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7ー28 帝国軍進行

 獣人達は何が起きているのか分からなかった。突如、太陽城付近で大量の爆発音が聞こえた上に、樹海方面では燃えているのか赤く染まっていた。


 銀虎族族長であるラプターは月明かりを体毛で反射しながら衛兵達の持っている魔槍を次々と破壊していく。


 太陽城が何者かの襲撃にあってから、アニニマの民達は逃げ惑い、殆どの族領が混乱状態になっていた。


 ラプターは事態の収拾をする為に衛兵の本部へと向かっている。だが、何故か衛兵達がラプターの邪魔をし始めた。


 裏切りだと思ったラプターだが、虚な瞳、感情の無い鉄仮面の様な顔。ラプターは衛兵達がラクジャと同じ操られた状態だと瞬時に判断し、無力化を図ろうと両腕の骨を折る。


 だが、両腕の骨が折れているのに関わらず槍をラプターに向かって振る。ラプターはしばらく衛兵の攻撃を躱しているとアルクの言葉を思い出す。


『帝国の道具を壊せば大丈夫だ』


 ラプターはアルクの言葉を信じて衛兵の持っている槍を破壊する。すふと、衛兵は糸が切れた操り人形の様に力無く地面に倒れる。


「ラプター様!遅れてしまい申し訳ありません!微力ながら加勢致します!」


 銀虎族の衛兵は慌てて来たが、ラプターは距離を取って警戒する。


(不気味な槍は持っていない……正気か)


 ラプターは慌てて来た衛兵が不気味な槍を持っていない事を確認すると、これまでの状況を簡潔に伝える。


 説明を聞き終えた衛兵は急いで仲間に伝える為に、辺りを走り回った。


 再び事態の収拾の為に動こうとしたラプターだったが、目の前の光景を目にした瞬間、無理だと悟った。何故ならラプターの目の前には謎の道具を引き連れた大量の人間が居たからだ。


 急いで物陰に隠れ、人間をよく観察する。見た事の無い道具と鉄の乗り物。そして、胸には見慣れた紋様。


(帝国軍?何故奴らが……そうか……マシュか!)


 帝国軍の目的が使者として派遣されたマシュの迎えだと判断したラプターは、帝国軍よりも先に衛兵の本部へ向かう事を決めた。


 だが、ラプターの予想よりも帝国軍の兵士の数が多く、一瞬で帝国軍の後を追いかけているがバレてしまった。


「構え!撃てぇ!」


 帝国軍はラプターを敵か味方の確認も無しに、ラプターを殺す為に、手に持っている棒状の物を突き出す。


「話し合う気は無いのかよ……クソ!」


 その瞬間、帝国軍の突き出した棒から一瞬だけ光ったと思うと乾いた音と一緒に、ラプターの横を何かが高速で通る。


 ラプターは突然の事に動揺し、動けないでいると何者かに引っ張られ、建物の影に連れ去られる。すると、さっきまでラプターの居た位置に大量の何かが通り過ぎた。


「何してんだよ!?死にたいのか!」


 ラプターを連れ去った者は、ラプターの胸倉を掴み叫ぶ。


「お前は……ハリスだったか?」


 ラプターを連れ去ったのはハリスだった。既にハリスは戦闘を行なっていたのか、体の至る所に傷が出来ていた。


「そうだよクソが!帝国軍がなんでこんな所まで来てやがんだ?それに衛兵も襲ってくるしよ!どう言う状況なんだよ!」


「落ち着けハリス!恐らくだが全ては帝国の作戦通りなんだ!」


「まずは衛兵。奴らは俺ですら見た事の無い槍を持っていた。恐らくだがあれはラクジャと同じ他者を操る事が出来る魔槍だ。次に帝国軍は帝国の使者であるマシュの迎えに来たんだ」


「そう言う事かよ……ッ!危ねぇ!」


 ハリスはラプターと今の状況を確認していると、二人のいる建物に何かが投げ込まれた。それは手のひらサイズのボールの様な物だった。


 ハリス自身は何を投げられたのか全く分からないが、本能が危険な者だと判断していた。ハリスは急いで投げ込まれた物を拾い、投げ返す。


 その瞬間、ボールの様な物は破裂し、周囲に細かい破片を飛ばした。


「ハリス!ここは危ない!急いで離れるぞ!」


「離れてどうするんだよ!離れたとしても他の獣人の被害が増えるだけだぞ!」


「じゃあどうするんだよ!こうしている間にも帝国軍はマシュの迎えの為に進んでいるんだぞ!」


「お二人方。少し良いかな?」


 二人が言い争っていると、足元から声が聞こえ、二人は足元を見る。すると、小さい穴が空いており、そこから宝土竜族の獣人が顔を出していた。


「な、なんだお前は!?」


「その言葉はごもっともです、ラプター様。ですが急いでここを離れて下さい。そうしないとアルクさんの攻撃に巻き込まれてしまいます」


「待て!今アルクと言ったな?アイツはこれから何をするんだ?」


「詳しい事は後で説明いたします。取り敢えずこのまま前に進んでください。そうすれば地下に続く階段があります。まずはそこで合流しましょう!」


 ハリスとラプターは突然現れた宝土竜族を警戒しながらも、言葉に従い、前に進む。すると、本当に階段があり、二人は急いで階段を降りる。


 その瞬間、建物を粉砕する勢いで帝国軍達は銃を掃射し始めた。


「何してるんですか!早くこっちに来て下さい!そこはもうすぐで崩れてしまいます!」


 宝土竜族の言う通り、ラプターとハリスが使った階段は崩れて、二人は巻き込まれてしまう。だが、二人にとっては瓦礫など無いに等しかった。


「ここは地下水路だな?いつの間に地下水路に続く階段を作ったんだ?」


 ハリスは肩についた瓦礫の埃を退けながら宝土竜族に聞く。


「ほんの少し前です。アポロンとラクジャが始祖神獣解放へ向かった直後に全ての族領に続く為に階段を急いで作りました」


「そうか。ところでさっきアルクがなんかやるって言ってなかった?」


「はい。帝国軍の対処はアルクが請け負ってくれる事になりました。戦力にならない仲間は獣人の避難に向かわせています」


「分かった。それじゃあ俺達は何をやれば良い?」


「ハリス様とラプター様は獣人の避難をさせて下さい。恐らく……いや、確実に帝国軍のせいで死傷者が出てしまいます」


「分かった」


 ハリスとラプターは宝土竜族の指示に従い、逃げ遅れた獣人や帝国軍に襲われて負傷している獣人の救援に当たった。


――――――――


「それにしても遅いなー……何してるんだろ?」


 帝国の使者であるマシュは足をバタつかせながら菓子を食べていた。マシュが帝国本国へ援軍の要請をしてから随分と時間が経っている。


「でも爆撃音が聞こえたって事はもうすぐだし……何人か向かわせるか?」


 マシュは帝国援軍の様子が気になり、獣人の衛兵を一人派遣させようと考えていた。するとその時、魔槍で操っていない一人の衛兵が急いでマシュの元へ駆け寄った。


「マシュ様!外に大量の帝国軍がおりますが……仲間ですか?」


「そうだね……僕にとっては味方でも君にとっては敵かな?やっちゃって良いよ」


 マシュは不思議なことを言うと、魔槍によって操られた衛兵が操られていない衛兵の胸に槍を突き刺した。


「は?な、なん……で?」


 倒れる衛兵を横目に、マシュは窓の近くへと歩き、窓から顔を出す。すると、衛兵の言う通り、外には大勢の帝国軍が居た。


「マシュ様!遅くなって申し訳ありません!お迎えに上がりました!」


「待ってたよ〜。早く帰ろ。妹も僕に会いたいはずだ!」


 マシュはようやく帝国に帰れるのが嬉しいのか、スキップを踏みながら、白銀に輝く戦車の中に入る。


「良し!それじゃあ出発進行!」


 マシュが元気よくそう言うと、帝国軍援軍の最後尾が爆発した。帝国軍は突然の爆発に戸惑っていると、指揮官の持っている魔力探知機が耳障りな音を出していた。


「敵襲!急いで対魔法(アンチマジック)機能(システム)を起動しろ!」


「間に合いません!再び高濃度の魔力を感知!上です!」


 指揮官は空を見上げる。そこには月明かりを反射する程の白髪の少年が魔法を放とうとしていた。


「死ね」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、巨大な炎の塊が帝国兵達を襲った。対魔法機能を作動出来なかった帝国兵は全身に火傷を負い死んでしまう。


「よぉ。昨日ぶりだな?死ぬ覚悟は出来ているか?マシュ」

 

 魔法を放った少年はゆっくりと死んでいった帝国兵の上に降りる。


「アルク……まさかここまで容赦無く殺しに掛かるとは……予想外だよ」


「それにしては余裕そうな顔をしてるじゃねぇか?」


「実際予想外なだけでまだまだ余裕があるんだよ?行け!人形ども!」


 マシュの声と共に魔槍によって操られた獣人の衛兵はアルクを襲い始めた。

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