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10:双子姉妹と一晩中(1)

特に理由はありませんが今日も二回更新です。

 学院の寮はひとり部屋、一般的なワンルームを想像してもらえればそれでいい。当然ベッドもひとり用、そんなに大きなものじゃない。


 そこに3人が寝転がっているということは。



「えへへ~」


「うーん……もう朝ぁ……?」



 近い近いふたりとも息がかかりそうなくらい近い。というかなんで? なんでこんなことになってるの?



「きちんと目を覚ましてくれてよかったよー。またずっと眠ったままなんじゃって、お姉ちゃんは心配でねえ」



 もともと寝起きのいい秋穂と、しっかり目が合ってしまう。えへへと笑って俺を見ている、ぱっちり丸い大きな瞳。こいつとは長い付き合いだし、今さらなにをとは思うんだけど。



「……おう」



 さすがに気恥ずかしくなって、ごろんと背中を向けてみれば。



「ありゃぇ……ろくやじゃん……? にゃんで……?」



 寝ぼけたまま、確かめるように俺の顔に手を伸ばす冬華。ぺたぺたと触れる手は想像以上に柔らかくて、いや待てそこは鼻の穴だやめろ痛い指をズラすな目はもっとやめろ。



「……え? 六哉?」



 あ、お目覚めになられましたか。



「……は? なんで? なんで私の部屋に? アンタが?」



 飛び退くように起き上がり、そのままジリジリ離れていく。まあ狭いベッドの上だし、離れられる距離なんて知れて……



「……ッ!!?」



 そこで気づく。



「なんでアンタがそんな顔してるのよ。驚いてるのはこっちだってば」



 じいいとにらむ冬華は、なぜか服を着ていなくて。


 下着はきちんと着けているから、全裸ってわけじゃないんだけど。


 見た目だけでもそうとわかる、すべすべとしたその肌に。


 『ない』のはなんとなく気づいてたけど、ギリギリ存在を主張できる程度だとさらけ出されてしまったその谷間に。


 ……目が吸い付けられそうになって、慌ててぐるりとターンを決めると。



「? ろっくん、どうしたの?」



 お前もか秋穂。お前が『ある』のは知ってるから、頼むからそんなに主張しないでほしい。ちょっと動いただけで揺らすのマジでやめろ仕事しろよブラジャー。



「って秋穂、その格好……え? あれ? 私も? は?? は???」



 ここでようやく気づいたみたいで、冬華がわたわたと慌て始める。



「だいじょうぶだよー。ろっくんだってパンツいちまいなんだから」


「俺もっ!!!!? なんか妙にスースーするなと思ってたら!?」


「え? ええ……?? ええええ……???」



 ベッドの下に目をやれば、散乱している3人分の制服。


 状況だけを見れば、これはいわゆる朝チュンというやつなんだけど。


 そんな記憶はないし。


 このふたりに限って、俺がそんな気を起こすわけがないし。


 いやマジで大きいな秋穂。違うそうじゃない、でも目が離せないわこんなん。




 じゃなくて。




「こうやって3人で一緒に寝るのは久しぶりだったねえ。お姉ちゃん嬉しかったな~」



 ひとり動じてない秋穂が事情を知ってるんだろうから、ここは話をきちんと聞こう。冷静に、冷静にだぞ冬華。



「……てけ」



 それを許さないというような、熱い怒気のこもった声。発しているのは当然冬華、うんうん、無理だなこれ。


 なにが起こるかはわかっているので、衝撃に備えて身構える。


 秋穂だって慣れたもの。笑顔のままで隅に寄り、広くスペースを空けてくれる。どうしよう、異能使ったほうがいいのかなこれ。



「で! て!! けー!!!!!!!!」


「言っとくけど、ここは俺の部屋だからなああああああああああっ!!!?」



 そうして俺は、後ろから思いっきり蹴っ飛ばされ、吹き飛ぶみたいにベッドから転がり落ちた。






 * * *






 背中と尻と頭が痛い。もっと痛いのは心なんですけどね。



「……さすが『双子姉妹の暴力的なほう』」


「なんか言った?」


「イイエナニモ」


「次にそれ言ったら殴るからね」


「聞こえてるじゃん」


「うるさいうるさいうるさい!」



 顔を真っ赤にした冬華が、ぽかぽかと頭を叩いてくる。もちろん下着姿じゃなく、きっちり制服を着たあとでだ。


 時刻は朝の7時前。暴れる冬華をなんとかなだめ、とりあえず全員が服を着たあと、こうして話をしてるんだけど。



「もー、朝からそんなに暴れちゃって。お姉ちゃんは怒っちゃうよ?」


「出たな、『双子姉妹のあとさきを考えないほう』」


「全部あんたが悪いんでしょうが!」


「えー、悪いのはふゆちゃんだよー。制服のままで寝たらシワになるからって、わたしのこといつも怒ってるじゃない。だから脱がせてあげて、おふとんにまで運んであげたのにー」


「……ねえ、六哉」


「お前にわからん秋穂の思考が俺にわかるはずないだろ」



 アイコンタクトで通じ合い、はあ、とふたりでため息をつく。


 結局、なにがどうしてこうなったのかというと。



・戦いのあとで倒れた俺、治療を受けるも目を覚まさなかったので部屋に運ばれる。


・心配したふたりがそばについてくれるも、疲労に勝てずに冬華が寝落ち。


・秋穂「もー、ふたりとも制服のまま寝ちゃうなんてだらしないなあ。しょうがない、お姉ちゃんが一肌脱がせてあげましょう!(物理的に剥ぎ取られる衣服」


・秋穂「わたしも眠たくなってきちゃったので……みんなで仲良くおやすみなさーい」


・俺「そうはならんやろ」



 そして現在、当の本人はにこにこ笑顔で朝食を作ってくれているわけです。


 きっと秋穂に他意はない。冬華と俺の世話を焼くのが楽しくて、厚意でそうしてくれてるだけだ。


 だけどもう、俺たちも小さな子供じゃない。きちんとした分別というか、そういったものを持つべきだろう。


 そう決心して目をやると、隣の冬華にも伝わったらしい。俺たちふたり、きちっと居住まいを正しまして。



「秋穂さんや。ちょっとそこへお座りなさい」


「大事な話があるの、こっちに来てちょうだい」


「もう少しだけ待ってねー。ふゆちゃんの好きなカリッカリのベーコンエッグ、焼き上がるところなんだー♪」


「う……まあそうね、焦げちゃったらもったいないし……」


「大事な話<ベーコンエッグ」


「へえ……?」


「そういうことするからそんなあだ名がつくんだぞお前」



 ほっそりと長い指がデコピンの形を作り、俺の額をスナイパーのようにとらえる。暴力以外のコミュニケーションが取れないのかな冬華さんは。


 そうしているうちに、部屋に充満するのはカリカリベーコンのいいにおい。こうなったらもうだめで、真面目な話なんてできないだろう。



「おまたせしました、今日の朝ご飯でーす! 簡単なものでごめんなさーい!」


「いやいや、毎日ありがとうな。冬華はともかく、俺のぶんは自分で用意するべきなのにさ」


「食材はろっくん持ちなんだから、むしろ助かってるくらいだよ! ほらほらふゆちゃん、運ぶのくらい手伝って!」


「はーい。じゃあ六哉、アンタはテーブルの上」


「言われなくても片付けとくよ」



 そうして食卓に現れる、炊きたてのごはんにおみそ汁。そこに加えてベーコンエッグと、今日は和洋折衷で攻めてきたらしい。


 いつもの通りに俺の部屋で、3人揃って机を囲んで。



「いただきまーす!」



 こうして朝食をとることも、気づけばすっかり日常になって。



「ごちそうさまでした!」



 学院に行くまではここで過ごすのも、いつのまにやら日常だ。


 …いやほんと、こいつら俺の部屋にいることのほうが多くない……?

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