8ー12 カグツチの異変
アルクとリラが旅館に帰った後、二人は炎の聖刀の状態について考えていた。炎の聖刀は刃毀れしている上に刀身の半分以上が錆びていた。
「それにしても炎の聖剣があんな状態になってたなんてビックリですね……。本当にアレに力なんてあるんですか?」
「確かに普通の奴らから見ればリラの考えになるだろう。だけどあの刀そのものは炎の聖剣では無いぞ」
「え?アレが炎の聖剣じゃない?どういう事ですか?アレ偽物なんですか!?」
リラは昼に見た刀が炎の聖刀が偽物である事に驚いた。確かに見た目は聖剣に見えない。だが、リラは祠にあるのが炎の聖刀の偽物だと考えもしていなかった。
「アレは本物だぞ?だけど刀が違うんだよ?」
「は?どういう事ですか?本物であって本物でない?何を言ってるんですか?」
リラはアルクの言葉が理解出来ず、眉をひそめていた。
「昔に教えて貰ったんだ。七つの聖具の中には形を持たない物が存在しているって。でも知らない奴らが多いうえに保管先が秘匿してるのが多いから秘密な」
「つまり時代によっては剣だった物が弓や盾になってるって事ですか?」
「そうだな。炎の聖刀と呼ばれてる物は刀に宿っている状態だろうな。条件は分からんが良い器を持って行ったら新しくそれに移るだろうと考えてる」
七つの聖具の秘密を知ったリラは、アルクのマガツヒを訪れてから動きに合点が行った。アルクは腕の良い刀匠に刀を打ってもらいたかった。つまり炎の聖刀の次の器を求めていたのだ。
「なるほど……。もしかして刀を打ってもらってるのはその為ですか?」
「え!?あ、ああ……そ、そうだ!刀が完成したら炎の聖刀の所に持って行こうか」
流石のアルクも炎の聖刀が実態を持たない聖具だと思っていなかった。だが、リラが上手く勘違いをしたので、アルクはその勘違いに乗る事にした。
「でも問題は新しい刀がいつ完成するかですね。スサルさんは明日完成させるって言ってましたけど本当に完成するんですかね」
「あの勢いなら本当に明日に完成させているだろう。刀を受け取ったら真っ先に炎の聖刀の所に向かうか」
「そうですね!それじゃあ先に温泉に入った後に夕飯を食べましょう!」
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アルクとリラが眠りについた頃、炎の聖刀カグツチが保管されているアマノイワトで問題が起こっていた。その問題とはカグツチが祠を突き破り、浮いていた。
この問題にはアマノイワトで監視をしていた聖騎士達も驚かせていた。
「どうなってるんだ!騎士団の方で封じているんだろ!」
「し、知るかよ!団長の聖剣で何回も試したが独りでに動くのは初めてだよ!」
「ど、どうする?無理矢理縛り付けるか?それとも魔法を強くするか?」
「何もするなよ。闇に侵食されてるとしても聖剣である事に変わりない。何もしないのが吉だ」
聖騎士は炎の聖刀を無理矢理抑えつける事を提案するが、炎の聖刀を封じている魔法陣の発動者である騎士団の方は様子見を選んだ。
しばらくはアマノイワト内を飛び回った後、祠があった位置へと戻り、地面へと刺さった。
「ほらな?団長の言い付けを守った結果誰も傷付いてない」
騎士団は剣を構えている聖騎士にそう言う。
「聖騎士の方は聖具を見ること自体初めてなんだ。警戒しても仕方ないだろ」
「そうかい。そろそろ交代の時間が来る。記憶をするなら今のうちにしておけ」
聖騎士は引き継ぎのため、炎の聖刀に何が起こったのか書き記し、監視の交代をした。
だが、アマノイワトを出るとすぐに後ろで大きな声が聞こえる。
内容はついさっき起こった炎の聖刀の謎の浮遊だ。
引き継ぎの書類を読んだ聖騎士はアマノイワトを出て、さっきまで現場にいた聖騎士を捕まえる。
「待て待て待て!炎の聖刀が勝手に動いたことを紙一枚で片付けるなよ!ちゃんと説明してくれ!」
交代をしに来た聖騎士の言葉も正しい。他国から任された任務でさえ細心の注意をする必要がある。それだけで多くの聖騎士や騎士団員は精神的に疲れている。それに加えて、気遣い無しの書類だけでの報告。
それだけでも他の聖騎士と騎士団員を怒らせるには十分だった。
「お前が現場慣れしてるって分かってるけどよ!他の聖騎士は新兵が多いんだよ!だから……分かりやすく口頭で報告してくれよ」
「そ、そうか。悪かった。ヒルメティさんとシエラ様の報告は旅館に着いたら直ぐにする」
交代の見張りにそう言うと、先に監視をしていた聖騎士と騎士団員は旅館へと戻って行った。
「お前って良く現場の方に行ってたのか?」
「そうだな……今回の遠征で新しく聖騎士になって2年が多いな。俺は6年前に聖騎士になったからある程度の問題にあった事はあるぞ。一応言っておくがアマノイワトで起こった奴も俺は結構驚いてたぞ。ただ顔に出さないだけで」
「そ、そうか」
アマノイワトを出た4人の騎士達は話しているうちに、旅館へ着いた。
「それじゃあ俺が報告しに行ってくる。また何かの縁が有れば監視になるだろ」
聖騎士はそう言うと、3人と別れ、ヒルメティとシエラに報告するために向かった。
今は夜中であるため、ヒルメティとシエラはそれぞれ用意された部屋にいるのだろうと考えていた。だが、今回は珍しく大広間の方にいた。
「ヒルメティ様、シエラ様。アマノイワトで起こった問題について報告しに参りました」
「分かった。入ってくれ」
入室の許可を受け取った聖騎士は大広間へ入る。大広間に居たシエラとヒルメティは夜中であるにも関わらず食事を取っていた。
「あれ?今日は何かしていたんですか?」
聖騎士はこんな時間に食事を取っている二人を始めて見る。
「今日はマガツヒの王と会談をしていまして。それでついつい話し込んでしまってこんな時間になってしまったんです」
「そうだったんですね。それではアマノイワトでの報告をします」
「報告?書類で処理しきれない問題が起こったのか?」
聖騎士の言葉にヒルメティは問題が起こった事を察知する。マガツヒに着いたばかりにヒルメティは騎士達にとある事を指示した。
その指示とは引継ぎの報告は基本的に書面でする事。だが、問題が起こった場合にのみ指揮官であるヒルメティとシエラのどちらかに報告する。
その指示のお陰でマガツヒに着いてから三日は報告は全て書面で行われていた。
「どんな問題が起こったんだ?盗賊がアマノイワトに押し掛けてきた?それとも魔物か?」
「炎の聖剣が独りでに動いた後、地面に突き刺さりました」
聖騎士の報告に慣れない箸を使っていたヒルメティは手を止めた。
「炎の聖剣が勝手に動いた?私の冗談が本当の事になった?」
アマノイワトを始めて訪れた帰りにヒルメティは騎士団員にとある冗談を言っていた。その冗談とは光の聖剣に足が生えて騎士団本部を歩き回っているという荒唐無稽な内容だ。
「自分はその現場に居なかったのでその冗談が本当の無いようなのか分かりません。ですが炎の聖剣が実際に動きました」
「そうか……でも聞いた報告だと被害は無いうえに闇の侵食も進んでいない。ならそのまま様子見をしておいてくれ。シエラ様は何かありますか?」
「そうですね。私もヒルメティ様と同じ意見です」
「分かりました。それでは引き続き監視と伝えておきます」
聖騎士はこれから交代するであろう騎士達に炎の聖剣についての報告へ向かった。
大広間に残された二人は止まっていた箸を再び動かす。
「それにしても驚きですね。聖剣が一人でに動くなんて」
「私も本当に聖剣が動くなんて思いませんでしたよ。これも聖剣本来の力なのか闇による影響なのかまだ分かりませんね」
聖剣が独りでに動くなんてヒルメティは考えもしなかった。そもそもあの冗談も全て光翼騎士団団長であるレイリー=ブラウンの口から出た虚言だと思い込んでいた。
「取り敢えず明日になったら一度アマノイワトへ向かいます」
「それなら私も一緒に行きますよ。この国に着いてから一度も炎の聖剣を見ていませんし」
「分かりました。それでは今日はもう寝ましょう」
「そうですね。私も今日は祈りを省きます」
「それが良いです。私はもう食べ終わったので寝ますね」
ヒルメティは食事を終え、大広間を出て、自分の部屋へと戻って行った。シエラも慣れない箸と赤くしょっぱい木の実の漬物を食べ終え、部屋に戻って行った。
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マガツヒの王城であるキヨナ城の書庫でオダ=ノイアーは歴史書を読み漁っていた。歴史書の多くはマガツヒを一代で統一し、初代国王となったオダ=ノブナガについてと炎の聖刀についてだ。
また一冊読み終えたノイアーは本を後ろに投げる。ノイアーは書庫に入った時間帯は朝だったが、今では夜中となっている。だが、ノイアー自身は時の流れを忘れてしまう程集中していた。
「殿。今日はもうおやすみ……に……。何ですかこれ?」
ノイアーを呼びに来た従者は、ノイアーの背後に積み重なっている書物に驚く。声を掛けられたノイアーはここで初めて夜になっている事に気付いた。
「もうこんな時間か。でも分かった事があるぞ」
「何が分かったんですか?」
「炎の聖刀は形を持たない聖具。つまり精霊の様な存在であることが分かった」
「なるほど?でもそれだけで何かが変わるんですか?」
「変わるさ!今の刀に宿っているカグツチを新たな刀に移せば次の所有者が誕生する!そうすれば俺もカグツチに選ばれる……。じっとしていられない!家宝であるムラサメを持って行く!今からだ!」
「い、今から!?でももう夜中ですよ?今日はもう寝て明日にしませんか?」
「善は急げだ!丁度いい!お前も付いて来い!」
ノイアーは炎の聖刀カグツチの情報を手に入れ、今すぐに行動を移すために金色の鞘に納められている刀を回収し、アマノイワトへと向かった。




