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8ー13 炎の試練1

 炎の聖刀カグツチ。それはこの世界に存在する七つの聖具の一つであり、所有者には邪魔する存在を灰にするほどの力を与える。


 何時、どの様にして生まれたのかは謎に包まれている。だが、唯一分かる事はマガツヒの初代国王であるオダ=ノブナガが所有者となったのが300年前。そして、それよりも前にカグツチは存在していたという事だ。


 そして、現在では初代国王についての情報だもカグツチについての情報も全て書物でしか存在していない。だが、無数にある書物の中でようやくカグツチに関する情報が見つかった。


 その情報とは『カグツチは精霊の様な存在であり、武具に宿る事により国を制する大いなる力を持つことが出来る』という内容だ。


 カグツチに関する情報を手にしたノイアーは所有者となるべく、家宝である金色の刀ムラサメを持ち、アマノイワトへ向かっていた。


 道中でマガツヒ兵と出会ったが夜中のせいか、マガツヒ兵はノイアーが夜中に外出をしている事に気付かなかった。


「殿。カグツチの所有者に選ばれたら何をするんですか?」


「そうだな……。取り敢えずマガツヒに圧力を掛けている諸外国を追い返す。奴らは島国だからと舐め腐っている」


 マガツヒは島国であるため、諸外国からは軽視されている。マガツヒが今の地位に立てた要因はカグツチの存在と歴代国王の采配による物だ。だが、オダ=ノイアーが国王になった時代が悪かった。


 闇の出現とニハル帝国の新たな皇帝の即位。特にニハル帝国は圧倒的な軍事力を利用し、多くの国に内政干渉をしている。獣人王朝アニニマもその例だ。


 だが、カグツチの所有者になればマガツヒの軍事力は大きく強大となる。


 ノイアーと従者が会話をしているうちに、二人はカグツチの保管場所であるアマノイワトに着いた。だが、何か問題があったのか、アマノイワト内から不思議な光が発生していた。


 二人は警戒しつつアマノイワトの中へと入って行く。中では祠が完全に破壊されており、カグツチは横に置かれていたが、今では地面に突き刺さっていた。そして、不思議な光はカグツチを中心に展開されていた魔法陣による物だった。


「おい!何があったんだ!」


 ノイアーはカグツチに何が起こったのか聞き出すために騎士達に声を掛ける。


「あ?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ?刀を持ってるって言う事はサムライか?だったら誰であろうとここには入るなと伝えて置け。分かったらさっさと出ていけ」


 聖騎士の一人はノイアーがマガツヒの国王だと知っていなかったのか、アマノイワトから追い出そうとする。だが、それでも出ないノイアーに痺れを切らして、手を伸ばす。


「触れるな!痴れ者が!」


 ノイアーに触れようとする聖騎士の一人を従者が背後に回り込み、地面に押さえつける。


「て、敵襲!敵襲!武器を構えろ!」


 地面に押さえつけられた聖騎士はノイアー達が敵だと思い込み、カグツチを監視している仲間に敵が来たことを大声で知らせる。


 流石国から選ばれと騎士達と言うべきか、騎士達は知らせに即座に反応し、前衛と後衛に分かれ、ノイアー達を取り囲んだ。


「待て待て!俺は敵じゃない!この国の王であるオダ=ノイアーだ!」


 ノイアーは敵ではない事を言うが、騎士達は剣を降ろす気配がない。それどころか、騎士達の警戒は更に高まった。


「嘘言うなよ。マガツヒの王がこんな夜中に従者一人を連れて来るなんて聞いてねぇぞ!」


「騙されるなよ!もしかしたらマガツヒの国王を名乗ってる闇の使徒かもしれない!変な動きを見せたら容赦なく斬りかかれ!」


 騎士達の高い殺意にノイアーは気圧されるが、引くわけにはいかなかった。


「ならばヒルメティ殿かシエラ殿をここに呼べば良いだけの話だろう?それとも呼べない理由でもあるのか?」


「なんだと……ッ!こいつ武器を持っているぞ!」


 騎士達はノイアーが右手に持っている刀に気付く。


「もういい!掛かれ!」


 遂に痺れを切らした聖騎士がノイアーに斬りかかる。最初はノイアーは聖騎士の攻撃を避けようとしたが、聖騎士が本気の殺気を放っている。


 聖騎士の本気の殺気に当てられたノイアーは反射的にムラサメを鞘から引き抜き、聖騎士の剣を受け止めてしまう。これを皮切りにアマノイワトは更に混乱すると思われた。


 だが、一人の騎士が全員動かない様に指示を出す。


「馬鹿野郎!この人は本当にマガツヒの王オダ=ノイアーだ!武器を納めろ!」


 騎士達は注意深くノイアーを観察し、ノイアーからは一切殺気が放たれていない事に気付き、武器を納める。


「も、申し訳ありません!まさかノイアー様が本当に来ていたとは露知らず!」


 騎士達はノイアーの前に膝を付き、斬りかかった事を急いで謝罪する。ノイアー自身はため息をついていたが、従者は激怒していた。


「もしノイアー様が死んでいたらどうするつもりだ!お前達は国王殺害未遂で死刑にする事だって出来るんだぞ!」


「落ち着け。確かに襲われた事にはムカついたが死んでいないのだから良いだろう。それに騎士達も警戒を緩めていなかったと証明も出来ただろ?」


「ふぅ……。すみません。少々取り乱しました」


 ノイアーは従者を落ち着かせる。従者は深呼吸をしたのち、何故アマノイワトに赴いたのか説明した。


「なるほど……。確かにやってみる価値はありますね。それでは準備をしますので少し待ってて下さい」


 騎士達はノイアーの安全のために、カグツチの周りを魔防壁で囲む。


 安全が確保された事を確認した後、ノイアーはムラサメをカグツチの前に置く。


 すると、地面に刺さっていたカグツチはカタカタと揺れる。


「揺れた……え?これだけか?」


 騎士の誰かがそう言った瞬間、カグツチから火の球のような物が大量に出てくる。


 そして、大量の火の球は一箇所に集まり、巨大な鳥の形となる。騎士達も何が起こったのか理解出来ない様子だ。


 火の鳥は周りを見た後、ノイアー達を一瞥する。 


 一瞥されたノイアー達は火の鳥が放つ異常な威圧感に尻込みする。


「貴様か?俺の試練を受ける阿呆は?」


「そ、そうだ!俺はオダ=ノイアー!お前のかつての所有者であるオダ=ノブナガの子孫だ!」


 火の鳥にノイアーは自身の名を名乗る。だが、火の鳥はノイアーに興味を示していないのか、ただ見つめているだけだった。


「それで?ノブナガの子孫が俺に何の用だ?」


「お前の新たな所有者になりに来た!これがお前の新しい器だ!来い!」


()()()。良いだろう……。だが試練を受けてもらおう!」


 それは一瞬の出来事だった。ついさっきまではアマノイワトの天井のギリギリを飛んでいた火の鳥は一瞬にして姿を消し、ノイアーに襲い掛かっていた。突然の出来事に騎士も従者も反応が出来なかった。


「ノイアー様!」


 従者はノイアーを助け出そうとするが、火の鳥の炎により近付けなかった。


 今こうしている瞬間にも、ノイアーは身を焼かれているーーー筈だった。


「待て!俺は大丈夫だ。どこも焼けていないし熱くもない」


 火の鳥の体内に居るノイアーは何事もなかった。外は火の鳥による高温により近付けていなかったが、ノイアーは熱さも感じていなかった。


「これより試練を受けてもらう。相応しき所有者には相応しき思いを見せてもらおう!」


 すると、ノイアーを包んでいた巨大な火の鳥は一瞬にしてノイアーの体内へと潜り込んだ。


「ノイアー様!ご無事ですか!」


 従者はノイアーに近付き、体を揺らす。いつもなら直ぐに反応する筈だったが、ノイアーは何も反応を示さない。それどころかノイアーは遠い所を見ていた。


「あ……あ……ああああああああああああああああああああ」


 放心していたノイアーは突然叫び、地面に蹲る。そして、ノイアーの体から炎が発生し、巨大な火の鳥へと変貌する。


「その程度の思いで俺の所有者になろうとは愚の骨頂だ!俺の所有者になりたければ炎の様な熱き思いを作ってからにしろ!」


 火の鳥はそう叫ぶと再びカグツチへと戻って行った。ノイアーの方では胸のあたりを抑えて悶えていた。


 従者はノイアーの抑えていた胸を見る。すると、ノイアーの胸の着物は焼けていた。だが、何故かノイアーには火傷の後が一つも無かった。


「ノイアー様!ご無事ですか?もしかしてあの鳥に何かされたのでは?」


「だ、大丈夫だ……。ただ試練を……試練ってなんだ?」


 火の鳥は『試練』と言葉を口にしていた。恐らくノイアーが試練を受けたと思われるが、ノイアー自身は試練の事を何も覚えていなかった。


「駄目だ……思い出せない。一体俺は何の試練をしたんだ……」


 ノイアーは試練についての記憶が全て消えていた。


「と、取り敢えず今日は城に戻りましょう。騎士さん達。今起こった事は上手く上の人達に伝えておいて下さい」


 従者はノイアーに肩を貸し、アマノイワトを後にした。アマノイワトに残された騎士達は先程起きた出来事を書類に書き留めた後、二人はヒルメティとシエラに報告をする為に走った。

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