閑話 <クッキーとアシュガ……と、リコラス。>
「なぁ、リコラス。」
「なんだ」
アシュガは、不意に読んでいる本から顔をあげた。
今日の我が主、アシュガはなんだか思い悩んでいる気がする。読む本もいつもに比べ全く進んでいない。
何かあったのだろうか?
まさか、今日の試験で何かあったとか?……いや、アシュガに限ってそんなことは……
「……ローズに、何かをプレゼントしたい。」
「いやそんなことかよ!?」
しまった、思わず本音が漏れてしまった。
ちょっとでも心配した自分がバカバカしい。ただの惚気じゃねえかぁぁぁ!!!
「そんなこととはなんだ。大事なことだ」
アメシストの目が据わっている。
「あー……わかったわかった。つか、なんでもいいんじゃねぇのか? 今までだって色々あげてきたんだろ?」
「それはそうだが、なんというか……もっと、こう、心のこもった……」
彼女の姿でも思い浮かべているのだろう。
ふにゃりと腑抜けた顔をしている。
はぁ……全く、この幸せオーラをなんとかできないものか。
腹立つやつめ……。
「おい、主に向かって何を言うんだ」
「はっ、声に出てたか」
「思いっきりな」
アシュガは、愛しの婚約者を溺愛している。
それはもう、溺愛している……。
そして幸せオーラを撒き散らして俺に被害が来るのだ!!
「はぁ……ローズ嬢の好きなもんあげればいいんじゃねえのか?」
と、適当に言っておく。
勝手に幸せにでもなんでもなっておけ、俺に被害が来ない程度にな!
……おおよそ、主であり自国の王太子に向かって思うようなことではない。
「ローズの好きなもの……。そうか、ありがとうリコラス。今すぐ小麦粉とチーズ、それに……バターと砂糖を。あと、ローズに手紙を出してこい。明日出掛けると。」
「は、え、ちょっと待て」
「それと、明日は海に行く。頼んだぞ」
何故この横暴な王太子に従者が一人しかついていないのか、誰か教えてくれ!!
そう心の中で叫びつつも、リコラスは全てを完璧にこなすのだった。
……ただし、かなり夜遅くまで奔走する羽目になった。
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リコラスは、毎朝アシュガの予定を確認……または、起きていなかった時に起こすために、アシュガの寝室へ足を運ぶ。
「アシュガ、入るぞー」
ドア越しに声を掛けるも、既に起きているはずのアシュガから返事は来ない。
「おい、まだ寝てるのか?」
珍しいこともあるものだ。
カチャリ、とドアを開けて中を見たが、そこはもぬけの殻だった。
「……ん?」
ベッドの上に視線を向けると、そこには一枚の紙が。
『学園の厨房に行ってくる』
…………。
「そういうのは従者を起こして言えよ!!!」
妙なところで優しさを発揮するなと、声を大にして言ってやりたい。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
厨房。ということは食堂だ。恐らく、毎日行っている食堂……いや、まて。昨日俺が用意した材料は、クッキーの材料に違いない。ということは……
「はぁ……お前な!」
「おはよう、リコラス。ちょっと待ってくれ今焼いてるんだ」
「……あ、はい。」
朝っぱらから、オーブンを凝視する我が国の王太子を見てしまった。
……クッキー、自分で作ってんだな!!
予想した通り、ローズ嬢がよく行くカフェの厨房だった。
まだ朝早いのだが、カフェの従業員達の何人かは何かしら作業している。
「もういいかな?」
「うん、アシュガ君!もうできてるよ!ほらほら早く出して〜」
「あぁ。よし、これでローズに喜んでもらえる……ふふふ……」
緩みきった頬。いや、誰だよあいつ。あれが王太子とか信じたくねぇ。
「はい、アシュガ君。彼女とのデート楽しんでね!」
クッキー作りを教えていたであろうパティシエの女性が、アシュガに四角い籠を持たせてニヤニヤしている。
「世話になった。ありがとう」
王子スマイルを作ってから、アシュガは俺に言った。
「……っと、リコラス、今日はこれからローズと二人でデートを楽しむんだ。お前は来なくていいぞ」
「はぁ!? お前護衛を連れずに行く気か!?」
とうとうご乱心かぁぁ!!
「バカか。俺がローズに危険が及ぶような真似をすると思うのか? 別の護衛を連れていくから、お前は休んでいろ。……そうそう、ローズの侍女のリリーだが、今日はローズが突然休みを与えたせいで暇してるだろうなー」
「お前最後棒読みだからな!?」
「じゃあ、俺は楽しんでくる」
……ったく。
心の中で主に文句を言い続けながらも、リコラスはリリーのもとへ向かうのだった。
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今回はリコラス回でしたね笑
もう一話、閑話を入れたら学園祭編に突入しようかと考えています!
ヒロインちゃん、物凄く脇役なのでもうちょっと出演回数を増やしたいと思う今日この頃。