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8-7 旅館での安らぎ

 メグヤの勧めにより万神商が経営している旅館に泊まれることが出来たアルクとリラ。二人は最初にマガツヒで有名な温泉に入ることにした。だが、バルト王国では基本的には水浴びの上に、大勢の人と裸になる習慣が無い。


 その為、二人は個室の温泉に入ることにした。


 寝泊まりする予定の旅館の部屋は質素だがどこか上品さが感じられ、アルクとリラにとって居心地の良い物だった。そして、外には小さい庭があり、外から見えない様に高い塀も建てられ、庭の真ん中に温泉が置かれていた。


「先に入ると言い。俺は旅館を軽く見て来るよ」


 アルクの好意にリラは快く受け入れ、先に温泉に入ることにした。アルクは初めて泊るマガツヒの高級旅館の中を巡る為に、部屋を出た。


 高級旅館のお陰か、マガツヒ人以外のどこかの国からやって来た人間や竜人とすれ違う。


 メグヤにこっそりと聞いた話だと、この旅館は豪商や貴族がよく泊まる。


 つまり、すれ違う旅館の利用者は豪商か貴族のどちらかだ。


(それにしても全部綺麗だし……なんか懐かしいな)


 旅館を散策していたアルクは、旅館の隅々まで綺麗に掃除されている事に感心した。


 通路の廊下は何かを塗っているのか、光沢があり光を反射している。それのおかげで自然光だけでも明るい。それに加えて柱から天井の木にも傷一つない。


 旅館内を散策しているうちに、いつの間にか旅館の入り口に着いていた。


 夜も深くなっているのか、人通りが少ない。だが、アルクは大量の魔力を感知した。


 旅館の中でも多くの利用者が居たが、こちらへ向かっている魔力はどれも高濃度だ。


 アルクは急いで魔力を小さくして、身を隠す。しばらくすると、サムライと何人かの騎士が旅館に入ってくる。


 アルクは騎士を良く観察する。片方は聖ミリス皇国の聖騎士。もう片方はバルト王国の光翼騎士団の騎士。


(どうしてここに?もしかして炎の聖刀か?)


 アルクは気付かれないように、聞き耳を立てる。


「着きました。ここが貴方達の泊まる旅館です。後は旅館の女将が案内してくれます。それではごゆっくり」


 サムライはそう言うと旅館を後にする。それと同時に旅館で働いている女将がやって来る。


「ようこそお越しくださいました。長旅でお腹が空いていると思いますが、お先に鎧や荷物をお預かりしますのでついて来て下さい」


 女将の後ろに何人かの店員が控えており、騎士達を着替えさせるために、部屋に案内しようとする。だが、一人の光翼騎士団の騎士が反発した。


「そう言って武器や鎧が無いうちに襲うつもりなんだろ?」


 その騎士の言葉に周りの空気が冷たくなる。


「馬鹿野郎!こっちは宿を提供させてもらってるんだよ!失礼だろうが!」


「そうだぞ!早く謝っとけ!」


 周りの騎士は反発した騎士を謝らせようとしたが、女将がそれを制止する。


「謝らなくて結構です。寧ろ不快な気持ちにさせてしまって申し訳ありません」


 女将はそう言うと頭を下げる。


「頭を下げないで下さい!悪いのはこっちですから!後でアイツに厳しく言っておきますので!」


「心遣いありがとうございます」


 頭を上げた後、再び騎士達を着替え室に案内し始めた。


 魔力を極力小さくした上に、物陰に隠れていたアルクは気付かれることは無かった。だが、一つ気がかりがあった。


 それはミリス聖騎士と光翼騎士団の隊長が見当たらない事だ。ミリス聖騎士は知らないが、光翼騎士団が他国への遠征をする際には必ず副団長以上が指揮を執るようになっている。


 だが、旅館に入った光翼騎士団の中には副団長が見当たらなかった。


(光翼騎士団の紋様から見るに……第五団聖盾か。だとすると……堅牢のヒルメティだな)


 光翼騎士団は団長のレイラー=ブラウンと七人の副団長が居る。その内の一人が堅牢の異名を持つヒルメティ=トルカッタだ。


 アルクはもう少し内情を探ろうと聖騎士達の後を追いかけようとする。だが、旅館から遠く離れた位置から強大な魔力を感知する。その魔力量はアルクと同格だ。


 アルクと同格の魔力量から、魔力の主は副団長ヒメルティの物だと判断し、聖騎士達の後を追うのを止める。だが、いずれは戦う可能性のある人間でもある為、ヒルメティが旅館に来るのを待つことにした。


 しばらくすると、着替え終わった騎士達が大広間へ向かって行く。その後すぐに、料理の匂いが漂ってくる。どうやらこれからご飯の様だ。


 食べ歩きをして満腹だと思っていたが、香ばしい匂いにお腹が鳴ってします。その時、外から微かに話声が聞こえる。


「ここはマガツヒ一の商会である万神商が経営している宿です」


 どうやらヒルメティが旅館の前に着いたようだ。アルクは出来るだけ身を隠すために、曲がり角に身を隠す。


 すると、アルクの予想通りヒメルティが旅館に入って来る。だが、予想外のもう一人が居た。アルクと同じ赤目で金髪。そして、聖女の証である翼の首飾り。


 どこからどう見ても聖女シエラだ。


 ヒメルティと一緒に旅館へ来たのがシエラだと認識すると、アルクは反射的に覗いていたのを止める。


(なんでシエラがここに!?とにかく今会うのはマズイ!)


 今のアルクにとってシエラと会うのは都合が悪かった。色々と理由があるが、一つは信頼を裏切ってしまった事。二つにシエラの光が危険だという事。


 このままやり過ごせば会うことはないだろうと考え、アルクは動かないようにする。だが、運の悪い事に、旅館の女将が二人を連れてアルクの方へ向かってくる。


(まずい、バレる!でも魔法で髪色と目の色をゴマしてるから分からないはず!)


 アルクは魔法で髪色と目の色をマガツヒ人に近い色にしている。その為、対面したとしてた気づかれる可能性は低い。


 そして、遂にアルクとシエラは対面する。アルクは顔を長く見られるのは悪手だと判断し、謝るフリをして頭を下げる。


「あれ?角がないと言う事は貴方も私達と同じ外から来たんですか?」


「はい。もしかして聖女シエラ様ですか?こんな所で会うなんて……。貴方様にお会い出来て光栄です!」


 運の良いことに、シエラは対面したのがアルクだと気付いていない。


 アルクはたまたま出会っただけの青年のふりをして、そのままシエラの横を通り過ぎる。


 アルクは上手く行ったと思っていたが、ヒルメティだけはアルクから目を離さなかった。


 だが、ヒルメティが何もしないと言う事は気付かれてないという事だろう。


 何事も無く、アルクは旅館の部屋へと無事に帰れた。


「おかえりなさい。疲れているようですが何かあったんですか?」  


 温泉から上がり、髪を乾かしているリラは疲れ気味のアルクを気遣う。


「ミリス聖騎士と光翼騎士団が来てた」


 アルクは先程あった出来事をリラに伝える。


「だとしら明日にでも聖剣の所に行った方が良いですね」


「そうだな。それに聖剣の場所は既にマガツヒ全土に広まってるから朝イチで行かないと面倒な事になる……。でもこの国で色々とやりたい事があるんだよな〜」


 アルクはマガツヒでやりたい事があった。それは新しい刀の入手だ。


 アルクは今では直剣を使っているが、元々は刀を普段使っていた。その為、力の入れ具合や速さが何もかも違う。それに加えて、大陸で刀を製造している鍛治師を聞いた事も見た事も無い。


 だが、二人が今いるのは刀の名産地であるマガツヒだ。


 ここでなら黒赤刀と同等の刀が見つかる可能性がある。


「それにあいつらが一日で炎の聖刀を浄化出来るとは思えないんだよ。だから……な?良いだろ?」


「確かにご主人の言う通り一日で出来るとは思えませんね。それなら私も武器が欲しいですね」


「武器?もしかして手に付ける武器か?」


「はい。今までは拳に何も付けなくても大丈夫でしたが……最近じゃあ氣を拳に纏っても痛いんですよ」


「それなら明日に武器を探した後に炎の聖刀の保管場所に行くか」


「分かりました。それよりもご主人も温泉どうですか?予想以上に気持ちよくてびっくりしましたよ」


「そうか?難しい話は明日にしてゆっくり温泉に入るわ」  


 アルクはそう言うと着替えを持ち、温泉へと向かった。メグヤの気遣いにより温泉付きの部屋を使える為、魔法により髪色と目の色を変える必要が無い。


 温泉の場所が高い塀により外から見られない事が分かると、アルクは自身に掛けている魔法を解き、服を脱ぎ温泉へと入る。


「ああああ~……。気持ちいいィ……」


 普段、バルト王国の人々は水浴びか濡れたタオルで体を拭いている。マガツヒの様に湯に入る機会は少ない。


「今度からも風呂に入るか。でもこれから暑くなるから風呂はキツイか」


 アルクは初めての温泉を堪能し、明日からの予定を軽く考え、温泉を上がった。アルクは慣れた手つきで体を拭き、部屋に入る。


「はぁ……。流石に眠いな」


「そうですね。私はもう眠いので寝ますね……。おやすみなさい」


 リラは敷布団を引き、そのまま眠りに入った。アルクも荷物の整理や所持金の確認をした後、リラと同様に眠りに入った。

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