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僕の可愛い妹を至高の悪役令嬢に育てよう  作者: 猫屋敷みい子
一章 妹を普通の“令嬢”に育てたい
9/31

食われる側



【side: ルカ セシル(10)】



「待って、僕たちは男だよ、売り物にならない」


という叫びは信じて貰えず、あっという間に荷馬車に詰め込まれた僕たち。


縄で身体をぐるぐる巻きに縛られ、口にもキツく布を巻かれている。


「んーーーーんーーーー」


と、僕は街の人に気付かれるように、声を出そうとするが、布のせいで難しい。僕はヴィオラと、(ついでにコハクも)庇うように、奥に押し込め、前に出た。


見張り番の太った小男が、


「無駄だぜ、お嬢ちゃん。ハハ、なぁお頭、売り物にする前に味見していいか?」


と、恍惚とした表情で言う。


(味見…?! 手足でもちぎって食べる気か?!)


僕がびくりとするのも構わず、近づいてくる。酒と、腐った魚の混じったようなキツい体臭だ。うっと、胃の奥が込み上げ、吐きそうになった。


「いいなぁ、お頭達はガキは食わねえが、俺は好みだぜ」


と、なんと小男は黄色く汚れた舌をベロリと出すと、僕の首すじをじゅるりと音を立てて舐め、耳にドブ色の息を吹きかけた。鼻がもげそうな程に臭い。


ひえええ、と悲鳴を上げたいが、声が出ない。脚をジタバタさせて抵抗しようとするが、


気味の悪い手つきで、薄汚れた手が僕の脚に手をかける。ハア、ハア、と男は息を荒くしながら、着物の中を這うような手つきでまさぐって、


ふくらはぎから太ももにかけてを、チロチロと黄色い舌で舐め始めた。


(うげえええ、何やってるんだ、こいつ)


「はぁ、肌もすべすべでいいなぁ。こいつ、金さえありゃ俺が買って毎晩可愛がってやるのに」


(毎晩?! 僕を食べようとしてるんじゃないのか?!)


ぞくぞくと激しい寒気が僕の身体を襲う。


どうしよう、ヴィオラもいるんだ。なんとかして守らねば。と、恐怖で凍ってしまいそうな頭をドンドンと床に打ち付け、なんとか回転させようとした。


(どうする?! どうする?! 解決策をみつけないと)


と、その時だった。


背後のヴィオラが、飛び出してきた。


自らを拘束する縄をビキビキビキビキ、と力ずくで瞬く間に引きちぎると、僕を襲う小男に飛びかかった。


「な、なんだ?! お前が先に相手してほしいのか?」


と、男は挑発する。


(やめろ、下がるんだ、ヴィオラ!!!)


と叫びたいが、声が出ないし、縄はキツく結ばれていてまるで動けない。みるみる血の気が引く。


(ど、どうしよう…僕のせいで妹が怖い目にあったら…)


ところが、


ヴィオラは、口に巻かれた布を噛みちぎると、狼さながらに男の首にガブリと噛みつき、食らいつく。盛大にブシューっと血が吹き出す。


(ヴィオラ?!!!!)


「や、やめてくれえ…お、お前ら、助けてくれ」


小男が悲痛な叫びを上げ、仲間は林の中で馬車を止めた。


が、ヴィオラは構わず四つん這いで男にしがみつき、牙を剥いて首を噛みちぎり続けた。赤黒い血がびたびたと流れ出る。


ヴィオラの顔も、返り血でバーガンディ色に染め上がる。生臭い臭いが当たりを支配する。


小男は白目を剥いて、絶命した。


駆けつけた男達が入ってきたときには荷馬車の中は血塗れだった。


血の池に佇むヴィオラ。緋色の目をギロリと、巨漢の男達へ向ける。


世界を焼き尽くさんばかりの、燃えたぎる赤目で、


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴと、狂気的に威嚇する。


山賊風の男達は十人近いというのに、一様に気圧され、一歩下がった。


「て、テメェら小娘一人に怯むんじゃねえぞ」


と、お頭風の髭の男が言うと、他の男達はノコギリのような刃物や、錆びた真剣を持ち出してきて一斉にヴィオラに飛びかかった。


僕は顎の力を振り絞って、ヴィオラのように口の布を噛みちぎり、精一杯叫んだ。


「ヴィオラ!!! 危ないよ、下がって!!!」


両目から、氷のように冷たくて重たい涙が溢れた。








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