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8ー38 甦る傲慢4

 八岐大蛇は目の前に広がる未知な存在に強い好奇心を抱いていた。だが、それと同時に心の奥底から目に映るもの全てが憎かった。


 何故、目の前に映るもの全てが憎いのか分からない。そもそも、何故自分が今目覚めたのかも分からない。


 だが、自身が何をしたいのか分かっている。


 それは気の行くまま飢えを満たし、神に挑むことだ。


 目覚めたばかりの八岐大蛇は、自らの飢えを満たすのを優先にした。手始めに目の前にある島に住むすべての生き物。次に遠くに見える大陸の生き物全て。神に挑むのはその後だ。


 そうと決まればあとはすぐだった。八岐大蛇は能力を発動し、自分自身の複製体を生成する。


 水面に上がった八岐大蛇は島に向かって歩み始める。途中でいくつもの魔法が飛んできたが、八岐大蛇に全て意味がなかった。


 このまま行けば簡単に島に住む大量の生き物を食べることが出来ただろう。だが、ここで予想外のことが起こった。それは崖上からの攻撃により、首が二つ失ったことだ。


 だが、複製体であるため何の問題もない。本体の方は進むように指示を出す。そこで二度目の予想外の出来事が起こった。


 それは紫の炎により、複製体が死んだことだ。


 複製体とは言え、全ての力と能力は本体と同じだ。本体と能力や力が同じにも関わらず、こんな呆気なく複製体が死んだのだ。


 だが、何故か冷静だった。目覚めたばかりで全ての脳が目覚めてないのか、それとも目覚める原因となった闇のせいなのか。


 考えているだけでは何も変わらない。八岐大蛇は今の自分自身の力や能力の限度を知らない。だが、目の前に矮小で身の程知らずの人間が大量にいる。


 つまり、能力を試しに使うには十分な的があるということだ。八岐大蛇は能力を全て開放し、目の前にいる矮小な人間たちに放つ準備をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 八岐大蛇が再び雷と雨、炎、風を一点に集中する。もう一度、激しい爆炎と共に、周囲に雷とつむじ風が発生する球体を放つつもりだ。


 アルクは八岐大蛇の技をどうにかして止めようと画策する。魔法を八岐大蛇に向けて放った後、アルクは八岐大蛇の頭部を切断しようとする。


 魔法は全て八岐大蛇に命中するが、球体の生成を中断する素振りは見せない。


 やはり普通の魔法では八岐大蛇の前では意味がない。


 だが、カグツチはどうだ。


 アルクは刀を鞘から引き抜く。その瞬間、大量の炎が刀を包み込む。その熱量は地面を撫でるだけで、岩を溶かす程だった。


 そして、大量の炎を纏った刀を振り下ろす。その瞬間、身体中が焼けると勘違いするほどの熱波が周囲に放たれるのと共に、炎の巨大な斬撃が八岐大蛇を襲う。


 実際にアルクの足下にあった草木や岩が焼け溶けていた。


 その熱波は崖上で魔力の回復に専念している二人の剣聖に届く程だった。

 

 炎の斬撃を認識した八岐大蛇は危険と感じたのか、八つの首が一箇所に集まり、八岐大蛇の目が怪しげに光る。


 アルクは何事かと思うや否や、緑色の魔法陣が八岐大蛇の前に出現する。


 見た事のない魔法陣にアルクは解析をしようとする。だが、いくら解析をしようとしても見た事のない未知の魔法言語が多く使われているせいで、解析どころか読む事すら出来ない。


 そうしている内に、炎の斬撃が緑色の魔法陣と激突する。周囲に激しい熱波を撒き散らしながら、炎の斬撃は緑色の魔法陣を削っていく。


 初めは炎の斬撃が塞がれると思っていた。だが、意外にも緑色の魔法陣にひびが入り、次の瞬間には魔法陣を軽々と切断していた。


 そして、ようやく炎の斬撃が八岐大蛇に届いたが、緑色の魔法陣で威力が弱まったのか、首を切断するには至らなかった。


 それでも、目的であった時間稼ぎや球体の生成の阻止が出来た。それだけでも十分な成果だと言える。


 アルクは休む事なく、炎の斬撃を八岐大蛇に浴びせ続ける。


 溜めのない刀の振りをしているせいか、どれも有効打になっていない。だが、巨大な斬撃がいつ飛んでもおかしくない状況に八岐大蛇は警戒しているのか、少しずつ後退していく。


[獣人闘法・穿孔]


 後退を続けている八岐大蛇にリラは胴体に拳を叩きつける。その瞬間、周囲に激しい衝撃波が発生し、八岐大蛇が苦痛の咆哮を上げる。


 アルクも負けじと劣らず、刀を魔法を駆使した技で八岐大蛇を追い詰めていく。


 アルクとリラの猛攻を見たのか、少しずつ八岐大蛇を狙って魔法が飛んでくる。


(時間稼ぎなんか知ったことか!やれる時にやるのが一番だろうが!)


 アルクの目的はいつの間にか時間稼ぎから、八岐大蛇の討伐へと変化してた。アルクの思考を察したのか、魔力の回復に専念していた剣聖と陰陽師達も八岐大蛇を攻撃し始める。


「なんだか行けそうじゃないかい?ギンはどう思う?」


「まだ寝ぼけてるんじゃないのかい?まぁ、目が完全に覚めるまで優しくするつもりは無いけどね!」


 キンとギンは阿吽の呼吸で八岐大蛇を攻撃していく。それはアルクとリラも同じだった。


 息のあった二組の攻撃と遠くからの支援攻撃に八岐大蛇は何も出来ずに後退だけをしている。


 後退だけをしている八岐大蛇だったが、時折何かしようとしているのを確認していた。


 恐らく、残された八岐大蛇のいくつかの能力を使おうとしているのだろう。だが、どれも失敗に終わり、一向に反撃出来ていない。


 激しい攻撃と反撃が出来ない八岐大蛇。そのせいで誰も気付いていなかった。


 八岐大蛇が最初に上陸した場所で、何かが魔法を使おうとしていた事を。


 アルクとリラ、キンのギンの二組は八岐大蛇への攻撃をより一層激しくしようとする。その瞬間、大量の闇と共に巨大な津波が二組を襲った。


 流石と言うべきか、剣聖の二人は魔法を使わずに、純粋な剣術のみで闇と津波を乗り切った。アルクとリラも最低限の魔力だけで闇と津波を乗り切る。


 だが、それ以外の者は津波に飲み込まれないように高台へ逃げる。


 激しい海流の中で耐えていたアルクとリラの所に柔らかい何が当たる音がした。初めは津波により流れてきた魚かと思っていた。


 だが、それはアルクの右足に絡まり、激しく絞めてきたのだ。


 激痛では無いが、イラつく程度の痛みだった。だが、それがアルクの気をひいた。


 視線を足元に移すと、大きさはどこにでもいる蛇と同じ大きさだったが、問題は頭部の数にあった。


(八つの頭……八岐大蛇の複製体か!?)


 アルクの足元をキツく絞めていたのは、八岐大蛇の複製体だった。しかも、不安な事に、八岐大蛇の複製体は何か魔法を発動しようとしていたのか、魔法陣が展開されていた。


 アルクは小さな八岐大蛇を振りほどくのは無理だと判断する。だが、リラには何も付いていない。


 ポイントワープを仕込んだナイフを上へ思いっきり投げ、激しい海流の外へ出す。そして、隣にいるリラに魔力を流し、アルクから離れさせる。


 アルクも無抵抗のままでは終わらせないつもりなのか、何度も何度も刀で八岐大蛇の複製体を刺す。だが、死なないのか、それとも能力なのか知らないが、魔法陣が消える気配がない。


 最後の手段として、アルクは片足を犠牲にするつもりで、八岐大蛇の複製体が絞めている右足全体を魔防壁で包み込む。


 だが、アルクの読みは大きく外れることとなった。何故なら、複製体の魔法陣はアルクの右足ではなく、アルクの立っている地面全体に広がっていたからだ。


 地面に刻まれている魔法陣が激しく光出した後、アルクが展開してた魔防壁が一瞬で崩壊した。


 アルクを囲んでいる魔防壁が崩壊したとなれば、アルクに残された対策としては一つだった。


 それは激しい海流に身を任せながら、体の損傷を出来るだけ軽くする。


 身体中に重い衝撃が走った後、氷のような冷たさの海流に飲まれる。


 身体中に津波で流された岩が直撃している。その上、海水を何度も吸い込み、肺に激痛が走る。だが、力を振り絞り、津波から逃れることに成功する。


(クソ……まさか”魔法消去”を使ってくるなんて思わないだろ……。いや、複製体を作れる時点で何かしてくるって考えなかったこっちの落ち度か)


 アルクは失った体力と体を癒すことに集中する。これだけ激しい津波の中で八岐大蛇が動けるとは思えない。


 実際、八岐大蛇は体の半分が津波に呑まれているが、動こうとしない。


 重い体を引き摺りながら、近くの木に背を預ける。そこへ、光翼騎士団の騎士が寄ってくる。


「何をしているんだ、アルク?サボりか?」


「これを見て分からないのか?休んでるんだよ。八岐大蛇も津波のせいで動けてないし丁度いいだろ?」


「ヒルメティ様の予想通りだな。体を見せてくれ。本意では無いが治療してやる」


 騎士は小さく舌打ちをすると、アルクを地面にうつ伏せにさせる。すると、騎士は髪の毛のような針を取り出し、次々とアルクに刺していく。


 小さな痛みが首から背中に走っていくが、すぐに痛みは引いていく。次に、身体中が暖かくなるような感覚を感じる。


「なんか凄いな……力が抜ける」


「俺は針と魔力を使った治療が得意なんだ。バルト王国でも魔針治療って聞いたことあるだろ?それをやってるんだ」


 バルト王国では国の許可を得て、治療が許されるものがある。その一つが魔針治療だ。


 魔針治療は人の体や極小の針を刺し、回復魔法を直接体内に流し込む。そうすることで、体の真ん中から損傷した筋肉や小さい傷を治していく。


 だが、少しでも針の深さや回復魔法の調整を間違えれば、治療を受けている者が爆散してしまう。


 事実、バルト王国に存在している魔針治療師は片手で数えられる程度しかいない。


「それで?お前から見て八岐大蛇は倒せそうなのか?」


「へぇ?あぁ……そうだな……」


 魔針治療の気持ちよさに油断していたアルクは気の抜けた返事をした。だが、すぐに気を引き締め、八岐大蛇の事を話し始める。


「あいつの複製体から見て倒せそうな気がするが……まだまだ分からない事が多すぎるんだ。もしかしたら空を飛ぶかもしれないし、いきなり消えるかもしれない」


「そんな事が起きたら面倒だな……待て……八岐大蛇から大量の闇が出てないか?」


 騎士の言葉に反応し、アルクは八岐大蛇を見る。騎士の言う通りに、八岐大蛇の体から大量の闇が発生していた。その上、心なしが八岐大蛇の体が小さくなっていた。


「お前は今すぐに騎士団の方に戻れ!俺はここに残る!」


 アルクは途轍もなく嫌な予感を感じる。命令された騎士は何の疑いもなくアルクの命令に従い、騎士の駐屯地へ戻っていった。

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