3-5 チルナ戦3
ああ、いつぶりだろう。こんなギリギリの戦いをしたのは。
分かる。
なにが?
自分自身の体が限界を感じている。
チルナはアルクの放った炎の槍を避け双剣を構えた。するとチルナの剣に大量の魔力が込められた。
[雷剣流・奥義・武甕槌]
と剣を縦に並べると雷が剣を伝って巨大な剣の形をした。その剣は雷特有の弾ける音と共に、今までに聞いた事のない音が鳴っていた。
アルクは剣に込められた魔力の密度により危険だと判断する。
[我流剣術・天喰]
と、アルクは剣に[付与魔法・重力]を施し剣を上段の構えを取った。
チルナもアルクが出す剣術が危険だと判断し腰を低く構えいつでも踏み込める体勢を取った。そしていつの間にか観客席と闘技場を隔てている結界の強度が上がっている。
結界を張っている魔法使いも、今のアルクとチルナは危険だと判断したのだろう。
「アルク君。本当に君は凄いよ。平民でありながらここまで成り上がり、十魔剣の私と互角以上の実力を持っている。そんな君に対して最大の敬意を払い雷剣流奥義を使う」
「そうですか。ありがとう」
と、アルクとチルナはお互い睨み合う。
どのぐらい経ったのだろうか。1分にも感じるし10分にも感じる。
今まで騒がしかった観客席も闘技場の張り詰めた空気を感じたのか静かになった。
その時だった。闘技大会の時間が残り30秒になるブザーが鳴った。瞬間チルナは思いっきり踏み込み雷の如く、素早くアルクの数歩手前まで詰める。
アルクもそれに反応しアルクも大きく一歩踏み込み剣を踏み込んだ。
するとアルクの剣とチルナの雷剣がぶつかった瞬間大きな衝撃波が発生した
「はあああああああああ!」
「うおおおおおおおおお!」
アルクとチルナは押され負けないように叫んだ。
観客席も今この状況を静かに眺めていた。
しかし今の観客は誰もアルクは平民で負けると思っている者は居なくなっていた。
ぶつかり合っていると何かにヒビが入る音がした。よく見たらチルナの白剣にヒビが入っている。
するとチルナは雷剣を解き、白剣を捨てて黒剣を右手に逆手に持ちアルクに回転切りを放つ。だが、アルクはそれを避けチルナを袈裟斬りした。
すると闘技場の結界が割れてチルナに治療魔法が施されていく。
「Cブロック勝者アルク!よってCブロックの上位2名が決まった!」
と、審判が言った。
すると今まで静かだった観客席が歓声に叫んだ。
「いいぞ!」
「よくやった!!」
観客は良い戦いをしたアルクやチルナを称賛する声があちこちから聞こえて来る。
「姉様!大丈夫ですか?」
「ヤタ。大丈夫だよ……アルク君。本当にいい試合だった」
「いえ、こっちも楽しかったです」
と、アルクとチルナはお互いに握手をした。
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担架に運ばれたチルナは負けた事よりも、強者と戦えた事に喜んでいた。チルナの所属している十魔剣では上に九人いる。だが、チルナにとっては一人を除いて興味が無かった。
十魔剣で唯一興味を引いている人物。それは序列一位であるセイラ=スキルニングであった。実際に何回はセイラ=スキルニングに戦いを挑んだが一度も勝てなかった。もし、チルナがセイラ=スキルニング以外の十魔剣に戦いを挑んでいれば序列七席までは簡単に行くことが出来る筈だ。
担架に運ばれたチルナは医務室のベットに寝かされる。すると、そこへ妹であるヤタが心配そうな顔で駆けつける。
「姉様……大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ……それにしても楽しかったな」
そう言いながら体を伸ばしているチルナを見るとヤタはため息を吐いた。
「姉様が負けたって聞いて一応心配したんですよ?」
「余計な心配だったな!」
「それで?あの平民は強かったですか?」
「強かったよ。それにまだまだ力を隠してたよ」
アルク本人は全力を出しているように振舞っていたが、チルナは気付いていた。あの程度で冒険者をやっているのならばすぐに死んでしまう。ここからはチルナの予想だが、アルクは生徒を殺さないように無意識に力を絞っていたのではないかと考えた。
どちらにしろチルナはアルクに負けた事は事実であり、今更不正だと喚いてもみっともないだけである。
すると、戦いの緊張が解けたのか、体が重くなる。
「少し疲れたから私は寝るよ。夕方になったら起こしてくれ」
チルナはヤタに起こすように頼むと、そのまま眠りに着いた。




