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第9話 <今日の授業は>

 残りの授業を休み、アシュガ様に連れられるまま学生寮に戻った。


「それで、話というのはなんですか?」


 見慣れたアシュガ様の部屋に入ってそう言うと、アシュガ様はまずソファに座った。

 隣をぽんぽんと叩くので、そこに座れということか。

 おずおずと腰掛け……ようとした時、抱きあげられて、気が付けばアシュガ様の膝に腰掛けていた。


「ひゃっ!?」

「話というのはね」

「え、え、このまま話すのですか!?」

「そうだよ。……ダメ?」


 耳元で甘く囁かれては、ダメなものもダメと言えなくなってしまう。あぁ、こんなことをするアシュガ様がいけないんだ。ダメと言えない私は悪くない。多分。


「うっ……」

「いいよね?」


 私がダメと言えないのわかってて言ってますよね!?


「くぅっ……」

「ふはっ、ローズは本当に可愛い……いじめ甲斐があるよ。」

「……もう、いいので話して下さい。」


 耐えられません。


「うん、それでね。どうやら私の可愛い可愛いローズに手を出そうと思っている輩がいるみたいでしょう?」

「か、可愛いは余計です」

「でも、これを公開しちゃうと面倒なことになってしまうんだ。つまり、大っぴらに護衛ができない。」


 私の発言をしっかりスルーしたアシュガ様の声が真剣味を帯びる。


「だから、これからどこへ行くにも私と一緒にしてくれ。放課後はできるだけ部屋に居て、授業でも注意して。絶対に一人にはならないこと。約束してくれるかい?」

「……わ、かりました。あ、あの。アザミ様を部屋に呼ぶのは良いですか……?」

「アザミ? ……あぁ、アカヤシオ家のご令嬢か。彼女ならいいよ」


 かなり自由が制限されるなぁ……。

 けれど、文句は言っていられない。アザミと話せるだけマシか。


「よしよし」

「ひぅ!?」


 この声は一体どこから出たのやら、自分でもわからない。

 ……すっごく恥ずかしい事だけは確かだ。


「あはっ、可愛い。」

「なんか可愛いの頻度高くないですかっ……」

「ローズが可愛い過ぎるのがいけない」


 いや、私はどっちかというと可愛いわけじゃないと思うんだけど……。悪役令嬢だし。

 ……まぁ、今に始まったことじゃないし、もう諦めよう。


 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+


「りーりーいー」

「もうちょっとちゃんとした話し方はできないんですか、ローズ様。お帰りなさいませ」

「できますわよ?」

「……違和感がすごいのでやっぱりやめて下さい」


 テーブルに目をやると、湯気を立てる紅茶とクッキーが置かれていた。


「流石、リリー。」

「リコラスから聞きましたから。ローズ様が大変だったと」


 さっそく椅子に座ってカリッとクッキーをかじると、オレンジピールが入っている。

 酸味とほんの少しの苦味、クッキーの甘味が合わさってとっても美味しい。

 紅茶はダージリンかな。やはりこれも美味しい。


 と、クッキーに夢中になっていて気付かなかったが。


「……ん?リコラス?リリー、今呼び捨てにした?」

「なんの話ですか」


 しれーっと無表情で答えるリリー。

 ふふん、私は知っているぞ!

 リリーは、嘘を吐くときは無表情になるのだ!

 ……大体いつも無表情だけど。


「ふーん、なるほど……」

「何を想像しているのかは解りませんが違いますから」

「えー?本当にー?」


 ニヤニヤが止まらない。

 珍しく動揺しているリリーの様子を見るに、やはり二人は!


「ローズ様、そういえば。アシュガ殿下の前で、寝言を言ったらしいですね」

「……寝言? っまさか、あの時……」


 ニヤニヤしていたローズの顔が、一瞬で真っ青になった。


「しかも、その寝言。『アシュガ様ぁ』と甘えるように」

「ぎゃーー!! やめてーーー!!」


 今度は真っ赤になるローズ。

 青くなったり赤くなったり忙しい顔色である。


「これに懲りたら、揶揄(からか)うのはやめて下さい」


 今日、一つ学んだ。

 リリーを揶揄うのはダメだ……!


 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+


 次の日、アシュガ様と共に登校する時間。

 寮から学校まではそう遠くない。だからそんなに多くはないが、二人きりで話せる時間は毎日楽しみにしている。


「アシュガ様、リコラス、おはようございます」

「おはよ、ローズ」 

「おはようございます、ローズ嬢」


 いつも少し離れた所で見ているリコラス。登下校中は、色んな視線に晒される。

 主にアシュガ様を熱っぽく見つめる視線だ。


「今日の授業はなんだったかな?」

「えーと、たしかラベンダー先生の魔法が二時間連続、それから男女別の授業だったはずです。あとは……」

「ロングホームルームだね。私達は昨日のホームルームに出てないから……何をするのか、わからないな」

「あぁ、そうでした。」


 そんな話をしながら教室へ向かうと、アザミがこちらへ向かってくる。


「おはよう、アザミ様」

「おはようございます、ローズ様!」

「おはよう、アザミ嬢」

「っ……お、おはようございますっ、アシュガ殿下!」


 ガチガチだ。


「そんなに緊張しなくていいよ。私達は学友なんだから」


 苦笑するアシュガ様。


「おはよう、レン」

「おはようございます、アシュガ殿下」


 そして、アシュガ様は誰かに声をかけた。

 そちらを見やると、そこには柔らかそうな茶髪に若葉の瞳を持つメガネ美青年……レンデュラ・シユリ、レン様がいた。


 何度か教室で見かけたことはあるが、私が必死に避けていたので間近で見るのは初めてだ。

 前世では画面の前であんなにきゃあきゃあ言っていたのに、今では何も思わない。それどころか、できれば関わりたくない。


 慌ててアザミに話を振る。


「ア、アザミ。私たち、もう敬語や様付けはやめにしませんか?」

「へ?」

「もう私達、友達でしょう?」


 私は友達だと思っているのに、相手はそうじゃなかったらと思うと少し寂しい。


「えぇ、そうですわね!ろ、ローズ。」

「ふふっ、ありがとう、アザミ。」


 するとアザミは、何かを思いだしたらしい。


「そういえば、昨日のことは極秘になったみたいね」

「えぇ、だから何かわかっても、教えられるかわからないみたいなの……」

「そう、いいのよ、気にしないで。」


 にっこりと笑って言うアザミ。


「それと。昨日の事があって、しばらく放課後に外に出られないことになりそうなの……」

「あら……」

「だからね、今度私の部屋に遊びにきてくれないかしら?」

「ええ、もちろんよ!」


 アザミとの時間は心地良い。アシュガ様も、アザミを部屋に呼ぶことを許してくれたし。


 その時、ホームルーム開始の鐘が鳴った。


「おい、はやく座れ。ホームルームを始める。」


 いつも通り、ラベンダー先生が言った。


「今日のロングホームルームは、生徒会役選だ。各クラスから4名選出される。以上だ。」


 ……生徒会!!


 しまった、すっかり忘れていた。

 フラワー・キスでは、攻略対象達とヒロイン、それと悪役令嬢が生徒会に入る。

 そして、またもや悪役令嬢がヒロインをネチネチ虐める。

 仕事を押し付けたり、手作りの差し入れを踏み潰したり、生徒会に相応しくないと嘲ったり。

 しかも、この生徒会のメンバーは入学試験の結果で大きく左右される。余程の事が無い限りは、成績順で生徒会のメンバーが決まる。

 つまりヒロイン、攻略対象、私がゲーム通り生徒会に入る確率は非常に高いのだ!


 うぅ……またゲームと同じ展開になるのか。

 どう足掻いても回避できないの?


「――ズ?ローズ?」

「っ!?」


 誰かに呼ばれていることに漸く気付いて、後ろを振り返る。


「アシュガ様。ごめんなさい、行きましょうか」


 そこにいたのは、心配そうな顔をするアシュガ様だった。


「うん、次は魔法の授業だから……授業中も、注意して私の傍にいてね?」

「わかりました。」

「……ローズ、大丈夫?」


 そうだ、いつまでもゲームの事に現を抜かしていてはいけない。

 一旦、心配なことは忘れて目の前のことに集中しよう。

 ローズは頭の中を切り替えて、アシュガに向かって無理矢理微笑んだ。


「大丈夫ですよ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も面白かったです。 1話から気になったのは、クッキー!! 毎回、ローズが食べるクッキーが美味しそうっ! 今回のオレンジピール入り……デート中のチーズクッキー……某おばさまのクッキーが食べ…
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