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9ー6 気まずい再会

 かまくらで一晩過ごした後、イレナ達はソリを走らせていた。途中に何度も強力な魔物に襲われたが、かろうじて撃退に成功している。


 だが、雪山の魔物はどれも手強く、油断すればすぐにやられてしまうそうなほどだ。


「リラ!もう少しで最初の目的地に着く!そのまま走っていろ!私は魔物を殺してから向かう!」


 イレナはソリを引いているリラにそう言うと、ソリから飛び降りる。


 ソリの後ろにはムカデのような魔物が追っていた。だが、イレナがソリを降りたことで標的が変わった。


 迫り来るムカデの魔物にイレナは剣を構える。


[アレキウス神滅剣・龍の舞]


 イレナは剣を無造作に振る。だが、どこか規則性があり、遠くから見れば待っているかのようだった。だが、それ以上にイレナの攻撃は凄まじく、木や岩が紙を切るかのように切断されていく。


 外から見れば危険な技に見えたが、ムカデの魔物はお構いなしにイレナに突撃する。瞬間、ムカデの体は血しぶきとなり、辺り一面に飛び散った。


 ムカデの魔物以外に何もいないことを確認したイレナは先に進んだリラ達の後を追う。


 進んだ先には隊列を組んだ兵士と幾つかの馬車があり、その前にはリラとアナンシが居た。


 本来なら警戒するべきだが、既に話を通していたのか、兵士達は警戒する気配はなく、むしろイレナに手を振っていた。


「これはどう言うことなの?」


 状況の整理がつかない事を察したのか、リラはイレナに近付き、説明をする。


「イレナさん。この方達は光翼騎士団の兵士です。前に何度か会いましたよ。特にアニニマでは勇者と呼ばれる人達と一緒に戦ったじゃないですか」


 初めは光翼騎士団の存在を忘れていたイレナだったが、アニニマで始祖神獣と戦ったことを思い出す。


 だが、なぜ光翼騎士団がここにいるのかという疑問が湧いた。


「獣人の嬢ちゃん!その子がさっき言ってた竜人の仲間か?」


 光翼騎士団の兵士がリラに声をかける。


「そうです!何度か合流できました!」


「それはよかった!ところでどこに行くつもりだったんだ?ただでさえヘルン周辺の森には強力な魔物が多いのに女の子3人だけで動くなんて自殺行為だぞ」


「すみません。実は魔都ヘルンに行きたいんですけど遭難してしまって……」


「そうなのか?実は俺達も魔都ヘルンに用事があるんだ。良かったら一緒に行くか?」


「いいんですか!」


「もちろん!っと言いたいところだが、少しこっちも確認させてくれ。まぁ同行者が3人増えたところで大丈夫だと思うがな」


 兵士はイレナ達3人を同行できるか隊長らしき人物に相談する。


 しばらく待つと思っていたが、予想以上に早く許可が降りたのか、光翼騎士団と共にヘルンまで同行することができた。


「それにしても何でヘルンまで行くんだ?あそこは魔人の国だから良いところは無いと思うんだが?」


「友人に会いに行くところだったんですよ!」


「へぇ〜。魔人の友人がいるのか?最近の若い者は交流が広いな!」


 そうしている間にも光翼騎士団はヘルンへ向けて進んでいく。すると、アナンシは馬車に誰が乗っているのか気になった。


「馬車の中に誰が乗っている……んですか?」


「馬車の中には勇者様が入っているんだが……出発直前まで戦闘訓練をしてたから馬車の中で休んでもらっているんだ。もしかしたら次の休憩で会えるかもしれないぞ」


 兵士はそう言うと、イレナ達の目線が馬車に向けられる。


 勇者達とイレナとアナンシには直接的な接点は無いが、リラは少しだけ交流したことがある。


 もし、勇者達が休憩する際にリラと対面したら、色々と面倒なことになる。リラは面倒ごとを避けるために、青黒い髪を結び、フードを深く被った。


 そうしている間に、光翼騎士団は休憩を取る為に簡易的な野営地を建てた。


 そして馬車から勇者達が降りてくる。間違いなくアニニマや追われる身となった時に相対した5人の勇者だった。


 リラは勇者のことをイレナやアナンシに伝えようとしたが、1人だけ見た目が物凄く変わっている勇者が居た。


(あれは……確かショータだったはず……ボロボロなのは戦闘訓練のせい?)


 リラの記憶の中のショータは爽やかな好青年だった。だが今は髪はボサボサになり、筋肉が衰えているのか、細身となり骨が浮き出ていた。


 あまりの変わり具合にリラは驚き、自身の身分など気にせずに勇者達に声をかける。


「あの!私のことを覚えていますか?」


「あなたは……リラさん?どうしてここに?」


 ショータは驚いた様子でリラを見ていた。だが、それよりもリラはショータの体調が心配だった。


「それよりも何ですか、その体は?前に会った時はもう少しでまともだったはずです」


 リラの言葉にショータは自身の体を見る。


「確かにね。実はずっと前から悪夢ばかりで満足に寝れなくて……そのせいか知らないけどこうなっちゃったんだ」


「悪夢……そういえばご主人……アルクから奪った刀はどこですか?」


「あの刀か?あれは馬車の中にあるよ。ほらあそこに……」


 ショータは震える指で馬車を指さす。言葉通り、馬車の中にはアルクの刀である”黒赤刀”が置かれていた。


「アルクさんの刀を手にしてからずっと悪夢を見るようになったんだ。とても口に出来ないほどの最悪の夢だった……」


「それじゃああの刀を回収しても良いですか?そうすればショータも悪夢を見なくて良いようになりますよ?」


「そうしたいんだけど……出来ないんだよ!あの刀のお陰で魔物も簡単に倒せるようになったんだ!今更あれを手放すなんて無理だよ……」


「その内死にますよ?そもそもあの刀はアルクの闇が溶け合った結果なんです。それを無理矢理使うなんて何が起こるか分かりませんよ?」


「それもそうなんだけど……頼む!もう少しだけ使わせてくれ!」


 ショータは手を合わせ、リラに懇願する。リラはショータから無理矢理刀を奪い取るか、願いを叶えるか迷っていた。


 刀を使ってからショータは明らかに何かが変わっている。そのまま使えばショータは確実に死ぬ。だが、無理矢理奪ってしまった場合、いざと言うときにショータは戦えなくなってしまう。


「わか……りました。ヘルンでの用事が終わるまでは刀には触りません。ですが、私達がヘルンでの用事が終わればすぐに刀を回収します」


「ありがとう……そういえば雪達には会った?顔を出したらきっと喜ぶよ」


 異世界から召喚された勇者はショータの他にレンジ、ユキ、リナ、クマテツがいる。


「そうですね。せっかくなので会いに行きますが……攻撃とかはされませんよね?」


「流石にそこまでの血の気が多くないよ」


 リラはショータの体調を心配しながら、他の勇者の下へ向かった。


 イレナとアナンシは兵士達を警戒しながら、光翼騎士団が何故ヘルンへ向かっているのか情報集めをしていた。


 流石に初対面の人物に任務内容を簡単に言うほど口は軽くなかった。だが、数少ない情報で、兵士達の目的が何なのかはある程度推測できた。


「アナンシ。奴らの目的は……」


「うん。間違いなく魔王だね……殺すのかな?」


「流石に国の王を殺すなんてことはしないはずよ。とりあえずは彼らについて行ってヘルンに向かったほうがいいわね」


 こうして、イレナ達3人は予想外の者達とヘルンに行く事となった。

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