4-18 計画
(あれからどのぐら経った?)
アルクは突然襲ってきた騎士団に捕まり、今は地下牢に入れられている。アルクが騎士団に捕まってからは毎日尋問されている。しばしば手荒な尋問をしていたのか、体から血を流していた。
すると廊下の奥から足音が聞こえアルクはまた尋問が始まると悟った。
「おい闇。今日も尋問を行う。無駄な抵抗をするなよ」
と、地下牢の前に立った騎士がそういうと地下牢のカギを開ける。アルクの首に巻かれている魔法を封じる首輪を発動させ、アルクを地下牢の外に連れ出す。
しばらく歩いていると騎士が何人かいる部屋に連れられ、アルクは慣れたように椅子に座ると騎士がアルクの手首に鎖を巻いた。
「それじゃ聞くぞ。お前はバルト王国を滅ぼす意志はあるか?」
「……」
騎士の質問に答えずに黙っていると体に強い衝撃が走り、アルクの視界が弾けたが奥歯を噛みしめ気絶するのを防いだ。
今のアルクにはとある呪いが施されており、質問に答えない、あるいは嘘の供述をした場合に全身に痛みが入るようになっている。
「お前に闇の仲間はいるか?」
「……」
「お前に親はいるか?」
「……」
騎士に質問されアルクは黙り、すると体に強い衝撃が走る。こんなやり取りを数日も続けた。
だか今日は違った。
尋問室の扉がノックされ扉が開くと見たことのない騎士が入って来る。その騎士は銀色の鎧を着ている他の騎士とは違い、黄金の鎧を纏い、片目に傷が走っている。
入って来た騎士を見ると尋問室にいる騎士達は椅子から立ち上がり敬礼をした。
「騎士長!?な、なんのようで……」
尋問をしていた騎士は慌てて立ち上がり、敬礼をする。尋問室に入って来たのは光翼騎士団団長レイラー=ブラウンだった。
「いやな。なかなか闇が情報を吐かないと報告が来てな」
すると騎士長はアルクの前の椅子に座りアルクと向き直った。
「今日は私に任せてくれないか?」
「し、しかし……」
「この私がこいつに襲われ殺されると思っているのか?」
「い、いえ」
「ならば私に任せろ」
「分かりました」
騎士がそういうと周りにいる騎士たちを連れて尋問室を退出した。
「さて誰も居なくなったし話すか。なぁ?アルク?」
「まさかここにあの光翼騎士団団長レイラー=ブラウスが来るとはね」
そう、アルクの前にいる人物はバルト王国最強の騎士と言われるレイラー=ブラウスなのだ。
「仕方ないだろ?お前が騎士団に捕まったんだから」
「悪かったな」
「にしても10年見てないだけでこんなに成長するとはね」
「過去の話なんてどうでもいい。で?俺はどうなるんだ?」
「実は3日後に裁判が始まりアルクの処罰が決まる……まぁ殆どが処刑に近いけどね」
「どういう処刑なんだ?」
アルクがそう質問し体勢を前のめりにした。
「君には二つの処刑方が課せられるが一つ目はそのまま裁判にて殺される。二つ目が谷落としの刑だ」
「谷落とし?」
「ああ。バルト王国の北に魔峡谷があるだろ?あそこに落とされるんだ」
「いやどう足掻いても死ぬじゃん」
レイラーの話を聞くとアルクは落胆し背もたれに背を付けた。
魔峡谷は外界と隔絶されている為、独自の生態系や独自の進化を遂げた魔物が多い。
「いやそうでもないよ。まあ一つ目は後で考えるとして二つ目の刑罰で私がいろいろと細工をする」
「細工って?」
「まず谷落としの刑ではいつも十字架に縛られて落とされる。その十字架には魔法を封じる道具が使われるが私が事前にその道具に亀裂を入れ少しでも力を入れたら壊れやすくする。後は自力で脱出してくれ」
すると尋問室がノックされ扉が開くと先程退出した騎士たちが入って来る。
「騎士長。時間です」
「そうかすまない。いい情報を吐き出させる事が出来なかったよ」
「いえ。貴重な時間を使いわざわざこちらまで来ていただきありがとうございます」
アルクを救出する作戦を話した後レイラーは席を立ち尋問室を後にした。その後アルクを元の地下牢に閉じ込めるためアルクを再び連れ出した。
「貴様は三日後に裁判が行われる。これまでおとなしくしていろ!」
騎士はアルクにそういうとアルクの前から姿を消した。
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「さて。今回皆様にお集まりいただいたのは先日の闇の使徒についてだ。」
そう長い髭をはやした一人の老人が椅子に座り机にある資料を見ながら言った。
「それはもちろん死刑だ!今ここで奴を殺さなければこの世界に厄災が降り掛かる!」
「そうだな。私も奴の死刑に賛成だ」
そう言ったのは王冠を被った太った男と耳の尖った女が言った。
「わしはまだわからん。あの戦いにいた冒険者の証言によれば奴の事を裏切り者と殺されたもう一人の闇の使徒が言っていた。お主はどう思う?教皇殿……」
「確かにこの資料にはそういう風に書かれている」
そうトカゲの様な鱗を持つ男が最初に話した老人に質問した。
「黙れ亜人め!本来貴様の様な劣等種はここに居てはならないのだぞ!」
「ふん!やはり帝国の王は野蛮だな。それにちゃんとわしには竜人という種族名がある」
「なんだと貴様!たかが亜人がこの朕を侮辱するか!」
「鎮まれ!」
皇帝と竜人の言い争いに仲介に入ったのはバレルだった。
「教皇。今回の件はバルト王国で起きた出来事だ。だからこっちで総合的に審判し奴の処遇を決める」
バレルがそういうと会議に参加している者達は渋々頭を縦に振った。
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裁判が始まる日となった。アルクは十字架に掛けられている。
「それではこれより闇の使徒であるアルクの裁判を始める」
そう白い服を着た裁判長が会場にいる者たちに言った。すると会場の後ろの扉が開くと次々と人が入ってきた。
「おい、各国の王達が来たぞ。」
「それ程までにこの裁判が気になるのか?」
最初に入ってきたのは王冠を被り手に黄金で出来た指輪をはめた太った男はニハル帝国皇帝ニュアック5世。
次に入ってきたのは裁判長と同じ服を着ており長い髭を生やしているのはミリス教教皇サハル4世。
次は肌がトカゲの様な鱗で目の瞳孔が縦長の男はドラニグル竜国国王ペンドラゴン。
「あれ?でも少なく無いか?」
「確かに。エルフの王と獣人国の王が来ていない」
「その他の王は用事により出席が出来ないと連絡を貰っていますのでこれから裁判を始めたいと思います」
そう裁判長が言うと収納魔法から紙を取り出した。
「名はアルク。出身地不明。血縁者不明――」
裁判長はアルクに数日行った尋問によりアルクが吐いた情報を話した。
「何も分からないじゃ無いか!」
皇帝ニュアック5世はアルクについての情報が少ない事に驚いていた。
「次に王都内から提供された情報を読み上げたいと思います。」




