7ー25 帝国基地
アルク達が反迫害派と合流してから少し経った頃、トルソの仲間から新たな情報が入って来た。帝国からの援軍がアニニマに向かっている事を。もう一人から始祖神獣がどこに封じられているかの情報が入って来た。
外は既に夜になっていたが、朝を待つまでの時間が無い。アルクの説明通り聖騎士と獣人は始祖神獣の解放を目的とし、アルク達は帝国軍の足止めをする。
「アルク。無いかもしれないが一つ聞きたいことがある」
「どうしたんだ、セイラ?」
「お前の仲間は本当に竜人か?」
セイラの言葉にアルクは少し分かった気がする。普通の人が見ればイレナは竜人にしか見えない。だが、ある程度光が育っている者から見れば違和感があるのだろう。
「新しく生まれた龍だよ」
「通りで勝てる気がしない訳だ。それじゃあ心配はいらないか」
「当たり前だ」
すると、聖騎士と獣人は準備を終えたのか出口近くに集まっていた。それを見たセイラは急いで向かい、その場にはアルクとイレナ、リラと白蜘蛛しか居なかった。
「それじゃあ俺達の目的は帝国軍の足止めだが……最悪殺してもらっても構わない」
「良いのか?それだとお前の低かった評判が……」
「地に落ちた評判がそれ以上下がる訳でも無い。それに闇がどれだけ問題になっているのか世界に知らせる絶好のチャンスなんだ」
「分かった」
「おう……あ!獣人は殺すなよ?武器を壊せば無力化出来る筈だ」
「武器を壊せば良いのだな?簡単な事だ!」
「話している所悪いが俺達は先に行かせてもらうぞ」
アポロンは始祖神獣を解放する為に出発する事をアルク達に伝える。
「分かった。だが気を付けろよ?封じられているとしても神が相手なんだ」
「忠告感謝する。それじゃあ後で落ち合おう」
アポロンはアルクにそう言うと、聖騎士と獣人を連れて地上へ戻った。
「それで私達はいつ動くんだ?そもそも帝国軍はどれぐらいの戦力なんだ?」
「帝国軍の動きはトルソの様な情報屋が見張るとして……アイツらの戦力について話すか」
アルクはそう言うと、収納魔法から変わった形の道具を取り出す。
「帝国は他の国と比べて技術が発達している。例えば魔力を使わないで電気を発生させたり翼を使わないで空も飛べる。この道具も帝国が作った武器でな。『銃』と呼ぶそうだ」
アルク反対の壁に目掛けて、『銃』の引き金を引く。その瞬間、乾いた音と共に何かが飛び出し、壁に命中する。
「これぐらいの簡単な動作で人は簡単に死ぬ。ちなみにこの『銃』は7年前に帝国軍から盗ん……貰ってきた奴だ。つまり今じゃあこれよりも優れた性能の『銃』がある可能性が高い。例えば――」
ドーーーーーーン
遠くで何かが爆発する音と共に耳をつんざく程の爆発音が聞こえ、アルク達の居る地下を激しく揺らす。
「そうそう。これみたいに魔力を使わないで爆発……爆発?敵じゃねぇか!」
突然の魔力なしの爆発にアルクは反応し、急いで地上に戻る。地上に戻る途中でも幾つかの爆発音と共に地面が揺れ続け、必死な思いで地上に出ると無惨な姿が広がっていた。
辺りは暗くてよく見えないが微かな火だけでも良く分かる惨状だった。
綺麗に整えられた地面は穴だらけになり、目の前にある太陽城は月の光で出来た光柱が大量にある程に穴が空いていた。
アルクは地上へ出ようと足を踏み出した瞬間、隣で光る何かが地面に直撃し、大爆発を引き起こす。
突然の爆音と爆風により、アルクの体は地下への入り口から飛ばされてしまう。
「アルク!?大丈夫か!」
「無理に外に出るな!リラと白蜘蛛守る為に魔防壁を展開しろ!帝国の考える事だ!まだまだ来るぞ……これが爆撃か」
アルクの言う通り夜空の一点が突然光ったと思いきや、物凄い速度で光る何かが地面に振って来る。アルクは急いで体制を立て直し、振って来る何かを避け始める。
だが、アルクは避けるのが目的ではなく安全な距離から降って来る何かの正体を突き止めるのが目的だ。
そして、遂に目視をすることが出来た。振って来る何かは『銃』に使われている銃弾の大きいものであり、その銃弾には帝国の紋様である剣と銃が交差した紋様が刻まれていた。
(でも何で爆発するんだ?帝国の技術は良く分かんないな……斬る事は出来るかな?)
アルクは振って来る一つの銃弾を切断するために立ち止まり、剣を構える。そして、アルクに直撃しようする直前に剣を引き抜き、剣に銃弾を当てる。
剣に当たった銃弾は自重と落下の勢いで簡単に切断することが出来た。
「簡単に切ることが出来る……イレナ!簡単に切断出来るからリラと白蜘蛛が安全な所に移るまで頑張るぞ!」
「分かった!」
イレナは爆撃の勢いが薄くなった隙を見計らい魔防壁を解除し、爆撃の銃弾を斬る準備をする。魔防壁が張れない上に銃弾を切断することが出来ないリラと白蜘蛛はイレナの先導の下、安全な位置に移動する。
「来るぞ!気張れよ!」
風を斬る音と共に、大量の砲弾がアルク達の下へと落下していく。だが、砲弾を斬っても爆発しない事を知ったアルク達は簡単に近くに落ちてくる砲弾を切り捨てて行く。
そして、リラと白蜘蛛を安全な位置へ移動させた事を確認すると、一瞬でイレナ達の近くへと避難していく。
「それにしても何なんだこれは?まるで魔法でも撃たれてるみたいだぞ」
「これが帝国だよ。人が余りいない太陽城付近を狙ってくれて助かったな……それにしても何でこんな正確に……ッ!!」
アルクは話している途中で、腕を後ろに振る。何か硬いものが当たる音と共に何かが岩にぶつかり、動きを止める。
「何だこれ?鳥か?」
イレナは動かなくなった何かを拾う。それは鉄の様な色をしており、左右には羽のような物が付いていた。
「これは!ご主人!」
「間違いなく帝国の偵察機だな。予想以上に来るのが早いな……場所が分からないな」
「それなら大丈夫です」
「何でだ?もしかして場所が分かったのか?」
「はい。微かですが爆撃の前に発射音らしき物が聞こえました」
「どこなんだ?」
「北西です。恐らくアニニマと帝国国境付近だと思います」
「国境付近か……遠いな……飛ぶしかないか」
「そうですね。ある程度耐えれるので全速力で向かっても大丈夫です」
「分かった。イレナは白蜘蛛を抱えてくれ!こっから一気に国境付近に飛ぶぞ!」
「了解!白蜘蛛、こっちおいで」
イレナは白蜘蛛を抱えると翼を展開する。アルクもリラを抱えて黒翼を展開し、空高く飛翔する。
「このまま北西へ向かう!途中で何かが飛んでくると思うが全て避けろ!当たったら無傷で済むと思うなよ!」
アルクの言う通り、アルクとイレナの進行を妨害するかのように砲弾よりも少し小さいが大量の飛来物が飛んでくる。だが、翼を展開した二人の飛行性能は格段に上がり、素早い動きで飛来物を全て避ける。
夜である事もあり、周りの様子を見る事は出来ないが、鳥や虫の音が聞こえなくなった事から砂漠へ出たと確信する。
敵の距離が近くなったのか弾幕が増え続け、流石に避けるのは難しくなり魔防壁を展開する。
そして遂に帝国軍の基地を視認する事が出来た。基地は何かの道具によって光が確保されており、外から見ても分かりやすかった。何故なら魔力を感じない光もそうだが、一番は不思議な形をした武器が体力にあったからだ。
そして、一瞬光ったと思うとアルクの隣を銃弾が掠める。
アルク達が近くにいる事を確認した帝国軍は急いで集まり、杖の様な物を構える。すると、そこから乾いた音と共に大量の銃弾がアルク達を襲う。
「このまま突っ切るぞ!ついて来い!」
アルクは急降下しながら魔防壁を広く展開し、帝国軍の基地へと突撃する。近付けば近付く程、弾幕は激しくなるが、そんな物はお構い無しに基地へと近付く。
基地へと着地したアルクはそのまま剣を振り、帝国軍を斬り捨てていく。
「お前達!敵は容赦するな!全員殺せ!」
アルクの一言にイレナは怪しく笑い、敵を銃諸共斬り殺す。帝国軍の基地は突然の襲撃に多少は動揺していたが、陣形を立て直し、アルク達へ銃を撃ち続ける。
帝国軍が飛び道具を使えるならアルクは魔法を使える。アルクは遠くにいる帝国軍に向けて魔法を撃とうとするが、魔法陣を上手く構築する事が出来なかった。
「アンチマジックシステムが上手く起動している!今がチャンスだ!撃ち続けろ!」
魔法を上手く発動出来ないアルクを見た帝国軍は好機と思い、銃を掃射する。だが、アルクは風龍剣を横に薙、銃弾諸共帝国軍を斬り捨てていく。
イレナの方では銃弾を喰らってはいたが血は流れていなかった。当たり前だ。イレナの皮膚には龍と同じ鱗があり、銃弾如きでは血おろか傷すら出来ない。
銃弾を身体中に浴びながら前進するイレナと銃を撃ち続ける帝国軍。結果は容易に想像出来た。
リラの方でも体が小さく夜に溶け込みやすい髪色、卓越した身体能力に帝国軍は追いつけず、例え追い付いたとしても白蜘蛛の糸によって銃が撃てない。
そうしている間にもアルクは次々と帝国軍を殺していき、気付いた頃には大勢いた帝国軍は両手で数えられる程に減って行った。
残った帝国軍はこれ以上の抵抗は無意味だと考え、大人しく投降した。
イレナは投降した兵士を拘束しようと近付いた瞬間、兵士は隠し持っていたナイフを持ってイレナに襲い掛かる。
だが、そのナイフはイレナに届く事は無く、アルクによって腕と一緒に切断される。
「ま、待ってくれ!俺には妻と子供が居るんだ!もし俺が死んだら!」
「そんな事知るか」
両腕を斬られた兵士は必死の命乞いをしたが、アルクの無慈悲な刃によって首を斬られて絶命する。
「そこまでやる必要な無かっただろ?」
「何もしなければ良かっただけの話ださ……一列に並べ!もし変な事をしたらコイツみたいに首を斬るからな!」
アルクは拘束された兵士を一列に並べながらそう叫んだ。




