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僕の可愛い妹を至高の悪役令嬢に育てよう  作者: 猫屋敷みい子
一章 妹を普通の“令嬢”に育てたい
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意外な素顔



マリーナは、ヴィオラの濡れた髪を背後から丁寧に拭き、クシで梳かしつつ、ドレッサーの鏡に映る彼女の顔にうっとりと見惚れた。


「あら、ヴィオラ様って…」


「嘘でしょう。ヴィオラってそんなに可愛かったの?!」


と、途中で入って来た僕も目を丸くした。ヴィオラは朝食後、気が抜けたように大人しくなり、マリーナに付き添われてお風呂に入ったのだ。


すると、どうだろう。ボサボサに伸びきった髪や、肌に付着した汚れに隠れて、暗く陰鬱な印象だったのが、見違えた。


赤い釣り目の勝気な印象は変わらないが、桃色がかった血色の良い肌や、ふんわり丸みを帯びた額、すっと鼻筋の通った鼻、品の良い薄い唇など、ぴかぴかの部品が続々と現れた。まるで精巧なお人形のような顔立ちをしている。


(5年後、ゲームに登場するヴィオラは、顔の綺麗さなんて目に入らないくらい性格がキツかったけどね…)


ヴィオラは、僕たちの視線が恥ずかしくなったのか、髪をくしゃくしゃにしてわざと顔を隠した。


「マリーナ。髪を整えるのはどうかな? 枝毛が気になるよね」


「ええ、では、全体的に毛先を少し整えて、前髪を目に掛からないように切り揃えましょうか。如何でしょうか、ヴィオラ様」


マリーナが弾んだ声色でヴィオラに確認する。ヴィオラは僕の方へぐるりと振り向き、


「なんで、髪、変えるの?」


「そうだなー、もっとヴィオラが可愛くなるかな、と思って」


「ヴィオラが、かわいく?」


「うん、気が進まなかったら、今は無理に切らなくてもいいけど」


ヴィオラは、腰まで伸びた長い黒髪を、両手で持って、しばらく考え込むと、


「なんで、ヴィオラ、かわいくなるの?」


と、真剣な眼差しで尋ねる。


「だって、ヴィオラは女の子だろう?」


「そうだけど、でもなんで?」


僕は少し考えてから、その質問難しいよ、と文句を言いつつ、


「それは、いつかヴィオラに好きな男の子が出来たときに分かるものじゃないかなぁ? 僕の答え、大丈夫かな、マリーナ」


と答えた。マリーナも、10歳ながら捻り出した僕の回答に、微笑ましそうにし、大きく頷いた。


(そう、ゲーム通りなら、ヴィオラは5年以内に隣のナイル帝国皇太子のフィオネルと婚約する。そして熱烈に恋い焦がれるも、ヒロインという強敵を横目に悪役公爵令嬢へと成長していく、という流れなんだろうけど、今の生まれたての小鹿みたいなヴィオラからだと、全然想像出来ないなぁ。そもそも、ただの“令嬢”にすらなれるか怪しいよ)



そして、ようやく納得したヴィオラの髪を、マリーナが丁寧に切り揃え始める。手先が器用なのか、みるみる整ってゆく。最終的に、胸元くらいの長さに落ち着いた。


ヴィオラは、軽くなった頭を、嬉しそうにぶんぶん振り回したり、切られた髪の束を不思議そうに拾って眺めたりしていた。


「ヴィオラは、これまで王宮で暮らしていたわけじゃないの?」


と、僕が尋ねると、彼女はぴたりと動くのを辞め、小さく頷いた。深紅に染まった目の奥が、悲しげに揺れる。


「じゃあ、どこにいたの?」


「…北の山。最初からそこにいた」


(山?! 生まれてすぐに母親に捨てられたのか?!)


「待って、北の山だって?! 僕、前に狼が出るって本で読んだよ」


と、確認するためにマリーナの方を見ると、


「私も、白くて巨大な狼の巣窟になっており、簡単には近寄れないと、そう聞いています」


と、肯定される。


「狼はいるけど、怖くない。ご飯くれたり、寒いときは、温めてくれた」


僕たちは言葉を失った。意味を理解するのに、時間を要した。


(つまり、狼に育てられてたってことだ…)


先ほどの、ぶるぶると全身を震わせながら相手を威嚇したり、低く唸り声を上げたりする姿を思い返し、納得する。


「一体どうして? ヴィオラは王女なのに」


(王族は、どの国でも高い魔力を発動出来る可能性が高い。この世界ではよほど貴重なはずなのに、山に捨てられるなんてよほどのことだ)


「……多分、私が、双子だったから」


と、ヴィオラが酷く苦しそうに呟いた。胸に刺さって取れないトゲがある。そんな表情だ。


「え、双子? そんな理由で?」


息が苦しくなった。心臓が押し潰されていくように、じりじり痛めつけられる。


「双子は、誰だって、気持ち悪いんだって」


そんなことはない、と目を見て伝えようとして前を向く。


すると、彼女の緋色の瞳から、透明な涙がハラリと伝った。


僕は涙をぬぐいもしないで、呆然としていた。


昔のことを思い出していた。ルカ・セシルとして生まれる前の、前世の記憶だ。







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