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7-24 反乱軍

 謎の獣人であるトルソに連れられ、セイラ率いる聖剣部隊は謎の地下に入って行った。最初は蝋燭の光だけで照らされていた通路だったが、水路らしき所に出た瞬間、視界が真っ暗になった。数人の聖騎士達は突然の視界暗転に戸惑ったが、セイラの一言により落ち着きを取り戻す。


「それで?今はどこに向かってるんだ?」


「今は基地に向かっています……貴方の事は知っているので自己紹介はしなくて十分です」


 ここまで聞いた話だとトルソと呼ばれる獣人は情報屋を営んでいるらしく、その情報はアニニマの軍部から機密情報まで掴んでいると言われている。


 トルソは壁に手を触れると『ガコン』と音を鳴らし、壁から扉が現れる。


「この先が基地でございます。これから数人の獣人が来ると思いますが全て仲間だと思って下さい。お?仲間からの手紙が着ましたね」


 トルソは足元に居るネズミを拾い、口に挟んでいる紙を回収する。最初は明るかったトルソの顔は次第に怪訝な顔へと変化していった。


「どうしたんだ?」


 セイラはトルソの顔が気になり声を掛ける。


「ちょっと外に居る仲間が厄介な人達を連れてやって来るそうです」


「厄介な奴?」


「ここは人が多い。少し離れた所に行きましょう」


 トルソとセイラはそのまま基地に入る。今まで通って来た道とは違い、湿気が少なく過ごしやすい気温の空間に辿り着く。光源は蝋燭数本だが明るく感じ、至る所にくつろげる場所があった。


 セイラとトルソは別の部屋に移り、トルソの先程の言葉について聞いていた。


「それで?厄介な奴とは誰の事だ?」


「厄介な奴と言うのはラクジャ王と闇の使徒ですね」


 その言葉を聞いたセイラはトルソの言っていた『厄介な奴』の意味を知った。恐らくトルソにとっての『厄介な奴』とはラクジャ王の事を言う。そして、聖剣部隊にとって『厄介な奴』はアルクの事だ。


「そもそも何で反迫害派の連中が出来たと思う?」


 トルソは何故反迫害派が生まれたのかをセイラに話す。


 反迫害派は獣人の王であるラクジャが突如宣告した夜狼族迫害に異議を唱えたのが全ての始まりだった。最初は数人の獣人達であったが次第に規模が広まり、最終的には各部族の有力者まで迫害に異議を唱えた。だが、ラクジャは迫害について向き合う所か反迫害派の獣人を捕らえ始めた。恐れた反迫害派の獣人達は身を隠すように地下の水路へ逃げて現在の基地を作った。


 そして最終的には反迫害を唱える獣人は問答無用で拘束され、反逆罪として地下牢に死ぬまで閉じ込められてしまう。その中にはラクジャの息子でありアポロンも入っていた。


「そうか……それで?なんで帝国が関係してるんだ?」


「それはだな……仲間が来たみたいだ。迎え――」


「マズいな」


「マズいなって……何がです?」


「少し待っててくれ」


 セイラはトルソを部屋に残して、基地の入り口の方へ向かって行く。すると、そこには剣を構えながら階段上を警戒している聖騎士が居た。


「何もするな!仲間だ!」


「しかしセイラ様!闇の使徒が目の前にいるんですよ!」


「だが今は話だけでも聞こう」


「わ、かりました。ですが怪しい行動をしたら直ぐに切り伏せます」


 聖騎士はセイラに説得され、仕方なく戻って行く。


「セイラ」


 自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこにはアルクが居た。そして、アルクの周りには少し前に戦った竜人と獣人、それにラクジャも居た。


「本当に来たのか……あいつ等には先に私から一言言うつもりだ。それまでは敵対行動を取るなよ」


「せっかく集まった仲間をここで失う程馬鹿じゃない」


「それならいい」


 セイラはそう言うと水戸の奥へ進んでいき、アルク達もその後に続いた。そして開けた空間に出ると、仲間の聖騎士達や反迫害派の獣人は予想外の来客にただ茫然としていた。


「あー……これからお前達の仲間になるアルクだ。一応よろしく頼む」


「アニニマの王をやっているラクジャだ。同じくよろしく頼む」


 ラクジャがそう言った次の瞬間、獣人と聖騎士達は一瞬でアルク達を取り囲んだ。


「何故ここに闇の使徒が居るんだ!」


「動くなよ!少しでも怪しい動きをしたらその首を切り刻んでやる!」


「迫害主義の獣人が何の様だ!」


「そうだ!帝国の傀儡が何しに来やがった!」


 主に聖騎士達は闇の使徒であるアルクを警戒し、反迫害派の獣人達はラクジャを警戒していた。それを見たセイラとトルソは急いで間に入り、聖騎士と獣人を落ち着かせようとした。


「待てお前ら!ここに来る奴は仲間だってトルソが言っていただろ!それに今は帝国も相手にしようとしてるんだ!取り敢えず落ち着いて話し合え!」


「セイラの言う通りだ!それにこいつらが敵だったら俺達は今頃死んでるんだぞ!武器を仕舞って落ち着け!」


 今にも襲い掛かろうとしていた聖騎士と獣人だったが、セイラとトルソの必死の説得により、武器を仕舞う者が現れる。そして、武器を持つ者が居なくなったのを見届けると、トルソはラクジャとアルクを座るように促す。


「アポロン。どうやってラクジャを懐柔したんだ?前までは人形みたいにうんともすんとも言わなかった筈なのに」


「それに関してはアルクに感謝しかない」


 アポロンはラクジャをどの様にして大人しくさせたのか説明する。


「それは確かにアルクのお陰だな」


「話し込んでいる所済まないが本題に入って貰いたい」


「それもそうだな。それじゃあ全員集まってくれ!」


 トルソの言葉と共に散っていた聖騎士と獣人が集まる。だが、聖騎士はアルクをいつでも仕留める事が出来るように、アルクを囲う形で集まる。


「まずは聖騎士達に紹介したい者が居る!こいつはアポロンと言って獣人王であるラクジャの息子であり反迫害派のリーダーだ!」


 トルソの言葉と共にアポロンは台に上り軽く自己紹介をする。そして、これからの動向について説明する。


「まず俺達がやる事は始祖神獣の解放だ!」


 アポロンがそう言った瞬間、聖騎士達はざわつき始める。ラクジャの政策を知っていた獣人達は落ち着いていたが、始祖神龍が封じられていることを知らなかった聖騎士がざわつくのはおかしくない。


「詳しい説明は後でするから今は黙って聞いてくれ!次にやる事は帝国の使者の殺害だ!当面の目標はこれにする!それじゃあまず始祖神獣について説明する!」


 アポロンは聖騎士達に向けて、始祖神獣の現状について説明する。始祖神獣がどの様にして封じられたのか説明し、最後に解放の仕方を伝える。


 次に今のアニニマの原因の元凶である帝国の使者について説明する。聖騎士はもちろん詳しい事まで知らなかった獣人は集中して話を聞いていた。


「以上が詳しい説明だ。それで次に心強い仲間であるアルクに説明してもらう!上がってこい!」


 アポロンに呼ばれたアルクはそのままアポロンと同じ台に登る。


「お前達の仲間になったアルクだ。さっそく本題に入るが役割について話す。異論は後で聞くからな」


 アルクが話した陣形とは簡単な物だった。始祖神獣解放は獣人が率先して動き聖騎士はその援護。帝国の使者の殺害はアルク達の役割となった。


「言っておくがこの陣形はお前達の為でもある。セイラ、なんでか分かるか?」


「わ、私に聞くのか!?そうだな……国際関係か?」


「その通りだ!始祖神獣解放に関してはミリス教徒である聖騎士達と獣人達の為である。始祖神獣を帝国の悪意から救ったと他国に広まれば国際的に有利になる。そして帝国の使者を俺達闇が殺す事によりアニニマやミリス教徒に責任を無しにする。何か異論のある奴は居るか?」


 アルクの提案した策に異論のある物は居なかったか。だが疑問があったのか、一人の聖騎士が手を上げる。


「闇との関与が疑われた場合どうするんだ?」


「関与か……それならこれで良いだろう」


 アルクはセイラに向けて闇魔法を放つ。予備動作の無い不意打ちだった為、対応出来るものが居なかった。


「これは相手を操るのに特化した闇魔法だ。特に命令することは無いから疑われたら操られたと言えば良い……突然打ったのは悪かった。だから剣を仕舞ってくれ、セイラ」


「一言ぐらい言ってくれ!いきなり撃たれるこっちの身にもなってくれ!」


「済まなかったから魔法を閉じてくれ!」


 アルクとセイラのやり取りを見ていた聖騎士達からすると、何故こんなにも打ち解けているのか不思議だった。


 そもそも本来なら闇は問答無用で消す筈なのに今は何もしていない。


「とまあ作戦としてはアルクの言った通りだ。情報屋からの追加の情報が入るまでゆっくりしててくれ」


 アポロンの言葉で集まっていた聖騎士と獣人は再び散って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やぁ。元気かい?神獣サマ?」


 帝国の使者マシュは目の前で項垂れている始祖神獣ファタンは目を覚まし、マシュを見つめた。


「今度は人間が来たのか……なんの用だ?俺は今眠いんだ」


「大丈夫だよ。それに直ぐに終わるから大丈夫だ」


「話は聞いてやる。行ってみろ」


「助かるよ」


 マシュはそう言うと、腰に付けていた謎の装置を取り出し、ファタンの前に置く。そして、その装置についているボタンを押すと黒い煙が発生し始める。


「これはなんだ?」


「闇だよ」  


 『闇』。そこの言葉を聞いた瞬間、ファタンは急いでその場から離れようとする。だが、マシュは『天の釘』を取り出しファタンの動きを抑える。


「やはり貴様が全ての元凶か!お前を見た時から嫌な気配がしていたが……どこでそれを見つけた?」


 ファタンは鎖に縛られる痛みと闇の侵食の痛みで顔を歪めながら聞く。


「ん?教えるわけないじゃん!それにお前の後ろにある鉱石。それは黒暗結晶だからもう直ぐで君の神力は失われて破壊に飲み込まれる」


「貴様らの目的はなんだ?俺の力が欲しいのでは無いのか?」


「それもそうだけど……1番の目的は闇を育てること。それ以上は知らない……それじゃあ後は頑張ってね」


 マシュは闇が広がる事を確認し、そのまま出て行った。


(マズいな……このままだと神力が削られて闇に落とされる……まぁ他の奴らが……盟約のせいで干渉は出来るわけないか。民は……頼りにならんな……耐えるしかないか)


 ファタンは自身の精神が闇に侵食されないように、全身に神力を纏わせる。後はどれだけファタン自身が闇に耐えられるかだった。

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