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8ー18 器の大きい良い男

 アマノイワトでの戦闘が終わり、アルクはリラを連れて逃げるようにその場を去った。


 旅館に戻りたい思いはアルクとリラにはあったが、旅館には騎士達も寝泊まりしている。もし、そのまま旅館に戻ってしまえば確実に2度目の戦闘が起きてしまう。


 野宿の選択肢もあるが、初めての国に居るのに加えて、闇が出現している。その状態で野宿をした場合、碌なことが起きない。


 残る選択肢はどこかで宿屋を借りるか、泊めてもらう方法しか無い。


 マガツヒに来たばかりでは頼れる人は居なかったが、今は違う。刀剣区の外れの山で一人暮らしをしている刀匠のスサルが居る。

 

 その人ならば事情を話せば泊めてくれる筈だ。そうしている内に、スサルが居る山のに到着する。


「おーい、スサル!居るか?」


 アルクは声をかけると、鍛冶場から金属を落とす音を立てながら、スサルが出てくる。


 鍛冶場の清掃なのか、刀を打っていたのかは知らないが、全身灰だらけになっていた。


「どうしたんだ?もしかして……もう刀を刃毀れされたのか!」


 スサルは朝に刀を渡し、アマノイワト方向へ飛んでいくのを見送った。だが、昼過ぎに戻って来たという事は刀に何かしら問題があったのだと判断した。


「刃毀れはしてないぞ。凄い耐久性と切れ味だ。それに炎の聖刀を宿すことが出来た……ほら。これを見てみろ」


 アルクは鞘から刀を引き抜き、スサルに見せる。だが、渡した直後の刀と現在の刀の変化は何一つ見られなかった。


 スサルは訝しげにアルクを見るが、アルクの表情は変わらない。ため息を吐きつつ、スサルは刀身に触れる。


 その瞬間、炎に触れたのかのような熱さがスサルの指を襲う。予想外の熱さに反射的に手を引っ込める。


「あっつ……。え?魔力は……流れてないな。何だ、これ?」


「アマノイワトで色々あってな。行ってみると外国の騎士達が占領してたから、占拠したんだ。その後に地面に突き刺さ――」


「待て待て。話が長くなるなら家の中で座って話そう」


 スサルはアルクの話が長くなると察したのか、スサル自身の疲れを癒すついでに昼食を取るために、アルク達を家に上がらせた。


「適当にくつろいでくれ。俺は色々と準備をするから待ってろ」


 スサルはそう言うと、台所へ行き、遅めの昼食の準備を始める。料理の良い匂いに釣られてか、アルクとリラも空腹を思い出し、腹が鳴る。


 しばらく待つと、焼き魚や漬物など多くの種類の食べ物が卓上に並べられる。


「良し、食うぞ!」


 スサルはそう言うと、軽く手を合わせた後、料理を食べ始める。アルク達もスサルに続き、卓上の料理を食べ始める。


「それで?食いながらで別に良いからアマノイワトで起こった事を話してくれや」


「今か?それじゃあ遠慮無く話すぞ」


 アルクはアマノイワトで起こった事を包み隠さずスサルに言う。もちろんアルク自身が闇である事も話す。話を聞き終えた頃には三人とも料理が食べ終わり、喉を潤すために緑茶を喉に流す。


「それじゃあ本当にカグツチの所有者になったのか……すげぇな。それで?試練ってのはどんな奴だったんだ?」

 

「試練……試練かぁ」


 スサルは炎の聖刀の試練に興味があった。だが、教えようにも教えられない。


 何故なら――


(言えない……瞬きしたら刀に宿ってたなんて言えない……)


 アルクは試練についての記憶が一切無かった。だが、アルク自身も気付いている。


 本当は試練と言われるものが存在しているが、炎の聖刀が試練についての記憶を消しているのだろう。


 そうでなければ試練を受けた多くの人々が言いふらしているに違いない。


「えっと……そうだな……。済まないが言えないんだ」


「なんで……まぁそうか。野暮な事聞いて済まんな」


 スサルの本心は試練について知りたかったが、踏み込んではいけないと判断する。


「それで戻って来たのは何でだ?もしや自慢する為だけに戻って来たのか?」


「俺はそこまでするほど自己主張は激しくない。単純に俺達が国に帰るまで泊めてもらいたいんだ。無理にとは言わない。泊めて――」


「別に構わんよ。それにカグツチが間近で見られるんだ。寧ろこっちが感謝したい」


 アルクの頼みを最後まで聴き終わる前に、スサルは宿泊の許可をすぐに出す。


 少しは交渉など必要になると思っていたアルクは、スサルの心の広さに感心する。


「それじゃあ寝泊まりする部屋に案内するが……相部屋でも良いよな?」


「俺達は相部屋でも構わない。ありがとう」


「別に問題無い。部屋と設備についてある程度教える必要がある。付いて来い」


 スサルは自身の家の内装や、設備についてアルク達に教え始めた。


――――――――――


「ん?この闇は……ッフ。まさか昔に植え込んだ結晶が今になって発芽するとは思いませんでした」


 真っ黒な空間で、長身で長い黒髪を後ろで結んでいる男が、黒い龍の前に座っていた。


 名はラルバドル。闇の王の側近として仕事をしている最中だ。


 すると、何の前触れもなく、闇の空間に亀裂が入り、そこから人が現れる。


「おい、バル!この闇の気配はなん……何だ!?後ろのデカトカゲは!?」


「これは黒龍ガイア。今は色々と改造をしているんです。貴方こそ私の空間にいきなり入って何ですか?」


 ラルバドルは自分の作業が邪魔されたことにイラついたのか、八つ当たりする形で男に言い放つ。


「そうカッカすんなって。お前も気付いている筈だ。覚えの無い場所から闇の気配がすることを」


「その闇は私が大昔に植え込んだ物です。まさか今になって感じ取る事が出来るとは思わなかったです」


「お前が植え込んだ闇なのかよ!それに大昔ってどれぐらい昔なんだよ」


 男は賑やかな口調だったが、ラルバドルは作業に集中したいのか、闇で両耳を覆う。


 だが、話がしたいのか、男は闇を無理矢理剥がす。


「待てよ、バル!お前が大昔に植え込んだ闇より黒龍に何してんだよ!もったいぶらずに教えてくれよ!」


 男の言動にラルバドルは表情を変えずにいたが、額に青筋が立っていた。


 このままでは作業の邪魔になると判断し、男の胸倉を掴み、そのまま投げる。


「おい!何すん……え?ああぁぁぁぁぁ!」


 男が投げられた先には外へ続く裂け目が出来ており、そのまま何処かへと消えていった。


「あ……行き場所を教えてなかった……。まぁ、大丈夫でしょう。一応マガツヒに設定していますが……奴ならなんとかなるでしょう」


 ラルバドルは手を叩いた後、自身の作業に集中し始めた。


 

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