねえ、どんなつもりであんなことしたの!? どうせわかってないんでしょうけど――」
うがー! と怒りを隠さない冬華に、あくまで秋穂はおだやかなまま。
「そうすれば、ろっくんだってふゆちゃんのことを少しは意識してくれるかなーって。幼なじみじゃなくて、女の子として、ね?」
にっこりと、言い含めるようにそう言った。
「……え?」
「色じかけ、というやつです! 幼なじみって立場に安心してちゃダメだよ! 少しは冒険してみないと!」
「え? えっえっ? えっ?」
予想外の返答に、冬華が目をしばたたかせる。その様子を見た秋穂は、そこで初めて表情を変え――がっかり、とオーバーなまでに肩を落としてしまった。
「もー、わたしだって恥ずかしかったんだよ? ふゆちゃんだけが裸だったらおかしいからって、がんばってみたのに」
「え? は? え? ……あ、今あんた裸って」
「それは言葉のあやというやつです! 乙女の純情を返してよ、ふゆちゃん」
「……わざとだったの?」
「ろっくんだって照れ照れだったんだし、もう一押しだったと思うんだよねえ」
「いや、いやいやいやいや。待って、理解が追いつかないから」
「だってふゆちゃん、ろっくんのこと好きなんでしょう?」
「ダレガッ!!?」
一瞬で真っ赤に変わってしまった冬華の顔を見て、満足そうにうなずく秋穂。震えるその手を両手で包み、ぎゅう、っと優しく強く握って。
「なのにいつもあんなだから、私が背中を押してあげなきゃなーって。でもでも、効果はあったみたいだし、もういちど頑張ってみれば――」
「誰が頑張るかァ!!!! というかね、あんたと一緒で成功するはずないでしょうが!」
「ええー、それはさすがに傷ついちゃうよー。ふゆちゃんはわたしのこと、嫌いになっちゃったの?」
「そういう話じゃなくて! 裸のあんたが隣にいたら、そっちを見ちゃうに決まってるでしょうが! 違うの! 大きさが! サイズが!! ボリュームが!!!」
気づけば、力を強めているのは冬華のほう。なんで、どうして、私だけ、と、視線は秋穂の胸元へ。
「……裸じゃないよ、ふゆちゃん」
「その話はもういいってば! とにかくね! 私と六哉はそんなんじゃないからね! 余計なことは今後一切金輪際しないでね!」
「もう少しだと思うのになー。そうだ、今度はもういっそのこと、押し倒して熱いちゅー」
「出てけー!!!」
そうして秋穂はまた廊下へ。扉は強くバタン! と閉められ、もういちど開く気配はない。
「はああー。ふゆちゃんとろっくんには、まだ早かったみたいだねえ。反省反省」
そうして秋穂はため息をつくと、隣の自分の部屋へと向かう。
鍵を開け、扉を開き、見慣れた自室に入ったところで。
「ふゆちゃんにそのつもりがないなら、わたしだって……?」
自分でも思っていなかったことを、ぽつりとそう、小さく漏らした。