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11:双子姉妹と一晩中(2)

「そういえば六哉、アンタ体は平気なの? 痛いところとか、変なところはない?」


「背中と頭と尻が痛いな」



 食後のお茶を飲みながら聞いてくる冬華に、ノータイムで返事を返す。秋穂は笑ってくれたけど、冬華は真に受けてしまったみたいで。



「それはアンタが悪いんでしょうが!!! 私の裸なんて見るから!」


「ちがうよ! 下着は脱がしてないんだし、裸じゃないよ!」


「同じようなもんでしょうが! と言うか秋穂、あんたも恥ずかしいとか思わないの!?」


「他の人になら恥ずかしいけど……でもろっくんだよ? ふゆちゃんが読んでる漫画みたいな、えっちなことはしてこないよ!」


「よよよよよ読んでないしっ!? というか秋穂、隠してたのになんでっ!?」


「お姉ちゃんなのでー、ふゆちゃんの考えそうなことはお見通しなんですー」


「双子だからだろ。で、冬華はなにを隠してたの?」


「えーっとねえ、オレ様な御曹司が庶民の女の子にいろんなことをねー」


「ちょちょちょちょちょちょちょそうじゃなくて! 体! 六哉の体の話よ!」


「……ちょっと筋肉痛みたいな感じはあるけど、それくらい。ケガをしてるとか、そういうのはぜんぜんないよ」



 かわいそうになってきたので、率先して話を戻してやる。少し体を動かしてみても、ひどく痛むところはなさそうだ。



「絶好調とは言わないけど、動くにはぜんぜん問題なし。冬華が治してくれたのか?」


「そう……って言いたいんだけどね」



 そこでなぜか、ぐぬぬと悔しそうな冬華さん。よしよしと撫でる秋穂を見て、そういえば、と思い出す。



「秋穂もケガをしてたよな? その腕、大丈夫だったのか?」


「見ての通りだよー。ふゆちゃんより傷を治すのが上手な人が来てくれてね、ぴたっと元気に元通りです!」


「あー……学院から助けが来たんだっけ」


「私たちが戦ってる間に、『加速』して学院まで逃げたバカがいてね。おかげでみんな助かったんだし、文句なんて言えないんだけど」


「すごかったんだよ! さっと手をかざしたらね! ふわーって痛いのがなくなってね! ろっくんの体もその人が診てくれたんだよ!」


「力不足を痛感しちゃったのよね。私も負けてられないわ」


「ふゆちゃんは負けず嫌いだからねえ」


「じゃあさ、クラスのみんなとか、異形に担がれてきた人も大丈夫だったのか?」


「クラスのみんなは平気だよー。でもね……」



 そこで秋穂は、言いづらそうに言葉を切って。



「あの人は、たぶんもう。治療をするというよりは、運ばれていった、って感じだった。それも含めて、今日の学院で説明があるみたい」



 代わりに冬華が、顛末をそう話してくれる。悲しそうなその顔に、なにも話せないでいると。



「それよりも、ろっくんだよ! あんなに強そうな異形さんを追い払うなんて、すごいよ!」



 わざと明るい声を出すみたいに、秋穂が強く声を張った。



「そうね、それをいちばんに確かめようと思ってたのに。あれはいったいなんだったの?」


「わたしよりも強い力が出てたよね? なにをすれば、あんなふうに動けるの?」


「どう考えても異能よね。私たちに隠してたの?」


「そんな……お姉ちゃんに隠しごとなんて、悲しいな……」



 じいい、となぜかジト目を向けてくるふたり。同じ顔でシンクロしてくると妙な圧があるんだからやめてくれませんかねそういうの。


 あのとき、俺の体になにが起こっていたのか。俺の異能は、本当はどんなものなのか。



「……俺にもわからないから、学院で聞いてみるつもりだよ。隠してたなんてそんな、俺が知りたいくらいなんだから」



 とりあえず、ふたりにはそう説明する。


 『護る』という異能の本質、それはもうはっきりしている。でも、『はっきりした』理由がわからない。そんな状態であれこれ言っても、ふたりを心配させるだけだろう。



「ふーん……」


「ふぅーん……」


「そんな顔されても、それ以上のことは言えないぞ。本当にわからないんだから」


「……まあ、いいか。そのかわり、なにかわかったら真っ先に教えなさいよ」


「ふゆちゃんよりも先にお姉ちゃんにだよ!」


「それやったら冬華がマジギレするって知ってるだろ」


「そんなことで誰がキレるって?」


「お前だお前……と、そろそろ戻って準備しないとだろ。片付けはやっとくよ」



 ごまかそうとしたわけじゃなく、時計を見るといい時間。適当に用意をして出ればいい俺と違って、女子のふたりは色々と準備があるだろうし。



「……それじゃあね! 大丈夫だとは思うけど、調子がおかしかったら今日は休むのよ!」


「無理だけはしちゃダメなんだからね!」



 最後にそんなことを言って、ふたりは部屋を出て行った。


 ひとりになって広くなった部屋に、ごろんと大の字に転がってみる。



『異能とは物語のようなもの、どう解釈するかによってさまざまに変化する。そして俺の異能は、解釈の幅がとんでもなく広い』



「夢で誰かにそう言われたから納得した、なんて意味がわからないもんなあ……」



 とにかく。このことは今日、先生にでも聞いてみるとして。


 大丈夫とは言ったけど、色々なところがギシギシと痛む。休むほどではないんだろうけど、できれば大人しくしていたい。


 時計……もう少し大丈夫かな。学院に着くのはギリギリでいいかな……いいよな……






 * * *






 なんて甘いことを考えていた少し前の俺をぶん殴ってやりたい。はいそうですねきれいに二度寝ですね!


 寮から5分の学院までの道を全力ダッシュ、校内に入ってからは怒られない程度の速さでダッシュ。身体強化がなんやかや、平均的な異能者は100メートル走9秒台らしいけど、俺にはそんなの無理ですからね?


 それでもなんとか間に合いそうで、階段を上りきったところでスピードを緩める。全力疾走してきたなんてバレてみろ、冬華も秋穂も大爆笑だぞ。



「おっと」


「……ッ!?」



 そうして角を曲がったところで、誰かと軽くぶつかってしまう。そのまま俺はバランスを崩して、どてんと廊下に尻もちを。



「あはは、考え事でもしてたのかな。前はきちんと見てなきゃダメだよ」


「その通りです、ごめんなさい」



 伸ばされた手に敬語を返したのは、その人が制服を着ていなかったから。年齢も少し上みたいで、つまりは職員の人なのか、きっと先生なんだろう。



「とはいえ、僕も不注意だったんだけどね。クラス担任なんて初めてだし、緊張してるみたいでさ。ええと、立てる?」


「大丈夫です、すみませ……」



 その手をつかみかけたところで、気づく。



「どうしたんだい、お化けでも見たような顔をして」



 間違いない。そう言って笑うその人と、俺は会ったことがある。


 ……いや、会った、というか。



「昨日の夜に死んでた人……!? 生きてたんですか……!?」



 そんな俺の、失礼極まりない言葉に。



「まあ僕なんて、死なないだけがとりえのクズだからね!」



 その人は、楽しそうにそう返した。

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