3ー1 闘技大会
闘技大会。それはスキンティア学院最大のイベントであり、生徒達の実力がどれ程の物か外部に知らせる事が出来る唯一の機会だ。この大会で良い成績を収める事が出来るとバルト王国で最高峰の光翼騎士団に入る事が出来る。
シルアとグラウスの模擬戦から一ヶ月が経った。つい最近までは汗が流れるほどの暑さが収まり少し涼しくなっていた。
今、学院は闘技大会の準備をしているところだ。アルクとグラウスはこの闘技大会に向けてひたすら特訓をしていた。
「アルク、いよいよ明後日だな」
「うん。以外と早かったな」
二人の訓練の休憩時に軽く雑談をしていた。グラウスはアルクとの決闘以来、傲慢だった性格は収まっていた。
「そう言えば、二人も出るんだよね」
二人の下へフローランスはそう言いながら寄って来る。
「当たり前だ、フローランス。お前も出るだろう?」
フローランスの問いにアルクは答える。
「当たり前。後アドバイスしておく。私たち十魔剣には気をつけてね」
「十魔剣?」
「やっぱり忘れてる。いい?十魔剣は学院で強い十人が学院長直々に選ばれる組織のこと」
「ふーん。じゃあフローランスも?」
「そう。序列9位」
「じゃあ序列1位の人は?」
「化け物」
「強いって事?」
「うん」
「そうか。名前は?」
「セイラ=スキルニング」
「セイラ=スキルニ……ん?スキルニング?」
フローランスが教えてくれた者の名前に聞き覚えがあった。
「アルクも知ってる通り、聖女シエラの実の姉よ」
「それは知ってるが……どこかで……」
「どうしたんだ?」
「いや、何でもない」
アルクは昔に似たような名前の騎士と戦った記憶があったが思い出せない。アルクは思い出そうとするが、グラウスに話しかけられ何も無いと答える。
そしてそのままその日が終わり、そしてその次の日と終わり遂に闘技大会が開催された。
アルクは闘技大会に出る事で護衛出来ない時間がある事を伝える為に、王族専用の部屋へ向かっていた。
そして、王族専用の部屋の前まで着くと既に何人かの騎士が警備に当たっていた。アルクはバレルから渡された手紙を警備をしている兵士に見せる。
ある程度押し問答があると思っていたが、意外にもすんなりと部屋を開けてくれた。
「お久しぶりです」
アルクは部屋に入ると既にバレルが椅子に座っていた。
「アルクか。久しぶりだな。後そんなに畏るな。ここには二人しかいなんだから」
と、国王バレルとアルクが話していると扉がノックされ開くと、シエラが入って来る。
「遅くなってすいません」
「いや。大丈夫だ、シエラ」
「アルクさんもおはようございます」
「おはよう、シエラ」
「さて、じゃあ前に送った手紙を読んだかな?」
前に送った手紙。恐らくシエラから渡され、今持っている手紙の事だろう。
「この闘技大会に暗殺者が来るかも知れないって事ですか?」
「そうだ。おそらく暗殺対象になるのはシエラかもしれない……」
「『かも』とは?」
「まだ分からないのだ。シエラかもしれないしセイラかもしれない」
「セイラ?」
「第一王女セイラ=スキルニング。つまり私の姉です」
「確か学院で一番強いとされる?」
「はい。城の中では剣聖の弟子と呼ばれる人です」
剣聖。その言葉を聞いてアルクは現在の剣聖を思い出す。現在の剣聖は光翼騎士団総団長であり、剣術、魔法と共に最高峰の騎士だ。
だが、アルクはシエラの言葉を聞いて、それ程心配はしていなかった。
「なら大丈夫じゃないか?」
「でも念のために護衛も置いておいた」
「じゃあ。守るのはシエラだけ?」
「そういう事になるかの」
「シエラ」
「はい?」
「これを渡す」
アルクは懐からにロケットペンダントを出す。見た目はいかにも高そうな金の装飾が施されている。
「これは?」
「母親の形見で致命傷の攻撃を3回まで防げる代物だ」
「そんな!アルクさんのそんな大事な物受け取れません!」
と、アルクに返そうとしたが、アルクは断った。
「俺は冒険者だ。護衛対象を第一に考える。それに俺はそう簡単に死なないから心配するな」
「でも……」
「頼む。受け取ってくれ」
「分かりました。でも闘技大会が終わったら返しますね」
「その方が良いが……絶対にロケットを開かないで欲しい。もし開いたら攻撃を防ぐ魔法が消えてしまう」
「流石に人の物を勝手にいじらないですよ」
シエラはアルクから渡されたロケットペンダントを首にかける。それを見たアルクはもう大丈夫だと判断して、王族専用の部屋の部屋を退出する。
(あれ?何か落ち着く)
ロケットペンダントを首にかけてからしばらくすると、何故か落ち着く。それどころか何か懐かしさを感じる。
シエラは懐かしさを気のせいだと思い、対して気にしない事にした。




