00:すこし前の日のこと
たとえば身近に、復讐に燃えるきょうだい同然の幼なじみがいて。
それが ”親の仇” という、わりとガチで重たい理由で。
さらに言うなら、俺も同じ事件で唯一の肉親を亡くしているんだけど。
『これからは私たちの代わりに、あなたがふたりを守ってあげてね。危ないことをさせちゃあダメよ?』
そんな遺言で釘を刺されている、その場合。
「俺はどうすればいいと思います?」
「思いのほかハードな相談が出てきて困惑しているんですが、それはたとえ話なんですよね?」
「もちろんです。なので仇討ちという行為の是非なんかはとりあえずスルーしてください」
明らかな困り顔になってしまった先生に、すみませんと頭を下げる。ここは俺が入院している病室で、目の前にいるのは担当の先生。退院前の最後の診察、困っていることや気になっていることはないですか――そう聞かれた結果、考えなしにそんなことを口にしてしまって。
「うーん……そもそも仇討ちは法律で禁止……いやでもそこはスルーでいいと……」
俺はこの人を、ものすごく困らせてしまっているわけです。
それでも先生はあきれることなく、たっぷり5分も考えてくれて。
「……まあ、止めるのが無難でしょうね。遺言の件がなくとも、わざわざ危険に飛び込む必要はないと思います。家族のような関係性の人物であるならなおさらです」
「止まってくれないんですよねえ。先生も知ってるでしょ、あのふたりが素直に話を聞いてくれないことくらい」
「そうでしょうねえ。ちなみに念を押しますが、これはたとえ話なんですよね? 思い当たるふしがありすぎて不安になってきたんですが」
「たとえ話ですね。フィクションであり実在の人物や団体とはなんら関係がありません」
適当な感じでごまかしてみると、ふぅ、と困ったため息が聞こえる。さすがに怒られるかなと、ドキドキしながら待つけれど。
「それなら、あなたが強くなるしかないですね。彼女たちをどんな危険からも守れるくらいに、強く」
聞こえてきたのは、そんな予想外の声だった。
「というか先にやっちゃいましょう。あなたが仇を討ってしまえば万事は解決、丸く収まりダブルピース……どうしたんですか、そんな間抜けな顔をして」
「それはないだろって気持ちと、その手があったかという気持ちが半々な顔です。でも、俺にそんなことができると思いますか? 相手はよくわからない化け物で、俺はただの高校生なんですよ?」
「そのための養成機関が『学院』で、そのためにいるのが私たちです。強い意志には強い力が宿るもの、入学希望者たるもの志は高くあれですよ。敵うはずのない強敵への仇討ち、ロマンがあっていいじゃないですか」
「良識ある大人はどこに消えてしまったんですか?」
「例え話なんでしょう? さておき、覚悟だけはしておいてくださいね」
ふふ、と小さく笑う先生。やっぱりというか当然というか、完全に見透かされてるなあ。
「この道には間違いなく、いくつもの困難が待ち受けています。死ぬほどの努力を大前提として、それでも望みは叶わないかもしれません」
「……わかってはいる、つもりです」
「ですがまあ、かわいい幼なじみのためなら頑張れることでしょう。ひとりだけでも羨ましいのに、ふたりですよふたり」
「やかましいだけなんですけどね」
「かわいいは否定しないんですね。ちなみにですが、どちらが本命なんですか?」
「そういうのいいです」
「大丈夫ですよ、ここで聞いたことはふたり以外には秘密にしておきますから」
「ふたりだけの秘密じゃなくて!?」
「……と、噂をすれば。毎日お見舞いに来させるとか、あなたも罪な男ですねえ」
「来るなって言ってるのに来るんですよ知ってるでしょ。とにかく! この話はふたりには内緒にしてくださいね! はいはい聞こえてる! 入ってもいいから!」
冗談みたいな会話だったけど、これが俺の決意のきっかけ。大切な人を護るため、強くならなきゃいけないと。
でも。
現実はそう上手くいかないというか、ある意味上手くいきすぎてしまったというか。
『護る』という言葉の意味と解釈は、俺が思っていたよりも、広く大きく様々で――
初日はたくさん更新します。次はお昼に!