表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/271

7-36 沈む太陽昇る凶星6

「やめろ!俺様を吸収したら貴様の体は耐えられず死ぬぞ!」


「やってみねぇと分かんないだろ!」


 自身が吸収されることを恐れた黒いファタンは、必死に抵抗する。だが、神としての力も氣も保有していない状態での抵抗は無駄だった。


「クソがあああ!ならば!一人でも多く!」


 黒いファタンは最後の抵抗として、一人でも多くの獣人と人間を殺そうと、周囲に闇の光線を放つ。最悪な事に黒いファタンの攻撃によって、気絶させられた獣人と聖騎士の殆どが気絶から戻っていない。


 このままでは黒いファタンの思惑通りに、多くの者が死んでしまう。だが、アルクはそこまで焦っていなかった。


「私が仲間を見殺しにすると思うか!」


 一人の女性が上空へ羽ばたき、光でアルクごと黒いファタンを囲む。それも一枚だけでなく、さらに多くの光が重ねられていく。


 その光の主はセイラと翔太達であった。どうやら、翔太達は古代遺跡から急いで走って来たのか、息を荒くしていた。


 アルクは心強い協力者が増えた事に価値を確信し、口角を上げる。だが、油断はせずに、吸収のスピードを更に上げる。


「ハハ!往生際が悪いぞ!このまま俺に吸収され……っ!」


 突然、黒いファタンとアルクを囲っていた光に強い襲撃が走る。外の様子を確認しようと上を見上げる。すると、爆炎と共に黒煙が発生する。


 アルクはこれに身に覚えがあった。身に覚えしかない。


 それは帝国軍だ。帝国軍は帝国に帰ったのではなく、妨害をするために国境付近に留まっていたのだ。


「あんのハイエナ共が……。マズイ……光が!」


 帝国軍の爆撃だと気付いたアルクは、怒りと共に焦りが湧いてくる。帝国軍の幾度の爆撃により光にヒビが入り始めている。


 セイラは爆撃を防ごうとするが夜明けという事もあり、砲弾が太陽光に紛れ、撃墜することが出来ない。


 アルクは闇の吸収を早めようとするが、黒いファタンが口に闇を集め始めている事に気付く。この闇の濃度であれば、今の光は簡単に破られてしまう。


「セイラ!どうにかしろ!」


 帝国からの爆撃に対処して貰おうとセイラに言うが、アルクの声は爆撃音のせいでセイラに届かなかった。


「帝国の人間よ!誉めてやろう!」


 遂に黒いファタンの口に溜めていた闇を一気に放つ。幾度の爆撃で弱くなっていた光は簡単に破られ、外に居る聖騎士と獣人達を襲う。


 アルクは黒いファタンの背中に回していた腕を頭に回す。そして、そのまま頭を強く叩く。狙いは全て外れ、瓦礫などは被った者は居たが、直撃した者は居なかった。


「アポロン!そこから離れろ!」


 ハリスの声が聞こえ、アルクはアポロンが居るであろう太陽城城門を見る。


 帝国の爆撃により原型は失っていたが、辛うじて立っていた城門だった。だが、先程の黒いファタンの攻撃により、足場を失った太陽城城門は崩れ始める。


「良い加減に消え失せろ!」


「せめて一人だけでも殺す!」


 誰も死なせる事なく終わらせたいアルク、一人でも多く殺してから終わりたいファタン。

 

 二人の取っ組み合いは激しくなり、遂にアルクはバランスを崩し、黒いファタンから降ろされてしまう。


「これが最後だ!」


 黒いファタンは城門の瓦礫に埋もれているアポロンを殺す為に、再び闇を口に集める。今度は闇を吸収するアルクがいない為、闇の濃度はとてつもなく濃く、アルクが動くよりも先に闇が放たれてしまう。


(だ、誰か……動ける奴は!)


 アルクは周囲を見渡すが、仲間は帝国の砲撃により足止めされてしまっている。頼める余裕が無いと判断したアルクだったが、今から動いても間に合わない。


 確実に死んでしまう。そう思ったその時。


「アポロン!」


 ラクジャは息子を守る為に、アポロンの前に立つ。だが、そのままでは確実にラクジャの体を貫通し、アポロンに直撃してしまう。


 ラクジャはその事を知っているのか、陽喰族の力を極限まで高め、自身に纏わせる。


「そのまま親子共々死ぬがいい!」


 黒いファタンは自身の勝利を確信したまま、アルクによって完全に吸収される。だが、黒いファタンの闇は消える事なく、二人に迫る。


「駄目だ!死ぬのは俺だけでいい!だから父さんは逃げろ!」


 アポロンはここで死ぬのは自分だけで良いと判断した。


 帝国に操られていたとはいえ、王になる為に様々な研鑽をしていたラクジャを生き残らせるべきだと考えたからだ。


 だが、ラクジャは退かない。


「逃げる?ふざけるな!もう二度と息子を失わない!二度と逃げない!俺は!全員を守る!」


 ラクジャはそう言うと、高速で迫り来る闇を両腕で受け止めた。


 これだけの質量と濃度ならば触れた途端に大爆発を引き起こす程だ。それ程の規模の闇をラクジャが受け止めたのだ。


 だが、受け止めたラクジャにもかなりの負担が掛かっていた。全身のあらゆる血管が破裂し、身体中から吹き出し始める。


 既にラクジャの体は限界を迎えている。だが、それでもラクジャは諦めるわけにはいかない。


「俺が……俺が!家族を守る!失わせない!二度と!」


 ラクジャに残っている陽喰族の力を極限まで高める。その瞬間、視界が真っ白に光った。


(な、なんだ!?敵か……。それより闇はどこに行った?)


 ラクジャは目の前にあった闇が消えている事に気付き、周囲を見渡す。そして、信じられない物を見た。


 自分が居たのだ。黒いファタンにより放たれた闇を受け止めてた自分が。それだけじゃない。時が止まっていたのだ。


「どうなってるんだ!なんで俺が……そもそもこれは……時が……」


「初めまして。162代目獣人王ラクジャ=アサド」


 止まった時の中で突然声を掛けられ、ラクジャは慌てて振り返る。そこには真っ白な装飾がされた椅子に座りながら紅茶を飲んでいる白い獣人が居た。


「何をしているんだい?お茶を飲むんだろ?座りなよ」


 白い獣人の言葉にラクジャの体は何故か反応し、椅子に座ってしまった。ここでラクジャは初めて白い獣人の顔を見る事が出来た。


「な、なんで君がここに……あの時、アポロンを生んで……」


 白い獣人の顔はラクジャの妻であり、アポロンの母であるアバンだった。


「なるほど。君にとって私はアバンに見えるのか……これも認識の違いによるものだろう」


 アバンの顔をした白い獣人は本を取り出し、そこに何かを書き記した。


「ところで自己紹介がまだだったな。初めまして。私はヌル=ノヴァ。君達で言う全能神だ」


 ヌルと名乗った獣人は当たり前のことに様に言った。全能神とはこの世界を作った神であり五大始祖神の創造主だ。だが、見た目は完全に獣人だ。


「私の見た目は生物それぞれ違うんだ。私の事を人間に見える生き物もいればペット、魔物、君の様に大事な者に見える生き物もいるんだ」


「そうなのか……。ところでここはどこ……なんですか?時を止めるなんて」


「敬語で話さなくて大丈夫だ。何故なら君は神の領域に足を踏み入れた上位存在だからね」


 ヌルの言葉にラクジャは混乱した。神の領域に踏み入れたことなど一度もない。


「なんだ?自覚していなかったのか?あそこにいる自分をよく見ろ。額に私やファタンと同じ目があるだろ?」


 ラクジャはヌルとファタンを見た後に自分を見る。すると本当に額に目が存在していた。


「あれは……ふむ。簡単に言うと第三の目と言ってな。それを開眼した生物は神の領域に踏み入れた事になるんだ。君は微量ながらもファタンの力を持っているせいか第三の目が開きやすくなっているんだ」


 ファタンの力。恐らくそれは陽喰族から奪った力の事を言っているのだろう。だが、それよりも聞きたいことがあった。


「なんで俺をここに呼んだんだ?もしかして全員が助かる方法があるのか?」


「それは無いね。この対談が終わった後に君は大量出血で死んでしまう」


「それじゃあなんで俺を」


「簡単な話さ。君に教えて貰いたいことがある。それだけさ」


 ヌルの予想外の返答にラクジャは更に混乱した。目の前に全能と呼ばれる神が居るのにも関わらず、分からない事を自分に聞いてくるのだ。


「貴方ですら知らない事を俺がどうしろと?」


「まぁまぁ。早速だが君に聞きたいことは一つだ。君にとって生物が生物たらしめる要因は何だと思う?」


「生物たらしめる要因?」


「そうだ!これまで様々な者に聞いたよ。そうだな……ファタンは『本能』って言ってたよ」


「ファタン様が?」


「うん。確かこう言ってたね。生物には必ず本能を持ち合わせている。そして生物は本能に従って生きて来た。本能を持たない生き物は死を意味する、てね。それで?君はどうなんだい?」


 ラクジャは少し考えた後に結論を直ぐに出した。


「俺は『想い』って考えている」


「『想い』ね。それを言った者は君含めて3人だ……で?なんで『想い』なんて考えたんだい?」


「簡単な話だ。『想い』は生物の原動力だ。現に俺がアポロンを命を懸けて守ろうとしたのは妻から託された想いと俺の想いだからな」


「『想い』だけで命を懸けられるのか……やはり生物は分からないな」


「全能神よ。お前は地上にこのような言葉がある事は知っているか?『分からないから面白い』、と」


 ラクジャの言葉を聞いたヌルは突然笑い始める。


「それもそうだな!分からないからこその楽しみもたくさんあるんだ!いや~。一つ学んでしまったよ。ありがとう、ラクジャ」


 ヌルがそう言った瞬間、鐘の音が鳴り響く。ラクジャは反射的に上を見ると巨大な羅針盤の様な物が動いていた。


「あれは時止めの陣だが……どうやらそろそろ時間の様だな。もう少し対談したかったが私の定めた規則を私が破る訳にはいけない」


 ヌルは立ち上がり、出していた椅子とテーブル、紅茶を片付ける。その後にヌルの体が光り出す。


 その時、ラクジャは初めてヌルの姿を見れた気がした。その姿とは透明な球体の様な物だった。


「そうそう。ちなみに言うと大量出血で君は死ぬ予定だが、完全に死ぬまでにはある程度猶予がある。後は……分かるだろ?」


 ヌルは消え際にラクジャにそう言う。これは優しさなのかは分からない。だが、ラクジャにとってそれはとてもありがたい言葉だった。


「ありがとう。死ぬまでに伝えてい事は全て伝える」


 ラクジャは既に消えたヌルに言い、心の準備をする。これから死ぬ準備、伝えたい事を伝える準備。そして、再び視界が真っ白になる。


 次の瞬間、時は再び動き、ラクジャ自身は闇を受け止めている事に気付く。だが、ラクジャの心は自然と軽かった。


「ラクジャ!そこを動くなよ!」


 心だけじゃない。さっきまでは苦しかった闇が全然苦しくない。むしろ簡単に壊せそうな感じがした。


 アルクはラクジャの受けてめている闇を吸収しようとする。だが、大量の闇を吸収した反動により体が動かない。


「言っただろう……俺に!任せろと!」


 ラクジャは受け止めている闇を軽く握る。その瞬間、闇は風船のように弾けて消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ