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8ー21 協力要請

 マガツヒの首都タカマガハラから離れた森の中。突然、黒い裂け目が現れ、そこから黒い鎧を着込んだ男が吐き出される。


 吐き出された男の名はヴィレン。見た目の通り闇の王に追従する闇の一人だ。


「いてて……ラルバドルの野郎。いきなり飛ばすなんて酷くないか?まぁ良いが……。どこだここ?」


 ヴィレンは周囲を見渡すが、見たことの無い植生、見たことの無い地形であると認識する。だが、唯一違うところは遠くに闇を感じ取ることが出来る事だ。


 その闇はヴィレン自身を裂け目へ放り込んだラルバドルに似た気配を持っている。ヴィレンはその闇を頼りに、歩き始めた。


ーーーーーーーーーーーーー


 突然起こった地震によりスサルの家が崩れてしまったため、アルクとリラ、スサルは緊急で寝泊まりが出来る所を作っていた。最初、アルクは魔法を使いたかったが、魔法を使うと聖騎士達に気付かれてしまうため、魔法は使わないようにしていた。


「これぐらいで良いだろ。それで二人はこれからどうするんだ?闇を浄化するって言っても、協力してくれそうなやつは検討ついてんのか?」


「全然いない。何ならお前が手伝ってくれても良いんだぞ?」


「ふざけんなよ。俺は刀鍛冶であって陰陽師じゃないんだよ……あ!陰陽師ぐらいなら手伝ってくれんじゃないのか?」


「陰陽師か……昨日あいつらとやり合ったんだよな……。今からでも話し合えば行けるか?」


 アルクは昨日の出来事を思い出す。マガツヒの兵士達と共に陰陽師を確かに攻撃していた。


 協力を要請するのは難しいだろうと考えたが、スサルの次の言葉に可能性を見出せた。


「ちなみに陰陽連の頭は闇を使えるからある程度は力になってくれると思うぞ」


 スサルの言葉と共にマガツヒの状況を思い出す。確かマガツヒでは闇にも寛容だった。


 ならば可能性に賭けるしか無い。


「それじゃあ早速リラと一緒に陰陽連の所に行ってくるが……場所は知っているか?」

 

「俺が直接来てやったから大丈夫だ」


「そうか?それなら助か……る……?」


 アルクはスサルを見るが、口を全く動かしていなかった。そもそも、声の位置が真上から聞こえていたのだ。


 スサルとリラ以外の第三者であり、声を掛けられるまで気付かなかった隠密性から、実力が高い敵だと瞬時に判断する。


 アルクはカグツチ、リラは小手を装着し、上空へ攻撃を繰り出す。


「待て待て待て!俺は陰陽連の頭領だ!話をしに来たんだ!」


 何者かは急いでそう言うと、アルクは止まれた。だが、リラは止まれずに、鈍い音と共にアルクとスサルの間に落ちた。


「いきなり声を掛けたのは悪かったと思うがよぉ!殺しに来るこたぁねぇだろ!」


「俺が早く反応出来て良かったな。リラの場合は拳だったから命拾いしたな」


 アルクは刀を納め、警戒を緩めずに男に近寄る。地面に倒れた男にアルクは見覚えがあった。一瞬であるが陰陽師達と現れ、十二天将のを召喚した陰陽師の男だった。


「お前……昨日アマノイワトに居なかったか?」


「覚えてくれて助かる。昨日はいきなり襲って悪かったな。でもそうでもしないと外国の騎士達の信用を勝ち取れなかったんだよ」


 男は立ち上がりながら、服に着いた土を払う。


「自己紹介がまだだったな。俺は阿部=セーバル。そこの刀鍛冶が言っている陰陽連の頭領だ」


 セーバルは自己紹介を終えると同時に、アルクは刀を再び引き抜き、セーバルに斬りかかる。刀が当たると思った瞬間、セーバルの周りに亀の甲羅のような物が現れ、セーバルを守る。


「俺に敵意無い。今回は感謝と協力を頼みに来たんだ」


 セーバルは警戒を続けている二人を横目に話を続ける。


「まず最初に感謝の言葉を伝えたい。俺の代わりに十二天将と戦ってくれてありがとう。これで完全に奴らを手中に収める事が出来たよ」


「手中に収める?あれは元々はお前の物じゃなかったのか?」


 アルクは召喚された十二天将の事を思い出す。見た目や年齢、能力はバラバラだが少なくとも仲間意識は少なからず感じていた。そして、セーバルの命令に少なくとも従っていた。


「そうなんだよ。一応五体ほどは従わせることに成功したが、残りの七体が上手く行かなかったんだよ……。従わせる条件としては直接叩く必要があるんだ。だが、どうしても残りの七体が倒せきれなかったんだ」


「でもそれって俺が直接やって良かったのか?」


「問題ない。あれは召喚者が居れば誰が倒そうとも召喚者の物となる」


「つまり上手く俺を利用出来たのか……あの状況で良く頭が回ったな」


「そうでもなければ頭領になれない。それに冷静を保つことが勝負事で勝利を勝ち取れる。何はともあれ、十二天将と戦って全員倒してくれてありがとう」


 セーバルはそう言うと、頭を下げる。


「それで協力に関してだが……これを見ればすぐに分かるだろう」


 そう言うと、セーバルを掌をアルクに見せた後、掌から闇の球体を出現させる。スサルは分かっていなかったが、アルクとリラは痛い程それが何なのか分かっていた。そして、スサルの話が本当であると認識する。


「マジで闇を使えるんだ……。それ騎士達の前に出したら色々と大変なことになるから気を付けた方が良いぞ」


「安心しろ、それはお前を見れば分かるさ。それで?協力してやっても良いが?」


 陰陽連の頭領であるセーバルから協力を申し出てくれた事はありがたいが、アルクはまだ疑っていた。裏切られる可能性もあったが、国の一大事に裏切る可能性は低いと考えた。


「でもこれからどうするんですか?アマノイワトに行ったとしても聖騎士に襲われるんじゃないんでしょうか?」


 リラはアマノイワトの状況、聖騎士との二度目の戦闘に懸念を示していた。


「それなら安心しろ。向こうの指揮官……なんつったかな?あ!ヒルメティって奴ともう話を通している。もちろんお前とヒルメティの関係も知っているぞ?」


 アルクはヒルメティとの関係がいつの間にかセーバルに知られている事に驚いた。だが、よく考えれば声を掛けられるまで気付くことが出来ないほどの隠密能力があれば何もおかしくなかった。


「そこまで知られているなら仕方ない。だが、俺達のやる事には全て目を瞑れ。そうじゃないと色々と面倒になる」


「勿論いいだろう。それじゃあ俺は先にアマノイワトに向かう。待っているぞ」


 セーベルはそう言うと、裾から一枚の細い紙を取り出す。そして、短く唱えた後、姿を消した。


 初めて見る魔法の発動の仕方と種類に驚きながらも、アルク達はアマノイワトへ向かう準備を始めた。


――――――――


「ノイアー様!先程の地震の被害について報告いたします!」


「馬鹿者!報告なんぞここでするか!それぞれの大臣と街長達を集めろ!そこで地震の被害の報告をしろ!」


 マガツヒの王である織田=ノイアーは少し前に起こった地震についての対策と被害についての会議を開こうとしていた。


 それに伴い、普段は静かな城内も今だけは騒がしかった。


 しばらく城内の廊下を歩き、一つの部屋に入る。既に男女合わせて七人が集まっていた。


「なんだ?これだけか?」


「仕方がないですよ、ノイアー様。突然の巨大地震のせいで街の老朽化した建物が多く崩れてしまいましたから」


「ならばこの人数で会議を開く!おい、被害の報告を始めろ!」


「は、はい!」


 ノイアーの後をついていた従者はすぐに地震の被害報告を始める。幸いなことに現時点では死者はまだ出ていないと言う事だった。


 だが、問題はこの後にある。いつの時代も、地震の後には必ず大きな問題が起こる。


 今から10年前にマガツヒを襲った大地震では民家の被害が少なかった。だが、その後に起こった巨大津波によって壊滅的な被害を受けた。


「今回の地震は少し大きいぐらいですので、巨大津波の心配はありません。津波観測の術でもそれ程大きな物は確認されていません」


 従者がそう言うと、問題無いと考えたのか七人の街長は続々と部屋を出た。全員が外に出た事を確認したのち、ノイアーは大きく息を吐いた。


「それならいい。陰陽師には引き続き観測を続けるように伝えろ……。それで?奪取された炎の聖刀の件はどうした?もしや外国の騎士達は何もしていないと言わないよな?」


 既にノイアーの耳に炎の聖刀が奪われている事は伝わっていた。だが、王城でふんぞり返って待っている王では無かった。


 アマノイワトで戦闘を行った兵士達に話を聞き、襲撃者の顔の特徴や仲間の特徴が書かれた紙や、魔法によって投影した紙をマガツヒ内に広めていた。


 昨日から今日になるまでの対応の速さはマガツヒ内で起こったどの犯罪よりも素早かった。


「それにしても外国の聖騎士達は過大評価されていたみたいだな。炎の聖刀の闇を浄化する以前の問題だったな」


「そうですね。それでは聖刀の捜索は我々がやりますか?」


「総動員させろ。陰陽師、侍だけでなく乱破も動かせろ」


「了解致しました。それでは」


 従者はそう言うと部屋を出た。一人部屋に残されたノイアーは何もする事が無いため、自分の部屋に戻ることにした。

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