第21話 <ヒロイン>
~これまでの粗(過ぎる)筋~
第1章:学園ものの乙女ゲームの悪役令嬢として転生したローズ。何としてでもヘルビアナ国の王太子アシュガと婚約したくなかったローズだが、なんやかんやあり結局婚約することに。
第2章:とうとう学園に入学するも、ヒロイン・アナベルもどうやら転生者。なんやかんやありはしたが、ともかくもうすぐ学園祭が始まるため、学園祭の出し物を決めることになった。
チョークの粉まみれだったヒロインは、魔法を使ったのか綺麗になって帰ってきた。
今黒板に書かれている案は、ミモザの提案した幽霊屋敷だけだ。
「はーい!」
元気よく手を上げるヒロイン。
「はい、君。どうぞ」
「劇がいいと思いますっ」
――それだ。学園祭の出し物は、劇だった。たしか……
ヒロインが、その不思議な瞳をキラキラとさせてアシュガ様を見る。
ふと、何かが頭に引っかかる。
まぁいいか、と黒板に『演劇』と書く。
とんとんとん、と、異世界でも変わらない音。
「他に意見はない?……じゃ、どっちがいいか決めようか。」
アシュガ様がそう言うと、紙がひとりでに皆の机に配られていく。その一つ一つが、じんわりと紫の光を帯びている――アシュガ様の魔法だ。……かっこいい。
「名前は書かなくていいよ。書き終わったら半分に折ってね。」
何やらこちらを見てニヤニヤとしているアシュガ様。
そんな表情もかっこいいんだから、もうどうしようもないと思う。
ゲーム通りなら演劇になるけれど、最後の足掻きとして、アシュガの色を纏う紙に『幽霊屋敷』と記入する。
ローズが紙を半分に折った途端、それはひとりでにアシュガ様の元へ向かった。
なるほど。そういうことか。チラリと視線をアシュガ様に向けると、キラキラとした目でこちらを見ている。……なんだか、『ほめてほめて!』とねだっている子犬に見えてきた。
「アシュガ様、この魔法凄いですね。後でどうやったのか教えていただけますか?」
殆どが『演劇』と書かれている紙を数えながら、アシュガ様に囁く。
「ふふ。いいよ」
嬉しそうだ。そんなに褒めてほしかったのか。そんなところも可愛いけど。
そんなこんなで集計をした結果、やはり劇に決まった。
この学園は殆どの生徒が貴族の子息令嬢だから、幽霊屋敷より演劇の方が受けが良いのだろう。
「学園祭の出し物は劇に決まったよ。先生に報告に行ってくるね。――ローズ、行こうか」
「はい、わかりました」
職員室までの道は、そんなに遠くない。
特に話すこともないので、心地良い沈黙のままだ。
他の教室から聞こえてくる賑やかな声は、壁を隔てているせいで廊下の静けさを一層強調するばかりだった。
「ローズはここで待ってて。」
「はい、わかりました」
職員室の扉を開け、アシュガ様はその向こうへ消えて行く。
その時、後ろからはしたないと言える程大きな足音が聞こえてきた。
「あらっ、ローズ様。」
にっこり。
全くヒロインらしくない、寧ろ悪役令嬢に相応しい微笑み――を浮かべるのは、アナベルだ。
「っ……!」
瞬間、思い出すのは試験当日のこと。階段からふわりと……。
ぞわりと何かが背中を走った、その時。
「お待たせ、ローズ……あれ、君は……何をしているんだい?」
アシュガ様が姿を現した。
知らない間に入っていた肩の力がふっと抜ける。
「あっ、アシュガさまっ!」
(ヒロインの切り替え、すご……)
ローズは場違いにも呆けてしまった。
つい一瞬前まで悪役令嬢も震える微笑だったのに、今やあどけない笑み。
いっそ感嘆する。
「えへへ、アシュガさまに会いに来ちゃいましたぁ」
「そ、そうか……?」
ヒロインはキラキラした不思議な瞳でアシュガ様を見上げる。
が、アシュガ様は困惑しきっている様子。
ヒロインが一体何をしたいのかはなんとなくわかるが、どうしてこのタイミングで?
そう思ったとき、いつも通りにヒロインの指に嵌っている指輪が一瞬、青い光を放った気がした。
「アシュガさま、演劇のヒロインとヒーローを私達でやりませんかぁ?」
あぁ、思ったとおり、これを言いに来たのか。
……でも、私の隣を歩くアシュガ様なら、きっと。
勝手に決めることはできないと窘めてくれることだろう。
半ば祈るようにそう考えていたローズだが、その祈りは、天に届かない。
「…………あぁ、そうだな。」
「っ……!?」
「ふふ、アシュガさまならそう言ってくれると思ってましたぁ」
どうして。どうして?
いや、わかっていた。ここは乙女ゲームの世界で、それで。
もともとこうなる運命だっただろう?
少し、時期が遅れただけで。
「…………もちろんだ」
ローズの混乱にとどめを刺す、アシュガの声。
絶望的なローズの瞳の先には、ヒロインを見つめる攻略対象の横顔しかなかった。
その事実にまた胸を刺され、ローズはふらりと後退る。
しかし、まだ静かな廊下に響くはずだったその足音は、授業の終了を告げる鐘に掻き消された。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
その後ローズは、どうやってあそこから歩いてきたのか、あまり覚えていない。
気が付けばクッキーを目の前にして、ぼーっと座っていた。
どのくらいこうしていただろう。手に取った紅茶は微温くなっている。
「……ダメ。逃げてはダメよ、ローズ。」
不安で潰れそうになる自分を叱咤し、前を向く。
あの日、誓った。運命に立ち向かうと。逃げ続けるのは辞めだと。
アシュガ様に話を聞こう。
「リリー、少し外に出るわね。すぐに戻るわ」
その様子を見ていたリリーは、ローズの前では全く見せない心配気な表情を見せていた。
「やはり何か、おかしいですね……」
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
部屋に戻ったアシュガは、酷く険しい表情をしていた。
「何かがおかしい。」
「ん?なんだ?」
あのオパール・アイの少女に声を掛けられてから、なぜか目が離せなくなった。
意思が吸い込まれるような、惹き付けられるような。
そういえば、以前もこんなことがあった気がする。
「おい?何がおかしいんだよ」
「……オパール・アイの女生徒を知っているか?」
そう言うと、リコラスは怪訝そうな顔をする。
「あぁ、知っている……というか、ここじゃ誰でも知ってるだろ」
「あの子に……なんというか、惹かれる」
途端、リコラスは目を見開いて叫んだ。
「……医務室!!」
「おい待て。俺もそうしたいくらいに自分のおかしさに気付いているが、待て!!お、おい!」
はぁ、と息を吐いて、アシュガは続ける。
「運命か何かと錯覚するような気分なんだ。……だが、そんなことは有り得ない……リコラス。」
いつになく真剣な眼差しに、リコラスは少し気圧される。
こういうときに、やはりアシュガは次代の王なのだと感じる。
「俺がローズを苦しめるようなことがあれば、俺の目を覚まさせてくれ。」
「……ああ、わかった。約束しよう、我が主。」
アザミ「皆様、お久しぶりでございます。ちょうど3年ぶりと言ったところでしょうか」
ローズ「アザミ?誰に話しているのかしら?」
アザミ「……神々ですわ!」
ローズ「……そ、そう。では、神々の皆様、次回投稿は明日、7/28の20時でございます。よろしければ下の★から評価、ブックマークを……」
アシュガ(私のローズがとうとうおかしくなってしまった……)