4-20 脱出
「おい!ちゃんと歩け!」
騎士がそう言うと十字架を背負っている青年を蹴った。
「分かったから蹴るな」
騎士によって蹴られ地面に倒れ込んだ青年はそう言うと立ち上がり落とした十字架を再び背負った。
「貴様……闇の分際で光翼騎士団にその口の利き方はなんだ?」
騎士の言葉に青年は無視しひたすらに歩いた。
しばらく十字架を背負ったまま歩いていると谷が見え向こうまで巨大な橋が掛かれている所に着いた。
「おい闇。お前は明日ここに落とされるんだ。この世に生まれたことを後悔しながらこの谷に落とされて死ぬがいい」
騎士は青年にそう吐き捨てると「戻るぞ」と言い青年を牢屋に入れるために戻った。
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「これより!闇の使徒、アルクの谷落としの刑を執行する!」
ミリス教教徒がそう叫ぶと谷の縁に立っている人たちは歓声を上げた。
するとそこへバレル王がやって来た。
「谷落としの刑の立会人はバルト王国国王バレル様です。バレル様はここへ……」
ミリス教教徒がバレル王を席へ案内すると遅れて十字架を背負ったアルクがやって来た。するとアルクの姿を見た人々はアルクに罵声を浴びせた。
「死んでしまえ!」
「お前のせいで……お前達闇のせいで俺の嫁と息子が死んだんだ。二人を返せ!」
「消えろ!」
ある者はアルクに罵声を、ある者は石や物を投げた。
アルクはそのまま谷に飛び出している踏み台へ着いたら騎士に膝裏を蹴られ、アルクは跪いた。
そのままアルクを十字架に掛けると立たせると騎士はアルクの下を離れた。
「闇の使徒アルク最後に言いたいことはあるか?」
「無い」
アルクがそういうとミリス教教徒が聖書を出し何かを唱え始めた。
「長い。さっさと終わらせろ」
アルクがミリス教教徒に命令の様に言い放つと「そうか」と言い、アルクを押し谷に落とした。
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谷に落とされたアルクはレイラーがあらかじめ細工をしていた事を信じ十字架から逃げるため勢いよく力を入れ、十字架を壊そうとする。
「硬っ!!!」
だが、アルクは十字架の拘束具の予想外の硬さに驚き壊すのにてこずってしまう。
もう谷の底は見えておりアルクは焦っていたが、なんとか拘束具を壊す事が出来た。
アルクはそのまま飛行魔法を使おうとしたが魔法を使うより一度谷の底に着地してから体制を整えた方が良いと判断した。
アルクは谷の底に着地すると周りの様子を見た。
「おいおい……まじかよ」
アルクの足元や周囲には大量の十字架と骨があったが、まだ本題の魔物が見当たらない。
アルクはしばらく谷底を歩いてみることにした。
するとアルクの背後で何かが這いずり回る音がし、アルクが背後を見るとアルクを見つめる複数の目があった。
「ティタ……ノボア」
ティタノボアとはBランクに指定されている巨大なヘビで鉄を溶かすほどの強力な酸を持っている。
今のアルクの実力ならば簡単に倒すことが出来るが今回は違う。
「クソ……よりにもよって群れかよ……」
ティタノボアは繁殖期には30体単位の群れで生活をし、ティタノボアがその気になればワイバーン種の中で最強のブラックワイバーンを仕留めることが出来る。
つまり今のアルクには戦っても勝機はあるが面倒だと言う事だ。
アルクはすぐさま飛行魔法を発動させようとしたが、間に合わないと判断し走って逃げる。
(何かがおかしい……)
アルクはしばらくティタノボアから走って逃げている時違和感を感じた。
(おかしい。ティタノボアは獲物を丸呑みするはずなのに骨がある……)
するとアルクの感じた違和感の正体が分かった。
(ビックラット!?)
ティタノボアに追われ逃げた先には大量のネズミが居た。
ビックラットはEランクに指定されておりそれほどまで強くないがビックラットの本当の力は変化だ。
ビックラットが一定数集まると合体を繰り返して最終的にはAランクの顔がネズミのオーガの様な魔物タイタンラットになる。
今アルクの目の前で合体が始まってしまった。
「まずい……まずい!!」
アルクの後ろにはブラックワイバーンを殺せる事が出来る魔物と最弱から最強になった魔物がいる。
[炎魔法・|炎の渦]
アルクは周囲を巻き込む炎の渦を放った。
[汎用魔法・飛行]
アルクの炎の渦の中心で汎用魔法を唱え谷を脱出しようとした。
「シャアアアア!!」
「ギャアアアア!!」
なんとティタノボアとタイタンラットはアルクの炎の渦を無視し、そのまま突撃してきた。
アルクは予想外の事に汎用魔法の調整を失敗し、本来ならある程度谷の中腹に居る予定だったがそのまま谷の割れ目まで飛んでしまった。




