7ー39 伝わる想い
カリキナから手紙を受け取ったアルクは宿に戻り、眠る準備をしていた。だが、手紙の内容がどうしても気になり、クプ二村で読むつもりだったが、宿で読むことにした。
カリキナから受け取った手紙は全部で二枚あり、一枚目は光翼騎士団団長のレイラー=ブラウン、二枚目はバルト王国国王のバレル=スキルニング。
アルクは最初にレイラー=ブラウンの手紙から読むことにした。
『アルクへ
この手紙を読んでいるという事はどこかの宿場町で私の影と出会った事だろう。今の状況は知らないが君が元気でいる事を祈るよ。
早速だが近況報告をさせてもらう。既に影からは黒暗結晶を発見したとの報告が受け取った筈だ。だが、それだけだと何も分からないだろうから詳しく記そうと思う。
光翼騎士団が見つけた黒暗結晶はバルト王国の隣国であり同盟国であるクラ―共和国の大洞窟にあった。既に規模はとてつもなく、自国の浄化技術では対処しきれない程だった。そこでクラ―共和国は光翼騎士団と聖ミリス皇国に援助を要請した。そして現在は少しずつであるが、闇を取り除けている状況だ。このまま行けば黒暗結晶を消滅させることが出来るが、必ず何かしらの妨害を受ける可能性がある。だが、私もこの手紙を書いている段階でクラ―共和国に滞在している。何かしらの異変があった場合、直接私が行くことが出来るからある程度の妨害は排除することが出来る。
近況報告はこのぐらいにしてここからは個人的な内容となる。まさか君がここまで強くなるとは思わなかった。初めて会った時は弱かったのに、今では黒龍を撃退できるほどの実力者だ。それに君は世界の敵になる事を選んだ。君は本当にすごい人だ。だが、これだけは言わせてくれ。光翼騎士団にも君の味方は大勢いる。もし心が折れて無理だと思った時、私達を遠慮なく頼ってくれ。全力で答える。例え全世界を敵に回してもね。手紙の内容はここまでにしよう。それじゃあ元気でね。
レイラー=ブラウンより』
レイラーの手紙を読み終えたアルクは少し感動を覚えていた。手紙の最後に書かれていた『味方は大勢いる』と言う文。それを見るだけでアルクは涙ぐんでしまう。だが、感動は直ぐに収まり、光翼騎士団と聖ミリス皇国が手を組んで浄化している黒暗結晶について考える。
最初に黒暗結晶が発生したクラ―共和国は保守的な国であり、他国や同盟国への要請は滅多にない。だが、黒暗結晶が発生してしまっては他国に頼るしかないのだろう。
アルク自身もクラ―共和国の判断は正しいものだと考えていた。レイラーはアルクが出会った者の中でかなりの実力者であり、光の操作に関しては今の所アルクの中では一番上手いと思っている。
(まぁレイラーとミリス教徒が居るならある程度は行けるだろう。これはそっちに任せるとして……バレル王の手紙を読むか)
次に、バルト王国国王でありバレル=スキルニングの手紙を読むことにした。
『これを読んでいる頃は何かしら他国で暴れまわっている事だろう。色々と報告したいことがあるが大事な物だけを記そうと思う。
最初にシエラがスキンティア学院を卒業した。アルクも知っている通りスキンティア学院は四年制の学院である。だが、シエラは二年生で卒業条件をすべて満たしてしまった。これには私も驚いてしまった。しかしシエラ自身にも何か目標があるのだろう。この手紙を書いている段階ではバルト王国の姫として様々な国々へ赴いている。もしかするとどこかで会う可能性がある。十分に気を付けてくれ。
次に他国の事だ。最近ではニハル帝国が様々な工作をしている。事実少し前にバルト王国でニハル帝国のネズミを捕まえたばかりだ。アルクも知っていると思うが、ニハル帝国は10年前と比べて何もかも違う。軍部も経済もやり方も。捕まえたニハル帝国のネズミによれば生物兵器を開発しているそうだ。近々戦争が起きる可能性が高い。もしかすると何処かで既に始まっているかもしれない。戦争が起きても君は君のやるべき事をしてくれ。私は君の選択がどうあれ応援している。
最後は個人的な話になる。10年前、君は世界の敵になる事を選び切れなかった。だが、半年前に世界の敵になる事を選んだ。君の選択は修羅の道である事は私も知っている。だから辛かった時は遠慮無く私達を頼ってくれ。私も妻のサフィーナも全力で支援する。』
手紙はここで途切れている。バレルの手紙を読んだアルクは嬉しさと焦りが同時に浮かんでいる。
(卒業したのか……やっぱり頭が良いな。にしてもなんだ?生物兵器?ニハル帝国は何を企んでいるんだ?)
アルクは帝国の動きに焦りを感じていた。バレルの手紙に書いている通りに戦争が起きた場合は色々と面倒になる。
それに加えてニハル帝国の軍事力は10年前と比べて比にならない程上っている筈だ。現にアニニマに侵攻したニハル帝国軍はほんの一部でしかない。
アルクは手紙の内容を確認しながら、これからの動きについて考えていると、頭に何かがのしかかる。
上を見ると見慣れている赤く光る六つの目があった。
「白蜘蛛?どうしたんだ?」
「寝ないノ?外は静かなのニ」
アルクは窓から外を見る。夜市の影響で賑やかだったが、夜市が終わった事により静けさだけが残っていた。
「そうだな。難しい事は明日考えれば良いもんな」
そのまま、頭にのしかかっている白蜘蛛を抱えながら、ベットの中へ入って行き、眠りに着いた。
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「バレル。少し良いか_」
夜も更けた頃、バルト王国国王であるバレルの部屋の扉が叩かれる。声の主は剣聖と呼ばれるのと同時に光翼騎士団団長であるレイラーの者であった。
だが、バレルは警戒していた。レイラーは他国にも名声が響き渡る程有名であり、声の真似など簡単に出来てしまう。つまりレイラーの声真似をした刺客の可能性があるという事だ。
バレルは魔法をいつでも放てるように杖を右手に持ち、左手で扉を開ける。そこには刺客ではなく、正真正銘のレイラーが居た。
「俺の影から報告が来た。ちゃんとアルクに手紙を渡すことが出来たようだ」
「本当か?だったら早く入れ。この会話が外部に漏れたらまずい事になる」
レイラーを部屋へ入れたバレルは紅茶を作り、レイラーに渡す。バレルから紅茶を受け取ったレイラーはフッと声を鳴らす。
「国王が紅茶を淹れてくれるとはな。貴重な経験だ」
「気にするな。で?アルクはどうだったんだ?」
「どうって……会ったのは俺ではなく影の方なんだがな。影に寄れば元気みたいだ。でも闇がより一層濃くなっていて近くに居るだけで精神が削られるとか言ってたな」
「そうか。元気そうで良かったが……アルクがアニニマに行った事は知っているか?」
「アルクが?まだその情報は知らない。教えてくれ」
バレルはセイラから伝えられた事をそのままレイラーに伝える。
全てを聞き終えたレイラーは考え込む。レイラーの考え事はバレルにもある程度分かっていた。
「闇を発生させる装置と軍事侵攻……。その内帝国は馬鹿でかい大事を起こすぞ」
「分かっている。だから国境警備に人員を増やしたんだ」
「そうか。そろそろクラー共和国に戻らないと部下達に何言われるか分からんからな。これからの事は知らないが全力で対処させてもらう」
「そうか。なんなら物資をある程度渡そう。クラー共和国は同盟関係である程度貸しを作りたいんだ」
「それは助かる。それじゃあな」
レイラーはクラー共和国に出現した黒暗結晶の浄化の為に、バレルの部屋を出て行った。
「はぁ……そろそろ出て来たらどうだ?お前はいつまでもレイラーが苦手なのだな」
バレルは一人になった部屋の中で声を出す。すると、誰もいなかった筈の窓の横に人が現れる。
「気を利かせて申し訳ありません。私はいつまでもレイラー様が苦手ですよ。それよりアルク様が元気そうで何よりです」
窓の横に現れた人間は霞を纏っているのか、体が背景に溶け込んでいる。
「それよりも帝国はどうだ?アニニマで起こった事は既に聞いているだろ?」
「そうです。それにしても大変でしたよ。取り敢えずこれが帝国の軍事力の全てですが……アニニマの話が本当ならこれの倍は覚悟した方がよろしいかと」
「そうか。それでは引き続き帝国を探って来てくれ」
「分かりました。あ!もしかしたらアルク様に会う機会があるかも知れません。伝言があればお伝えしますが」
「そうだな……余らせ追い込みすぎるな、と伝えてくれ」
「分かりました。それでは」
男がそう言うと、体は霞のようになり、消えて行った。




