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7ー26 帝国兵援軍

 帝国領アニニマ国境付近にて、三個大隊の帝国兵達はアニニマに侵入しているマシュによる援軍養成で準備をしていた。その場に集まった帝国兵はその場に集まっている兵士の多さに驚いていた。


 一個大隊は400から500人の兵士で構成されており、三個大隊ともなれば1200人から1500人と援軍に向かうには多すぎる人数だった。


 そして招集された大体はそれぞれ陸上大隊、空上大隊、兵科大隊であり、陸上大隊は重武装であり重兵器を主に扱う大隊。空上大隊は軽量化された武器を扱い、背中にはウィングと呼ばれる魔力なしで飛行が出来る兵器を身に着けている。最後に兵科大隊とは兵器の設置から兵器の準備を主軸とし、基本的な戦闘技術も身に着けている。


 今回の援軍要請に兵科大隊に配属されの帝国兵達は初陣という事もあり緊張しており、新兵のジョシュも緊張していた。


「大丈夫かジョシュ?ただでさえ白い顔がもっと白くなってるぜ?」


「イー……そりゃ初陣なんだから緊張するに決まっているだろう?お前はどうなんだよ?」


「俺か?やっと戦場に出れたんだぞ?楽しみでしょうかねぇ!」


 イーと呼ばれた兵士は赤い髪をなびかせながら胸を張る。反対に白い肌が特徴的なジョシュは初陣という事もあり緊張と恐怖が一緒に襲ってきていた。周囲を見渡せば重武装の兵士から練習として空を飛んでいる兵士が沢山いた。


 すると、鎧にマントを付けた中年の兵士が戦車と呼ばれる陸上大隊の兵器の上に立つ。


「注目!これよりマシュ様の援軍要請に従い我々はアニニマに向かう!それぞれの指揮官の指示に従うこと!従わなかった場合軍規違反という事で処罰される!くれぐれも気を付けるように!以上!」


 短い話で済ませた後、それぞれの大隊の指揮官によって説明をされる。だが、兵科大隊の総指揮官はジョシュとイー含む48人程度の兵士を集合させる。


「お前達には一個小隊として敵の陽動および爆撃をしてもらいたい!指揮官はお前達の中で決めると良い!くれぐれも命令無視と言った違反はするなよ?以上だ!準備が出来次第指定されたポイントに向かえ!」


 総指揮官が離れた後、残されたジョシュ達一個小隊の兵士達は指揮官を決めるために話し合う。そして話し合った後、指揮官はイーをがすることになった。その後、イー率いる小隊は指定された兵器を持ち、指定されたポイントまで向かった。


「ここで良いか……それじゃあ兵器を設置してくれ!全員が設置出来次第砲撃を開始する!」


 イーの指揮の下、様々な兵器が設置される。設置された兵器は全部で二種類あり、一つはオカ迫撃砲。もう一つはモーターガトリング。どれも世界最高峰の兵器であり、これだけで敵の大隊は直ぐに壊滅することが出来る。


 だが、ジョシュは兵器に違和感を感じた。


(この製造年数……2世代も前の兵器だぞ!?)


 提供された兵器がどれも二世代前であることに気付いたジョシュは、イーにこの事を伝えに行く。


「イー!まずいことになった!どれもこれは二世代前の兵器だ!」


「だから何だ?帝国が支給した武器に不満があるのか?」


「そう言う訳じゃない!危険性については君も知っているだろ?一世代前ならまだ整備されているが二世代前の兵器は整備されてないのが殆どだ!」


「そんなの知った事か!それにここで武勲を立てれば出世出来るんだ!お前は黙って命令を聞いていろ!」


「でも!」


「これ以上は小隊内の士気を下げると判断してお前の処罰を与えなきゃいけない」


「……分かった。余計なことを言って済まない」


 気の弱いジョシュにとって処罰は心の底から恐怖する存在だった。まだ軍事学校に居たジョシュは気の弱い性格から訓練から度々逃げる事があり、その度に処罰を受けていた。


 すると兵器の設置を終えた兵士達が続々とイーに報告をする。


「それではまず太陽城に向けて砲撃を行う!迫撃砲に付ける者はドンドン付いてくれ!それ以外の物はモーターガトリングに付いて近づいてくる敵を撃ってくれ!風速を角度を計測しろ!」


「既に計測しております!角度、風速共に問題ありません!」


「そうか。それじゃあ……撃てぇ!」


 イーの声と共に5台の迫撃砲は爆音を鳴らしながら砲弾を次々と撃っていく。兵科大隊は兵器の扱いに長けており、その証拠に次弾装填が全て3秒で終わっている。


 すると、イーの隣で魔力検知盤を持っている兵士が口を開く。


「指揮官!魔力を感知しました!方角は太陽城方面です!」


「魔力?人間がいるのか?ならばそいつ諸共粉砕してやれ!」


 命令通りに、人間の魔力が消えるまで迫撃砲を撃ち続ける。今頃、太陽城周辺は穴だらけになっているだろう。


 イーは全てが上手くいったと思った瞬間、一つの迫撃砲が爆発した。


 兵士達は何の予兆も無しに迫撃砲が爆発した事に驚いていた。それは迫撃砲に付いていた兵士達もそうだった。だが、それがダメだったのか、魔力検知盤が示す魔力が段々と近付いて来る。


「何をしている!敵が高速で接近している!モーターガトリングを撃て!動けるものは救助を急げ!」


「は、はい!」


 兵士達はモーターガトリングを撃つが、何もかもが遅い。人間は既に基地の中に着地しているだけでなく、剣を振ろうとしている。


 そこからは一歩的な蹂躙だった。立ち向かった兵達は殺され、ジョシュも殺されてしまった。戦意喪失した兵士達は両手を上げ、降参する意思を示した。



 


 援軍本隊を率いている指揮官達はは別行動させてた小隊が壊滅する所を偵察機で見ていた。


「総指揮官。本当によろしかったのでしょうか?」


 兵科大隊の指揮官は三個大隊の総指揮官であるガルバーラに声を掛ける。


「一個小隊を囮に使って敵の兵力を削ぐ作戦か?あれは必要な犠牲だった。それにもうすぐで全ての兵士達に別行動を任せてた小隊が()()に殺されたと連絡が行く」


「つまり兵士達の復讐心を焚き付ける為に死にに向かわせたと?」


「そういう訳ではない。俺だって獣人に襲われるなんて知らなかった。そういう筋書きで行く。分かったな?」


「了解致しました」

 

 兵科大隊の指揮官は下がると、総指揮官は無線機を取り出し、全ての兵士に聞こえるようにする。


「諸君に悲しい知らせだ。先程外交目的で派遣させた一個小隊が獣人に襲撃されたとの知らせが来た。諸君に一つ聞きたい。このまま下等種に好き勝手させて良いのか?このまま殺された罪なき兵士達の仇を取らなくて良いのか? 違う!」


 総指揮官は穏やか声が次第に怒気を含んだ声へと変わっていく。


「我々は被害者だ!マシュ様を人質に取られ兵士が殺された!これは我々に対しての冒涜だ!やるべき事は一つ!報復だ!既に賽は投げられた!もう遠慮は無しだ!行くぞ!」


「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」


 総指揮官の嘘だらけの演説に兵士達は士気が上がり、一致団結していく。だが、総指揮官や兵士達は知らなかった。遠くから高速で魔力が援軍本隊へ向かって来ている事を。


――――――――


 帝国兵の基地を制圧したアルクは帝国兵の尋問をしていた。拘束されている帝国兵の数は少なく、七人しか残っていない。


「それで?お前達の本隊はどこへ向かった?この程度が援軍の訳がない。そろそろ口を開いたほうが良いぞ?」


「誰が教えるか!貴様の様な闇の使徒に言うぐらいなら死んだほうがマシだ!」


「そうか。じゃあ死ね」


 アルクは持っていた剣で尋問していた帝国兵の首を切り落とす。これで尋問中に殺した帝国兵は二人目だ。


「これだと時間が掛かるな……仕方ない。魔法を使うか」


 そう呟くと、アルクは指揮官と呼ばれていた男の頭に触れる。すると、アルクの腕から指揮官の頭へと闇が流れ始める。離れた所で兵器を探っていたイレナはアルクが何をしているの気になり、アルクに近付く。


「何をしてるんだ?」


「こいつの精神を汚染して情報を聞き出す」


「汚染って……それは大丈夫なのか?」


「安心しろ。汚染するとは言っても全部する訳じゃない。一部を汚染するだけだから問題は無い」


「それなら良いが……ってマシュとやらはどうするんだ?元々私達はマシュを殺すために来たんだろ?」


 イレナは本来の目的であるマシュの殺害を思い出す。マシュは帝国兵の援軍を読んだ張本人であるとアルク達は予想している。だが、今は帝国兵の援軍の妨害をしている。


 現在のイレナにとって援軍はこれだけだと思い込んでいるが、援軍本隊は別にいるとアルクは考えている。


「それは大丈夫だ。いつらは別行動の帝国兵の筈だ。本隊はマシュの救出に向かっている筈だが……本隊の居る方角が分からないんだよな」


 すると、闇を流し精神を汚染していた指揮官は目が虚ろとなり、アルクを見つめる。どうやら精神汚染が終わったようだ。


「お前に一つ聞く。本隊はどこに行った?」


「ほ、ほく、ほくほく、北西いィいいィい?」


「北西だそうだ。こいつらは放置して本隊の後を追う。マシュと合流したのを確認でき次第、援軍と一緒にマシュを殺す」


「分かった……けど本当に放置して良いのか?」


「拘束したままだとその内サンドワームの餌になるからな」


 アルクの言葉に拘束された帝国兵の顔は一瞬で蒼白になり、アルクに助けてもらう様に懇願する。


 だが、


「助ける訳がないだろ?馬鹿なのか?」


 アルクの無慈悲な言葉に、ある帝国兵は絶望する者、ある帝国兵最後まで抗おうとしていた。


「それじゃあお前達!行くぞ!」


 アルクはそう言うと、サンドワームに襲われない為に、リラを抱えながら空を飛ぶ。イレナも同じ様に白蜘蛛を抱えて空を飛び、その場には拘束された帝国兵のみが残った。


「俺達これで終わるのか!?」


「そんな……俺には病気の親父が……」


「死にたくない!死にたくない!」


 アルク達の背後から帝国兵の悲痛な叫び声が聞こえていたが、敵を助ける程アルクの心は優しくない。


「ギャアアアア!嫌だ!死にたく無い!死にたく……ぐぁ!?」


 帝国兵の声が途切れ途切れになったと言う事はサンドワームに次々と食べられていると言う事だ。


「アルク……本当にこれで良かったのか?」


「これで良いんだよ。もしかして人間を相手にするの初めてだったか?」


「良いんだよ。戦場で敵に情けをかけた瞬間味方も自身も殺される」


 イレナは現在に至るまで人間を相手にする事は無かった為、どの様に対処すれば良かったのか知らなかった。それに加えてアルクの今まで見たことの無い無慈悲で冷酷な所を初めて見た。


 イレナは今までアルクの周りに気をかける優しい性格しか知らなかった為、今の様な無慈悲で冷酷なアルクは見た事が無かった。


「このまま魔力を極限に抑えて援軍本隊の後を追う。気を抜くなよ!」

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