4ー9 黒い魔物3
黒い魔物を切断したセイラは剣をしまい、シエラの方へ行った。
「シエラ。大丈夫か?」
「はい……姉様は?」
「誰の心配をしている?」
セイラはシエラを安心させるために、胸を張り傷が無い事をシエラに見せる。それを見たシエラは無用の心配だと思ったのか、苦笑を浮かべる。
「そうですね」
セイラとシエラが話をしていると崩壊した部屋に扉のあった方向から声が聞こえた。
「シエラ様!セイラ様!ご無事ですか?」
シエラとセイラの所にやってきたのは王国の兵士だった。殆どの兵士は魔物が王都内に入って来るのを防ぐために、城壁の近くで待機していた。そのせいか兵士達は来るのが遅れてしまった。
「大丈夫だ……あそこに黒い魔物が襲撃してきただけだ」
「その黒い魔物はどこに?」
「あそこだ」
セイラが指を差した所には胴体が切断されたまま横たわっている魔物がいた。兵士達は見たことの無い黒い魔物を警戒していた。
「一応本当に死んでいるか確かめてくれ」
「はい」
兵士達が返事をして数人の兵士が黒い魔物へ向かった。
「ここは危険ですので王城に……」
「そうだな。行くぞシエラ」
「はい」
シエラもセイラが立ち王城に向かおうとした時、セイラの前に何かが落ちてきた。兵士が落ちてきた物を拾うと、それは先程黒い魔物の方へ向かった兵士の腕だった。
セイラは新手かと思い剣を抜き、兵士が黒い魔物の死を確認している方向を見る。すると、そこには胴体を切断したはずの黒い魔物と、首が取れた兵士が倒れていた。
「ふぅ……ようやく自由になれた」
その瞬間、セイラは冷や汗が止まらなくなった。胴体が切断された筈の黒い魔物は死んでおらず、兵士を殺す程の余力を残していた。それだけでなく黒い魔物は流暢に言葉を話していた。
「礼を言おう人間。お前のお陰でようやく自分の体を取り戻せた」
「何故生きている?」
「何故と聞かれても生きているのだから説明が出来ないだろう」
黒い魔物がそう言うと、黒い魔物の左腕が切り落とされた。セイラは一瞬で剣を抜き、黒い魔物の腕を切断したのだ。
「この技……俺の胴体を切断した技か……」
黒い魔物はそう言いながら切断された自分の左腕を拾い、切断された方の切り口に腕を当ててる。すると、黒い魔物の左腕は何事も無かったかのように繋がった。
黒い魔物は繋がった左腕を前に突き出すと、大量の魔力が左腕へ集中した。
[虚無の閃光]
黒い魔物は無詠唱、魔法陣無しの光線をセイラに放った。だがセイラはギリギリ反応し、剣を使って光線を逸らす。
黒い魔物はセイラとの距離を詰め光線を逸らすのに上に振り上げた剣を拳を使って側面を殴り、剣を折った。
セイラは折れた剣を黒い魔物に投げつけたあと、地魔法で即席の剣を作り黒い魔物を迎撃しようとした。
だが黒い魔物はセイラより早く動き、セイラを蹴り飛ばした。
[顕現せよ!畏れよ!我が神聖なる翼の前に悪しき者はいらぬ!]
セイラは一度解いた翼を再び顕現させた。
[光魔法・光の雨]
「光か……悪くない。だがまだまだ薄い」
セイラの放った光の雨は黒い魔物に当たろうとしたが、ほとんどの光の雨は黒い魔物の上で止まった。
[重力魔法・重力反転]
黒い魔物がそう言うとセイラの放った光の雨は、空に向かって移動し始めた。
「ふむ、久しぶりに魔法を使ったがまだ慣れないな」
黒い魔物はそう言いながら、セイラに向かって[虚無の閃光]を放った。
[光魔法・慈愛の檻]
セイラの放った魔法により光線を防ぐ事は出来たが、発生した煙により黒い魔物の姿を見失った。
「お姉様!上です!」
後ろにいるシエラのお陰で一度見失った黒い魔物を捕捉する事が出来た。
[中級炎魔法・三つの巨炎弾]
[聖剣流・魔斬]
セイラの頭上に移動した黒い魔物はセイラに向かって魔法を放ったが、すべて地面に着く前に魔法を切る。
するとセイラの背中から衝撃を感じると体が空中に放り出された。
「くっ!!」
セイラは翼を使い空中で体勢を立て直そうとするが、黒い魔物はセイラの足を掴み地面に投げつけた。
「ぐ……ううう」
「終わりの様だな」
「まだ……だ」
セイラは剣を構えた。
[聖剣流・天の刃]
セイラの剣から分身した剣が黒い魔物に降り注いだ。
[地魔法・地の巨人]
黒い魔物は地面からゴーレムを生成し、ゴーレムを盾にしてセイラの攻撃を防ぐ。
「行け!ゴーレム」
黒い魔物がそう指示すると、ゴーレムはセイラへ攻撃を仕掛けた。
[聖剣流・七星剣]
セイラはこちらへ向かってくるゴーレムに[七星剣]を放ちゴーレムを破壊し、すかさず黒い魔物へ攻撃を仕掛けた。
[聖剣流・地の剣]
セイラは剣を地面に突き刺し、黒い魔物の足元に地の剣を出現させた。地の剣は運良く黒い魔物の足に刺さった。
[光魔法・豪炎光火]
セイラは黒い魔物の足に刺さった地の剣を伝って、黒い魔物の足を爆発させた。片足を失った黒い魔物はバランスを崩し、膝を地面に付いた。
セイラはその隙を見逃さず黒い魔物の首を斬りに距離を詰めた。このまま行けば黒い魔物の首を確実に切断できる。だが、突然セイラは力が抜けた。
「ふ……どうやら翼の顕現の限界だな……」
黒い魔物は失った片足を再生させた。
「そうだ。セイラと言った。お前もこちら側に来ないか?」
「なんだと?」
セイラは黒い魔物の提案に驚愕した。
「お前は強いからな。出来れば殺したくない。強い人間を殺すと我が王に怒られるからな……」
「我が王?それは……」
「一度しか言わない。お前もこちら側に来ないか?」
「断る!」
「なら死ね!」
黒い魔物はセイラの返答を聞き、右腕を剣に変形させてセイラを貫こうとすると、黒い魔物の右腕にナイフが刺さった。




