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7ー40 帝都での一幕

 アニニマで起こった騒動から一週間が経った頃。騒動を引き起こした中心人物であるマシュは上の人間に報告するための書類を書いていた。


 すると、マシュの部屋の扉が叩かれ、一人の執事が入って来る。髪は白髪で初老の男性で細身だ。


「エビル様?どうされましたか?」


「アニニマでやった事を聞きたくて。座ってていいですよ。それで?マシュが作った闇を発生させる装置はちゃんと動いたんですか?」


「はい!ちゃんと動いただけじゃなくて神獣にも効果的でした!」


「それは素晴らしい!これなら闇の王の目覚めに一歩前進しました!ところで今は無能達に報告する書類を書いているんですか?」


「はい……本当に面倒で……。エビル様ならあのデブを操って上手く言いくるめれるんじゃないんですか?特に元老院は皇帝とズブズブですし」


「私も出来ればそうしたんですけど……保守派の馬鹿どものせいで中々上手く行かないんですよね」


「そうなんですね……レジスタンスはどうですか?」


 レジスタンス。その言葉を聞いたエビルは怪訝そうな顔をする。


 現在、マシュとエビナがいるニハル帝国では暴政により苦しめられた帝国の住民が反旗を翻している。その集団がレジスタンスであり、ニハル帝国内で暴政に苦しんでいる人々の為に活動している。


 主に豪商から金持ちの家を襲い、その財産や食料、武器を盗み、一部はレジスタンス用。もう一部は暴政に苦しんでいる人々に分け与えている。


 まだ、帝国の住民が反旗を翻しているだけならまだマシだが、現在のレジスタンスでは数多くの貴族や宮廷から離反した元皇族も所属している。そのせいでレジスタンスが結成された9年前と比べて武力と人員が大幅に上がっている。


「テウロも帝国陸軍を使って駆除しているんですがね。隠れるのが上手いみたいですね」


「それなら僕の妹であるウェルシを頼ってみては?あの子は闇の扱いに長けている上に感覚が鋭いです。その証拠にあの子は帝国最強の剣豪と呼ばれていますから」


「そうしたいのは山々だが……ウェルシはどこにいるんですか?前に集合してから一切見ませんが」


「あの子は……その……」


「言いにくいなら言わなくて良いですよ。ウェルシも忙しいのでしょう」


「そうじゃなくて……グエル雪山に居ます」


「はい?」


 マシュの言葉を聞いたエビナは自分の耳を疑った。グエル雪山とはニハル帝国の近くに位置する雪山だが、環境が過酷であり人が住めない地域となっている。それに加えて、生存競争を生き抜いた強力な魔物や魔獣が住む雪山であり、非常に危険や雪山となっている。


「何故グエル雪山に……あ~。予想は付きましたが……いつ帰るか分かりますか?」


「今帰って来たよ!何か私に頼もうとしてるの?」


 マシュの扉が勢いよく開かれ、そこには黒髪の元気そうな笑顔をしている少女が居た。ある一部を除いてはマシュと同じく普通の子供に見える。だが、とある一部で普通の子供とは違う所がある。


 それは服に大量についている赤いシミと右手に魔物の頭、左手に少女と同じ大きさの巨大な剣。


「ウェルシ……服が汚れるのは面倒だっていつも言っているだろ?」


「えー!だって楽しくてしょうがないんだもん!それに……見てよこれ!マンティコアの変異種!これがあればお兄ちゃんの配合も一気に進むでしょ!」


 ウェルシは興奮しているのか、エビナの存在に気付かないままマシュとの会話に集中する。だが、ある程度興奮が冷めると、エビナの存在に当然気付く。


「え、エビナ様!?いつからそこに!?」


「ウェルシが帰ってくるまでずっといましたよ。所で貴方に協力してもらいたいんですが……よろしいですか?」


「も、もちろんです!それより先に着替えてよろしいでしょうか?エビナ様も……お兄ちゃんも臭いでしょ?それじゃあ!」


 ウェルシはエビナにみっともない姿を見られて恥ずかしいのか、耳を赤くしながらシャワー室へ向かった。


「それじゃあ僕の方から色々と言っておきますね。それと回収した闇の一片はちゃんと受け取りましたか?」


「はい。ちゃんと受け取りましたよ。それにしても一片とは言え神の闇は凄いですね。これから王の復活に大きく進歩しますよ」


「それは良かった。それじゃあ僕は新しい魔具の制作を進めますね」


「それじゃあよろしくお願いします」


 エビナは用事を済ませマシュの部屋を出ようとした時、マシュは何かを思い出したような声を出した。


「エビナ様。アルクと呼ばれる人間はご存知ですか?」


 マシュの言葉を聞いたエビナは動きを止め、マシュを振り返る。


「アニニマでアルクに出会ったのですが闇を使うにも関わらず邪魔をして来たんですよ。それにあいつの仲間に竜人と獣人もい……て……エビナ様?」


 マシュは扉から威圧感を感じ、後ろを振り返る。すると、温和な表情から想像できない程の闇を放出していた。


「お兄ちゃん!大丈夫!」


 シャワー室から急いで出たのか、体にタオルを巻いたまま巨大な剣を構えて警戒していた。


「マシュ。アルクは裏切り者です。今後一切奴の名を出す事を禁止します。ウェルシも例外ではありませんよ。では」


 エビナは脅迫するようにマシュとウェルシに言うと、部屋を出て行った。


「エビナ様……なんか怖かったな」


「そうだね……てか水凄い!早く体拭いてよ!床濡れるし風邪ひくよ!」


「ごめんお兄ちゃん!」


 ウェルシはまだ自分の体が濡れている事を思い出し、再びシャワー室へ戻った。


「上に報告する書類も全部書き終えたし……ウェルシがもっと動けるような魔具を作りますか!」

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