4-19 裁判
「次に王都内から提供された情報を読み上げたいと思います」
裁判長がそういうと王都から集めた情報が書かれている資料を取り出し、読み上げる。
「アルクはいつも何を考えているのか分からない。とんでもない力を持っている。王都を守るために処刑するべき。このような情報が複数あります。
次にアルクに質問をする。これから掛けられる質問は嘘偽りなく答えろ」
「……」
「では行くぞ。お前には敵意はあるか?」
「……ない」
「闇の力はいつ目覚めた?詳しく」
「……今から10年前。8歳の時」
「お前はどこから来た」
「……」
アルクは裁判長の質問に答えないでいると、アルクに仕掛けられていた呪いが発動し、全身に痛みが走った。
「……クプ二村」
アルクがそういうと会場がざわついた。
「クプ二村って闇が出現して村を滅ぼしたっていうあのクプ二村!?」
「と言うことはクプ二村を滅ぼしたのは!」
「静粛に!」
裁判長の声により会場のざわめきは止まった。クプニ村とは10年前に闇の襲撃に会い、滅んだ村として世間に知れ渡っている。
「次の質問に移る。お前に生きている血縁者はいるか?」
「……いない……グ、ああああああああああ!」
アルクは質問に答えると体に電気が走った。
「もう一度質問するぞ。正直に答えろ。お前に生きている家族はいるか?」
「いない!……ああああああああああああああああああああああああ!」
「そうか。お前には生きている家族がいるのか。」
「おい今すぐに奴の家族を探し出し、ここに連れて来い!」
皇帝ニュアック5世が横に立っている騎士に叫んだ。
「いやニュアック様。残念ながらアルクの家族は事前に調べましたが見つけることが出来ませんでした」
「なん……だと?」
裁判長がニュアック5世にそういうとニュアック5世は椅子にうなだれた。
裁判長がそういうと来賓席に座っている皇帝ニュアック5世が笑った。
「そうだ!今すぐに処刑するべきだ!」
「いやまだだ。ある程度質問をし敵意があるか調べよう。もしないのであればその力を利用を提案する」
皇帝ニュアック5世の意見に口を出したのはドラニグル竜国国王ペンドラゴンだ。
「わしは敵意がないのであれば監禁して国の一大事に利用すればいいのではと考えている」
教皇サハル4世が言うと皇帝ニュアック5世は真っ向から反対した。
「もし利用し、この力を制御出来なくなってしまったらどう責任をとる?」
「むぅ……」
皇帝ニュアック5世の正論に教皇サハル4世は何も言えなくなってしまった。事実、アルクの力はそれ程に世間に危険だと知れ渡っている。
「だがもし処刑をした場合呪いが我らに来るかもしれない。谷落としで魔物共に食わせればいいのでは?」
「ダメだ私は処刑を……」
「呪いが帝国に降り注ぎ滅んでもいいのか?」
「くっ……ううう……分かった。」
最後まで反対していたニュアック5世はバルト王の提案に各国の王は頷く。
「ご来賓の皆様判決は決まりましたか?」
裁判長が質問するとバルト王はうなずいた。
「ああ。谷落としを提案する」
「理由を聞いても?」
「もしここでアルクを処刑して呪いがこの世界に降りかかるかもしれない。だが谷に落として魔物に殺してもらうことで呪いの発動を阻止する」
バルト王がそういうと裁判長は会場に聞こえる声で宣言した。
「闇の使徒アルクに判決を下す!谷落としの刑とする。執行日は3日後にする」
裁判長がそう言い席を降り姿を消した。裁判長に続いて各国の王たちも席から離れた。
アルクは十字架に掛けられたのと同じように再び気絶させらた。
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「お父様!」
裁判を終え自分の部屋に戻ろうとしていたバレルを背後から声を掛けられた。
「シエラ……」
バレルを読んだ声の主はシエラだった。シエラは焦っている様な顔をしていた。
「お父様。アルクさんはどうなりましたか?」
シエラは今まで自分を護衛し命の恩人であるアルクの事を気にしていた。
「すまないシエラ。出来れば命を取らない様な判決をしたかったが各国の王の意見に賛成し谷落としの刑にした」
バレルの言葉を聞くとシエラは顔を青ざめる。
「そん……な……」
「本当にすまない」
「いえ。仕方がない事です。ですが……」
落ち込むシエラをバレルはそっと抱きしめ自分の部屋に戻った。
「シエラ。ここにいたのか」
「お姉様……」
シエラに声をかけたのはセイラだった。
「お姉様……アルクさ……」
「裁判の流れはもう聞いている」
「でも自分が闇だとばれるにも関わらずに私達を助けてくれたのですよ。それを見殺しにするなんて……」
シエラは涙を流しながらバレル同様自分の部屋に戻った。
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裁判が終わり目が覚めたアルクは自分が入っている牢屋を見渡した。
すると自分のポケットに紙が入っている音が聞こえ、看守がいない事を確認すると紙を取り出し内容を見た。
『どうだい?ちゃんと計画通りだろ?それじゃあ前に話した通り執行に使われる十字架に細工をしておく。あっちゃんとこの紙は自分で処理しておいてくれ』
これを黙読したアルクはちゃんと指示通りに紙を処理し谷落としの刑が執行される日まで計画を立てていた。
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「クソ!」
「キャア!」
王国を出てて帝国に戻る為馬車に乗ろうとしたニュアック5世は隣に侍女を殴った。
「陛下。何かご不満が……」
ニュアック5世に控えていた執事は質問をした。
「不満も何も!奴を確実に殺せない事に腹立しいのだ!」
「ですが谷落としの刑なので生き残る確率は極めて低いです」
「だがもし生き残ったらどうする?」
「その時は責任をバレル王に問い土地を奪えば良いのでは?」
執事の提案にニュアック5世はうなずいた。
バルト王国と二ハル帝国はある地域の所有権を争っていた。その地域とは魔境の森と呼ばれバルト王国王都と同じ広さを持っている魔物が住む森だ。
現在はミリス教が仲介をしており、まだ魔境の森は中立状態だ。
「いい提案だ。良し。さっさと帝国戻って奴隷たちを可愛がってやろうじゃないか」
ニュアック5世はそういうと上機嫌な様子で馬車に乗り込んだ。




