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8ー17 ヒルメティの受難

 逃げた十二天将の生き残りを追ったアルクはアマノイワトに辿り着く。アマノイワトの中はどこからか発生した濃厚な闇によって満たされていた。そして、多くの兵士と陰陽師は一人残らず、地面に倒れていた。


 アルクは異様な静けさのアマノイワト内を見渡す。すると、闇の中から髪色を変える魔道具を解除したリラが出てきた。そして、片手で兵士の襟首を掴み、引きずっていた。


「リラ、何があったんだ?それにこれ全部お前がやったのか?」


「全部ではないです。途中までは普通に戦っていたんですけど刀が刺さっていた所から闇が溢れ出したんです」


「分かったが……先に全員外に出す必要があるな」


 まだ中に取り残されているであろう兵士と陰陽師達を救出するために、リラと一緒に闇で満たされたアマノイワトへ入る。


 アルクは先にミリス聖騎士と光翼騎士団を先に外へ出すことにした。既に何人かは闇に侵食されていたが、軽度の為、応急処置は必要無いと判断した。問題はマガツヒの兵士と陰陽師だった。


 マガツヒの兵士は魔力を有していない。つまり、魔力に対する耐性が大陸の人間と比べて低い。それは光と闇に対しても同じだ。


 その証拠にマガツヒの兵士達の闇の侵食は中度であり、体から闇が溢れ出ていた。


 アルクは急いでマガツヒの兵士をアマノイワトの外に出し、応急処置をする。


 アルク自身の闇を使い、マガツヒの兵士に入り込んだ闇を絞り出す。兵士達の人数が多かったが、アルクにとっては何の問題もない。


 陰陽師に関してはマガツヒ人では珍しく魔力を有しているためか、闇の侵食が軽度だった。


 そして、最後にリラは巨大な闇の球をコロコロと転がしながら出てくる。


「ご主人。これどうしますか?」


「そうだな……取り敢えず中からシエラを出してから考えるか」


 アルクはリラに運ばれてきた闇の球を消す。すると、内側から必死で叩いていたのか、シエラが勢いよく前に倒れ込んだ。


「お?元気そうでよかった。取り敢えずこいつら全員治療してくれ」


 シエラは最初こそ警戒していたが、アルクに敵意が無い上に、周りには闇により侵食された兵士達が居た。


 兵士や騎士達を一瞥しただけで、どのぐらいの症状なのか瞬時に理解したのか、中度と軽度にそれぞれ光魔法を使い治療していく。


 その精度の良さにはアルクも感心してしまう程だった。


 しばらくして、ミリス聖騎士と光翼騎士団員がアマノイワトに辿り着く。


「お前は……闇の使徒アルク!シエラ様!今すぐ奴が」


 ミリス聖騎士は目の前にいる白髪の男がアルクだと理解すると、剣を抜きシエラに離れるように伝えようとする。


 だが、そのミリス聖騎士の行動を光翼騎士団員が後頭部を殴り、気絶させる。


「久しぶりに見たと思ったら……なんだ?これは?」


 騎士の言葉は嬉しさと呆れが混じってなんとも言えない声音だった。


 だが、アルクが騎士の顔を見ると、その感情に納得が行った。


「グラウス?グラウスだよな!」


 ミリス聖騎士を気絶させた光翼騎士団員はかつての学友であったグラウスだった。


「俺以外に誰がいるんだ?それにしても気絶させた奴ら全員お前がやったのか?」


「少しだけな。残りはあそこにいる獣人(リラ)がやってくれた」


「そうかい。ところでヒルメティ様は見てないか?」


 グラウスは指揮官の一人であるヒルメティを探す。だが、気絶している者達の中にヒルメティはいなかった。


「私ならグラウス、お前の上にいるぞ」


 穏やかな声と共に、白い翼を羽ばたかせながら、空に浮いているヒルメティが居た。


 アルクは割と本気で殴り気絶させた筈だが、いつの間にか目覚めていた。それに加えて闇の侵食が見当たらない。


 流石、光翼騎士団副団長と言ったところだ。


「それでどうするんだ?アマノイワトの闇は恐らく……」


「やっぱりあんたも気付いてたんだな?」


 アルクはヒルメティが何を言いたいのか理解した。


「炎の聖剣が抜かれていた状態から、勝手に動きがした後に地面に突き刺さる」


「つまりカグツチが闇を塞いでいたってところだな。それも最初の所有者が死んでから今日に至るまでずっと。そりゃカグツチも闇に侵食されるわな」


「流石アルク君!でもどうする?恐らく……ってか確実に地下に大きい闇が潜んでるよ?」


「どうするも何もやるしかないだろ?」


 アルクとヒルメティは親そうに話している。その光景を、シエラとグラウスが信じられないような顔をしながら見ていた。


「シエラさん……あの二人はどう言う関係なんだ?」


「私にもさっぱり分かりません。でもあの様子から長い付き合いのように見えますが……」


 シエラとグラウスは二人の関係性について話していたが、ヒルメティは振り返る。


「取り敢えず今日はアルク君を撃退したって形にして……その後の話は旅館の方でしよう!あいつらが目覚めるまで警戒を怠るなよ。シエラ様は引き続き治療を続けて下さい」


 ヒルメティは状況の確認をしたのちに、今やるべき事をグラウスとシエラに言う。


「それでアルク君達はどうするんだい?顔はもういろんな……てか全員に見られたしな」


「俺は適当に野宿……。いや、泊めてくれそうな人は一人だけいるな」


「だったら事が解決するまではそこで寝泊まりしていればいい。それまでに私らで解決するように努力するから」


「分かってるよ。気を付けろ」


「そっちこそ気を付けろよ。特にグラウスとシエラ以外の奴らにはな」


 ある程度会話をした後、リラを抱え飛行魔法でどこかへと去って行った。アマノイワトの前に残されたヒルメティとグラウス、シエラは騎士達とマガツヒの兵士と陰陽師が目覚めるまで、警戒をする事にした。


 ヒルメティはアマノイワト内から溢れ続けている闇を封じるために、簡易的な光の障壁で、アマノイワトの出入り口を塞ぐ。


「応急処置はこれでーー」


「光翼騎士団の副団長と闇の使徒が親しい間柄とは夢にも思わなかったな」


 突然の声にヒルメティは周りを見渡す。だが、先程の声の主が見当たらない。


(透明化の魔法か?だが魔力を使った形跡が見当たらない)


 敵意は特に感じられなかったが、もしもの時を考え、剣を構える。


「ちょっと待て待て。姿を表すから襲うなよ」


 誰かがそう言うと、ヒルメティの前に一人の陰陽師が現れる。


「初めましてってところだな。俺は陰陽連頭領の阿部=セーバルだ。そしてここが大事だが良く聞いておけよ。俺は――」


 セーバルはそう言い、掌を見せる。すると、掌に拳の大きさの闇が現れる。


「闇の使徒アルクと同じで闇が少量だけ扱える」


「つまり貴方の事も敵ではなくアルク君のように仲間として接して欲しいと?」


「そうだ。別に難しい話じゃないだろう?それにあんたらが居るせいで力を全部吐き出せないんだ」


「敵にならないのなら別に良いが……騎士達の前では使わないようにしてくれ。そうじゃないと色々と面倒になる」


「話が分かってくれて助かるよ。それじゃあ俺は陰陽連の本部に戻ってこれからの事について部下達に話してくる。寝ている陰陽師(やつら)は後で回収する」


 セーバルはそう言うと、どこかへ消えていった。


 嵐のように去ったセーバルに困惑していたヒルメティだっだ、最後から強烈な悪寒を察知する。


「それでヒルメティ様?アルクさんとの関係を教えていただけますか?」


 この声はシエラだ。だが、今までに聞いた事がないような冷たい声がシエラから発せられていた。


「光翼騎士団副団長ともあろうお方が、闇の使徒と知り合いだなんて、世間にバレたらもう生きていけませんよ?」


 これは脅しでもなく事実だった。


「えっと……詳しいことは後々言いますので……どうか許してくれませんか?」


「言質は取りましたよ?それではアマノイワトから発生している闇について話しましょう」


 初めて感じるシエラの威圧感に、ヒルメティとグラウスはたじろぎながらも、周囲の警戒を怠る事はなかった。

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