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8ー14 アマノイワト

 アルク達がマガツヒを訪れてから四日が経った。ようやく炎の聖刀の新たな器となる刀が完成する日となった。


 アルク達は起きて直ぐにスサルの工房へと向かった。工房に着いた頃には、既にスサルは緋色の刀を素振りしていた。


「来たか!これがお前の刀だ!流石に黒赤刀程ではないが、その次に傑作と言える代物だ!芯はヒヒイロカネを元に魔力を通しやすい鉱石で周囲を囲っている。取り敢えず試してみてくれ!」


 スサルはアルクに刀を渡すと、どこから出したのかイノシシの死体を台の上に括りつけていた。


「さあさあ!遠慮無くこれを両断してくれ!」


 スサルに急かされ、刀を観察する暇も無く、イノシシの前に立たされる。アルクはイノシシを両断しやすいように、上段の構えを取る。そして、そのまま刀をイノシシに向かって振り下ろす。


 刀は何の抵抗も無くイノシシの胴体へと入って行く。そして、そのまま紙を斬るようにイノシシの胴体を両断した。

 

「凄いな……。紙みたいに斬れたのは黒赤刀以来だ」


 アルクは刀の刀身を良く観察する。全体的に赤みがあるが、刀身には魔法陣や魔法文字が彫られている。


「それは所有者の魔力を吸収する。そして吸収した魔力量に応じて切れ味が上乗せされているんだ。下手したら黒赤刀よりも切れ味が出る可能性があるが……そこら辺は俺でもよく分からない。それで?満足してくれたか?」


「ああ、良い刀だ。ありがとう。それで金の方なんだが」


「気にするな。俺が作りたくて作った刀だ。報酬はこれからのお前の活躍で良い」


「分かった。これからアマノイワトの方に行ってくる」


「という事はカグツチの所有者に挑戦するのか?聞いた話によると死者が飛んでも多いらしいから気を付けろよ」


「分かった。お前も年だから体を大事にしろよ!」


 アルクとリラはスサルに感謝の言葉を述べ、アマノイワトへ向かった。アマノイワトはマガツヒの首都であるタカマガハラの郊外にあり、人通りが少ない。


 だが、今回は違った。アマノイワトへ向かう途中で大勢の聖騎士や光翼騎士団員とすれ違った。アルクはアマノイワトで何か大事が起きた事を察知し、騎士達に見られないように魔法で体を透明にする。


「一体何があったんですかね?もしかして炎の聖剣が無くなったとか?」


「その可能性もあるな……もしかしたら殺し合いになる可能性もあるが極力無力化にしてくれ。特に光翼騎士団の方な」


「分かりました?」


「それじゃあ行くぞ」


 アルクの指示にリラは不思議がりながらも了解する。二人は大きな痕跡を残さないようにアマノイワトへと近付く。


 アマノイワトの入り口には聖騎士が警備をしていたが、透明となっている二人にとって警備は意味を成していなかった。


 中に入ると聖騎士と光翼騎士団員の他に指揮官となるシエラとヒルメティが居た。そして、炎の聖刀自身は祠があった地面に突き刺さっていた。そして、炎の聖刀を取り囲むように魔法陣が展開され、炎の聖刀を縛っていた。


 アルクはヒルメティと聖騎士が会話しているのを見つけ、盗み聞きをしようと近付く。


「それで炎の聖剣の新たな器はどうしましょうか?」


「新たな器は良い剣を用意するとして……問題は試練の方なんだよな」


「そうですね。聞いた話によるノイアー様は夜中に試練を受けたみたいですね」


「だが、本人自体は試練の内容を覚えていないみたいだな」


「はい。でもその時に居た騎士達の話によれば火の鳥が現れて思いを見るとか何とか」


「試練で思いを見るか……それだけで仲間を危ない目に合わす訳には行かない。もしもの時は私が試練を受けよう!」


 ヒルメティと聖騎士の話を聞き終えたアルクはここまでの状況を整理し、一つの結論に辿り着く。それはアルクの予想は正しかったという事だ。


 アルクの予想とは、炎の聖刀は形を持たず、相応しき器に宿る事で初めて炎の聖刀として扱えると言う内容だ。


 だが、問題はどうやって騎士達の監視を搔い潜って炎の聖刀に接触するかだ。外は勿論、中も多くの騎士達による監視の目があり、身を隠せるような場所がない。


「ヒルメティ様!ノイアー様一行はあと30分でここへ来ます」


「分かった。それまでに色々と準備を進めておいてくれ」


「はい!」


 どうやらアマノイワトへマガツヒの王であるノイアーが来るらしい。


 もし、ノイアー達がアマノイワトに着いてしまったら本当に何も出来なくなってしまう。


 アルクは覚悟を決め、騎士達を鎮圧しようと刀を抜く。リラもアルクの動きに合わせ、籠手を拳にはめる。


「リラ。俺が魔法である程度ここを荒らす。その時に騎士達を出来るだけ無力化してくれ」


「分かりました」


「良し……。それじゃあやるぞ!」


 アルクはそう叫ぶと、アマノイワトの中心地に向かって魔法を放つ。魔法は地面に命中した途端、大量の砂埃が舞う。


 誰もいない筈の空間から魔法が放たれたうえに、砂埃により視界が悪い。この状態で直ぐに対応出来る騎士は少なかった。


 騎士達は次々とアルクとリラにより意識を刈り取られ、地面へと倒れる――筈だった。


 アルクとリラの攻撃は騎士達をちゃんと捉えていた。だが、攻撃が当たる直前で白い盾が現れ、攻撃が防がれてしまう。


[風魔法・流風]


 砂埃の中で誰かが風魔法を発動させ、砂埃を排除する。砂埃が排除された事により、アルクは騎士達に見られる。


「あれは……闇の使徒アルク!何故ここに!」


「炎の聖剣が目的だろ!殺せ、炎の聖剣に触れされるな!」


 騎士達は状況の確認が出来次第、アルクとリラに襲い掛かる。突然の襲撃にも関わらず、前衛の動きに後衛は支援が上手く出来ていた。


 相手がアルクで無ければ直ぐに襲撃者を取り押さえる事が出来ただろう。


 だが、騎士達の前にいるのはアルクとリラと言う戦闘が得意な二人だ。前衛と後衛の攻撃を躱す。だが、謎の白い盾により二人の攻撃は騎士達には届かない。


「流石です、ヒルメティ様!これなら闇の使徒を殺せそうです!」


 騎士の一人がそう言う。どうやら白い盾は指揮官であるヒルメティの魔法の様だ。


「リラ!お前は騎士達をやれ!俺は指揮官を狙う!」


 アルクはシエラの隣にいるヒルメティを睨む。


「まさかここで聖盾のヒルメティに会えるとはな」


「私も驚いた。もしや炎の聖剣の騒動は全て貴様が原因か?」


「さぁな。俺のせいだと思うならそう思っていろ」


 言い終わると同時に、アルクはヒルメティとの距離を詰め、気絶させようとする。刀の石塚がヒルメティの鳩尾に入る。


 だが、ヒルメティは涼しい顔をしていた。確かにヒルメティの鳩尾に石塚が直撃した。普通の人間であれば、激痛により顔を歪めている。


「どうした?魔防壁すらも破けないのか?」


「舐めんな!」


 アルクはヒルメティの魔防壁の硬さに動揺したが、直ぐに冷静を取り戻し、刀に魔力を流す。普通の騎士ならば死ぬ可能性があるが、ヒルメティは大丈夫だろう。


 刀に刻まれた魔法陣と魔法文字がアルクの魔力に反応し、赤く光る。ヒルメティは警戒を強め、光を展開する。


 アルクはヒルメティが展開している魔防壁を切断するために、距離を詰め、刀を振る。ヒルメティの魔防壁は紙のように切れ、ヒルメティの腕に切り傷が走る。ヒルメティは自身の魔防壁が切れるのが予想外だったのか、後ろに下がる。だが、アルクは攻撃を手を緩めず、刀を振り続ける。


[光魔法・潜光の槍]


 アルクが踏みしめた地面が突然光り出す。だが、反応するよりも先に、地面から光の槍が出現し、アルクの足を串刺しにする。刺された痛みと火傷の痛みが全身に走ったが、そのまま踏み込み、ヒルメティに拳を叩きこむ。


「ヒルメティ様!今すぐにーー」


「聖女は黙っていろ!」


 回復魔法を使おうとしていたシエラだったが、アルクは闇魔法を使い、黒い球体の中に閉じ込める。シエラを閉じ込めた後、ヒルメティを気絶させるために、距離を詰める。


 だが、アルクの前に四人の騎士が立ち塞がる。


「闇の使徒を足止めしろ!」 


「ヒルメティ様!今のうちにシエラ様の救助を!」


「すまない、頼んだ!」


 ヒルメティはアルクの足止めを騎士達に任せ、ヒルメティ自身はシエラの救助に向かった。


「大人しくしてくれたら痛み無く気絶出来るが……どうする?」


「下等な闇風情が……偉そうな口を直ぐに黙らせてやる!」


「あっそ。じゃあ良い」


 騎士達に降伏するように言うが、騎士達は降伏をしない。


 アルクは騎士の誓いを舐めていない。寧ろ尊敬している。たが、今だけはその誓いは邪魔なだけだ。


 刀を構えたアルクはナイフを騎士に投げる。騎士は投げられた剣を鎧で弾いたが、腹部に鈍い衝撃が走った。


 騎士は視線を下にやると、刀が鎧を砕き、腹部にめり込んでいた。そして、横にはアルク。


 隣にいた騎士は投げられたナイフを見る。そのナイフには魔法陣が描かれた紙が貼り付けられていた。


「そのまま堕ちていろ!」


 アルクは刀に力を入れ、騎士を投げ飛ばす。そして、そのまま残りの3人を気絶させる。


 ヒルメティは闇の球体の中に閉じ込められたシエラを助けようとしていた。だが、何故か光を使おうとしない。


 そうしている間にも、リラは騎士達を次々を気絶させる。途中ですれ違った騎士はマガツヒの王を呼びに行っているため、戻ってくるには時間がかかる。


 つまり、アマノイワト内で戦えるのはヒルメティだけとなった。


「後はお前だけだ。抵抗するなら多少は痛い目を見るぞ」


 アルクは刀をヒルメティに向かって突き出す。だが、ヒルメティは何もしていない。


 そう、何もしていなかったのだ。


 光を展開しているが、シエラの救助に光は使っていない。それどころか、闇の球体に両手を置いて休憩していたのだ。


「お前……なんのつもりだ?」


「少し話をしたくてね。でも君に殴られた所がずっと痛いんだ。少しで良いから休憩させて欲しい」


 ヒルメティの頼みにアルクは不思議がりながらも承諾する。ヒルメティは休みやすいように、闇の球体に背中を置き、もたれかかる。


「しばらく見ない内に大きくなったね。最後にあったのは10年前かな?」


 ヒルメティは親そうにアルクに話しかける。最初は警戒していたアルクだったが、少しの沈黙の後、刀を下ろした。


「やっぱりあんただったんだな、ヒルシュラミス」

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