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7ー27 沈む狼

 帝国兵援軍本隊の後を追っていたアルク達は砂漠の途中で何かを引きずった跡を見つけた。それは一つだけでなく何百個もある事から、アルクは援軍本隊がここを通ったのだと考えた。


「ここからは飛行を避けて走った方が良い。帝国兵だ。もしかしたら得体の知れない兵器を使うかもしれない」


「分かった……なんか嫌な予感がする……」


「不穏な事を言わないでくれ……龍のお前が言うと信憑性が高くて仕方がない」


「そうか?そんなに私の言う嫌な予感は当たるのか?」


「分からん。でも龍であるのと同時に光を持っている稀有な存在なんだ。俺よりも感覚が鋭くても不思議はない」


「そうか……なんか……照れるな」


「これぐらいで照れるなよ」


 アルクとイレナは飛行を止めて、援軍本隊の後を追いかけ続けていた。流石のアルクとイレナでもリラと白蜘蛛を抱えたまま走るのは得策ではないと判断し、地上に降ろし、一緒に走る。


 すると、リラは奥で何かが飛んでいるのを見かけ、目を凝らす。飛んでいる何かは人であったが、魔力らしい魔力が一切感じない。アルクとイレナは魔力で周囲を探知している為、魔力を発しない物体や生物は発見しづらい。


「ご主人!遠くで帝国兵が見えます!予想以上に近いので少し待った方が良いかもしれません!」


「分かった!丁度いい岩場を見つけたらそこに上がって様子見しよう!」


 アルクは帝国兵援軍本隊の監視とサンドワーム対策で小高い岩場が無いか、周囲を見渡す。先に小高い岩場に登ったアルクは援軍本隊を魔力で強化した目で見る。


 援軍本隊はアルクが今まで見たことの無い数々の兵器を運んでいるだけでなく、軽く1000を超える帝国兵が侵攻していた。


「見えるか、イレナ?これ全部帝国兵だぞ」


「こんなに!?何人いるんだ?」


「分からんが……1000は絶対に超えてる」


「凄いな……最終的に相手するんだったら何が危険だと思う?」


「そうだな……最初は『戦車』と言われる鉄の塊だ。あれは動きながら強力な砲弾を撃って来る。次に危険なのは……あの……丸っこくて細長い奴だ。前に帝国に行った時には無かった筈だ」


「変な形だな……それにしても1000人以上か。そいつら全員やるんだな?」


「全員やる必要はない」


 イレナはやる気に満ちた顔をしていたが、アルクの言葉にやる気に満ちた顔は一瞬で崩れた。


「勘違いしている様だが俺らの目的はマシュを殺す事。その過程である程度の帝国兵の数を減らして帝国に打撃を与える」


「そ、そうなのか……それなら先に言ってくれ!気張りすぎちまった」


 アルク達は少しずつ離れていく帝国援軍本隊の後を追い続ける。すると、帝国援軍本隊はアニニマに続く樹海の中へと入って行く。


 木々が生い茂っているが、帝国の兵器を前にそれらは全て無意味だった。樹海の木は戦車によって踏み荒らされ、それでも大きい物は帝国兵によって焼かれる。


「酷いな……」


 イレナは目の前で起きている光景に唖然としていた。今は夜と言うこともあり、樹海に放たれている火はとても目立っていた。


「アルク、どうするんだ?このままだと火の海に飛び込む事になるぞ」


「やっぱり危険だよな?まさか帝国がここまで強行するとは思わなかったよ」


「どうするの?火の海に飛び込む?それとも先回りでもする?ちなみに私は先回りが良いと考えてる」


「同感だ、イレナ。このまま行ったとしても火で焼かれるしな。先回りでもするか!ある程度帝国援軍本隊から離れたら飛行で太陽城に戻るぞ!リラ、来い!」


 そのままイレナの提案で、アルク達は高所から見渡す事が出来る太陽城へ向かう事にした。


――――――――――


 アルク達が帝国の砲撃を喰らう少し前、基地から出たセイラ達は始祖神獣が封じられている所へ向かっていた。


 聖騎士は56人、獣人は15人と大所帯だが、夜である事に加えて、全員夜の闇に紛れるために黒いローブを身に纏っていた。


「セイラ様。ショータ達と連絡が取れました。彼らは今も始祖神獣が封じられている古代遺跡へと向かっているそうです」


「そうか!ショータ達を連れている情報兵は中々やるな!」


 セイラは予め翔太達の近くに待機させていた情報兵の動きが速い事に喜んでいた。セイラ達が陽獅族領を出てしばらく経った後、太陽城の方面で何かが爆発する音が聞こえる。セイラ達は太陽城を振り返ると、太陽城が何者かによって攻撃されていた。


 大理石の壁や黄金の屋根は度重なる爆発で穴だらけになり、悲惨な姿へと変わっていく。


「進もう。城ぐらいならいくらでも治せる。今は始祖神獣解放の方が先だ」


 ラクジャは太陽城を気にしている者達にそう言うと、再び歩み始める。既にセイラ達は古代遺跡へ続く樹海の目の前まで来ていた。樹海に入った瞬間、今までの明るく賑やかな雰囲気が全く違う事に気付き、緊張感が一層増した。


 今まで鳴り響いていた爆破音は消え失せ、耳が痛い程に虫の鳴き声が鳴り響いていた。すると、虫の鳴き声に紛れ金属音がぶつかり合う音をセイラは聞き取った。だが、セイラ以外の聖騎士は気付いておらず、音を聞き取ることが出来たのはセイラと獣人達だけであった。


「今何かーー」


「お前達は先に行け!」


 一人の獣人はそう言うと、最後尾へと移動する。するとその瞬間、五人の魔槍を持った獣人が茂みから飛び出す。月明かりに照らされた魔槍は異様な光を放っていた。


「行けるか?」


「勿論!それに槍を壊せば良いだけの話だろ?余裕だ!」


 アポロンの心配を余所に、獣人は次々と魔槍を壊していく。


「何してる!早く行け!」


「分かった!行くぞ!」


 獣人の戦い具合を見たアポロンは任せても問題無しと判断し、セイラ達を連れて先へ進む。今までは樹海特有の木々や葉っぱが生い茂っていたが、所々に砂が見られるようなっていく。


「もうすぐで樹海を抜けて古代遺跡に着く!そこで少し休憩を兼ねて状況の再確認をしよう!」


 アポロンの言う通り、樹海を抜けた先にあるのは砂漠と廃墟だらけの場所だった。廃墟は所々崩れかかっている物が多かったが、一つだけ風化の具合が見られない廃墟があった。


 セイラ達は適当な岩場を見つけると腰を下ろし、休憩を始める。


「セイラさーん!大丈夫ですか?」


 するとそこへ、先に着いていた翔太が聖騎士の所へと合流していく。翔太には見た事のない傷が幾つが出来ており、戦闘をしてたのだとセイラは考えた。


「ここに来る途中で獣人達と戦闘をしたか?」


「はい。敵では無いことを何度も伝えたんですけど襲ってきて……」


「殺したか?」


「殺してないです。動けないように両足の骨を折って樹海に放置したんですが……まずかったですか?」


「いいや、上出来だ。情報兵と他の奴らはどこだ?」


「他の皆んなは適当な廃墟の中で休憩してます。呼びましょうか?」


「頼む。全員来たら状況の説明をしたい」


 翔太は近くの廃墟の中で休憩をしている雪達と情報兵を呼び、今がどんな状況なのかを説明を受けた。そして、今からやる事は帝国の人間によって封じられた始祖神獣の解放を伝える。


「だがここから先は常識を逸脱している。お前達は後ろで操られた獣人が来ないか監視してくれ」


「分かりました」


 翔太達の役割を話したセイラはアポロンに準備が出来た事を伝える。


「そうか……全員集まってくれ!これから始祖神獣解放について少し話をする!」


 アポロンは古代遺跡についた聖騎士と獣人を集めて、これからについて説明する。


 始祖神獣が封じられているとされている古代遺跡は奥の風化していない大きな遺跡と情報が入っている。中は狭く、多くても10人程しか通れない通路がいくつも存在している。


 なので実力のある者達10人を集めて遺跡は突入し、残りの者は操られた獣人の撃退をする。


 古代遺跡に突入する者はアポロンとラクジャ、セイラの他にも二人の獣人と五人の聖騎士となった。


 遺跡に突入しようとアポロン達は集まり、話し合う。


「それじゃあ遺跡に入るが……何が起きるか分からない。何か変な気配を感じたらすぐに出よう」


 セイラは始祖神獣が封じられている空間は何が起きるのか分からなかった。それはアポロン達もそうだ。


「そうだな。何かあったら直ぐに逃げよう」


 何か異変を感じたらどんな状況であれ、直ぐに遺跡から脱出する。それを決めた10人は覚悟を決めて遺跡の中へと入っていく。


 遺跡の中に入ってからは罠や敵は誰一人と居なく、順調に遺跡の奥へと進んでいく。すると、広い部屋へと出た。


 広い部屋には何もなく、中央には巨大に四角の石と、横には地下に繋がる階段が伸びていた。


「ここは……覚えてるぞ。この階段の下に始祖神獣が居る」


 ラクジャはそう言うと、階段の下を降りていく。アポロン達もラクジャの後を追い階段の下に降りると、そこには金色の狼が鎖に繋がれていた。


「父さん……まさかこの方が……」


「ああ。始祖神獣ファタンだ……急いで鎖を壊すぞ!」


 ラクジャは始祖神獣ファタンを縛っている鎖を壊す為にファタンに近付く。


「ラクジャ!そいつに近付くな!」


 セイラがそう叫んだ瞬間、手を伸ばしたラクジャの腕が紙のように千切れていった。

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