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7ー38 休息

『速報!獣人王朝アニニマにて新たな王が誕生!』


 大きく見出しが掲載されている新聞は全ての国々に広まった。少し前までは前獣人王であるラクジャを知る者は突然の代替わりに驚いていた。


 それに加えて、アニニマで起こった大騒動はベヒーモスの大量発生が原因であるとミリス教の聖剣部隊は情報操作をすることで、余計な混乱を招く前に沈めることが出来た。


 アニニマでも本来なら新たな王の即位を記念して、盛大な祭りごとが開かれる。だが、始祖神獣の闇や帝国軍の介入により、祭り以前の問題となっている。


 帝国軍が侵攻の為に樹海は焼き払われ、アニニマを囲っている樹海の四分の一が燃え堕ちてしまった。それに加えて、始祖神獣の闇が暴れた事により、主に陽獅族領が壊滅状態となってしまった。


 その為、継承式は素早く必要最低限の獣人だけで行い、その後すぐにアニニマの復興の為に動き始める。


 始めの三日間は未だに燃え続けている樹海の消化だ。これは水中に住んでいる海豚族の水操作に特化した氣を使い、燃えている樹海の消化。それでも無理な位置にある炎では空を飛ぶことが出来る空鳥族によって消化されている。


 それ以外の部族の獣人は滅茶苦茶になったアニニマ国内の整備だ。帝国軍により大量の爆撃に加えて、始祖神獣の闇が暴れた事により、太陽城だけでなく周辺地域が見るも無残な姿となっている。


 海豚族と空鳥族以外の全ての衛兵を総動員し、獣人の仮住居、食料不足解消の為の食料調達などやるべきことが大量にあった。


 だが、一番の激務をしていたはアポロンだった。同盟国にアニニマの新たな王となった事を知らせる為の大量の書類や獣人達の戸籍の整理などやるべきことが多かった。


 アニニマの大騒動から一週間が経った頃、燃え続けていた樹海の炎は全て収まり、家を失った全ての獣人達に仮住居を提供することが出来た。


「王よ。そろそろ休まれては?」


 アポロンの側近となった銀虎族族長であるラプターは、アポロンを心配していた。王に即位してから一週間は寝る時間は殆どなく、アニニマを統治するためにひたすら業務を行っていた。


「無理だ……まだまだやるべきことが大量にあるんだ。寝る暇は暫く……。あれ?ラプター、なんでお前が二人居るんだ?」


「ほれ見ろ!もう限界なんだよ!今すぐ寝ろ!寝れないなら俺が寝かせてやろうか?」


 ラプターはアポロンに見せつける様に拳を突き出す。元々は無理矢理気絶させて休息を取らせる予定だったが、もう予定などは気にしている余裕は無かった。


「分かった分かった。それじゃあ俺は寝るが……後はーー」


「任せろ!これでも10年以上族長をやってんだ!これぐらいの執務は出来る!」


「そう……か……。それじゃあ……頼ん……」


 アポロンは話している途中だったが、頭が完全に落ち、気絶したように眠りに落ちた。


「さてと……まずは国を建て直すのに金が欲しいが……やっぱり……」


 ラプターはアポロンが作業していた書類に一通り目を通す。全体的に現在のアニニマは財産が不足していた。元々は国の特産品であった酒の売買や砂漠、樹海特有の果実を外国に売っており、莫大な財産を保有していた。


 だが、帝国の攻撃により、太陽城の地下に保管していた莫大な財産は大半が焼失し、価値が無くなった。


 残った財産は周辺諸国から建材や医療品、食料の大量購入などで資金が底を突きかけていた。


(どうするべきか……このままでは確実に金が無くなる。借りるのは最後の手段だが……)


 ラプターは書類に書かれている財産の数字と格闘していると、執務室の扉が勢いよく開かれる。


「困りごとはうちに任せると良い!」


 執務室の扉を勢いよく開けたのはセイラだった。戦いが終わってからは傷の治療の為に動けなかったが、一週間も経てば動いても問題ない。


 突然の来訪にラプターは驚いたが、一番驚いたのはアポロンだった。いきなり執務室に響く大きな声は、アポロンにとっては敵襲だと判断したのか、椅子から飛び降りていた。


「お、落ち着けアポロン。敵じゃない。お前はまだ寝てて構わないから……」


「そう……か」


 突然来訪してきた者が敵ではないと理解したアポロンは今度は隣のベットに倒れ込んだ。


「話は外でしよう。ここに居るとアポロンの邪魔になる」


「分かった」


 二人はアポロンの眠りを邪魔しないように執務室の外で話すことにした。


「それで?話は何だ?」


「ミリス教の教皇と話をしたんだ!その結果必要な物資を大量に送ってくれるそうだ!」


 大量の物資を送ってくれる。これは危機的な状況であるアニニマにとっては素晴らしい報告だ。だが、王の側近となったラプターは喜びではなく警戒をしていた。


「で?見返りは何だ?」


「見返りは……教皇の話だと要らないそうだ」


「は?」


 セイラ……教皇の返事にラプターは驚いていた。教皇がいる聖ミリス皇国とアニニマとはとても離れており、物資の輸送にかなりの時間が掛かってしまう。


 だが、近頃の聖騎士達は広場に巨大な転移魔法陣を描いていた。魔法を使えないラプターでも聖騎士達が大掛かりな転移魔法を発動させようと理解していた。


 つまり、相当な人員と物資を寄こしてくれるのに見返りが無いことがおかしいのだ。


「教皇の考えは私には分からないが……なんとなくは分かるような気がする」


「なんだ?教えてくれ」


「多分だけど始祖神獣の解放関連だと考えている。ミリス教の教えは全ての始祖神を敬っているから、その影響なんじゃないかって思ってるんだ」


「そうか……何はともあれ物資の提供は助かる。物資の輸送は任せる。アニニマに届いたら報告してくれ」


「分かった……所でアルク達はどこに行ったか知らないか?」


 セイラはアルクの事が気になっていた。聖騎士達に掛けられていたアルクの呪いは強固であり、解呪するのに二日も使っていた。


 援護に来た狂信の隊長であるアルフレッドの話によると、追跡していた狂信の一人が気絶させられていたそうだ。


「済まないな。それに関しては俺達は何も知らないんだ」


「分かった。それじゃあ私は転移魔法陣の所に戻る。それじゃあ!」


 セイラは転移魔法の準備を進める為に、持ち場へと戻って行った。


「あ!ラプター様!ここの問題が……」


「分かった!すぐに取り掛かろう!」


 ラプター自身もアポロンの負担を軽くする為に、問題が起こった所へ向かって行った。



――――――――――


 アニニマから逃げて来たアルク達は途中の宿場町で休んでいた。


 魔力が無いのもあるが神との戦いで、アルク達全員の精神が擦り切れており、想像以上に疲れが溜まっていた。


 幸いな事に見つけた宿場町は食事が美味しいと評判が高かった。それだけでなく、温泉と呼ばれる珍しい施設があるお陰で、十分に休む事が出来た。


 そして、アニニマから抜け出して来てから四日が経った頃、宿場町にもアニニマの新たな王がアポロンである事を知らせる新聞が出回った。


「後の事はアイツらに任せるとして……リラは何もしなくて良かったのか?まだまだやりたい事あっただろ?」


 夕飯を取っているアルクは、やり残した事があるであろうリラに声を掛ける。


「やり残した事ですか……まぁ沢山ありますが大事な物は既に解決しています」


「それなら良かった。明日には体力も魔力も擦り減った精神も回復しているだろう。昼頃には転移魔法でクプニ村に戻る予定だ。買い物は夜市が開いている今にしておけよ」


 夜市。アルクのこの言葉にイレナは反応する。


「えっと……夜市は何を売ってるんだ?」


「ん?なんでも売ってるぞ。食料も武器もアクセサリーも化粧品も」


「本当か!それじゃあ早く行かないと!リラも行こう!」


「は、はい!それじゃあご主人。また明日」


 二人は立ち上がると凄い勢いで宿を出て、夜市へ向かった。


(まぁあの二人が買うのはアクセサリーと化粧品が殆どかな)


 アルクはクプニ村で化粧の練習をしているリラとイレナを何度も見た事がある。


 最初は素人のアルクでも分かるほど下手だったが、今では見違える様に綺麗になっている。


「それじゃあ白蜘蛛。俺らも必要な物を買いに行くか」


「美味しイゴハンが良い!」


 夕飯の会計を済ませたアルクは白蜘蛛を連れて、二人の後を追う様にして夜市へと向かった。





 買い物が終わった三人と一匹は宿で合流した。


「良い物は見つかったか?」


 アルクは良い買い物が出来たのか、明るい顔をしているイレナとリラに聞く。


「そうなんだよ!特にこの化粧品を見てくれ!」


「詳しくは言わなくて良い!化粧品にはそれ程興味が無いんだ。それと白蜘蛛を連れて先に宿に戻っててくれ。まだ気になった物が色々とあってな」


「分かりました。それじゃあ白蜘蛛、おいで」


 リラは白蜘蛛を抱き抱えると、イレナと共に宿へ戻って行った。


 アルクは夜市へと再び向かって行ったが、今回は路地裏へと入って行く。


 すると、そこにはローブを纏い、顔を隠している怪しい人間がいた。


 本来のアルクならば警戒していたが、今回は警戒もせずに友達の様な感覚で歩み寄る。


「気付くのが遅れて済まない。案内してくれ」


 アルクがそう言うと、ローブの人間は短く頷き、とある建物へと入って行く。


「ここは防音性能に優れている。だからいつもの声音で話して構わない。アルク、元気だったか?」


 ローブの人間はそう言いながら、頭に被っていたフードを取る。


「勿論元気さ。カリキナこそ光翼騎士団の人間なのにこんな所に居て怪しまれないのか?」


「当たり前さ!何せ俺はあの方の影だからな!」


 カリキナと呼ばれた男は笑いながら、アルクの肩を叩く。ローブの隙間から光翼騎士団の証である紋章が見え隠れしている。


「それじゃあ早速近況報告をするぞ。光翼騎士団(うち)は相変わらず闇の再出現に警戒をしている。少し前まではバルト王国の騎士団だったから余り他国に干渉出来なかった。だけど二ヶ月前からある程度の行動許可が出た。その結果……なんと!黒暗結晶を見つける事が出来た!」


「本当か!」


「本当だとも!詳しい事はこの手紙に書いてある。因みに一枚目はバレル王、二枚目はレイラー団長の手紙だ。それじゃあ俺は本国に戻る!久しぶりに話せて楽しかったぜ!じゃあな!」


 カリキナはアルクに手を振ると、光の粒子となって消えて行った。


「嵐の様な人だった。まぁ手紙はクプニ村に戻ってから読むか」


 アルクは手紙が傷付かないように、収納魔法の中に入れ、宿に帰って行った。

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