8ー6 海外からの救援
教皇サハルの命令により聖女シエラ含む10人の聖騎士と10人の光翼騎士団がマガツヒへ行く為に、船に乗っていた。普段船に乗り慣れていないのか、半分以上が船酔いをしていた。
シエラも船酔いに負け、吐き気を催していた。だが、聖女である手前、人前で吐くのは我慢していた。
少しでも吐き気を収める為に、教皇サハルの命令を思い出す。
バルト王国の貿易国であるマガツヒに保管されていた炎の聖刀が闇に染まりつつある。その為、闇を取り払い、聖刀の回収。
「シエラ様、体調が優れなければ魔法で浮かせますが」
船酔いのせいか青白い顔をしていたシエラを見兼ね、光翼騎士団第三副団長であるヒメルティが声を掛ける。
「大丈夫です……。それに私だけが楽をしては……いけませんから……」
「それならずっと遠くを見た方が良いですよ。そうすれば船酔いはある程度楽になりますので」
「ありがとうございます……」
ヒメルティは船酔いで顔色が悪い光翼騎士団員を見下ろす。通常ならばミリス教と共に任務をする事は無いのだが、シエラが居る為、光翼騎士団も共に任務をすることになった。
(やれやれ……。クラ―共和国の黒暗結晶で多くの団員が働いているって言うのに」
現在、多くの光翼騎士団員がバルト王国の同盟国であるクラ―共和国へ派遣されている。その理由はクラ―共和国で黒暗結晶が確認されたからだ。
聖ミリス皇国の考えと人使いの荒さに辟易しながらも、炎の聖刀の事について考えていると、マガツヒの首都であるタカマガハラに着いた。
バルト王国でも話に合った通り、マガツヒ人の額に角が生えていた。これは魔力を生まれつき持たないマガツヒ人が外部から魔力を供給するための物だ。
船を降りたシエラ達は最初に食べ物の良い匂いが出迎えてくれた。
「此度は国の危機に来て下さり感謝致す」
独特な服で身を包んだ一人の男がヒメルティに声を掛けた。顔が老けているが、服の感じから位の高いマガツヒ人だろう。
「私の名はカズルと申します」
カズルと言う名前にシエラとヒメルティは聞き覚えがあった。だが、中々思い出せない。
「外務大臣と言えば分かりますでしょうか?」
カズルの身分にシエラとヒメルティは思い出した。
「わざわざ出迎えくれて申し訳ない」
「いえいえ。それに招いたのはこちら側ですから。では早速ですが殿が居る城へと案内致しましょう。どうぞこちらの牛車へ」
シエラ達は用意された牛車へ乗り、マガツヒの国王であるオダ=ノイアーが居る城へと向かっていく。
港から出ると食べ物の良い匂いがする。船酔いで吐いた聖騎士と光翼騎士団員は、食べ物の良い匂いにお腹を鳴らす。
「タカマガハラは三つの区画がありましてね。私達が居るのは食天区と呼ばれる所です。ここはマガツヒの津々浦々の食べ物が存在しています。時間があればここに来てみてもよろしいかと」
光翼騎士団員はマガツヒの食べ物の良い匂いに負け、ヒメルティに目を向ける。
「まぁ……時間が余ったらな。今は先に任務を優先にしよう」
「そんな……副団長も食べたいんでしょう?」
「当たり前だ!こんな良い匂いに我慢出来る奴はそうそういない!」
光翼騎士団は時間が余ったらマガツヒの食べ物を食べる事にした。勿論それはシエラと聖騎士達もそうだった。
タカマガハラの独特な町並みや食べ物の良い匂いに当てながら、国王が住んでいる城へと案内された。
流石と言うべきか壁面は真っ白で、特徴的な屋根。そして一番上の屋根には鯱鉾が置かれており、壮大だった。
城の門を入れば外の喧騒は無くなり、鳥の囀りのみが残されていた。
「それではヒメルティ殿とシエラ殿はこのまま上へご案内致します。残りの方達は客間を用意しましたのでくつろぎ下さい。では御二方は付いて来てください」
カズルはヒメルティとシエラを連れて、城の最上階へ目指し始めた。
シエラは初めて訪れたマガツヒの城をバルト王国の城と比べていた。
バルト王国の城内の敷地では兵士が訓練する為の施設が存在している。だが、マガツヒの城の城内では訓練している兵士が見当たらなかった。
「マガツ城の地下には専用の訓練施設があります。そこで兵士達は訓練をしております」
「もしかして口に出ていましたか?」
「私の角は相手の考えている事がある程度分かってしまうんです。まぁ、これのお陰で私は外務大臣になれたのですがね」
「外務大臣の立場でその力は重宝します。私も時々相手の考えている事が分かればどれ程楽だった事か」
ヒルメティはカズルの持っている力を羨ましかった。ヒメルティの立場的に他国の要人と交渉する機会が多い。
その為、相手の考えている事が分かりたかった場面が多くあるのだ。
「確かに私の角の力は便利な物ですよ。でも分かりたくない物も分かってしまうので日常生活では不便なんですよ」
綺麗に手入れされた庭を通り過ぎ、ようやく二人は城の入り口に着く。遠くでも大きいと分かる城だったが、近くで見れば大きさがより一層際立つ。
「このまま上に行けば殿が居る天守閣に着くのですが、天守閣では履物を脱いでください」
「分かりました」
マガツ城の中は木造だったが、ひんやりとしており、暑かったマガツヒでは過ごしやすかった。外から見ると窓が少なく薄暗いと考えていたが、予想外に中に日差しが入っていた。
階段を登って行き、カズヤはふすまの前に立ち止まった。
「殿!ミリス教とバルト王国のお客人が参りました!」
「うむ!中に通してくれ」
マガツヒの国王のオダ=ノイアーと初めて対面した。オダ=ノイアーは天守閣から城下町を見下ろしていた。身長は意外と小さく、シエラより少し高かった。
「よく来てくれた!拙者はマガツヒの101代目国王オダ=ノイアーだ!」
オダ=ノイアーはシエラとヒメルティを気前よく天守閣の中へと招き入れた。二人は軽く自分の身分と名前を教え、天守閣の床へと座った。
「早速だが炎の聖刀の今の状態と保管場所を教えたいが……。どうやら船旅が過酷だったようだな」
「そうですね。大半が初めての船という事で結構な人数が船酔いに負けました。光翼騎士団の副団長でもあるヒメルティさんも青い顔をしていましたよ」
「え!?自分の顔も青くなってたんですか!?」
二人の仲の良さにオダ=ノイアーは感心していた。聞いた話によると二人はそれぞれ違う組織の人間だと報告にあった筈だ。
「ハハハ!少し心配だったがその様子から大丈夫なようだな!もしあれなら城下町の食天区で美味しい物を食べると良い」
「お気遣いありがとうございます。ところで炎の聖刀の様子はどんな感じなんですか?自分達が掴んだ情報だと闇に染まってるとしか分かっていなくて」
ヒメルティは炎の聖刀の状態について聞き出す。
「そうだった。今の炎の聖刀は落ち着いているな。初めて闇の発生が確認されてからそんなに変化はない。だが、念の為に陰陽師を何人か配置している」
「そんなに変わってないか……。念のため光翼騎士団とミリス聖騎士を何人か保管場所に連れて行っても大丈夫ですか?」
「それは勿論いいとも!闇の浄化に詳しい人は何人居ても悪いことは無い!」
オダ=ノイアーは炎の聖刀の状態と保管場所を二人に教えた。すると、オダは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「どうしたんですか?」
「実はな。一週間前に知らせを国中に貼ったんだ。その内容はざっくり言うと炎の聖刀の次の所有者を決めるという物なんだ」
オダの言葉に二人は困惑する。二人はマガツヒへ向かう時からずっと炎の聖刀の所有者はオダだと思っていた。
「実は炎の聖刀は初代国王だけが使えていたんだが……それ以降は所有者が現れてないんだよ。勿論拙者も試したが無理だった」
「それで苦肉の策としてマガツヒに住んでる人達を所有者にしようと考えたんですか?」
「そうだ。だが今日になるまで一人も現れてない。もしかしたらシエラ殿が選ばれるかもしれないな!ハハハ!」
その後、三人は炎の聖刀について話し合い、その後解散した。
二人は兵士達の案内の下、寝泊まりが出来るように手配された宿へ向かっていた。
「それにしても驚きましたね。炎の聖刀の所有者を見つけるために保管場所を公開するなんて。もし私が炎の聖刀の所有者になったらどうするつもりなんですかね?」
「それは自分にも分かりませんね。にしてももう夕方ですか……。流石にお腹が空きましたね。聖騎士と団員達は大丈夫でしょうか?」
シエラは炎の聖刀の心配、ヒルメティは聖騎士と光翼騎士団員の心配をする。
すると、宿への案内をしていた兵士が口を開く。
「皆様は既に宿へ案内しました。恐らく今は夕飯を食べている筈ですよ」
二人は国により手配された宿に案内される。その宿は豪邸と見間違える程素晴らしい見た目だった。
「ここはマガツヒ一の商会である万神商が経営している宿です」
万神商。この名前はバルト王国でも有名な商会だ。扱う品物と品質、保存状態が良い上に商品詐称が一切無い。
それ故、貿易で必要な検閲を万神商だけはしていない。
二人が宿に入ると、女将がお辞儀をして出迎えてくれた。
「お二人はこのまま女将と一緒に食事をしている大広間へ向かって下さい。その後は旅館の女将が色々と教えてくれるでしょう。それではごゆっくり」
案内役が兵士から旅館の女将へと変わり、二人は大広間へ案内されている。
すると、途中でシエラは身に覚えのある青年と目が合う。
「あれ?角がないと言う事は貴方も私達と同じ外から来たんですか?」
「はい。もしかして聖女シエラ様ですか?こんな所で会うなんて……。貴方様にお会い出来て光栄です!」
青年の妹はシエラにお辞儀をする。シエラも軽く会釈をして、大広間へ向かって行く。
「マガツヒで同じバルト国民に会うとは思いませんでしたね」
「はい。もしかしたら彼らも炎の聖刀目的で来たのかも知れませんね」
「お待たせしました。こちらが大広間でございます。既に食事が始まっていますが、足りなかったら遠慮なくお申し出下さい」
二人は大広間の襖を開けると、聖騎士と光翼騎士団員は楽しく食事をしていた。
「副団長!ここの料理美味しいす!」
「シエラ様も食べてみて下さい!本当に美味しいですよ!」
シエラとヒメルティは初めて見る料理に驚きながらも、楽しく食事が出来た。




