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8-40 蘇る傲慢6

 アルクとリラの攻撃を八岐大蛇は全て避け、一撃で死に至るほどの威力を持つ巨斧を振りかぶる。


 巨斧の一撃も避けようとするが、一瞬だけ体の自由が効かなくなった。そのせいか、八岐大蛇の巨斧はアルクに当たりそうになる。


 だが、リラがアルクの裾を引っ張ったおかげで、八岐大蛇の巨斧から逃れることが出来た。


「蛇睨みってか?ムカつくな……」

 

「そうですね……当たりそうな攻撃も避けられる攻撃も当たりそうになってしまいます」


 八岐大蛇とヴィレンの闇が完全に融合した後、アルク達は休むことなく攻撃を続ける。


 だが、八岐大蛇の背後にある首の一つの目が怪しげに光ったと思えば、体が一瞬だけ固まってしまう感覚に陥る。八岐大蛇との戦いが本格に始まってからはずっとこれが続いていた。


 幸いなことに、体が固まるのは一人にしか効果がない。つまり、二人同時に固まることはないのだ。


「リラ!同時にやるぞ!お互いに支えながらならやれる!」


 アルクの言葉にリラは頷き、二人同時に八岐大蛇に攻撃を仕掛ける。読み通り、蛇睨みは二人同時には作用せず、片方しか固まらない。


 そして、遂にリラの拳が八岐大蛇の鎧を砕いた。アルクも砕けた鎧に刀を突き刺し、大量の炎を八岐大蛇の体内に流す。


 絶叫とも咆哮とも取れる声が響き渡る。その後、八岐大蛇は前のめりに倒れ、動かなくなる。


 だが、八岐大蛇はまだ死んでいない。


 アルクはとどめを入れようと、首に向けて刀を振り下ろす。刀が首に当たろうとした時、背中にある7つの首から黒い光線が放たれる。


 首を切れるほどの距離にアルクは居るため、完全に避けることは出来ず、肩に穴が空いてしまう。


 それだけじゃない。八岐大蛇から見覚えのある魔法陣が展開されたと思えば、炎の槍がアルク達を襲い始まる。


 だが、それだけで冷静を欠くほど二人は慌てない。自分にだけ当たる炎の槍を破壊する。


 そうしている間に八岐大蛇はアルクに焼かれた傷を癒やし、リラに砕かれた鎧を直していく。


 それに加えて、今まで目を瞑っていた六つの首が一斉に目を開く。


 ただならぬ雰囲気を感じたアルクは気を引き締め、刀を握りなおす。それはリラもそうだった。


 先に動いたのは八岐大蛇だった。赤い目をした首が伸びたと思えば、口から炎が吐かれる。だが、炎など今のアルクとリラでは意味がない。


 アルクは炎を吸収しながらリラと共に八岐大蛇へと近付く。再び近接戦闘を始めたが、何か違和感があった。


 それは八岐大蛇の戦い方だ。今までは無造作に巨斧を振って攻撃をしていたが、今回はどこかヴィレンに似た振り方をしていた。


 筋肉の緩急を付け、違う速度、違う威力の攻撃を放っている。それに加えて、時折予知をしていたかのように、二人の攻撃を防ぐ事さえあった。


 だが、目の前にある敵は八岐大蛇であってヴィレンではない。奴の真似事をしても使いきれないなら意味がない。


 アルクは襲いくる巨斧を全て見切り、腕の関節を狙って刀を振る。


 鎧は体を守るのに十分な代物だ。だが、体の動きの関係で、関節だけは鎧の装甲が薄くなっている。


 それに加えて、今のアルクの刀には岩を撫でるだけで溶かすことが出来る炎がある。


 だが、アルクは刀を振り下ろすのをやめ、距離を取る。


 このままいけば八岐大蛇の腕を切り落とすことが出来たはずだ。だが、それを止めるほどの危機をアルクは発見したのだ。


 その危機とは八岐大蛇が使っている魔法陣と詠唱だ。他から見れば八岐大蛇が魔法を使っているようにしか見えないが、アルクだけが知っている。


 何故なら八岐大蛇が使っている魔法は全てアルクと全く同じ方法だからだ。


 アルクが普段使っている魔法は簡略化と迅速な発動の為に、改良を加えた魔法陣と短い詠唱をしている。慣れた魔法なら魔法陣だけでも発動出来る。


 これは誰にでも出来る訳でもない。知識が豊富にあるクラシスの下で学んだからこそ出来る方法だ。


 だが、八岐大蛇は誰にも頼らず、見よう見まねでアルクの魔法陣を扱えるようになった。


 アルク自身も目の前で起きていることを理解したくなかった。


 そして、目の前で起こった事実を否定するのように、大量の魔法陣を出現させ、八岐大蛇へと放つ。それと同時に八岐大蛇も全く同じ量、全く同じ魔法陣をアルクへと放った。

 

「シンジ、ラレナイ?コワイ?」


 衝突し合う魔法の中で八岐大蛇から言葉が発せられた。今まで八岐大蛇は本能のみに突き動かされる魔物だった。


 だが、確かに八岐大蛇から言葉が発せられたのだ。


「コワ……こわ……怖い……よな?未知の存在と戦っているのだからな!」


 そして、遂には言葉が流暢となり、慣れた体裁きで飛び交う魔法の中を移動し、アルクとの距離を詰める。


(おかしいだろ……だってその動きは俺のと全く同じだぞ)


 ここでアルクはようやく八岐大蛇の能力に気付いた。だが、既に八岐大蛇は懐に潜り込まれ、全てが手遅れの状態となっている。


 八岐大蛇は巨斧をアルクに向けて振る。だが、巨斧は純白に輝く盾によって塞がれる。


 盾の主がヒルメティと気付くまでに時間は掛からなかった。


 アルクは離れた位置に置かれているナイフへ”ポイントワープ”をして距離を取る。


「八岐大蛇の能力が二つ分かった!一つ目は環境適応能力!二つ目は学習能力だ!」


 そう、八岐大蛇の能力。それは環境適応能力と学習能力だった。


 初めに環境適応能力。八岐大蛇は首を八つも持つ正真正銘の化け物。だが、圧倒的な環境適応能力で最適だと思った姿や性質を変えることが出来る。


 現に、今の八岐大蛇は人間を殺すために最適な姿として、人型となっている。それに加えて、会ったことも話したこともないヴィレンの武器と鎧を真似している。


 次に学習能力だ。アルクが長い年月をかけて築き上げた魔法を嘲笑うかのように使いこなせるようになったのだ。その上、アルクが使用している体の動かし方とヴィレンの戦い方を混ぜながら戦っている。それに加えて、人語も扱い始めた。


 そして、アルクは最悪な展開を連想してしまった。最悪な展開とは、”アレキウス神滅剣”や聖騎士達の魔法、陰陽師の召喚術も全て覚えてしまうことだ。


 もし、それが全て実現してしまえば、八岐大蛇は最強の生物となってしまう。


「リラ。俺達には予想以上に時間がないらしい……全てを出して八岐大蛇を最短で殺す!」


「了解です!」


 リラは八岐大蛇の変わり具合とアルクの真剣さから、異常事態だとすぐに把握出来た。


 今まで体の中で押さえつけていた陽喰族としての本来の力を全て解放する。その瞬間、リラの体から黄金の氣が溢れ、髪の毛が黄金に輝き始めた。


 アルクも今まで使っていなかった闇を解放する。赤黒い片翼が生え、左目が赤色から黒色へと変化し、白髪が銀髪へと変わる。


(相変わらず闇は変化無いのか……)


 闇を幾度も吸収した。それにも関わらず、闇が膨張している感覚が一切無かったのだ。


 だが、考えている暇は無い。今は目の前にいる最強になり得る生物を殺すことに集中しなければならない。


 合図もなく、黄金の獣人と闇の人間は一匹の生物との距離を詰め、攻撃を仕掛ける。


 激しい土埃と衝撃が波のように周囲に襲いかかる。突然の身体能力の向上に追いつけていないのか、八岐大蛇は叫び声を上げているが、後退を始めていた。


「こんな物じゃ……足りない!!」


 八岐大蛇は爆発を起こしたかのように周囲に大量の闇を放出する。いつの間に溜め込んだのか分からないほどの大量の闇がアルクとリラに襲い掛かる。だが、今まで封じていた力を解放した二人にとって、対処は簡単だった。


 二人は嵐のように襲い来る闇をものともせず、攻撃を続ける。だが、次第に八岐大蛇も二人の攻撃の対処になれたのか、攻撃が防がれる頻度が高くなった。


 だが、違う戦い方をすれば、新たに学習され適応されてしまう。例え対処されたとしても、今と同じ方法で戦うしかない。その事にはリラも気付いていた。


(待てよ……魔道具でしか使えないものなら学習されないんじゃないのか?)


 アルクはふと頭によぎった。魔法や戦闘方法は生き物から学習できる。だが、魔道具でしか使うことが出来ないものなら学習できない可能性がある。それに加えて、アルクが持っている魔道具の大半はクラシスによる失敗作たち。


 知能が付いた八岐大蛇は不要なものと必要なものの区別もついている筈だ。


 アルクは迷った末、賭けに出ることにした。収納魔法から様々な見た目の魔道具を大量に取り出す。なぜこんな形になったのか分からないほどの魔道具が大量にアルクの足元に置かれていく。


「リラ!巻き込まれるからそいつから離れろ!」


 アルクがそう言うと同時に、埴輪のような見た目のをした魔道具を八岐大蛇に投げつける。


 突然投げられた不思議な形の物体に困惑したのか、八岐大蛇は何もせずに、埴輪の魔道具を受け止める。しばらくは埴輪の魔道具を不思議そうに眺めていた八岐大蛇だったが、足元に黒い影がいくつも出来ていることに気付く。


 八岐大蛇は上を見ると、大量の埴輪が奇声をあげながら落下している。あまりにもふざけた光景に、戦闘を忘れてしまう。だが、威力だけは本物だった。


 落ちてくる埴輪が地面と衝突した瞬間、大爆発を起こしていく。それも騎士達が放った魔法の数倍は確実に威力がある。


「はっはっは!面白おかしい見た目なのにこんな威力があるのか!面白い!もっと見せてくれ!」


 八岐大蛇は大笑いしながら、離れた位置にいるアルクとリラに詰めていく。すると、いつの間にか置かれていたのか、クマの人形を踏み潰す。


「あ……それはまずい……逃げるぞ、リラ!」


 アルクはリラを抱え上げ、上空へと避難する。すると、クマの人形周辺の地面が大きく隆起し、八岐大蛇を吞みこむ。


「このまま叩き込むぞ!ついて来い!」


 アルクはリラを勢いよく地面へ投げつけ、アルクも後を追う。速度と勢いが合わさった二人の攻撃は地面を大きくえぐり、八岐大蛇へと直撃する。


 その威力は完全に成長しきった鎧を貫通し、右腕、脇腹を穿つほどだった。だが、それでも八岐大蛇をやりきるには全てが足りない。


「なるほどなるほど……なかなかに面白いのを見せてもらった。次はこちらの番だな」


 八岐大蛇は失った右腕と脇腹を闇で修復する。そして、全身に闇を纏い、背中にいる首の目が全て光る。


「楽しませてやるから待っていろよ」





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