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8-36 蘇る傲慢2

 八岐大蛇がマガツヒに上陸したころ、アルクは飛び交っている大規模な魔法攻撃や陰陽師による式神召喚の規模に驚いていた。


 準備期間が短いにも関わらず、これだけの魔法や式神が使えるのは良い指導者に恵まれているということだ。だが、驚くのは魔法や式神だけではなかった。


 八岐大蛇の横にある崖上では大量の魔力を放っているマガツヒ人がいた。そのマガツヒ人はキンとギンだったが、初めは二人の者だと思わなかった。だが、崖上から放たれる殺意と技で、大量の魔力の主が二人の者だと理解した。


「それにしてもすごいですね……これって出番ありますか?」


「もしかすると無いかもしれんが……念のためだ。いつでも戦闘が出来るように準備しておいた方がいい」


 二人の剣聖によって切断された八岐大蛇の首を見ながら、いつでも戦闘が出来るように備える。アルクはどこかで八岐大蛇に嫌な予感を感じていた。


 何故なら八岐大蛇には見覚えのある闇が放たれているからだ。そもそも八岐大蛇が動き始めたのは炎の聖刀”カグツチ”が眠っていたアマノイワトでの戦闘の後だ。


 そして、アマノイワトで起こった戦闘の相手とは、アルクですら勝てる未来図が見えない闇の戦士ヴィレンである。ヴィレンは闇の王に仕えていた最強の戦士であり、斧を一振りするだけで山を消し飛ばせるほどの闇と力量を持っている。


 アマノイワトでの戦闘の後、行方が知れなかった。だが、八岐大蛇からヴィレンの闇が放たれていたのだ。


「そろそろ騎士達の魔法攻撃が終わるかな?こんな大魔法を大量に撃ってるんだ。流石に……終わったか」


 騎士達から放たれていた大量の魔法は撃ち終わったのか、それとも魔力が足りなくなったのか、飛び交っている魔法が激減した。


 八岐大蛇は頭部の切断と大量の魔法により、歩みを止めていた。だが、切断の痛みと魔法の激減により八岐大蛇は再び歩みを始めた。切断された頭部以外はどこも血を流しておらず、八岐大蛇の圧倒的な硬度を持つ甲殻に度肝を抜かれた。


「いくらなんでも鱗固すぎじゃないですか?」


「元々硬かったんだろうが、ヴィレンの闇が混ざり合ったことで更に硬くなったんじゃないか?さすがの俺でもあれだけの猛攻を防ぎきることは出来ないぞ」


 アルクは八岐大蛇の甲殻の硬さに驚くのと同時に、甲殻が欲しいという気持ちが大きくなった。もしあれだけの硬さを持つ甲殻があれば、どんな攻撃も魔法も防ぐことが出来るだろう。


 八岐大蛇の歩みは依然として止まらない。一体何を駆り立てているのかアルクには理解出来ない。


 そして、八岐大蛇もアルクが何をするのか理解していないだろう。


 アルクは巨大な魔法陣の中央に立ち、カグツチを地面に突き刺す。その瞬間、魔法陣が赤く光るのと同時に、大量の炎と魔力が魔法陣を覆っていく。


 炎と魔力は混ざり合い、炎の色は紫へと変色する。


 余談だが、魔法にはそれぞれ下級、中級、上級、聖級と差別化されている。


 魔法の段階が上に進むにつれて、威力も規模も上がるが、消費する魔力量も段階的に増加する。その中でも聖級魔法は大量の魔力が必要となる。


 だが、聖級魔法はどの魔法に比べても種類が少ない。これは単純に魔法の進化開発が非効率過ぎるからだ。


 ただてさえ聖級魔法の消費魔力が多い上に、失敗をしたら大惨事を招いてしまう。


 大昔には戦争が当たり前の日常が存在していた。その時代には今よりも多くの聖級魔法が存在していた。だが、平和な時代が続いたことにより聖級魔法を覚えてるものは居なくなった。


 現にアルクも誰も知らない炎聖級魔法を発動しようとしているのだから。


(新しい?違うな……これはあまりに古すぎる上に一度しか使われなかった。恐らく長い魔法の歴史の中でこの魔法を使ったのは俺が二人目だろう)


 アルクは何度もクラシスが保管してあった魔法書を読んだことがあった。その中には戦争の途中でバルト王国が一度だけ使った炎聖級魔法について書かれていた書物があった。


[炎聖級魔法――]


 そこには花のような魔法陣と炎と魔力が溶け合った紫の炎が描かれていた。そして、その紫の炎で攻めてきた軍隊と国を滅ぼした。


 その魔法の名前は――


[死炎]


 魔法陣と紫色の炎が光り出したと思えば、それらは空中に一箇所に集まり始める。アルクは紫の炎に続くように飛翔したあと、炎の前に立つ。


 ここでようやく八岐大蛇の全貌と戦闘の跡を見ることが出来た。


 かつて森だった場所は焦土となり、山だった場所は歪な岩しか存在してない。だが、八岐大蛇には頭部が二つ切断されただけで、傷すら付いていない。


「リラ!お前は好きに動いていいぞ!オススメは八岐大蛇の近くだ!」


「はい、喜んで!」


 好きに動いて良いと命令されたリラは目にも止まらぬ速さで八岐大蛇に近付く。


 それを見届けたアルクは背後で燃え盛っている紫の炎を振り返る。


 これ程の魔力と高温の炎を操れるのか不安だった。だが、カグツチも手に入れたことにより、不安から確信へと変わった。


[死炎・抱擁]


 アルクは両腕を大きく広げる。すると、背後の炎もアルクに合わせて大きく広がる。


 そして、炎がいっぱいに広がった後、八岐大蛇を抱きしめるようにアルクは腕を閉じる。紫の炎もアルクに合わせ、八岐大蛇を抱擁するように包み込む。


 八岐大蛇の姿が完全に見えなくなった瞬間、炎の中から叫び声が聞こえた。それも首が切断された以上の大きさの叫び声だ。


 だが、アルクはそんなものは気にしていなかった。今度は指を曲げる。


[死炎・爪棘]


 八岐大蛇を包んでいた紫の炎から突如、棘のようなものが発生した。


[死炎・爆撲]


 アルクは腕を勢いよく開く。そんな事をすれば八岐大蛇を包んでいた炎も、八岐大蛇から引き離される。


 だが、ここでようやく八岐大蛇の状態を僅かながら確認することが出来た。


 紫の炎が八岐大蛇を包み込む前は傷が一つも付いていなかった。だが、今では甲殻が焼け溶けたのか、肉が剥き出しとなっている箇所が存在している。


 加えて、甲殻を貫通して、肉体に突き刺さっている紫の炎も存在していた。


 本来ならもっと八岐大蛇の状態を確認したかった。だが、次の瞬間には二つに分かれた紫の炎が、勢いよく八岐大蛇を何度も何度も叩きつける。


 "炎聖級魔法・死炎"には四つの技が存在している。


 一つ目は相手を抱擁するように優しく包み込む"死炎・抱擁"


 二つ目は油断しきった相手を罰するための"死炎・爪棘"


 三つ目は傷ついた相手を強く抱きしめる"死炎・爆撲"


 そして、四つ目はお互いに死のうとする技。


[死炎・心中]


 アルクは紫の炎を一本の炎の槍へと変形させる。そして、炎の槍を八岐大蛇の胴体へと突き刺そうする。


 だが、それは出来なかった。何故なら八岐大蛇が放った大量の闇が原因だからだ。


 八岐大蛇の闇は切断されて失った二つの首を再現した。それだけではなく、再現した二つの首でアルクの紫の槍を受け止めたのだ。


 目の前の出来事に大勢の者が何が起きているのか理解出来なかった。先程まで八岐大蛇に有効打を与えていたはずの魔法が、数秒で無効化されたのだ。


 だが、アルクはまだ諦めていない。まだ残っている紫炎の槍を無理矢理操作し、八岐大蛇に突き刺そうとする。骨が軋む音と甲殻が焼ける音が木霊する。


「いい加減に刺され!!」


 アルクは最後に気合を入れ、紫炎の槍を八岐大蛇に突き刺さる。その瞬間、紫炎の槍は八岐大蛇の体内に勝手に入り込んだ後、巨大な爆発が起こり、八岐大蛇を爆散させる。


 辺り一面に八岐大蛇の肉片が飛び散る。余りにも呆気ない八岐大蛇の死に、誰もが困惑していた。


 八岐大蛇は傲慢を極めた結果、始祖神龍に滅ぼされた危険な魔物。そんな魔物が簡単に死んだのだ。困惑するのは当たり前だ。


 アルクは八岐大蛇が本当に死んだのか確認するために、八岐大蛇に近づく。確かに飛び散った肉片も、爆発の衝撃で吹き飛んだ八岐大蛇の頭部も全て本物だ。


「一体何があったんだ?八岐大蛇は本当に死んだのか?」


 陰陽連本部で指揮と式神を召喚していた頭領であるセーバルがアルクに近づく。どうやらセーバルも八岐大蛇が本当に死んだのか確認するために来たようだ。


「分からない。でもこれを見る感じ死んだんじゃないのか?」


「嘘だろ?だってこいつはマガツヒに大昔から存在していた魔物だぞ!それがこんな簡単に死ぬわけがない!」


 セーバルの言葉にも一理ある。マガツヒに太古から眠りについていた凶悪な魔物がこの程度で死ぬとは考えられない。だが、目の前で爆散して死んだのは八岐大蛇であることは確実だ。


 しばらく悩んでいるとヒルメティとシエラも寄ってくる。だが、二人とも慌てた様子だった。


「不味いです!仲間の聖騎士が陰陽師と八岐大蛇の文献を解読しているところこんなものが記されていました!」


 シエラは紙の切れ端をアルク達に渡す。紙に書かれていた内容とは八岐大蛇の能力についてだった。だが、かなり古いのか虫食いがひどく何が書かれているのか分からなかった。


「この紙に書かれているのは八岐大蛇が八つ持っている能力の一つのものです。御覧の通り穴だらけですがなんとか解読出来たんです!ここに書かれているのは簡潔に言うと複製体のことです!」


 ”複製体”


 この言葉がシエラの口から聞こえた瞬間、アルクは本能的に守りの構えをとった。その瞬間、アルク達の周囲から八つの頭部が現れ、アルク達を襲った。


「そういうことかよ!今まで俺達が相手してたのは八岐大蛇の複製体か!騎士達の大量の魔法はいつ飛んでくるんだ?」


「しばらく無理だ!そもそも本物だと思い込んでいたんだ!次の魔法も撃てるかどうか怪しい!これは聖騎士達も同じ状況だ!」


 ヒルメティはアルクの魔防壁の上から光の盾を重ねる。それでも八岐大蛇の猛攻は止まることを知らない。


 しばらく耐えていると、口だけではアルクとヒルメティの防壁を破れないと判断したのか、八岐大蛇の動きが止まる。ようやく諦めたかと思ったが、今度は八岐大蛇の口から黒い光が八つ放たれた。


 八岐大蛇が何をしようとしているのか理解した瞬間、全員の顔から血の気が引いた。


 アルクとヒルメティは勿論、シエラも光を展開し、防壁を強化しようとする。だが、ここでようやくセーバルが口を開いた。


「集まれ!本部の方に移動する!」


 セーバルが何をしようとしているのか理解した三人は、急いでセーバルに触れる。その瞬間、見覚えのある魔法陣が目に入る。そして、周囲の景色が高速で流れたと思いきや、硬い地面と木の匂いがする薄暗い空間に移動する。


「ふぅ……なんとか助かったな」


 セーバルはそう言いながら、額についている汗を拭い取る。


「瞬間移動と言う魔法を覚えてて正解だったな。おかげで命拾いした。瞬間移動を教えてくれて感謝するぞ、ヒルメティ」

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