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8ー4 食と剣の国マガツヒ

「ご主人。簡単にで良いんですけどマガツヒはどんな国なのか教えて欲しいんです」


 アルクに抱えられ、飛行しているリラはアルクにマガツヒとはどんな国なのかを尋ねる。


「そうだな……。簡単に言えば食と剣の国だ」


「食と剣の国?つまり食べ物は旨いんですね!」


「そう言われているな。でも実際に行くのはこれで初めてだから本当に旨いのかは分からない。それでもう一つの剣の国って呼ばれているけどそれは事実だ」


「そうなんですか?」


「うん。バルト王国の王都に居た時に何度かマガツヒの剣を見たことがある。滅茶苦茶綺麗だったよ」


 アルクはバルト王国に展示されていたマガツヒの刀を思い出す。僅かに湾曲しており、片刃しか無い。だが、それ以上に刀身は鏡の様に景色を反射している上に、粗悪品でも鉄を斬ってしまう程の切れ味を持っている。


 現在のアルクが刀を使ったとしても、使いこなすことが不可能だ。前に所持していた黒赤刀も刀に分類されるが、レッドクリスタルと呼ばれる全ての鉱石で最高硬度と言われている鉱石のお陰で、折れずに使えている。


「でもお前は剣より食の方が良さそうだな」


「もちろんです!旨い食べ物はそれだけ人々を幸せにしてくれます!考えているだけでお腹が空いて来ました!」


「そうか?だったら早く着かないとな!」


 リラの為にも、自分自身の為にもタカマガハラに一秒でも早く着くために、飛行の速度を上げる。すると、今まで見なかった船が点々と見えてくる。そして遂には肉眼でも視認出来るほど、栄えている街を見つけた。


 あれがマガツヒの首都であるタカマガハラだ。


 アルクは面倒ごとを起こさないように、遠回りをし、森の中へ降り立つ。


「髪色は茶色のままだし魔道具も付いたままだな。良し!それじゃあタカマガハラに行くが……俺達は漂流した兄妹だからな。それは忘れるなよ」


「はい!じゃなくて分かった!」


「対応が早くて助かる。でも獣人特有の耳はどうしよう……魔道具をいじれば何とかなるか?」


 今のリラは髪色は茶色に見えているが、獣人特有の狼の耳が隠れていない。このままだと兄妹と言っても怪しまれてしまう。


「大丈夫で……だよ。氣をうまく使えば耳を隠せるから……ほら!」


 リラは体から黄金の氣を発し、頭に集中させる。すると、目立っていた狼の耳が完全に消え失せ、存在していなかった人間の耳が生えていた。


「いつの間にこんな事が出来たんだ?凄いな!それじゃあタカマガハラに行くか!」


「は……うん!」


 リラはタカマガハラに入れる事が嬉しいのか、駆け足でタカマガハラの検問所へ向かって行った。森から街道に出ると商人や旅人が見えるが、見たことの無い服を着ていた。


「兄さん。あの服って始めて見るね」


「そうだな。あれは着物って言うらしいが俺も始めて見るな」


 行商人や旅人を服を見ていると、自分の来ている服が馴染んでいない事に気付いた。街道に出てからは周囲のマガツヒ人はアルク達を不思議そうな目で見ていたが、その原因はアルクとリラの服であった。


「やあ、お兄さん!もしかして外から来たのかな?俺の名前はトモヤって言うんだ!これも何かの縁だしよろしくな!」


 行商人らしき男、トモヤがアルクに声を掛ける。見た目は子供の用だが、来ている服や目つきからアルクは年上だと判断した。


「そうなんだよ。元々はバルト王国の外れの村に住んでたんだけど……妹と釣りに出かけてたら遭難しちゃって」


「マジか!それは災難だったな!てっきり炎の聖刀を引き抜く為に外から来たのかと思ってたぜ。もうすぐでタカマガハラに着くけど……その服じゃあちっとだけ目立っちまうぞ。今なら安く売るがどうだ?」


 服を安く売るというトモヤの意図を直ぐに汲み取った。確かに今のアルクとリラの服はマガツヒ人の服と比べて全く違う。


 それよりもトモヤの口から気になった単語が飛んだが、それよりも先に服をどうにかするべきと判断した。


 アルクは目の前にいるトモヤがアルク達の様子から服に困っていると瞬時に分かる程の観察眼に驚きながらも、服をいくつか見繕ってもらった。


「毎度どうも。今着替えるならうちの馬車を使うと良い。ちゃんと隠れられるから」


「それは助かる。リラ、先に着替えると良い」


「うん!ありがとう!商人のお兄さんもありがとう!」


 リラは購入した服を手に抱えて、着替えるために馬車へ向かって行った。


「それにしてもお兄さんって……もうそんな若くねぇよ」


「え?でもまだ20代とかじゃないのか?」


「36歳だぞ?そんなに若く見えるのか?」


「マガツヒ人はどいつもこいつも若く見えて仕方ないんだよ」


 マガツヒ人は大陸の人間と比べて若く見える為、バルト王国の商人達は慎重に交渉している者が多い。何故なら若く見える為、自身よりも立場が上の可能性があるからだ。


「バルト王国の商人達も俺の事が若く見えるって言ってたな。お?あんたの妹さん着替え終わったみたいだぞ」


 トモヤは着替え終わったリラが馬車から出た事に気付く。見慣れない服装に困惑しながら歩いているリラに可愛げを感じていた。


「それじゃあ俺も着替えて来るわ」


 アルクもマガツヒの服に着替えるべく、服を持って馬車へ向かって行く。


「外の国の服も可愛いけど和服も可愛いね」


 和服を始めて着て慣れないのか、そわそわしているリラをトモヤは笑顔で言う。


「ところでお嬢さん。君はあの人の妹じゃないでしょ?」


 リラはアルクの妹では無いことが見透かされ少し動揺したが、悟られる訳には行かない為、直ぐに平常心に戻る。


 だが、それらは全て無駄だった。


「やっぱりね。警戒しなくていいよ。商人は客に対してそこまで深入りはしないし、客の個人情報を外に漏らすような三流じゃないからね。特に俺は公平公正な商売が出来れば訳アリでも関係ない」


「じゃあなんでそんな事を聞いたの?」


「単純に疑問だったんだよ。あのお兄さんには妹が本当に居る。それは間違いない。でもお嬢さんが妹って言った時に俺の角が……何というか……。そわそわしたんだよね。俺の角は嘘を付いている人に一番反応するから」


「そう……。確かに私はあの人の妹じゃない。でも私にとって家族と同等の人なの」


「じゃあ実質妹みたいな物だな」


 二人が話していると、和服に身を包んだアルクが馬車から降りてきた。


「なんか慣れないが……懐かしい感じがする。なんでだ?」


 アルクは和服にどこか懐かしさを感じていた。和服自体は初めて見た上に、着るのも今回が初めてだ。だが、何故か既視感があるのだ。


「どうだい?うちの和服は動きやすいって話題なんだよ。きっとこれも何かの縁だからいくらかは返すよ」


「本当か?それは助かる。あとトモヤ、炎の聖刀が何たらって言ってたがどういう事なんだ?」


 和服を購入する前に、トモヤは炎の聖刀について言及していた。


「ああ。マガツヒには炎の聖刀があるのは知ってるよな?つい最近になって炎の聖刀の保管場所が公開されたうえに新たな所有者を探してるんだ。引き抜けた者は遊んで暮らせる程の金が与えられるらしいんだ。興味があるならそこまで案内するが……先に宿を取った方が良さそうだな」


「そうだな。タカマガハラの案内は頼めるか?初めてなもんで何も分からないんだ」


「勿論いいぜ。あ!一応俺はタカマガハラで有名な店の店長なんだが……武器も取り扱っているぞ」


「武器なら大丈夫だが……しばらくは俺ら二人で動くから大丈夫だ。もしなんかあったら店に行って頼らせてもらうよ」


「別に良いぜ?ちなみに店の名前は『万神店』って名前だ。それじゃあ縁に恵まれる様に祈るわ。店の場所については人に聞けば良い。そんじゃあな」


 トモヤは自身の経営している店の名前を教え、タカマガハラへ入って行った。行商人の筈だが、検問所の警備兵達は荷物の確認もせずに通過していく。


 トモヤだけが特別なのか、それとも特殊な権限を持っているのか謎だったが、アルク達は異質な者と捉えられない様に、列に並ぶ。


 そして、アルク達の番になり、荷物の確認や訪れた理由を尋ねられた。


 アルクとリラはマガツヒ人ではない為、額に角がない事から、警備兵は外の国から来た人間だと簡単に判断出来た。


「炎の聖刀の所有者を探してるって噂が故郷の村まで来てな。ちょっと興味があって妹と来たんだ」


「そうか……荷物も特に問題無い。入って良いぞ!くれぐれも問題を起こすなよ?起こしたら外の国の人間でも牢獄にぶち込むからな」


 タカマガハラで問題を起こさない様に釘を刺されたアルク達は問題なく、マガツヒの首都であるタカマガハラへ入る事が出来た。


 バルト王国やドラニグルでは煉瓦造り、アニニマでは砂岩の家が目立ったのに対して、タカマガハラでは木造の建築物が並んでいた。


「まさに和風だな」


「ん?和風ってなんですか?」


「和風ってほら……あ?和風ってなんだ?」


 アルクは反射的に自身の口から聞き覚えの無い単語が出た。反射的に自身の口から出た単語にしばらく困惑していたが、最終的に闇の本体であるアレスの記憶が混ざったのだと結論付けた。


「それにしてもあちらこちらから良い匂いがしますね!宿を探しながら食べ歩きしませんか?」


 リラの提案に普段のアルクなら後回しにするが、至る所から食べ物の良い匂いに食欲が逆らえなかった。


「そうだな。流石にこれだけ良い匂いがしたら食べ歩きでもしたいな。金は問題無いと思うが、一応多めに渡しておく」


「はい!それじゃあ沢山食べましょう!」


 リラは嬉しそうにしながら、良い匂いに釣られて商店街の中へと入って行った。



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