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8ー45 傲慢の果て

 首を七つ失った上にアルクによって闇も多く失った八岐大蛇には力が残されていなかった。だが、下等生物に押され、命の危機に瀕していることが認められないのか、迫りくるアルク達を睨んでいる。


 残された一つの首はどんな能力なのか確認できていない。もしかすると、特質した能力は無く、司令塔のような役割なだけの可能性もある。


「お前らのような下等生物には首一つで十分なんだよ!」


 苦し紛れの言い訳か、本当に余裕があるのか八岐大蛇は武器を構える。だが、いつの間にか武器がヴィレンの巨斧から刀へと姿を変えていた。


「武器を斧から刀に変えたところで本物に慣れる訳じゃないだろ!」


 アルクは八岐大蛇に言い放ち、刀を振る。金属特有の甲高い音が響いた後、何かが砕ける音がする。


「強い奴を真似たからってお前自身が強くなる訳じゃない」


 砕けた音は八岐大蛇が持っていた刀だった。闇で構成しているのか、砕けた刀の破片は黒い粘着性の液体へと変わっていた。


「お、俺は……ここで!」


「大人しく死んどけよ!」


 武器を無くし、首を無くしてもなお立ち向かおうとする八岐大蛇だったが、全て無意味だった。両脚と両腕が即座に切断され、一瞬で肉の達磨となった。


「セーバル!そのまま殺しても良いよな?」


「研究のために生かして欲しいが……」


「聞いた俺が馬鹿だった。ここで今すぐ殺す!」


 アルクはそれだけ言うと、八岐大蛇の最後の首を切り落とした。すると、切り離された胴体と頭部は水分を失ったかのように枯れていった。


 そして、アルクは八岐大蛇の体内に残されているヴィレンの闇を全て吸収する。


「取り敢えず全部終わったと思うけど……何か聞きたい事があるのか?」


 アルクは重い体を休ませる為に、地面に座る。そこへ、ヒルメティとシエラがやって来る。二人とも前線での戦闘は得意では無く、後方からの支援を得意としているのか、アルクよりは目立った傷はなかった。


「どうするも何も……光翼騎士団の規定だと君を拘束する事になっているんだが……」


「私も聖騎士の決まりに従うならアルクさんと仲間の獣人の方も拘束する事になります」


「そうか……だったら……演技でもして俺を逃がしてくれないか?そうすればあんたらの信用も損なわれずに、ただ俺が強かっただけで話が済む」


「それもそうなんですが……聖騎士達はアルクさんを逃がす気はないですよ?」


「こちらの新兵も君を捕えようと躍起になっているよ」


 ヒルメティとシエラの言葉通り、アルクとリラの周囲は騎士達が囲っていた。それに加えて、全員が光魔法をいつでも放てるように構えていた。


「ハ!協力して用事が済んだらすぐに裏切りか?こんなもん盗賊のほうがまだ時間をくれるぞ?」


 闇魔法を騎士達に気付かれないように発動する。周囲に黒い霧が放たれ、アルクとリラの身を隠す。だが、それも対策していたのか黒い霧は一瞬で晴らさせる。


 それに加えて、眼が眩むほどの光が発せられ、視界がつぶれる。


 意識を保ち、攻撃に備えるが視界が戻らないせいで状況の把握ができない。それに加えて、義足と義手が維持不可能なほどに魔力と闇が無くなっている。


 アルクは危機を察知し、防ごうにも出来なかった。光の鎖がアルクを縛り、動きを封じる。リラはアルクを救出しようとするが、騎士達の妨害により光の鎖を解く事が困難になっている。


 アルクも大人しく拘束される訳にもいかず、何とかして光の鎖から逃げ出そうとする。だが、魔力も闇も枯渇しかけている状態で、それは体力を消耗しているだけに過ぎなかった。


「全てを燃やせ!カグツチ!」


 アルクがそう叫ぶと、地面に刺しっぱなしの刀が一人でに動き、光の鎖を全て燃やしていく。


「カグツチ!今の俺には脚や腕を維持するほどの力は残されてない!お前の炎で維持出来るか?」


『俺を何だと思っている?義手や義足を炎で作るなんて簡単な事だ』


 カグツチは刀身から炎を放ち、アルクの切断された腕と脚を包み込む。すると、炎の中から赤色の脚と腕が出現した。


「なんだこれ!?気持ち悪!」


『作ってやったんだから感謝ぐらいしろよ!』


「すまん。手足が生えるのところが気持ち悪くて感謝も忘れてた」


 アルクは義足と義手の動きを確認した後、騎士達から身を守るように炎の壁を作る。その壁は全ての魔法を溶かすほど高温となっている。


「ご主人。ここからどうやって脱出するんですか?もう魔力も底をついているのに」


「安心しろ。俺らをここに運んだのは誰だと思ってるんだ?まぁ、怖いのは俺もだけど……一応神に分類されているんだ。どうにかなるだろう」


 アルクがそう入った瞬間、打ち合わせをしていたかのように、地面に転移魔法陣が一瞬で作られる。逃げようとしていることに騎士達は気付いたが、後の祭りだった。


 アルク達に向けられて放たれた魔法は炎の壁が防ぎ、通り過ぎても転移魔方陣が魔法を打ち消していく。


「ちゃんと村に帰れるのか心配です。今度は遥か上空に放り出されるんですか?それとも溶岩の中に出されるんですかね?」


「心配するな……今回は成功するだろ。多分……」


 クラシスの転移魔法に不安を抱きつつも、無事にクプニ村に帰れるように祈る。目が眩むほどの光と同時に、周囲の景色が高速で通り過ぎる。


 転移魔法が無事に発動したことに安堵したのと同時に、最終的にどうなるのか不安になる。リラの言う通り、遥か上空に放り出される可能性も溶岩の中に放り出される可能性だってある。


 だが、そんな事を考えるよりも休憩を先にするべきだと考えた。その証拠に体が急激に重くなり、手足が震え、瞼が重くなった。


「リラも休憩……もう寝てるのか……。それじゃあ俺も寝るか……」


 アルクは重い体を横にする。瞼を閉じた瞬間、アルクの意識は一瞬で途切れ、安らかな眠りへと入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 突如現れた転移魔方陣がアルク達をどこかへ連れ去ったのを見た騎士達は何が起きたのか理解できなかった。


 なぜなら転移魔方陣の発動者の魔力も感じれなかったうえに、転移魔方陣が魔法を打ち消したのだ。これはあり得ないことだ。


 転移魔方陣は魔力の消費が激しく、制御も難しい。発動者が遠い場所にいた場合、転移魔法の精度が狂い暴発してしまう。


 だが、アルク達の足元に現れた転移魔方陣の発動者はどこを探しても見つけられなかった。


 感知に優れた聖騎士が見つけることが出来ないのなら、優れた発動者が遠くにいることを指していることになる。


 それに加えて転移魔法陣には魔法を消す効果は無い。つまり、遠い場所で転移魔法を発動しているのと同時に、魔法を消す何かを使っていると言う事になる。


「すみません、シエラ様。闇の使徒を逃してしまいました」


「転移魔法が用意されているなんて誰も考えていません。仕方の無いことです。それよりも負傷者の治療を始めますので集めてください」


 シエラは負傷した騎士や陰陽師の治療を始める。予想よりも負傷した者が多く、全員を治療するのに時間がかかった。


 治療が終わった騎士は休んでいる者、状況を整理している者で溢れている。だが、陰陽師は違った。


 どこか慌てた様子で何かを準備していた。


「陰陽師の方達はどうしたんでしょうか?何か慌てていますが……」


「私が聞いてきましょう。シエラさんは皆さんの治療を引き続きお願いします」


 ヒメルティは手が空いている陰陽師へ寄り、慌てている理由を聞き出す。


 聞き終えた後、ヒルメティは軽く感謝を述べ、シエラの元へ戻ってくる。


「どうやらタカマガハラで魔物が大量発生したようです。幸いにも民間人は八岐大蛇の復活に伴い避難しているので被害は少ないようです。そのせいでマガツヒの兵士達は対処に追われているようで」


「それは本当ですか!?だったら早く治療を終えてそちらに向かわないと!」


 シエラは騎士達の治療を早く終わらせるようにする。だが、負傷した騎士が多いのか、治療が中々終わらない。


「タカマガハラの事は私達に任せな!」


「そうだよ!治療はゆっくりやるからこそ意味があるんだ!」


 シエラに声をかけたのは剣聖と呼ばれているキンとギンだった。


 二人ともアルクと共に最前線で戦っていたはずなのに、怪我が一切見えない。


「それにしてもシュノウは怪我の治りが遅いねぇ」


「師匠達が早すぎるんですよ。何でそんなに治るのが早いんですか?」


 二人の剣聖は傷がないのに対して、弟子であるシュノウには傷が残っている。だが、既に血は止まっており、いくつかの傷は治りかけている。


「慣れだよ慣れ!とにかくタカマガハラに行くよ!」


 キンとギンは足に力を溜めると、一気に解放し、タカマガハラへ向かった。

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