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8ー22 巨大地震

 アルクとリラはアマノイワトに向かっていた。道の途中でアルク達は街を通ったが、地震により崩れている民家はほとんど無かった。それでも地震に過敏になっているのか、商店や露店はやっておらず、やっていたとしても、日用品や食料が売り切れていた。


 それに加えて、賑やかだった街も今では閑古鳥が鳴いていた。


 アマノイワトに着いたアルクとリラは魔法で透明となり、物陰から覗く。地震の影響かアマノイワトの入り口は崩れており、ミリス聖騎士と光翼騎士団、マガツヒ兵、陰陽師など多くの人間が居た。だが、その中には見慣れない者も居た。


 マガツヒ人と同じように額に角があるが、肌の色は赤や黄色、青色などの肌を持ち、身長もミリス聖騎士や光翼騎士団よりも高かった。それらは確実に人間ではなかったが、アマノイワトに集まっているマガツヒ人と親しそうに話していた。


「気になるか?教えてやろう。あれはマガツヒに古来より住んでいる魔人族の鬼人だ」


 突如声が聞こえ、アルクは刀を出そうとする。だが、誰かがアルクの腕を掴み、刀を出させなかった。


「何でもかんでも刀を出すのはやめてくれよ!怖いだろ!」


 声の主はサーバルだった。


「いきなり声をかけるのが悪いだろ?それで?なんで魔人族がここにいるんだよ?」


 アルクは魔人族が何故人間と親しそうに話しているのか疑問だった。


 魔人族とは魔物の上位種であり、長い歴史の中で突然変異をした選ばれた個体しか魔人族になれない。


 有名な魔人族では吸血鬼も存在しているが、これもコウモリの魔物であるブラッドバッドの突然変異により、生まれた個体と考えられている。


「なんでって……雇ったんだよ。鬼人はその見た目からマガツヒではまともに働けるような場所が少ない。だったら圧倒的な戦闘能力を武器に傭兵で金を稼いでるんだよ」


「だからって人間と仲良さそうに見えるけど……」


 アルクの経験上、人間と魔人族が親しい間柄になる事は滅多に無い。冒険者を始めてから現在に至るでそんな関係を持った者と出会った事は一度も無かった。


「マガツヒでは昔から鬼人と仲は……悪くはなかった。まぁ必要最低限の関係だったな。でも何かあったらお互いに協力しあってたな。でも大陸の騎士達は鬼人を警戒しているみたいだな」


「だって大陸に住んでいる人達の共通認識として魔人族は危険な存在って根付いているからな」


「そろそろ俺は仲間の所に行く。アマノイワトに貼られている結界を上手いように緩めるからその隙に入ってくれ。これはヒルメティも協力してくれる……。あと鬼人の近くには寄るなよ。鬼人たちは察知能力が異常に高いんだ」


 セーバルはアルクにそう言うと、アマノイワトへ向かった。すれ違うマガツヒ兵や騎士達に軽く挨拶をしたあと、話し合っていたヒルメティとシエラに話しかける。


 何を話しているのか気になったアルクだったが、安全第一に考え、魔法を使うのを控える。


 しばらく待っていると、ヒルメティとシエラ、セーバルの三人組はアマノイワトに貼られている結界に近寄る。


 アルクはいつでも侵入できるように、ポイントワープを発動出来るようにする。


 ヒルメティがアマノイワトの結界を緩め始めると同時に、アルクは短く呪文を唱えて、セーバルの背後にワープした。


 実は、セーバルの服には誰にも気付かれないように、魔法陣が描かれている紙を忍ばせていた。この事にはセーバル本人も気付いていない。


 アマノイワト内は既に地下から溢れ出している大量の闇によって充満していた。


「これほど……の濃度の闇は初めてです」


 シエラは今まで対処してきた闇よりも、濃度の高さに驚いていた。


 だが、それはシエラだけであり、ヒルメティとセーバルは顔色ひとつ変えていなかった。


「頑張って下さい。恐らく闇は祠があった所から出ていると思います。セーバルはどう思いますか?」


「そうだな……俺もヒルメティと同じだと考えているが……。これだけの闇はどうするんだ?」


 セーバルの問いは真っ当な物だった。これだけの濃度と大量の闇は対処が難しい。だが、難しいだけであり、方法は幾らでもある。


「私の考えですと、何日かに分けて闇を浄化していきます。流石にこれだけの闇は私でもヒルメティ様でも難しいです」


「分かった。それじゃあ闇はあんたらに任せる。敵や魔物に関しては陰陽師と侍達に任せてくれ」


 セーバルはそう言うと、シエラとヒルメティをアマノイワトに残し、自分自身は外へ出た。


「さてと……この闇はどうするか……」


 ヒルメティはそう呟いた瞬間、アルクは透明化の魔法を解き、シエラの首にナイフを付ける。


「余計なマネはするなよ、ヒルメティ?」


 突然の出現にシエラは驚いていたが、ヒルメティは冷静さを失っていなかった。


「いつの間に居たんだ?」


「最初から居たよ。別に世間話をする程、仲じゃない。余計なマネをしたら聖女の首を刎ねる」


 アルクの言葉にシエラは冗談ではないかと疑った。だが、アルクの目を見た瞬間、それは本気だと察した。


「そこまで警戒するな。別に誰も傷つける訳じゃない。ここの闇を回収しに来ただけだ。お互いに悪い話じゃない筈だ」


 シエラはアルクが何を言いたいのか、僅かながら理解した。


 これだけの闇を放置すれば、確実にマガツヒに影響が出る。そして、溢れ出る全ての闇を浄化し終えるのに多くの時間を要する。加えて、アルクとの戦闘を始めれば多大な被害が出るのは、容易に想像がつく。


 だが、大人しくアルクを自由にすれば、多大な被害も、大量の闇も瞬時に片付けてくれる。


 もし、シエラが全ての決定権を持っているならば、アルクを自由にしていただろう。だが、ヒルメティがどのような判断を下すかは、シエラも知らない。


 もしかすると、アルクの提案を全て拒否し、戦闘が始まる可能性もある。


 しばらくすると、ヒルメティは口を開いた。


「確かに悪い話じゃない。ついでに炎の聖剣も置いてくれたら助かるんだが……」

 

「それは俺の気分次第だ。それじゃあ話は纏まったが……信用出来ないから聖女は全てが終わるまで人質として利用させてもらう」


 アルクは闇でシエラの手足を縛った後、リラに渡す。指示があればいつでも首の骨を折れるように、リラはシエラの首に腕を回す。


 身軽になったアルクは闇を吸収するために、祠があった場所まで行く。案の定、そこには穴が開いており、闇が溢れ出ていた。


 闇の量と発生源を調べるために、手を伸ばす。しばらく調べていると、闇の性質に覚えがあった。だが、誰の性質に似ているのか思い出せない。


 アルクが闇を調べるのに戸惑っていると、体が揺れる感じがした。初めは自身の鼓動が大きいから揺れていると思い込んでいた。だが、その思い込みは一瞬で吹き飛んだ。


『アルク!地震だ!地震が起きたんだよ!』


 誰かがそう叫んだ。すると、初めは少ない揺れだったが、あっという間に大きな揺れとなった。それも立てないほどに。


 ヒルメティもシエラもリラも大きな揺れに逆らえず、地面に手をついて、体を支えていた。


 そして、大きな揺れがより一層強くなると同時に、アマノイワト内に何かが割れる音が響く。だが、アルクとヒルメティは何が起こるのか理解していた。


 それはアマノイワトの崩壊だ。


 アマノイワトは洞窟となっているため、大きな地震が起きれば崩れる可能性もある。


「ヒルメティ!今すぐシエラとリラを連れて外に出ろ!」


「君はどうするだ、アルク君!」


「大丈夫だ!俺もすぐに外に出る!」


 ヒルメティは激しい揺れの中で、シエラとリラを気合いで抱えて、アマノイワトを出る。アルクはアマノイワトが完全に崩れる直前まで闇を吸収しようと試みる。


 だが、地震の揺れの強さや長さが想像よりも強く、あっという間に天井が崩れる。


 闇は全然吸収出来ていないが、限界だと考え、アマノイワトを出た。


 アルクがアマノイワトを出た直後に、けたたましい音と共に、アマノイワトが崩れ始めた。


 外の方では騎士達は巨大地震を初めて体験したのか、腰を抜かしているのが半分ほど存在していた。それとは対照的に、マガツヒ兵や陰陽師達は何が作業をしていた。


「ご主人!闇は吸収出来ましたか?」


 リラはヒルメティから離れ、アルクに寄る。


「俺の心配よりも闇の心配かよ!?」


「何を言ってるんですか!ご主人がこの程度で死ぬ訳ないでしょう!」


 アルクの身より闇の心配をしたリラだったが、これはアルクへの厚い信頼だ。


「少ししか回収出来なかった。だからこのま――」


 闇の吸収を継続して続けようとしたアルクだったが、口よりも先に体が動いた。何故なら、一本の剣がリラに投げられていたからだ。


「闇の使徒だ!今すぐ奴らを殺せ!」


 誰かがそう言った瞬間、先程まで腰を抜かしていたはずの騎士達が一斉にアルクに襲い掛かる。


 前方はもちろん、いつの間に回り込んでいたのか、背後にも騎士達も居た。


 だが、アルクはこう言う事態を既に想定していた。短く呪文を唱えた後、周囲に衝撃波が飛び、騎士達を吹き飛ばす。


 全員を吹き飛ばせると思っていないアルクは次の手に行動を移す。まずは一番アルクに近い上空の騎士の対処だ。


 刀を引き抜くと同時に、上空へと斬撃を放つ。だが、避けられてしまい、一本の斧がアルクに振り下ろされる。


 それも想定していたのか、今度は刀で斧を受け止める。その衝撃は激しく、周囲の木々を薙ぎ倒すほどだ。


「ん!?俺の斧を見ないで受け止めただと!すごいな、お前!」


 初めは騎士だと思っていたが、振り下ろされる力と、使う武器が斧であることから、初めは鬼人だと考えていた。


 だが、振り返った瞬間、それは間違いであると確定した。


 黒い鎧と黒い外套。そして、斧には闇を纏わせている。


 どこからどう見ての闇の勢力の一人だった。


「ご主人から離れろ!」


「うおっと!危ねぇ嬢ちゃんだな!」


 リラはアルクと鍔迫り合い状態だった男を蹴飛ばす勢いで襲い掛かる。だが、男に当たるよりも先に、男の方から離れた。


「そこの男と嬢ちゃん。いい腕前だ!うちに来ないか?」


 男は何を思ったのかアルクとリラを勧誘するが、もちろん二人は首を縦に振らない。


「だよなぁ……。そんじゃあ自己紹介だけでもさせてくれよ。俺は……あぁ。うん……闇の王の側近でもあり?斬り込み隊長でもあるヴィレンだ!どうせ死ぬと思うがよろしくな!」

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