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8ー10 炎の聖刀

 マガツヒのとある場所には一振りの刀が保管されている一つの祠がある。その祠は見た目は普通だが、中には永久に燃え続けている炎に包まれた刀。そして、祠の周囲は紙垂で囲まれている。


 この場所こそが炎の聖刀カグツチが保管されている、アマノイワトと呼ばれる洞窟の中だ。


 現在、炎の聖刀は闇による侵食を受け、危険な状態となっている。前まではマガツヒ人の参拝場所として有名だったが、闇の侵食が発見されたのと同時に、陰陽連により立ち入りが禁止となっている。


 だが、国の通達により、炎の聖刀を引き抜こうとする者は立ち入りが許可されている。


 現在も炎の聖刀の管理と浄化が陰陽連も行っている。


 陰陽連とはマガツヒに存在している独自の組織であり、魔力を生まれつき内包している人々が所属することが許されている。そして、陰陽連の頭領が阿部=セーバルと言われ、初代陰陽連頭領の子孫と言われている。


 着物を着ている一人の青年が、髭を生やした男性の下へ近づく。この髭を生やした男性が阿部=セーバルであり、陰陽連最強の存在だ。


「阿部様。カグツチの容態はどうでしょうか?」


「ミリス教徒と光翼騎士団の人達のお陰で安定してきた。このまま行けば闇は浄化できると思うぞ」


「そうなんですね。やっぱり我々では闇の対処が向いていないですね」


「当然だろう。マガツヒでは闇であろうとも正しき道を行けば国や人々を守れる強大な存在となる。でも外の国だと闇は絶対的な敵として見ているからな。そのお陰もあって闇の対処法が叩き込まれているんだろうな。ちなみに俺も少量ながら闇を持っているぞ。ほら」


 セーバルは掌から闇を出し、部下に見せる。


「本当だ。でもミリス教や光翼騎士団に見せたら危なくないですか?」


「本当の事を言うと危ない。だから奴らの前では絶対に見せないようにしている。お前の知り合いで闇を持っている奴が居るなら警告した方が良いぞ」


「分かりました」


 陰陽連の青年はセーバルと話した後、用事があるのかアマノイワトを後にした。そして、アマノイワトにはセーバルのみとなる。


「お?ここが炎の聖剣が保管されているって言われている所か?」


 一人の陰陽連の人間ではない男がアマノイワトの中へと入って来る。


 どうやら、この男も炎の聖刀を引き抜くために、外の国から来たようだ。その証拠に額に角が存在していない。


「君もカグツチを引き抜く為に来たのかい?」


「そうだ!今すぐ炎の聖剣を引き抜いて歴史を名を残すためにここに来たんだ!早速抜いて良いか?」


「勿論だが……気を付けて欲しいことがある。今のカグツチは状態が不安定だ。もしかしたら腕の一本や二本が無くなるかもしれない。それでも抜きたいか?」


「当たり前だ!俺は村でも神童と言われてたんだ!剣の一本二本ぐらい簡単に引き抜いてやらぁ!」


 男の返答にセーバルは内心ため息をつく。青年は大股で祠へ歩み寄り、祠の扉を開ける。その瞬間、大量の炎が祠から放たれ、青年を包み込む。


 青年は突然の事に対処が出来なく、全身を炎に包まれる。このままでは灰となるのも時間の問題かと思われた。


 だが、何故か青年は叫び声の一つも上げない。それどころか、腕を上げて笑っている。


「やっぱり俺は選ばれた者なんだ!きっと剣を引き抜けるに違いない!」


 青年はカグツチへと腕を伸ばし、柄を掴む。だが、一向に引き抜ける気配が無い。むしろ、青年を包んでいる炎が更に強くなる。


「青年!早く離れろ!俺の呪法も限界だ!」


 セーバルは青年に離れる様に警告するが、青年は祠から動かない。


 炎に包まれても青年が平気なのは、セーバルが急拵えで発動させた魔法のおかげだ。


「ふざけるな!俺は神童なんだ!この剣は俺が持つに相応しいんだ!」


 青年は無理矢理引き抜こうと力を入れるが、それでも動かない。


「クソ!なんで……なんで抜けないんだよ!熱い……熱い!?」


 青年を守っていたセーバルの魔法は炎に耐えきれず、青年の体を焼き始める。


(燃え始めた、もうダメだな。コイツも他の奴らと同じように消えない炎に焼かれて灰になる)


 セーバルは目の前の青年が助からない事を悟り、青年に掛けていた魔法を解除する。その瞬間、炎は物凄い勢いで燃え始め、青年は灰となった。


「守れてやれなくて済まないな」


 セーバルはもう居ない青年に謝罪の言葉を述べ、灰を集め、土の中に埋めた。


 すると、そこへ陰陽連の人間がアマノイワトへやってくる。その人間は陰陽連副頭領のドーマンであり、唯一セーバルと対等に渡り合える存在だ。


「お疲れ、セーバル。もしかして今回も死人が出た?」


「そうだな。今回は俺の呪法で長続きさせたが助ける事が出来なかった」


「気に病む必要は無いぞ。あれは初代国王以来一人も所有者が見つかってないんだから」


「分かっている。だがここまで来ると本当に所有者が現れるのか心配になる。本当にお婆婆の予言はあっているんだろうな?」


「自分に聞くな。てかお前までそんな事言うと俺まで心配になる」


「そうかい。それじゃあ俺は休憩に入った後に弟子達の教育をしてくる」


 セーバルはそう言うと、アマノイワトを仲間の陰陽師に任し、アマノイワトを後にした。


「あれ?死人の後処理もしかして全部俺に押し付けた?本当にアイツ陰陽連頭領なのか?」


 ドーマンはセーバルに押し付けられた死者の埋葬から厄払いを進め、アマノイワトの中へと入って行った。


―――――――


 アルク達がスサルの下に訪れていた頃、ヒルメティ達は炎の聖剣の浄化を行うために、アマノイワトを訪れていた。


 ミリス教聖騎士と光翼騎士団の面々は本当に炎の聖剣が保管されているか疑っていた。


「此度は遠方から来て下さり感謝申し上げます。私は陰陽連聖剣管理担当の者です」


 炎の聖刀を管理していた陰陽師はヒルメティに軽く自己紹介をする。


「わざわざありがとうございます。炎の聖剣の状態はどうでしょうか?」


「正直良い状態とは思えませんね。我々陰陽師の呪法でも侵食を遅らせる事しか出来ていません」


「呪法とやらで侵食を遅らせてくれたおかげで我々がここへ来れたんです。後は私達がやりますのでご安心下さい」


 ヒルメティは陰陽師にそう言うと、騎士達を連れてアマノイワトの中へと入って行く。


 見た目は普通の洞窟だが、所々に紙垂が天井や壁に吊るされている。そして、奥には祠があり、中には燃え続けている刀が入れられている。


「あれが炎の聖刀カグツチです。元々は祠があった位置に地面に刺さっていました。今は神仏としてマガツヒの有名な参拝場所となっています」


「なるほど。ちなみに何処が闇に染まっているのか分かりますか?」


「闇が発見された当初は切先が刀特有の色から黒に染まっていました。そして今では時々黒い炎が現れてしまうんです」


 ヒメルティは祠の中に保管されているカグツチを目を凝らして観察する。陰陽師の言う通り、刀の切先は勿論、刀身も半分程黒く染まっていた。


「炎は消せないんですね?」


「今まで何度も刀の炎を消そうとしましたが無理でしたね。せっかく来ていただいたのに何も出来なく申し訳ありません」


「大丈夫ですよ。騎士団長の言葉を借りるなら気合と根性で頑張りますよ」


 ヒルメティは後ろに居る仲間達に声を掛けて、祠の周囲に特殊な魔法陣を描き始める。


 通常の魔法陣は円形の魔法陣だが、光翼騎士団とミリス教聖騎士が描いている魔法陣は四角形となっている。しばらくすると、祠を中心に四つの四角の魔法陣が置かれる。


「それじゃあ聖具用の魔法陣を発動させるから全員離れていろ」


 ヒルメティはそう言うと魔法陣を発動させる。通常の魔法陣は聖具には太刀打ちが出来ないが、この魔法陣は違う。光翼騎士団団長であるレイラーの指導の下作られた特別製の魔法陣だ。


 発動された魔法陣はカグツチから放たれる炎を吸収しながら、祠の周囲に特殊な結界を形成していく。


「しばらくはこれで様子見だな……。どうしたんですか?」


 ヒルメティは隣で魔法陣と祠を見ながら、筆を動かしている陰陽師に声を掛ける。


「外の国の魔法はこれが初めてで……。すごい……構成も魔力の場所も何もかも違う……」


 陰陽師は外の国の知識と魔法を出来るだけ多く残すために、筆を高速で走らせる。そして、書き終えたのか、筆と巻物を懐にしまった。


「凄いですね。陰陽連ですら対処できなかった炎を対処できるなんて」


「騎士団の団長が聖剣持ちなので色々と実験しやすいんですよ。取り敢えずこれで様子見をして、隙を見て闇を浄化しましょう」


「分かりました。頭領……上の人達には報告しておきますので後はゆっくりしてて大丈夫です。今日はありがとうございました」


 陰陽師は頭領であるセーバルにアマノイワトでの出来事を報告するために、陰陽連の本部へと戻って行った。


 騎士達も魔法陣やカグツチ、祠の様子を見張る為に、5人ほどがアマノイワトの残り、残りの騎士達は旅館へと帰って行った。


「それにしてもこのまま上手く行けばいいですね」


「そうだな。でも油断はしてはいけないよ。いくら祠に保管されているからって今は不安定な状況なんだ。もしかすると剣に足が生えて勝手に歩くことがあるかもしれない」


「剣に足?そんな絵本の中の話じゃないんだから。セーバル様も冗談を言うんですね」


「冗談じゃないよ?信じられないかもしれないが光の聖剣に足が生えて歩いている所を見たことがあるんだ」


「え?マジ?」


「冗談だ。話している内に旅館に着いたな。それじゃあこれからの予定について話すぞ。半日ごとにアマノイワトで見張りの交代をする。それで炎が弱まったらすぐに連絡してくるように。それと――」


「ちょっと通りたいんですど良いですか?」


 ヒルメティはこれからの事について話そうとしていると、旅館を利用しているのか、二人の人間が騎士達をかき分ける。


 ヒルメティは旅館の入り口の前に居る事を思い出した。


「すみません。お前達、道を開けてくれ」


 騎士達は道を開けると男女の二人組が旅館の中へと入っていく。


 ヒルメティは男の顔を見ると、反射的に男の肩を掴んだ。


「ちょっと!何ですか?」


「あ、ああ。すみません。知り合いと似ていたものでつい」


「そうだったんですね。いきなりで驚きました。これからは気を付けてくださいね」


 男はそう言うと女を連れて、旅館の奥へと入っていった。


「どうしたんですか?あんな事をするヒルメティ様は初めて見ました」


「お前達もすまないな。話は旅館の大広間にしよう」


 ヒルメティはそう言うと騎士達と共に旅館の中へと入って行った。

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