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8ー23 斬り込み隊長

 闇を使いこなせれば使いこなせる程、中心に居座っている者の記憶を見ることが出来る。


 アルクの場合、闇が膨大であり、記憶を見る事が困難になっていた。だが、アルク自身も成長したことにより、アルクの闇であるアレスの記憶を見る事が僅かながら可能になっている。


 アレスの記憶の中でのヴィレンは最も危険な戦士の一人となっていた。一人で一個大隊を潰せる程の力量を持ち、アレスですら勝った事が一度も無かった。


 反射神経も身体能力、腕力も何もかもが桁違いだ。


 中でも一番警戒すべきなのはヴィレンの持っている両手斧だ。ヴィレンが持っている両手斧は魔力は勿論の事、闇も通せる代物となっている。


 だが、それだけならこの世には大量にある。では何が違うのか。それは闇の王の闇によって作られた両手斧と言う事だ。


 そして、ヴィレン自身も両手斧に宿っている闇の王の闇を扱える。


 ヴィレンは両手斧を振り下ろすように、両手で構える。瞬間、アルクから大量の冷や汗が流れる。本能が全力で警告している。それはリラも同じだった。


 両手斧が振り下ろされる。両手斧が完全に振り下ろされる前に、アルクは『ポイントワープ』で出来るだけ多くの人々を助ける。リラは陽喰族の力を全て解放し、人々を助ける。


 両手斧が完全に振り下ろされる。瞬間、大量の闇と衝撃波が当たり一体を吹き飛ばす。


「な、何が起こったんだ!」


「全員意識を保て!闇はアルクだけじゃないぞ!」


「くそ!クソ!クソ!!こんな事になるなら来るんじゃなかった!」


 突然の事に騎士や聖騎士は錯乱している者が多かった。だが、それとは対照的に、マガツヒ兵や陰陽師は冷静だった。


「な、なんだよ……これ……」


 尻餅をついた騎士が後ろを指差す。そこには大きく抉れた跡が奥まで続いていた。これ程の威力でも、闇の王の力は一欠片に過ぎない。


「こいつは我らに任せろ!程々に時間を稼ぐ!」


「そうだ!その内に陰陽師殿は通信をしてくれ!」


「恩に着る!」


 マガツヒ兵は戦う目標を完全にアルクからヴィレンに切り替え、ヴィレンに襲い掛かる。


 マガツヒ兵が持つ武器は鉄を切断することが出来る刀。通常の兵士なら簡単に肉体が切り裂かれる。


 だが、ヴィレンの闇の鎧の前では刀は意味を成さなかった。


 乾いた音と共に金属が割れる音が聞こえる。同時に、空中に一つ、また一つと赤い液体が宙に舞う。


「ご主人!大丈夫ですか!」


 マガツヒ兵のおかげで動けるようになったリラは、アルクの下に駆け寄る。


 ヴィレン放った攻撃を捌けなかったのか、左腕が消えていた。だが、左腕は元々切断されていた為、痛みや損害は特になかった。


「俺は大丈夫だ。リラは怪我は無いか?」


「はい!陽喰族を力を全て解放したので特には無いです!」


「それは良かった……。それにしてもヴィレンの持ってる両手斧は凄いな!」


 アルクは記憶の中でのヴィレンの両手斧を知っていたが、それだけだ。だが、実際に見るだけで何もかもが規格外だった。それと同時に闇の王の力も規格外だと認識させられた。


「それにしてもご主人……奴は何なんですか?斧を振り下ろしただけで、この威力はおかしいですよ!」


「そう言うもんだって思っておけ。後ヴィレンと戦うのは避けた方が良い。今の俺らじゃあ勝てる可能性が低い」


「逃がすと思うか?」


 誰かの叫び声が聞こえた瞬間、真横に黒い影が現れる。それは間違いなくヴィレンだった。


 あれだけ大勢居たマガツヒ兵を高速で壊滅させたのだ。


「仲間にならないか?そうすれば今よりももっと強い力が手に入るぞ?」


「生憎……こっちには優秀過ぎる師匠が二人居るんでね!」


 アルクはそう言うと同時に闇魔法をヴィレンに放つ。リラもそれに合わせて、蹴りを数発与える。


「無理なら殺すだけだ!」


 魔法も蹴りもまともに喰らったはずのヴィレン。だが、何もなかったかのように斧を振り下ろす。


[玄武][聖盾]


 アルクに振り下ろされた斧は何かに受け止められる。


 片方は亀の甲羅で、もう片方は光の盾だった。この魔法は間違いなく、セーバルとヒルメティの物だ。


「大丈夫かい、アルク君!」


「奴は我らに任せて闇をどうにかしろ!」


 言い終わると、セーバルは十二天将を召喚する。


「敵は目の前の黒い鎧の男だ!戦える者は全力で戦え!治療が出来る朱雀は生きている者を治療しろ!」


 以前は各々が個性的な性格で反抗的であった。現在も個性的な性格は受け継いでいるが、完全に指揮下に置いたのか、反抗的な者は居なかった。


 十二天将は命令通りにヴィレンのみを集中的に攻撃し始める。ヴィレンの攻撃が当たりそうな場合は、ヒルメティによる盾で命拾いしていた。


 アルクは変わった戦いに好奇心が唆られたが、闇を吸収するために、崩壊したアマノイワトへ向かった。


 巨大地震により原型の欠片も残っていなかったが、魔法で闇が発生している穴を見つける。


 アルクは鞘から刀を引き抜き、地面に突き刺す。


「カグツチ!この闇をどうすれば良い?普通に吸収すれば良いのか?」


『そうだ!いつも通りに闇を全て吸収しろ!無防備になるだろうから俺がある程度守ってやる!』


 カグツチはそう言うと、剥き出しの刀身から大量の炎を放出する。


 アルクはやる事をすぐに終わらせるように、闇の吸収に集中する。無防備になるが、カグツチやリラのおかげで心置きなく出来る。


 闇の吸収を開始する。既に三回も闇の吸収をしているせいか、大量の闇が物凄い勢いでアルクに吸われる。


 外から見れば物凄い速さだが、アルクにとっては長く感じられた。理由は一つ。それは意思を持っていない闇では無かったからだ。


 黒暗結晶はただ無造作に周囲に闇を放っていた。だが、この闇はとある一人の人間から生まれた闇だ。性質はかなり似通っているとは言え、本質は違う。


 アルクは闇を吸収し続けているが、常に闇から聞き取れるか取れない程の声が聞こえ続けている。


 聞き取れる声はどれも「闇の王」や「全てを闇に」と言った、何の価値もない声だった。


 だが、集中しているアルクにとっては邪魔でしか無かった。


「カグツチ!あとどれぐらい残っているんだ!」


『もう少しだ!もう少しで全ての闇が無くなる!』


 「もう少し」という言葉を聞いたアルクは力を振り絞り、闇の吸収を早める。そのお陰か、闇は全て吸収する事が出来た。


 全ての闇を吸収した事を確認したアルクは、ヴィレンをどうにかするために動こうとする。だが、体に力が入らない。

 

 ここに来て吸収の反動が来たのだ。


『アレス!さっさと闇をどうにかしろ!』


『今やってるから黙っていろ!……良し!もう動けるようになったぞ!でもまだ全部治してないから無理をするな!』


 動けるようになったアルクは、カグツチを推進力と利用して、ヴィレンとの距離を詰めた。


 未だに、セーバルと十二天将、ヒルメティの激しい攻防が繰り広げていた。だが、12体居た筈の召喚生物は5体にまで減っていた。


「待たせた!今はどういう状況だ!」


「こっちが劣勢だ!ヒルメティのおかげで耐えれているが……クソ!」


 セーバルが状況説明をしている途中で、一体の式神が消滅した。


 アルクは周囲を見渡し、近くに邪魔な兵士が居ないことを確認する。そして、闇を展開し、ヴィレンに向かって行った。


 金属がぶつかり合う音が周囲に響いた後、衝撃が再び周囲に放たれる。


「そんな軽い攻撃で――」


 ヴィレンはアルクを蹴り飛ばそうとする。だが、光の盾によって、ヴィレンの蹴りは塞がれる。


 アルクは刀から炎を出しながら、斬り下がる。


「クソが!いつもいつも盾で邪魔しやがって!まずは光野郎を殺してやる!」


 今まで思い通りに攻撃が出来なかったのか、怒りを含めた声を上げながら、ヒルメティを睨む。


 明らかにヒルメティを殺す気だ。


 ヴィレンは闇を解放し、足に集中させ、一気に爆発させる。


 ヒルメティは前方に大量の盾を展開する。だが、ヴィレンの勢いは凄まじく、大量の盾を破りながらヒルメティとの距離を詰める。


 だが、ヒルメティも無策では無い。何重にも展開して盾の至る所に魔法が組み込まれている。つまり、ヴィレンが進めば進むほど、魔法を喰らうのだ。


 しかし、ヴィレンは止まらない。魔法などまるで無かったかの様に進み続ける。


「ゼアアアアアアアアアァァ!」


 進み続けるヴィレンに、リラは全力の拳を直撃させる。リラに続きアルクも上空から落下の勢いを利用して、ヴィレンを斬るが勢いは衰えない。


 そして、遂に最後の盾を破壊し、ヒルメティに向けて斧を振った。


「死に晒せ!」


 ヴィレンも勝ちを確信してのか、大声を出す。だが、ヴィレンの斧を空を切った。


「ふぅ……アルク君からナイフを盗んで正解だったな」


 消えたヒルメティはアルクの横にいた。そして、手にはアルクが愛用している、魔法陣が仕込まれたナイフを持っていた。


「いつの間に都ったんだよ」


「地震の時にこっそりと」


 アルクとヒルメティが軽口を叩いていると、ヴィレンから体が重くなるほどの闇が放たれる。


「もういい。遊びは楽しかったか?楽しかったんならさっさと死に晒せ!」

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