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第4話 <恋愛の鬼>

 授業と授業の間の休み時間、ローズはぼんやりと考えていた。


 ここ最近、何も起きていない。

 アナベル(ヒロインの名前だ、少し前にやっと知った)はイベントを仕掛けてもきていないし、アシュガ様と接点があるようにも見えない。

 ただ、失われた国宝の指輪はしっかりと彼女の指に嵌まっていることを確認した。

 なんとかして外してやりたいとは思いはするものの。


 ――失われた国宝の存在自体が公開されていないからなぁ……。


 例え私が、『彼女が失われた国宝を持っていますわ!』と言っても、普通の人はポカンとするだろう。

 かといって国王陛下にでも言おうものなら、何故その存在を知っている!とかなんとか言われて私は牢屋行きだろうか。


 詰んだ。


「ローズ? 何、難しい顔をしているの」

「え、あぁ、アシュガ様。少し考え事をしていて……」

「どんなことを考えていたの?」


 何気なく聞いているのだろうが、その質問は一番厄介である。


「あぁ……えぇと、今読んでいる本についてですわ」


 なんとか捻り出したその答えに、我ながら満足する。

 これでは誰も疑うまい!


「で、本当は?」

「……え?」


 残念なことに、ローズは未だ自分の癖に気付いていない。

 今も、無意識の内に左手の指を頬の辺りの髪にくるりと巻き付けていることに、全く気付かないのだ。

 そして、それをアシュガが見逃さないことにも。


「ローズ、今動揺してたでしょ。」

「ど、動揺?なんて、シテイマセンヨ?」

「棒読み」

「……。」


 アシュガ様に勝てる日は来るのだろうか。

 なんて答えようと思った時、授業開始のベルが鳴り響いた。


 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+


 放課後、今日は珍しくアシュガ様に誘われなかった。

 少し拍子抜けするが、まぁ忙しいのかな、と結論づける。

 特に予定も入っていないことだし、いつもの所で読みかけの本の続きでも読もうか。もしかしたら、アザミにも会えるかもしれない。


「リリー、今日は中庭で読書してくるわね」

「冷える前に帰ってきて下さいよ」

「わかってるわよ。それじゃあ、行ってくるわ」


 ドアノブに手を掛けた所で、ひとつ重要な事を思い出した。


「帰ってきたらクッキーを出してちょうだい」

「それ毎日言ってますよね」

「毎日ではないわ、ほぼ毎日よ」

「どっちも変わりません。というか行かないんですか」

「行くわよ」


 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+


 中庭まで歩いて行くと、生憎の曇りで少し暗い。

 雨も降りそうだし、やっぱり帰って読もうか……と考えていると、ベンチに座るアザミの姿が見えた。


「アザミ様!」

「あら、ローズ様!」


 にっこりと笑って手を振ってくれた。

 手元には本があるが、この天気ではやはり読みにくいのだろう。開かれてはいない。


「私も本を読みに来たのですが、この天気では読みにくそうなので帰ろうかと思っていたのです。アザミ様も?」

「えぇ、そうです。雨なら私の結界で防げるのですが、この暗さではどうしても……。」


 あ、そうか。この世界には魔法という便利なものがあった。


「私、光の魔法が使えるのです。それを使えば明るくなると思いますわ」

「本当ですか?では、もし雨が降ってきたら結界で防ぎます!」


 そうして、ベンチに座ってから呪文を唱える。


「光よ、我が意に応えよ。光球魔法(ルクス・ブールブス)


 指先にふわりと丸い光が浮かぶ。

 それを操って、丁度良い所までふわふわと移動させる。


「わぁ……綺麗ですね……」

「ふふ、ありがとうございます」


 そうして本を読んでいると、後ろから楽しそうな笑い声が微かに聞こえてきた。


 ――アシュガ様の声だわ。


 こんなところで何をしているんだろう?


『そ、そうなんですねっ』


 と、もうひとつ、可愛らしい声が聞こえてくる。

 ヒロイン……アナベルの声。

 ゲームで何度も聞いた、そして今世でも聞いた、馴染みのある声。


 すっと、血の気が引くのを感じた。


 アナベルとアシュガ様が楽しそうに談笑している。

 このベンチは植物のせいで周りから見えにくくなっているが、ベンチに座っている方は植物の隙間から周りを見ることができる。


 後ろを振り返ると、東屋にアシュガ様とアナベルが並んで座っていた。

 アナベルの手には、指輪がキラリと光っている。


 もやもやする。胸がツキンと痛む。

 でも、ここで邪魔をしては本当に悪役令嬢みたいだ。

 ……それに、勇気が出ない。


「ローズ様?」


 ハッと横を見ると、アザミが心配そうに私の目を覗き込んでいる。


「いえ、なんでも……」

「アシュガ殿下、ですね。ローズ様は、アシュガ殿下のことが好きなのですか?」


 アザミの目に、何故か闘志のようなものが滾っている気がする。


「……え?」

「あっ、ごめんなさい! 失礼な質問でしたね。忘れて下さい……」


 しゅんとするアザミ。


「いえ、そうじゃないの。私は、アシュガ殿下のことを愛していますわ。大丈夫です、私はアシュガ様を信じていますから」

「……。」


 アザミは、悲痛そうな表情で黙ってしまった。

 しかし、次の瞬間にはまた謎の闘志をメラメラと瞳に燃やし、力強く宣言する。


「そんなんじゃダメですわ!ローズ様、良い男なんてすぐ他の女に掻っ攫われてしまいます!」

「え、えぇ……そ、そうですわね」

「ですからローズ様、アシュガ殿下にアピールするのです!寂しかったとっ!」


 ……若干、アザミの気迫に気圧されつつもローズは頷く。


「いいですか、そしてローズ様から放課後……デートにお誘いするのです!いいですね!?」

「え、えぇ、わかりましたわ」


 ――恋のキューピットならぬ、恋の鬼にでも取り憑かれたのだろうか。


 そんな馬鹿げた考えが頭に浮かんできた瞬間、ローズはアザミと出会ったときに感じた既視感の正体を思い出した。


「あっ!!」

「ローズ様、私の顔に何か付いていますか?」

「い、いえ。」


 ――サポートキャラ!!


 フラワー・キスには、サポートキャラなるものが存在する。

 攻略対象の好感度を教えてくれたり、次にどうすればいいのかアドバイスをもらえたりもする。

 私もゲームをやっていた時はかなり助けてもらったものだが……何故気付かなかったのか、それは雰囲気が全然違ったからだ。

 目の前にいるアザミは、ほんわかとした癒し系の雰囲気だが、ゲームのアザミは、正に鬼だった。

 恋愛の鬼。

 プレイヤーが選択を誤ると、それはもう烈火の如くアドバイス(お叱り)を受けざるを得なくなる。


「ローズ様、私はそろそろ帰りますが、必ずですよ。必ず、アシュガ殿下に言うのですよ!」

「わ、わかりましたわ。必ず。」

「では、さようなら」


 そしてアザミは去って行った。

 いつの間にか、東屋に居たアシュガ様とアナベルもいなくなっている。


 ぽつり、と一滴、雨粒が地面を濡らした。

 ローズは、ハッとして、本が濡れないように庇いながら、寮まで慌てて、でも公爵家の威厳を保てるギリギリのスピードで歩いて行った。

評価、感想、ブックマークありがとうございます!


私事ですが

小説を書くってとっても難しいですね……(今更)

これで本当に面白いのか?本当にこれでいいのか?とか、色々悩んでしまいます。

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