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8ー16 炎の聖刀カグツチ

 アルク達がアマノイワトを襲撃し始めた頃、二人の騎士は走っていた。何故なら、ミリス聖騎士の指揮官であるシエラから襲撃が来たと知らされたからだ。


 騎士の目的地はキヨナ城。そこでは多くの兵士達がアマノイワトへ向かうための準備をしている。その中にはマガツヒの王であるノイアーも居る。


 すると、キヨナ城の城門が見え始める。二人の騎士が走ってキヨナ城に気付いた見張りの兵士は手を振る。


「どうしたんだ、騎士の兄さん達?もしかしてもうそっちは準備出来たのか?」


 見張りの兵士は騎士達が走っている事を気にしつつも、アマノイワトで何が起きたのか騎士に問う。ずっと走っていた騎士は膝に手を置き、息を切らしていたが、何とか口を開く。


「あ……アマノイワトに敵襲だ……急いで向かってくれ」


 炎の聖刀が保管されている場所に敵が来たことを瞬時に理解した兵士は急いで高台に向かう。そして、大きな鐘を鳴らし、キヨナ城内に甲高い鐘の音が響く。


「アマノイワトに敵襲!準備が出来次第すぐにアマノイワトに向かってくれ!」


 見張りの兵士がそう叫ぶと、キヨナ城内に待機していた兵士達はすぐに出陣の準備をする。そして、一人、また一人と続々とキヨナ城内から兵士達がアマノイワトへ向かった。


 見張りの兵士は高台から降りた後、報告に来た騎士達を床に座らせ、休憩させる。


「急いでくれてありがとうな。とりあえず水を飲んで休憩しててくれ。俺はノイアー様にアマノイワトに敵が来たことを知らせて来る」


 見張りの兵士は騎士達に休憩させると、ノイアーが居るキヨナ城の本殿へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 炎の聖刀カグツチを手にしたアルクは周囲を取り囲んでいる兵士達を一瞥する。ある者は倒れている騎士の治療をしていれば、ある者はアルクを怯えた目をしながら刀を構えている者も居た。


「戦う意思の無い者は退け。それ以外の者は覚悟しろ」


 アルクはそう言うと、刀に炎を纏わせ、横に振る。その瞬間、アルクを取り囲んでいた兵士達を更に取り囲むように炎が周囲を巻く。


「ここから出ないって事は全員覚悟がある認識で良いんだな?それじゃあ……行くぞ!」


 アルクは周囲を取り囲んでいる兵士達の人数を確認する。人数は61人。これならばカグツチの力を見るには丁度いい人数だ。


 カグツチに見せられた初代所有者が使っていた記憶を思い出す。彼はただ刀に炎を纏って振っていた。アルクもそれに見習い、刀に炎を纏わせ横に軽く振る。その瞬間、大量の爆炎が兵士達を襲う。だが、炎の操作が上手く行かず、爆炎はアマノイワトの天井へ上がる。


「クソ、意外と力が強いな」


 アルクは初めて手にする炎の聖刀の扱いに困惑しつつ、死者が出ないように刀を振るう。兵士達も、炎の聖刀を前に成す術も無く、アルクの攻撃を躱す事しか出来ない。


 このままだと、マガツヒの兵士達も何も出来ずにアルクを逃してしまう。焦りと共に動きが雑になったのか、兵士の一人がアルクの爆炎を受けてしまい、気絶する。それが引き金となり、多くの兵士達も攻撃を受けてしまう。


 だが、そんな時に兵士達の前に水の障壁が現れた。


 マガツヒ人は魔法が使えない。だが、とある組織だけは魔法を扱うことが出来る。


 つまりーー


「すまない、お前達!我ら陰陽連も協力させてもらう!」


 一人の陰陽師がそう言うと、15人の陰陽師が炎の障壁を突き破り、現れた。


「頭領。奴をどういたしましょうか?」


「闇の使徒は俺がやる。お前達は傷付いた騎士や獣人の相手をしろ」


「御意」


 頭領と呼ばれた陰陽師の男はアルクの前に立つ。


 風貌は若く見えるが、マガツヒ人特有なのだろう。そして、額には第三の目を象徴する入れ墨が入っている。


「一応聞くが闇の使徒、降参するつもりは無いか?」


「ある訳ないだろ?それ相応の覚悟を持ってこんな島国に来たんだ」


「そうだな。俺の名前は阿部=セーバル。陰陽連の頭領だ。お前の名前は聞かなくてもいい、知っているからな。それじゃあやるぞ、お前達!」


 セーバルはそう言うと、12枚の細い紙を空中に投げる。


[十二天将召喚]


 誰かがそう言うと、セーバルが投げた12枚の細い紙が様々な色に光り出す。そして、それぞれの紙から様々な生物が出現する。


 虎のような生物も居れば、鳥、青い龍、人が召喚された。


 召喚された程度なら良かったが、問題は召喚された生物の実力だった。弱そうに見える鳥の生物でさえリラと同等の力量が感じられた。


「お前ら、目の前の白髪の男を狙え。それ以外の者を狙った場合は罰を与える」


 召喚された12匹の生物はセーバルの言葉に頷いた後、一斉にアルクに襲い掛かった。アルクはリラとの格闘に負けた事は無いが、リラと同等の生物が12匹も居るのは話が違う。


 アルクは狭いアマノイワトの中で戦うよりも、外で戦った方が良いと判断し、天井をこじ開け、そのまま脱出する。召喚された生物の内、飛べる生物は限られていると考えたアルクだったが、実際に飛んでいるアルクの後を追った生物は9匹だった。


 残りの3匹は亀、虎、眼鏡と顔半分を隠している人型だった。


 飛ぶことが出来る生物はそれぞれ独立した動きでアルクを攻撃し始める。だが、アルクはカグツチの力を制御せずに、力のままに振るう。その瞬間、周囲が一瞬で爆炎に包まれ、9匹の生物の攻撃を打ち消す。


 だが、制御せずにカグツチを振るったせいか、何体かの生物は逃げきれずに爆炎に包まれた。


「馬鹿者共!久方ぶりに召喚されたからと言って油断するな!」


「分かっておるわ!助かったぞ、大裳のじじい!」

 

 鳥のような生物は老人に感謝する。どうやら召喚された老人は防御魔法が得意の様だ。


 アルクは先に戦闘が得意な生物よりも先に、支援や防御が得意な生物を優先的に狙う事にした。戦いにおいて支援や防御、回復を得意とするものを優先的に狙えと、クラシスに嫌と言う程に教え込まれていた。


 まずは、大裳と呼ばれた老人を先に狙う。アルクの予想通り、大裳はアルクの攻撃を避けずに、全て魔防壁で対応していた。魔防壁に特化しているのか、アルクの魔法も斬撃も最小限の魔防壁で防がれる。


「切り崩せ、カグツチ」


 アルクは淡々と言うと、刀が緑色の炎に包まれる。そして、そのまま大裳の魔防壁を切断する。


「馬鹿な!これは主にも破られたことが無いのだぞ!」


 大裳は慌てふためき、後ろへ下がる。


「慌てるな、大裳!奴は炎の聖刀を使っている!何をするか分からない!」


「炎の聖刀だと?だったら我が使えなくするまでだ!」


 青い龍はそう言うと、手に持っていた宝玉を天空へ投げる。すると、雲一つなかった青空が一瞬で黒い雲に覆われ、雨が降り始める。


 この程度の雨なら問題無いと思っていたアルクだったが、それは間違いだった。何故なら降り始めた雨から酸っぱい匂いがしたからだ。


「この雨……青龍の馬鹿者!酸の雨はあの人間だけでなく多くの者に影響を与えてしまう!主様に消されたいのか!」


「囀るな!この程度の被害は直ぐに我が治すことが出来る!騰虵、六合、お前達も働け!」


「分かっている!」


 騰虵と呼ばれた羽の生えた蛇は全身に炎を纏わせ、アルクに襲い掛かる。後ろでは六合と呼ばれた男はブツブツと呟く。


[六根昇華急急如律令]


 六合はそう言いうと、騰虵が纏っていた炎が肥大化する。それに加えて飛行の速さも上がり、アルクの周囲を飛び回る。


「朱雀!貴様も手を貸さんか!」


「分かっておりますよ、騰虵の兄者!」


 騰虵にどやされた朱雀と呼ばれた鳥もアルクの周囲を飛び回る。それだけじゃない。アルクの周囲をいつの間にか巨大な樹木によって囲まれていた。


[[火木上火急急如律令]]


 その瞬間、騰虵と朱雀から炎が竜巻となり、樹木と共にアルクを燃やした。


「油断するな!畳みかけろ!」


 誰かがそう言うと、炎の竜巻に水の槍や雷、土の杭が炎の竜巻へと入って行く。外から見れば一方的な戦いに見えるが、十二天将達は戦慄していた。


 何故なら十二天将達の攻撃が当たっている気配が無かったのだ。炎の竜巻も勢いが増すどころか衰えていき、水の槍は蒸発しないようにしていた筈が蒸発し、雷は掻き消され、土の杭は溶けて行く。


「万象を焼き尽くせ!」


 炎の竜巻の中から声が聞こえた瞬間、炎の竜巻をも切り裂き、青い炎の斬撃が十二天将を襲った。


「玄武!我らを守れ!」


 青龍はそう叫び、飛んでいる十二天将の生物を一か所に集める。すると、金色の防壁が十二天将の前に現れ、飛んでいる十二天将達を守る。


「若造がいっちょ前にワシに命令するな!取り敢えず全員下に降りて来い!」


 玄武と呼ばれた亀と甲羅に蛇が巻かれている生物は怒声を上げる。十二天将達は玄武の命令を素直に聞き、地上へと降りる。だが、それを見届けるだけの優しいアルクではない。


 アルクは刀を振り下ろそうとした時、体が何かに固定されたかのように動かなくなる。


[制動不動急急如律令]


 誰かが呪いを唱えていたようだ。声が聞こえた方向を見ると、眼鏡を掛け、顔半分を布で覆っている男が居た。


[炎よ。我が身に降りかかる呪いを焼き払え]


 アルクはそう言うと、刀から白い炎が現れ、アルクを包み込む。すると、アルクに掛けられていた呪いが消え去り、体が自由に動くようになる。


 十二天将達はアルクがこんなに早く動けることを予想していなかったのか、反応出来ていなかった。


 アルクはそのまま降下し、青龍の胴体を切断する。


 そこで違和感を覚えた。何故なら青龍は胴体を切断されたのにも関わらず血が出ていなかった。そして、しばらくすると青龍は細い紙へと変わっていった。


「クソ!お前達!全力で行くぞ!」


 残された十二天将達はアルクを全力で仕留めようと、身体中を魔力で満たした。


 アルクは周囲を見渡し、確認する。


 ここはアマノイワトとは別の場所だが、鍾乳洞で周囲が厚い岩の壁で覆われている。


 つまり、カグツチの本領を発揮するには十分な場所と言う事だ。


 アルクはニヤッと笑うと、刀を鞘に収める。そして、鞘に収めている状態から、刀から大量の炎を凝縮させる。


 これもカグツチから読み取った初代所有者が使っていた技の一つだ。


 名は――


[炎母死斬]


 アルクは刀を抜刀する。刀は大量の炎は出さずに刀身が剥き出しとなっていた。だが、刀から放たれる熱量は確かなものだ。


 証拠に目の前にいた十二天将達も鍾乳洞の厚い岩の壁も、音もなく全て切断されていた。


 切断された十二天将達は青龍同様、細い紙になっていた。だが、細い紙は青龍含めて11枚しかない。


「逃したか」


 アルクは逃げている残りの一匹を仕留めようと、周囲を探す。すると、眼鏡をかけていた生物がアマノイワトへ向かっている所を発見する。


 アルクはそのまま逃げている十二天将の生き残りを追う。以外にも足が早く、追いついた頃にはアマノイワトの中に入っていた。


 少し遅れてアルクもアマノイワトの中へと入る。すると、アマノイワトの中は闇で溢れていた。

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