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8ー44 甦る傲慢10

 アルクの体は既に悲鳴を上げていた。闇の全解放により、左膝から下は崩壊し、全身に激痛が走っている。


 リラも力の解放による反動で、全力を出し切るには無理な状態となっている。


 だが、それは八岐大蛇も同様だった。アルクの猛攻により、動きを止める事が出来る能力と学習能力の頭部が切断されてしまう。それに加えて、闇をアルクに奪われたせいで、鎧は柔らかくなっている。


「俺を殺すか……面白い!だが、俺にはまだまだ能力が残されている事を忘れるなよ!」


 八岐大蛇はそう言うと、複製体を3体も作り出す。切断された頭部までは複製されなかった。だが、どれも本体と同じ強さは持っている。


 アルクとリラは複製体をいつでも殺せるように身構える。だが、キンとギン、シュノウがアルクの前に立つ。


「複製体は私ら剣聖でやれるよ!」


「シュノウも弱くないからね!安心しな!」


 キンとギンはそう言うと、複製体との距離を詰める。休憩を取っていたおかげか、2人の動きは素早く、目で追うのにやっとだった。


「何してるんですか?2人はさっさと本体を殺してきてください!そうしてる間にも残りの複製体がこっちに来てるじゃないですか!」


 残された複製体はキンとギンを無視して、アルク達を狙っている。だが、シュノウが複製体の動きを阻止する。


 シュノウの動きは剣聖と比べて遅いが、複製体を相手にするには充分すぎる程だった。


「おいおい……ここまで来てまたお前ら2人組と殺し合うのかよ!」


 八岐大蛇は目の前にいるアルクとリラに向けて言い放つ。だが、アルクは無反応だった。むしろ、八岐大蛇との距離を離していた。


 これには八岐大蛇も理解が出来ていなかった。だが、次の光景に八岐大蛇は身の危険を感じた。


 何故なら、周囲には八岐大蛇を取り囲むように5人の陰陽師が立っていたからだ。それに加えて、今まで見ていた陰陽師ではなく、黒装束に蔵面を付けていた。


『罪人死相』

『罪人獄門』

『罪人因果』

『罪人不動』

『罪人三途』


 5人の陰陽師が怪しげな言葉を放った瞬間、全員の蔵面が不気味な色を放つ。


『宵闇獄血』


 その瞬間、地面に五芒星が出現するのと同時に、赤い液体が絶えず放出される。


 見ているだけなら何ともなさそうだ。だが、五芒星の中心に立ち、赤い液体に触れている八岐大蛇には問題があるようだ。


 残された頭部からは血を噴き出し、悶絶している。


 それは人間の形をしている方も同じだった。頭部を覆っている兜の隙間から大量の血が溢れ出ているが、死ぬ気配は一向に見せない。


「こんな物!適応すればいいだけの話だ!」


 八岐大蛇は陰陽師の術に適応しようとしている。だが、それを簡単にさせるアルクではない。


 アルクは自身も陰陽師の術に巻き込まれる覚悟で、八岐大蛇との距離を詰める。だが、緑色の障壁が八岐大蛇を囲み、刀が届かない。


「もっと燃やせ、カグツチ!」


 アルクは刀に纏っている炎を更に激しくする。その熱量はカグツチの所有者であるアルクですら皮膚が火傷する程だった。


「持ち合わせただけの能力で!この俺から身を守れると思うなよ!障壁ごとお前を焼き切ってやる!」


 八岐大蛇に向かって言い放つと、業火を纏った刀を振り下ろす。万象を溶かさんとする刀は緑色の障壁を紙のように切断する。


 それでは飽き足らず、離れた位置にいた八岐大蛇の左腕を切断する。傷口が焼けているせいか、血は出ておらず、焼けた切断面と地面に落ちた腕だけが残されている。


「クソがあぁ!何をしている!俺を守れ!」


 八岐大蛇は複製体に本体である自身を守るように命令する。だが、向かったのは綺麗に切断された3つの頭部だった。


「本体に比べたら複製体は弱かったなぁ。ギンはどうだった?」


「ゴミ同然だったよ。これなら富剣山の魔猿共の方が数倍は強いよ」


 キンとギンは擦り傷1つも作らずに複製体を殺すことに成功している。これはシュノウも同じだった。


「もしかすると……複製体の生成を適当にしていたんしゃないんですか?そのせいで本体よりも数段弱かったのかもしれません」


 シュノウは何故複製体が本体よりも弱かったのか冷静に考察をしていた。


 そうしている間にも、アルクとリラ、キンとギンとシュノウは八岐大蛇を取り囲むように移動する。


 だが、上が空いているのを八岐大蛇は見逃さない。目眩しとして周囲には砂埃と闇を同時に放ち、上空へと逃げようとする。


 逃げれると思った八岐大蛇だったが、それらの行動は全て無意味だった。硬い壁に当たるような衝撃を感じたと思えば、視界を真っ白に埋め尽くすほどの光の槍が出現していた。


 数十本の槍が八岐大蛇に降り注ぎ、再び地面へ八岐大蛇を引き戻す。


「お前のような怪物を簡単に逃がすわけないだろう!」


 ヒルメティは


「傲慢に満ちた哀れな怪物よ。大人しく自身の負けを認め、命を差し出すのならば安らかに逝かせてやろう!」


 キンは八岐大蛇にそう告げる。だが、八岐大蛇は笑っている。


「命を差し出せ?貴様ら下等生物に命を差し出すぐらいなら、デカいのをやってから死のうじゃないか!」


 八岐大蛇は鎧を自身の手で全て砕く。鎧が砕けたおかげで、八岐大蛇の体と顔を見ることが出来た。顔は蛇そのものであり、胴体は人間に近いものとなっている。だが、一つを除いては全く別物だった。


 全くの別物とは、八岐大蛇の鳩尾にある闇の塊だった。それは心臓のように鼓動しているが、心臓ではないと見るだけで分かる。


「あっはっは!アルクはこれが何かを知っているだろう?」


 全員の視線がアルクに移動する。アルク本人も八岐大蛇の闇の塊が何なのか理解しているような顔をしていた。


「全員……今すぐここから離れろ……でないと闇に溶けちまうぞ」


「どういうことだ、アルク君?私でもあれが何なのか知らないぞ!」


「あれは”闇の安海”って言って……触れたもの全てを闇に溶かす危険な闇魔法だ。大戦でも使用を制限されてた危険な闇魔法だ」


 剣聖達は八岐大蛇の闇魔法の危険性を瞬時に理解し、シュノウを連れて高台へ避難する。


 アルクは闇を使い、八岐大蛇を覆う。闇を全開放したせいか、闇は安定していない。だが、ヒルメティは光で安定していない闇を補強する。だが、アルクは諦めたのか、闇を使うのをやめる。


「これは無理だな……俺らだけじゃ防ぎようがない」


「じゃあどうするんだ?あの闇魔法ってすごい危険なんだろう?」


「そうなんだけど……正直”闇の安海”についての情報がないんだよ。魔力が残っている騎士や陰陽師を集めれば防げる可能性はあるけど……」


「だったら集めれるだけ集めてみよう」


「分かった。じゃあ俺はここで時間を稼ぐから集めててくれ」


「了解だ、と言いたいが、準備は既に完了しているらしいぞ」


 アルクは周囲を見渡すと、周囲には大勢の騎士が集まっていた。それに加えて、陰陽師までもが集まっていた。


「おい、アルク!これぐらいで足りるか?」


 どうやら、これだけの人数を集めたのはセーバルのようだ。


「陰陽連本部から顔を見ていないと思っていたが何をしてたんだ?」


「何って……そりゃあ勿論八岐大蛇を殺す方法を探してたんだよ!安心しろ!ちゃんと見つけて来たからよ!」


 セーバルはアルクの背中を強く叩いた後、大量の札をばら撒く。


「アルクとヒルメティはそのまま八岐大蛇を囲っててくれ。シエラはさっき言ってた通りの方法で魔力を流してくれ」


「分かりました」


 シエラは返事をすると、札を一枚掴み、魔力を流す。すると、それに呼応するかのようにばら撒かれた札が金色に光り始める。


「呪い師達はそのまま呪いを続行してくれ。例え魔力が切れたとしても死ぬまで呪い続けろ」


「若造が誰に命令している?俺達は呪い師だ!敵は死ぬまで呪い続けるのが俺達の存在意義だ!」


 呪い師と呼ばれた5人は呪いを続ける。その間にも札は金色に光り続け、遂には一枚残らず全てが光った。


「それじゃあ始まるぞ!騎士も陰陽師もさっき教えた通りに詠唱を始めてくれ!」


 セーバルがそう言うと、周りにいる騎士や陰陽師が一斉にを詠唱を始める。騎士達は慣れていないのか、詠唱はぎこちなかったが、陰陽師は慣れているようだ。


「下等生物が何か始めたようだが……俺の方が一足早かったな!」


 八岐大蛇はそう言うと、遂に”闇の安海”を発動する。初めは闇の塊が消えたように見えたが、八岐大蛇の足元から黒い液体が出現する。見た目は泥水にも見えるが、アルクの説明を聞いてから、あれが触れたもの全てを闇に溶かすと言われる”闇の安海”であると誰もが理解した。


 闇の水は全てを溶かそうと周囲に流れようとするが、アルクの闇とヒルメティの光によって阻まれる。だが、時間と共に無意味になるだろう。その証拠に、闇と光の障壁は物凄い勢いで溶かされている。


「アルク君……一応聞くけどあの黒い水に生き物が触れたらどうなると思うんだい?」


「多分生き物とか関係なく闇に溶けるんじゃないのかな?試しに触れてみろよ」


「それは勘弁して欲しいね。まずいな……もう私の障壁が突破されそうだ!補強してくれるか?」


「出来るだけのことはするが期待するなよ!」


 アルクは突破された光の障壁を闇で補強する。だが、僅かに漏れ出た黒い水は、たまたま通りかかった蟹の上に滴り落ちる。その瞬間、蟹は原形を失い、黒い液体となった。


 生き物が闇に溶けたのを目撃したヒルメティは心の底から恐怖が沸き上がった。そのおかげか、残っている光の障壁の強度が増した。


「お前ら!ここから離れろ!デカいのを撃つぞ!」


 セーバルの合図に従い、アルクとヒルメティは障壁を維持したまま、その場から離れる。だが、僅かに闇の障壁が緩んだせいで、”闇の安海”が溢れ出す。濁流のように”闇の安海”は周囲を吞みこみ、闇に溶かす。そして、矛先は呪い師へと向けられる。


「構わん!セーバル、我らごとやれ!」


 呪い師はそう言った瞬間、セーバルは本当に呪い師を巻き込む勢いで魔法を発動させる。


 黄金の光を放った札は意志があるかのように動き、魔法陣らしき形に集まっていく。


 だが、アルクは作られた魔法陣の仕組みを理解する事が出来なかった。何故なら、それは大陸で広く使われる魔法陣ではなく、陰陽師だけが使える古くから伝わる陰陽術だったからだ。


[安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る]


 誰かがそう言った瞬間、魔法陣から五つの人影が現れる。視界にとらえようとしても、必ずぼやけ、人間なのかどうかも判別する事が出来ない。


 人影は腕を振り下ろすと、八岐大蛇を囲っている闇と光の障壁を砕く。黒い液体が溢れると思いきや、黒い液体は元から存在していなかったかのように、一滴も残さずに消えていた。


「な、なんだそれは!何故闇魔法が消えているんだ!?」


 八岐大蛇も突然のことに声を荒げる。だが、そんなことはお構い無しに五つの人影は八岐大蛇へ向かう。


「やめろ!来るな!」


 八岐大蛇はそう叫ぶと、逃げ始める。アルクは八岐大蛇を追いかけようとするが、セーバルは止める。


「アレは触れた物を分解させる式神のような物だ。本来、禁術に指定されているんだが……誰も見なかったと言う事にしておいてくれ」


 セーバルがそう言っている間にも、人影は八岐大蛇を追いかけている。逃げている途中で魔法を撃つが、セーバルの言う通り、触れた瞬間、あらゆる物を分解している。


 そして、遂に人影が八岐大蛇の背中の頭部に触れた。触れた位置から分解されていき、遂には背中の頭部全てが分解され、胴体と1つの頭部しか残されていない。


「こんな凄い術があるんなら最初から使ってくれよ。そしたら誰も苦労しないで済んだのに」


「許可が降りなかったからな……それじゃあトドメを刺しに行くとするか」

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