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8ー27 穏やかな会話

 とある昼下がり。マガツヒの王城であるキヨナ城に、陰陽連頭領の阿部=セーバル、光翼騎士団副団長のヒルメティ、ミリス聖騎士団のシエラ=スキルニング、マガツヒ国王の織田=ノイアー、そして闇の使徒と言われているアルクが集まっていた。


 それに加えて、護衛なのか書記用なのか付き人がそれぞれ二人ずつ居た。


 アルクにとって、既に三人は顔見知りであったが、国王である織田=ノイアーは初めての対面だ。


 集まってからはしばらくは沈黙が続いていたが、ノイアーはアルクに向かって口を開く。


「闇の使徒アルク。貴様はカグツチを使って何がしたいんだ?国の破壊か?それとも大量殺人か?」

  

 ノイアーの言葉に明確な敵意を感じたが、アルクは気にも留めないような口調で質問に答える。


「そんな物騒な事するわけないだろ?馬鹿なのか?ただ単にカグツチが欲しかっただけだ。逆に聞くぞ?マガツヒの王でありながら何故今日に至るまでカグツチを抜けなかった?」


「そ、それは……試練が難しかっただけだ!」


「試練が難しい?俺は試練についての情報が何一つなかった。にもかかわらず俺が所有者になれたんだ。つまりお前が試練に挑戦して所有者に選ばれなかったのは単純にお前の実力不足だ」


 アルクがそう言うと、ノイアーの両隣に居た武士が刀を引き抜き、アルクの首に当てる。顔は甲冑と仮面で隠れていたが、目から怒気が溢れていた。


「口の利き方には気を付けろ!下賤な者がノイアー様と顔を合わせるだけでも光栄だと思え!」


「事実しか言ってないんだぞ?それの何が悪いんだ?」


「貴様!!」


 アルクの挑発に武士は更に怒りが増し、刀を振る。


「そこまで!!私達は殺し合いをするためにここに来たわけではありません!八岐大蛇の対策について来たんですよ!」


 アルクと武士達の言い合いに嫌気を刺したのか、ヒルメティが間を盾を出現させる。


「これ以上やり合うなら外にぶっ飛ばしますからね!」


 ヒルメティの気迫にアルクと武士は驚き、元居た位置に戻る。


「セーバルさん。貴方が進行してください」


「あ、ああ……分かった」


 初めて見るヒルメティの気迫に驚きながらも、セーバルは陰陽連が調べ上げた情報を話し始める。その中で気になる情報がアルクの気を止めた。


「待て。八回鳴き声が聞こえたら目覚めるんだったよな?という事はあと七回聞こえたら八岐大蛇が目覚めるって言う認識で良いのか?」


「そうだ。だが厄介な問題があってな。実は会議が始める前に南の島の出雲島で二回も鳴き声が聞こえた。つまり合計で三回も鳴き声が響いた」


「あと四回鳴き声が聞こえたら八岐大蛇が目覚めるっていう事ですか……もう明日か明後日にでも目覚める可能性が高いですね」


「そうだ。だからそれぞれで急いで討伐の準備を始めて貰いたい。陰陽連も既に災害は勿論避難作業も始めている」


「分かりました。私達ミリス聖騎士も八岐大蛇が目覚めるまで光を極限まで集めておきましょう」


「我等、光翼騎士団も光だけでなく様々な準備を始めます。それ以外にも八岐大蛇についての情報はありますか?例えばこう……会話が出来るほどの知性があるとか、弱点があるとか」


 確かに、今この部屋に居る人達は八岐大蛇についての情報が皆無に等しい。この状態ではどれだけ戦いの準備をしたとしても、何も知らなければ準備も戦いも無意味だ。


 現在知られている八岐大蛇についての情報は、首が八つあり、炎、水、氷、雷、風、地、重力、闇の魔法が扱えるという情報だけだ。


 アルクですらも、始祖神龍クラシスが直接滅ぼした事しか知らない。


「もっと詳しい情報か……実はどの文献も探しても八岐大蛇本体は見当たらなかった。だが、首についての文献だけ見つかった」


 セーバルは調べ上げた文献の内容を話していく。文献によると火山の噴火や大地震の際に八岐大蛇の首が地表に出現し、暴れまわる。どの首も知性の欠片も感じられなく、対話を試みた者も居たが、無残にも喰われている。


 陰陽連も武士達も八岐大蛇の首に対抗し、攻撃を何度も何度も仕掛けたらしいが、傷一つ付ける事が出来なかったらしい。


「そうか……それで?もう少し情報があるだろ?どんどん話してくれ」


 ノイアーは情報をもっと話すようにセーバルに要求する。


「……い……」


「ん?何か言ったか?」

 

「これしか無いんだ……」


「本当に言っているのか?」


「はい。理由は色々とありますが、一番の理由が八岐大蛇の首の出現は極めて低いうえに、戦いを挑んだ殆どの人間が死んでいるので情報が極端に無いーー」


「もう良い……こうなったら本番でどうにかするしか……」


 多くの情報を期待していたのか、ノイアーは少ない情報に落胆しながら会議室を後にしようとする。だが、アルクの一言で状況が一変する。


「だったら俺が直接カグツチに聞いてやろうか?」


 この一言はノイアーだけでなく全員の視線がアルクに移った。


「出来るならやってくれ!今は少しでも多くの情報が欲しい!」


 セーバルはそう言い、後ろに控えている二人の陰陽師に記録をするように命令する。


「分かった……”起きろカグツチ”」


 アルクはそう言うと、手に持っていた刀から炎が溢れ出る。最初は警戒していた全員だったが、炎が人型になるにつれて、警戒も緩んでいく。


 最終的に炎はアルクと同じ背丈の少年へと変わった。瞳と髪色は炎のように赤く、肌は茶色く焦げており、赤い入れ墨や装飾が至る所に施されている。


「起こして悪いな。早速だが八岐大蛇に関することを知っていたら教えてくれ」


「別に良いが……奴と対峙したのは一回だけだぞ?」


 カグツチはあんまり期待しないで欲しいのか、それだけ言うと、八岐大蛇の情報を話し始めた。


 八岐大蛇に関する情報がカグツチの口から全て出来た時には、既に日が沈むころだった。陰陽師は八岐大蛇の情報をすべて書いたのか、一冊だけだった本が五冊になっていた。


「とまぁ八岐大蛇についての話はこんぐらいだ。それじゃあ俺はまた寝る」


「ああ。わざわざ来てくれてありがとうな」


 アルクはそう言うと、炎となったカグツチを刀に戻した。


「光翼騎士団はもう準備をしないといけないから先に出ます。必ず生きて会いましょう!」


「俺も色々と陰陽連の奴らに喝を入れないとな。それじゃあ後で」


 ヒルメティに続き、セーバル、そしてノイアーが会議室を後にした。まだ残っているのはアルクとシエラとその護衛の二人だけだった。


「シエラ様。我々も準備の為に部屋を出ましょう」


「私はまだここに残ります。準備を急いで始めるように伝えて下さい」


「ここに残る?ダメです!闇の使徒と二人きりにするのはいくらなんでも危険過ぎます!」


 聖騎士の言葉は最もだ。


 シエラから見れば、アルクは約束は守り、依頼のためならば形見すらも使う程の人間。


 だが、聖騎士達から見れば、バルト王国を襲った闇の使徒であり、先程まで刀を向けていた危険な存在。


「大丈夫です!私を信じて下さい」


「しかし――」


「もう無理だ。お前も分かっているだろ?シエラ様は一度決めれば曲げないお方だって」


 もう一人の聖騎士に諭され、聖騎士は大きく溜息を吐いた。


「分かりました。ですが危険な事があればすぐに呼んで下さい。それでは……」


 聖騎士はアルクを睨みながら会議室を退室した。


 アルクとシエラだけとなった会議室は広く感じ、寂しさを放っていた。


(気まずいな……あの時は何も言えずに逃げちゃったし……)


 流石のアルクも気まずくなっていた。バルト王国で闇を使っていたのが原因で、光翼騎士団に捕まってからは一度も顔を合わせていなかった。


 バルト王国から脱出してからも、約半年はシエラの情報も何もかも聞いていなかった。


 アルクはシエラを見る。


 聖女であるためか、純白のドレスに似たような服。そして、服の上に白銀に輝く鎧が覆っていた。部屋が薄暗く視界が悪いが、鎧と服に金色の装飾が多く施されている。


 見るからに一級品だ。


 しばらく沈黙が続いたが、このままではずっと気まずい空気が流れる可能性があった。それだけは何としても避ける為に、アルクは口を開いた。


「えっと……久しぶり……だな。最後にあってからはもう半年ぐらいかな?」


「そうですね。あなたが闇の使徒だって知れ渡った瞬間、色々と大変だったんですよ?」


 シエラはアルクが闇の使徒と言われ始めた頃を話し始めた。


 アルクが光翼騎士団に捕まってから、ミリス教司祭によるバレル王の尋問。それと同時にバレル王の身辺調査と並行して、シエラの検査。


 そして、闇に対抗するために、スキンティア学院を強制的に卒業させられ、ミリス教の総本山である、聖ミリス皇国へ移り住んだ。


 聖ミリス皇国では光についてのより詳しい説明や、実践的な使い方。それに加えてより詳しいミリス教の教えを叩き込まれた。


 そうしているうちに、いつの間にかシエラは一つの聖騎士団の指揮官にまでなっていた。


「大雑把な説明ですがこんなところです。アルクの動きも良く耳にしていました。勇者であるショータ達との暮らしや、ドラニグル王国、獣人王朝アニニマでの活躍も全て耳にしました」


「あんまり嬉しくないなぁ。まさかここまでミリス教徒に知られてるのか……待てよ?じゃあ俺と話してるのはまずいんじゃないか?」


「もちろんそうですよ?でも私が指揮官なので、口外しないように命令すれば大丈夫です」


 アルクの心配とは裏腹に、シエラは輝いた顔をしていた。


「そ、それなら良いんだが……」


 権力の横暴が過ぎると考えたが、口に出さないようにした。


「今度はアルクが話して下さいよ。バルト王国から逃げて何をしていたのか」


「でも知ってるって言ってなかったか?」


「それは聖騎士達と交戦した事しか知りません。ですから」


「分かった。つまんないと思うが話すぞ?寝たら叩き起こす」


「分かってます……?」


「どうしたんだ?もしかしてもう眠くなったのか?」


「い、いえ!少しだけ懐かしい気がして……気のせいでしょう。それじゃあ話して下さい」


 アルクはバルト王国から逃げて何をしてのか話し始めた。時折嘘の話もし、クプニ村やクラシスの話だけはしないように気をつけながら。


 

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