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7ー19 太陽城突撃3

 ラクジャの執務室までもう少しまでの所で、大きい爆発音が太陽城内に響き渡る。アルクはリラが暴れたのかと考えたが、リラの氣が感じられない。


 ラクジャの執務室に近づくにつれ、鼻腔に火薬が焼けた匂いが強くなっていく。ラクジャ王が自身の執務室を爆発するとは思えない。


 しばらく走っていると、扉が吹き飛び黒い煙が上がっている部屋を見つける。


 アルクはその部屋へ入ると、濃い火薬の匂いとリラとアポロン、ハリスが倒れていた。


「リラ!ハリス!何があった!生きているか?」


 アルクは倒れているリラ達の所へ寄り、怪我の確認と呼吸の確認をする。リラ以外は息が弱いが辛うじて生きている。


「折角片付けたと思ったらまた来やがった。てめぇは誰だ?」


 三人の治療をしていると、黒い煙の奥から一人の獣人が出てくる。


 獅子のたてがみに威厳のある顔。衛兵よりも筋骨隆々な肉体。


 間違いない。目の前の獣人がアニニマの国王ラクジャであった。


 アルクは殺意のある目線に警戒したが次の瞬間、その警戒が一気に消え失せた。アルクよりも背の高いラクジャの隣には人間の子供がいた。


 その子供は茶色の可愛らしい髪型をしていたが、着ている服に見覚えがあった。黒い軍服に数々の勲章。肩には黒いグリフォンの紋様。


 帝国の人間だが、グリフォンの紋様があると言う事は帝国軍の幹部しかいない。


(何故アニニマに帝国の幹部が居るんだ?)


 アルクはアニニマに帝国の幹部が居ることに疑問があったが、直ぐに疑問を振り解いた。


「むむむ?あれ?闇の使徒じゃん!ラクジャ!あの夜狼族と闇の使徒以外は殺しちゃって良いよ!」


「仰せのままに」


 帝国の人間がそう言った瞬間、ラクジャの瞳は光を失い、アポロンとハリスを殺す為に襲い掛かる。だが、アルクはラクジャの動きに反応し、アポロンとハリスを守る。


 ラクジャは素手で襲い掛かったお陰で、守りに入ったアルクに怪我は無く、そのままラクジャを蹴り飛ばし、窓を突き破り執務室からいなくなる。


 アルクはラクジャよりも、裏で指示を出す帝国の人間が危険だと判断し、帝国の人間に襲い掛かる。


 収納魔法から風龍剣を取り出し、帝国の人間の首を切ろうとする。だが、帝国の人間は避けようともせず、子供の様に笑顔になる。


「何してるの?僕を助けなよ?」


 帝国の人間がそう言った瞬間、執務室の外まで蹴り飛ばされていた筈のラクジャ戻っていた。それだけでなく、帝国の人間を守ろうとアルクの前に飛び出た。


 このまま剣を振ればラクジャごと帝国の人間を殺す事が出来たが、リラの許可無しにラクジャを殺すのはまずいと判断し、剣を引く。


「そこのガキ。帝国の人間だろ?それにグリフォンの紋様って事は帝国軍の幹部だろ?」


 アルクの言葉に帝国の人間は目を丸くした。


「自己紹介してないのにそこまで分かるんだね?」


「当たり前だ。冒険者として色んな所行ってたからな……で?お前は誰なんだよ?」


「そうだっだ。僕はマシュ=メーカー。一応は君の言う通り帝国の幹部って事になってるけど今は道具作りにハマってるんだよね」


 マシュはそう言うと、カーペットに隠されていた一本の槍を取り出す。その取り出された槍は包帯で巻かれており、アルクには見覚えがあった。


「色んな物を作ってるって言ってもね。僕は武器を作るのが得意なんだ。もう一人妹がいるんだけどそいつは魔物を作るのが得意なんだ」


 マシュは上機嫌なのか、聞かれても無いことをペラペラと話し始める。


「確かスキンティア学院の子供に僕の作った武器を渡したんだけど……失敗作だと思ってたらまさかの成功作でびっくりしちゃった!」


 マシュの言葉でアルクは槍の事を完全に思い出した。スキンティア学院の闘技大会でシルアと言う生徒が魔槍を使い暴走した。


 既にあの時から世界中に根を回して居たのだとアルクは気付く。


「っと。少し話し過ぎちゃったね。それじゃあラクジャ。闇の使徒と夜狼族以外は殺す様に。無理そうだったら手足の一二本は奪って良いから。頑張ってね!」


 マシュはそう言うと、爆発で空いた穴から太陽城の外へ出ようとする。だが、外はアルクの闇魔法で外へ出られない状態にある。


 その為、アルクはマシュを追うよりもラクジャを気絶させるのが先だと考えた。


 洗脳か暗示で動かされているのにも関わらず、ラクジャの身体能力はかなりの上位だ。この強さならアニニマの頂点に立っても違和感は無い。


 だが、アルクはラクジャよりも高い身体能力と知恵を持つ、最強の龍と何度も戦っている。この程度で負けて仕舞えば、後が怖いとアルクは考えていた。


 アルクはラクジャの攻撃を全て見切り、冷静にラクジャの顎を殴る。その瞬間、ラクジャは体制を崩し床に膝を着く。そのまま低くなった顔面に強力な蹴りを放ち、ラクジャを気絶させる。


「マ、マジ!?」


 マシュは目の前で起こった戦闘に戦慄を感じていた。いくら洗脳で動かして戦闘能力が通常より低いとはいえ獣人の中で最強と言われた者を簡単に倒した。この事実だけでマシュはアルクの実力が遥かに高いと瞬時に理解した。


 マシュは急いでアルクから逃げようとするが、アルクが発動した魔法により太陽城の外に出られなくなっている。


 アルクはマシュを仕留めようと、マシュとの距離を詰める。すると、マシュは懐から小さい何かを取り出し、それを手首に嵌める。


「アンチマジックシステム!起動!」


 マシュは声高らかに言うと、手首に嵌めた道具が光り出す。


 アルクは始めて見る魔道具らしき物に警戒し、足を止める。すると、本来はアルクの闇が切れない限り外に出れない[暗黒領]をマシュはすり抜けていく。


(すり抜けた!?魔法消去の類か?)


 アルクはマシュを追いかけようとするが、追いかけるのは得策では無いと考える。もしこのまま追いかけた場合、気絶しているリラ達が衛兵や目覚めたラクジャに捕まってしまう可能性が高い。


 アルクはラクジャの執務室に戻り、リラ達を連れて隠れようとする。息の弱かったアポロンとハリスは落ち着いたのか、息が安定してきた。だが、火傷が深いのか、皮膚が爛れ落ち、筋肉が焼けていた。


 アポロンとハリスの火傷を治す為に、収納魔法からクラシスから受け取った薬を取り出す。取り出した薬は無色透明で、一見すれば水と言われても違和感は無い。


 一度使えばどんな傷をも治す事が出来る。だが、薬の素材はアルク自身何も知らない。


「少し痛むが我慢しろよ!」


 一言そう言うと、火傷をしている部位に薬を掛ける。その瞬間、肉が焼ける様な音と共に水蒸気が上がる。


 水蒸気が晴れると、焼き爛れていたアポロンとハリスの体が元通りになっていた。


「流石はクラシスの薬……誰か来る」


 アルクはクラシスの作った薬に感嘆しつつも、ラクジャの執務室まで大量の足音が迫ってくるのを聞き取る。


「闇の使徒を見つけたぞ!殺せ!」


「夜狼族が居たぞ!捕まえたら遊んで暮らせる金が手に入るぞ!」


 アルク達の所へ来たのは拘束が解けた聖騎士達と太陽城に駐屯していた衛兵達であった。幸いにもアポロンとハリスの治療は最低限終わっている。


「すまんが邪魔をするなら全員落とすぞ!」


 警告で聖騎士達と衛兵達に言い放つが、警告も空しく襲い掛かる。アルクは襲い掛かって来る聖騎士達と衛兵達を魔力の解放だけで半分以上気絶させる。


 残った聖騎士と衛兵はアルク自身の攻撃で全員気絶させた。


「ふぅ……イレナの奴何やってんだ?」


 アルクは途中で別れたイレナの事が気になったが、先にアポロンとハリスの治療が先だと考える。


 すると、リラは目を覚まし、辺りを見渡す。意識を失う前までは立派な装飾や本が大量に並んでいた執務室は、今では見る影もない。ラクジャ自身は何者かによって気絶され、扉の方向では大量の聖騎士と衛兵がアルクの手によって気絶させられていた。


「リラ!?起きたか……意識はしっかりしてるか?」


「なんとか……ラクジャ王と隣に居た人間は……どうなりましたか?」


「状況説明したいのはやまやまだが先に避難が先だ。お前は体が小さいアポロンを運べ。俺はハリスを運ぶ」


 リラはここで聞きたかったが、アルクの指示に従い避難することにした。リラはここでイレナが居ない事に気付く。


「あの……イレナさんは?」


「知らん。地下牢の近くで一回分かれたけどそれっきり見てないが……あいつならセイラ以外は勝てるから大丈夫だろ」


 アルクはイレナについてはそれ程心配はしていなかった。魔吸石と神を覗けば基本的にイレナは負けない。


 しばらく広い廊下を走っていると、リラが抱えているアポロンが目を覚ます。


「あれ……ここは?」


「起きたか?リラ、アポロンを下ろしてやってくれ」


「はい」


 リラは目を覚ましたアポロンを床に下ろす。床に下ろされたアポロンが気絶する前に何が起こったのかを思い出した。


「父上は?それに帝国の使者はどこに行った!」


 アポロンは襲ってきたラクジャと帝国の使者についてアルクに聞く。


「ラクジャは襲ってきたから気絶させて執務室に放置してる。帝国の使者は逃げた」


「そうか……アルクと言ったな?父上は変な紋様が描かれた棒を持っていなかったか?」


「紋様が描かれた棒?見てないが……」


 アポロンが言っていた紋様が描かれた棒について思い出す。戦っていたラクジャは持っている様子はなかった。帝国の使者と言われているマシュについてはそれ程見ていなかったが、警棒の様な物を持っていた様な気がする。


「紋様が描かれた棒は見てないがマシュ……帝国の使者のベルトに警棒の様な物があったな。何か思い出したのか?」


「ああ。地下牢に閉じ込められる前に紋様が描かれた棒について父上から説明された。あの棒は『天の釘』と言われている」


 『天の釘』。その言葉を聞いたアルクはアポロンに詰め寄り、胸倉を掴む。


「『天の釘』だと!?あれは全て破壊されたと言われいる!一体どこで見つけたんだ!」


 アルクは焦った様な顔で声を荒げた。突然詰め寄り叫ぶアルクにその場にいたリラとアポロンは動かないでいた。


「良いか?『天の釘』は大昔の術師が作ったと言われる史上最高峰の封印具だ!それさえ有ればありとあらゆる者を封印出来る!神でさえも力を抑制され動きが縛られると言われる危険な物なんだよ!」


 アルクは一通り叫ぶとアポロンを離し、八つ当たりの様に太陽城の堅牢な壁を殴る。


「ラクジャが『天の釘』を見つけたって事は既に始祖神獣を縛っているって事だ。まずい事になる」


「まずい事って一体何だ?」


「帝国の使者が『天の釘』を持って行ったとしたら神獣の力を利用される」


 アルクのその言葉を聞いたアポロンとリラは事の重要さを認識した。アルクの言う通り帝国の人間が神獣の力を使ってしまえば世界が変わってしまう。それどころか大陸全体を巻き込む戦争が起きてしまう可能性がある。


「アポロン。神獣が封じられてる場所は分かるか?」


「そこは分からない。知っているのは父上だけだ……だが父上は――」


「帝国の人間に洗脳されてる上に俺が気絶させちまった」


 もし神獣が封じられ、帝国の人間に『天の釘』が渡っている事が分かれば、ラクジャを気絶させていなかった。


(どうする?神獣を封じている上にラクジャしか場所が知らない……どうすれば良い?)


 アルクは気絶させたラクジャを起こす為に、再び執務室に戻る事を考えた。だが、今頃の執務室は大量の衛兵が集まっている筈だ。


「ご主人。多分私なら行けると思います」


 リラはアルクの考えている事を察したのか、手を上げて言う。


「根拠は?」


「夜狼族は元々神獣の力の一部を宿した陽喰族と呼ばれてました。もしそれが本当なら神獣の居場所を見つける事が出来るかもしれません」


「そうか。それじゃあラクジャを無理にでも起こして力を出して貰うか!」


 アルクは夜狼族であるリラに力を取り戻させる為にラクジャを起こす事にした。

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