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僕の可愛い妹を至高の悪役令嬢に育てよう  作者: 猫屋敷みい子
一章 妹を普通の“令嬢”に育てたい
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前世の後悔


【side: ルカ・セシル(10)】


「双子は、誰だって、気持ち悪いんだって」


そんなことはない、と目を見て伝えようとして前を向く。


すると、彼女の緋色の瞳から、透明な涙がハラリと伝った。


僕は涙をぬぐいもしないで、呆然としていた。


昔のことを思い出していた。ルカ・セシルとして生まれる前の、前世の記憶だ。



――――――――――――――――――――――――――――――――




前世の僕には、一卵性双子の妹がいた。


男女でありながら見分けが難しいほど、顔も体型もそっくりだった。


その境遇は大層気味悪がられ、近所の子供達にはいじめられた。特に妹は、内気な性格のため標的になりやすかった。


と、その日も校庭裏の方から何やら嫌な笑い声が聞こえた。アイツらだ。


僕は、その光景を見て、拳を強く、爪の跡が消えないほど握りしめた。歯を食いしばる。


ガキ大将のエイタが、妹の髪を乱暴に切ろうとしているのだ。物騒にも、ナイフを持ち出して。


「お前、髪短くしたら、本当にお兄ちゃんと区別つかなくなるぞ」


ガハハと、唾を飛ばしながら笑って、妹の髪は引っ張られる。妹の繊細な白肌に、汚く唾が掛かる。


「や、だ、やめて、痛い…」


と、ぽろぽろ涙をこぼす妹の前へ、全速力で走った。


「何をするんだ、妹は女の子なんだぞ?!」


「ああ?! 邪魔すんじゃねえよ、てめえに用はねえんだよ、少女男!」


“少女男”は、僕の蔑称だ。僕は男のはずなのに、少女の妹とほとんど同じ造りの体型と、顔をしていたからだ。


「おい、だっせえな、少女男、妹を守ってみろよ」


僕は正面からエイタ達に立ち向かわなかった。いや、まだ出来なかった。


妹を庇う姿勢で、ただ覆いかぶさるだけの僕に、嘲笑が降りかかる。


(仕方ない…今の僕には、エイタと子分三人をやっつけられる力はないんだ)


と、眼を瞑って痛みに耐えた。取り囲まれて、ボコボコ背中を蹴られた。紫に腫れ上がるまで我慢すると、諦めてエイタ達は帰っていく。そんな毎日。


「お兄ちゃん、ごめんね、ごめんね、もう、私のことはいいから」


と、妹はよく謝って泣く。僕が強くないせいで、守れないせいで、泣かせてしまう。


「もう泣くなよ、泣いてると幸運の女神様に嫌われるんだぞ」


と、言いながら、僕は心の中で何度も約束した。


(お前が泣かなくて済むように、頑張って強くなるからね)



ところが、ある日のことだった。


『僕の将来の夢は、大切な妹を守れる騎士になることです』


と授業参観で僕が発表すると、クラスメイト達は嘲笑した。


母は、ただ恥ずかしそうに教室の隅で俯いていた。


『騎士なんて職業ねぇよバーカ』


『質問でーす、騎士様は、ミサイル飛んで来たらどうやって妹を守るんですかぁ、ギャハハ』


腹は立ったけれど、彼らの言うことは正しかった。


そう、その世界は複雑で、子供の僕には難しすぎた。


学校からの帰り道、僕は悩みに悩んだ。


(確かに、もし僕がガキ大将を全員やっつけられるくらい強くなっても、ミサイルまではやっつけられないな。もし妹にミサイルが飛んで来たら…んー、どうしよう?!)


じゃあどうすればいい、政治家でも目指せばいいのか、と、俯いて考え事に耽っていた。


その時、突然、けたたましいクラクション音が、耳元で鳴り響いた。


キーーーーーーッ、バンッ


無意識のうちに赤信号も無視していたせいで、車に轢かれた。その事実を認識する間もなかった。


意識が遠のく僕の瞼の裏には、妹の泣き顔があった。


『僕の将来の夢は、大切な妹を守れる騎士になることです』


『僕の将来の夢は、大切な妹を守れる騎士になることです』


『僕の将来の夢は、大切な妹を守れる騎士になることです』


と、耳の奥で、僕の声が繰り返し再生された。間の抜けた声だ。


結局、一度も妹を守れなかった。ああ、明日も妹はエイタ達にいじめられる。僕と違って本当の女の子なのに、顔にアザなんか作られたら、どうしよう。


参ったな…と、激しく後悔しながら9歳の夏に死んだ。








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