表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/271

8ー47 愚か者の自滅

 八岐大蛇との戦いで一夜明け、陰陽師や騎士達は戦いの後処理をしていた。八岐大蛇で戦闘に参加していた陰陽師達は魔力量が少ない為、魔法なども使えずに瓦礫の撤去は道具を使っていた。


 騎士達はマガツヒ人とは違い、魔力の回復が早く、魔法を使って瓦礫の撤去をしていた。


 だが、八岐大蛇と戦った場所は海岸線だったため、被害は皆無に等しかった。問題はタカマガハラだった。


 八岐大蛇の闇によって興奮状態の鬼狒々が富剣山から下り、タカマガハラで猛威を振るっていた。その対処へ向かったのがマガツヒ陸軍だったが、魔法が使えないうえに技術も劣っている陸軍では被害を増やすだけだった。


 もし、陸軍一人がシュノウと同じ実力ならばマシになるが、そんなうまい話はどこにもない。


 瓦礫の撤収は道具を使えば良いが、鬼狒々にやられた者は悲惨なものだった。四肢は千切られ、内臓は巻き散らかし、意識は辛うじてあるが下半身がない者など見るに堪えない光景だった。


「皆さん、お待たせしました!昼飯ですよ!」


 ”万神店”の店主であるトモヤとメグヤは部下達に大量に持たせた料理を持ってくる。だが、料理を持ってきた現場は”万神店”の旅館があった場所であり、旅館の瓦礫で作った野営地であった。つまり、タカマガハラの中心地だった。


 そこは完全に回収しきれていた死体が腐り始め、腐敗臭が漂っていた。持ってきた料理に手を付けようとするが、腐敗臭の影響で口に運ぶことが出来ない。


 それを見かねたのか、シエラは魔法を使い、野営地とその周辺の腐敗臭を消した。


「それにしても私の旅館がこんなに風通しの良い建物になるとは思いませんでした!」


 タカマガハラの崩れた建物や惨状を確認する事が出来たが、想像以上だったのか”万神店”の者達は絶句していた。


 だが、反対にメグヤは目を輝かせていた。


「これって……沢山の家を建てれるって事ですね!うおぉ!建物を建てれるのが楽しみだ!」


 メグヤの喜び具合に騎士達は驚いていた。だが、陰陽師は見慣れているのか、特に反応はしていなかった。


「メグヤは建築家でもありましてね。旅館もうちの店も全部メグヤがやったんですよ」


 メグヤの意外な才能に関心する。しばらくの昼食の後、シエラはヒルメティとセーバルがいない事に気づく。


「ヒルメティ様とセーバル様はどこへ行ったのかご存知ですか?」


 シエラは近くを通りかかった騎士に聞く。


「副団長はセーバルと一緒に居たのは分かりますが、どこへ行ったのかは分かりません」


「そうですか……あの御二方が居れば作業も進むのに……」


――――――――――


 タカマガハラで騎士や陰陽師が瓦礫の撤去作業をしていた頃、ヒルメティとセーバルはキヨナ城に居た。


 鬼狒々の襲撃に巻き込まれていないのか、キヨナ城には大きな損傷が見られなかった。


 一見静かに見えるキヨナ城だったが、城内は緊迫した様子だった。


 何故緊迫しているのかと言うと、ヒルメティとセーバルの体から放たれている魔力によるものだった。そして、魔力が放たれている先にあるのはマガツヒ陸軍の司令官だった。


「それで?この被害はどう言う訳か?ちゃんと対策していれば鬼狒々なんぞ楽に追い返せただろ?」


「そうですね。確かに奴らは魔物の中でも強い部類に入りますが……ちゃんと対策して準備していれば撃退は容易です」


 二人はマガツヒ陸軍司令官に対して、タカマガハラでの惨状が何故あれ程になったのか追求していた。


 だが、司令官の態度は追及される側として相応しくなかった。胡座をして座布団の上に座り、扇子を仰ぎながら欠伸をしている。


 どこからどう見ても反省はしていない。それどころか、偉ぶっていた。


「だったら貴様らがタカマガハラで鬼狒々の撃退をすれば良かっただけの話だろ?それなのに、たかが魔物一匹に対して援軍と陰陽師の全てを使うとは」


 司令官がそう言うと、副官らしき男達が笑う。


「今回の件は貴公らが悪いのは自覚しているのか?こっちは最初から手に負えないから援軍を呼んだにも関わらず、魔物一匹に全勢力を使った。さては……働いている風を装って道草を食っていたのではないか?それは陰陽師共も同じだ」


 どうやら司令官は陸軍の非は認めず、全ての責任を騎士と陰陽師に背負わせるつもりらしい。余りにも滅茶苦茶な言い分に、ヒルメティは反論しようとする。だが、それをセーバルが止める。


「つまり司令官の言いたいことはタカマガハラがこの惨状になったのは全て我らの責任だと言いたいのだな?」


「それ以外に何がある!セーバル、貴様は責任を取って陰陽連の頭領を退き、全ての陰陽連の権限を陸軍に渡せ!そして援軍に来た騎士達には賠償金の請求を行う!それが無理ならば内乱を引き起こした罪で拘束する!」


 マガツヒ陸軍の司令官がそういうと、隠れていた兵士がヒルメティ達を取り囲む。


「この時だけ仕事が早いな……そんなことをしている暇があったらタカマガハラでの惨状を回避できただろう?」


 セーバルは迫りくる兵士を軽くいなしながら、とある魔法を発動させる。その魔法はヒルメティでも知っている投影魔法だった。


 投影魔法はとある出来事をそのまま映し出せる魔法であり、裁判や尋問などに多く使われている。


 セーバルが出した投影魔法では司令官が誰かと会話をしている光景だった。これにはセーバルとヒルメティを拘束しようとしていた兵士でさえ動きを止めて、投影魔法を見ていた。


『八岐大蛇は強い魔物だ。陰陽師や騎士達を先に戦わせ、疲弊しきったころに陸軍が止めを刺す。そうすれば陸軍の評価は上がり、陰陽連の地位は地に落ちる』


『だ、だがもしそれが失敗したらどうするんだ?失敗したら、陸軍は国の一大事に何もしなかった無能となってしまう!』


『安心しろ。八岐大蛇の闇によって鬼狒々がタカマガハラに集まる。その時は雑兵を犠牲にして奴等を貶める機会を作れ。あとは上手いようにやれ』


 ここで投影魔法が終わる。短いながらも場にいる者達に強い印象と衝撃を与えたのか、全員が司令官を見ていた。


「これは奴の捏造だ!こんな物はいつでも作り替える事ができる!」


 司令官は喚き散らかしながら、肥えた体を左右に揺らしながら、セーバルに詰めようとする。  


「これでも足りないならとっておきの奴を出してやろう!」


 セーバルは迫り来る司令官の腕を避けながら大量の紙をばら撒く。その紙に書かれている内容は陸軍の財産だった。


 一見何も違和感が無いように見えるが、一箇所だけあり得ないほどの桁の金額が記載されていた。


「これはマガツヒ陸軍の帳簿だ。たった今入手したが……ニヒル帝国と怪しげな取引の跡が記されている。加えてここには帝国の最新鋭の兵器の取引項目がある。どういうことか説明してもらおう!」


 セーバルが出したものは間違いなくマガツヒ陸軍の帳簿だった。副司令官は帳簿を拾い、目を通した途端、怒りの形相となった。


「司令官……これ程の武具をどうしてタカマガハラで使わなかったのですか!これを使えば息子は死なずに済んだ!説明をしろ!」


 副司令官は司令官の胸ぐらをつかみ、帳簿について詰め寄る。


「こ、これは……これもセーバルの捏造だ!今すぐ手を離さないと貴様も拘束するぞ!」


「捏造だと!?これは間違いなく本物の帳簿だ!そもそも帳簿の管理は俺がやっているんだ!騙されるわけがない!」


 一度仲間が揺らげば崩れるのは一瞬だ。兵士達はヒルメティから離れ、司令官を囲う。


「後の裁きは王にやってもらう。俺たちは瓦礫の撤去を進めて、民がいつでも帰れるように準備しよう」


 セーバルはそう言うと、ヒルメティと共にキヨナ城を飛び出し、タカマガハラへ向かった。今まではタカマガハラを一望できる場所にいないせいで、タカマガハラの惨状を確認することが出来なかった。


 だが、キヨナ城から飛び出したことにより、タカマガハラの惨状を確認することが出来た。


「これは復興にずいぶんとかかりそうだが……道具や建物はいくらでも作り直せる。だが命だけは二度も戻らん。だから命は大事にしろよ」


 セーバルの言葉にはいつもよりも重みを感じた。


 だが、命の重みは全線で戦うこともあるヒルメティも知っている。だからこそ、騎士達を守れるように光が盾型となった。


「とりあえず陸軍に関しては勝手に自滅してくれるから気に病む必要はない。今は復興に集中すればいい」


 セーバルはそう言うと、空中で立ち止まり、呪文を唱える。すると、広範囲の瓦礫が浮かび上がり、空いている土地へ移動する。


「取り敢えずここを騎士達が寝泊まり出来る場所にしよう。そうじゃないと他国のために頑張ってくれた騎士達に申し訳がない」


 更に魔法を唱えると、瓦礫は建物の形となり、騎士達が寝泊まり出来る建物へと変化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ