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7ー16 再会

 どこかの薄暗い空間で一人の竜人が目を覚ます。一人の竜人とはアルクと共にアニニマへ侵入した龍であるイレナだった。


 イレナはオウルの策略で拘束された後、目隠しをされてどこかへと連れられて行った。そして、目隠しを外されてからはずっと牢獄に一人でいた。


 牢獄が薄暗いせいか何日経ったのかイレナには分からなくなっていた。


 偶にイレナに尋問する為に獣人が来るだけでここは物凄く静かだった。そして、イレナの予想が正しければイレナを尋問するために獣人が来る筈だ。


「お~い。今日も来てやったぞ~。生きてるか?」


 イレナの予想通り一人の獣人が何かの道具を持ちながら、牢獄の前までやって来る。


「お前も暇なのか?これ連続だぞ?」


「その調子だとまだまだ元気そうだな。それじゃあ今日も尋問するが……今日は趣向を変えてこれを使おうと思うんだ」


 獣人はそう言うと、手に持っていた道具をイレナに見せる。


「それって……拷問器具か!?」


「正解だ。今までの尋問でお前は我慢強いって分かったからな。だから今回は痛みで情報を吐いてもらう。ちなみにこれは爪の間に針を入れて神経をズタズタにするんだ。凄い痛いぞ」


「待て待て。それで死んだらどうするんだ?」


「ん~。まぁ行けるだろ!やろう!」


「おいバカ!やめろ!」


 獣人はイレナを拷問する為に、拷問器具をイレナの指に近づける。


 そして、遂に拷問器具がてにはめられ、爪の間に針を入れられる。その瞬間、イレナの手から全身を貫く様な痛みが走る。


「ぐぁ!?あああああああ!」


「早く情報を吐け!」


「誰が吐くかよ!」


「そうか!それじゃあもう片方にこれをはめるぞ!」


 もう片方の手に拷問器具が嵌められようとした瞬間、もう一人の獣人が急いでやって来る。


「上官!大変なお知らせがあります!」


「今からいい所なんだ。手短に言ってくれ」


「はい!先程猫火族領で夜狼族と闇の使徒であるアルクが発見されたとの事です!」


「そうか。それならもうお前に用はない。事が終わるまでここで大人しくしてるんだな!」


 獣人はそれだけ言い残し、牢獄を後にした。


 牢獄で一人になったイレナは自身を縛っている鎖を壊そうと腕に力を入れる。


 だが、魔吸石で出来た鎖はイレナの魔力を際限なく吸収している為、イレナの腕に力が入らない。


(待てよ?これは魔力を吸ってるって言っていたな……)


 イレナは魔力を吸うという事をオウルが言っていた。だが、イレナは母でありクラシスからとある事を言われたのを思い出した。


「何物には必ず限界はある……か。やってみるか」


 イレナはそう言うと龍魔力を全て解放する。イレナが辿り着いた方法は魔力を大量に吸わせて破壊すると言う荒業だ。


 だが、イレナは龍でありその身に流れる魔力は特殊だ。龍魔力は高密度の魔力であり、龍魔力を浴びた生き物は魔力量を大量に内蔵してなければ自壊してしまう。


 全身から龍魔力を解放した瞬間、魔吸石で出来た鎖は全て吸収する。


 だが、大量の龍魔力を吸収したのか、少しだけ吸収する勢いが減る。


「もっと……もっとだ!」


 イレナは龍魔力の解放をさらに続けようとしたが、何故か龍魔力の解放が出来なくなった。


 いや、体がこれ以上の龍魔力の解放を拒絶しているのだ。


 通常の生き物は自身の命と体を守る為にある程度制限が課せられている。だが、長く死という存在に触れていると自身に課せられている制限が緩くなる。


 その結果が魔力欠乏と言う症状だ。


 イレナは生まれ落ちてからまだまだ幼いと言う事もあり、制限がまだ動いているのだ。


「仕方ない……少しずつやるしかないか」


 イレナは一回で鎖を壊すのを無理だと判断し、少しずつやろうと決めた。


 その瞬間、牢獄内が揺れた様な気がした。


「なんだ?地震か?」


 イレナは地面が揺れた事を大して気に留めていなかった。だが、段々と地面の揺れが大きくなっていく。


 まるで巨大な生き物がこちらは向かって来る様だった。


 すると、イレナを閉じめこめていた牢獄の天井が崩れ、一人の少年がそこに居た。


「よぉイレナ。大変そうだな?」 


「それはこっちのセリフだ、アルク。どうやってここに来たんだ?」


「地面を掘っただけだ。それにしてもお前が大量の龍魔力を解放したお陰で簡単に見つける事が出来たよ。地上に上がるぞ」


 アルクは持っている剣でイレナを縛っている鎖を切る。魔吸石は魔力を吸う事で生物の力を抑制する。だが、単純な力で簡単に壊す事が出来る。


「地上って……ここはどこなんだ?」


 イレナは自身がどこに閉じてこられたのか聞く。


「ここはアニニマの古代遺跡群だよ。いや〜お前が龍魔力を解放していなかったら太陽城に向かう所だったよ」


 アルクに連れられイレナは階段を登りきる。そこは崖に囲まれた砂漠だった。そして周囲には崩れかけている廃墟が幾つもあった。


「掴んだ情報だとお前は太陽城の地下牢に閉じ込められてるって聞いてな。リラと白蜘蛛と一緒に太陽城に突撃するつもりだったんだ」


「そうなのか……なんか……ここ……」


「どうしたんだ?」


「いや。どこか威圧されてる様な……なんかこう……圧迫感があるんだ」


 イレナはどこからか強大な存在から威圧されているような感覚を感じていた。


 どうやらその感覚はやって来たリラも感じていた。


「イレナさん、久しぶり」


「久しぶりだね?」


「うん。ところでご主人。早くここを離れましょう。なんかすごく怖いです」


「怖い?分かった。白蜘蛛!衛兵達を良い具合に気絶させてくれ!」


「ワカッタ!」


 白蜘蛛は糸で包まれている二つの何かを強く縛る。すると、糸で包まれている二つの何かはジタバタと動いたと思ったら動かなくなった。


 イレナは包まれている何か深く考えず忘れる様に考えた。


「話はここを離れてからしよう」


 アルク達は古代遺跡群から離れ、樹海に入って行った。


「それで?黒暗結晶は見つかったのか?」


「見つからなかったよ。でも別の奴なら見つかった」


「別の奴?」


「そうだ。それに関してはリラが説明するのが良いだろう」


「はい。見つかったのは夜狼族迫害の情報なの」


 リラは夜狼族迫害の事実をイレナに教えた。  


 夜狼族迫害の事実を聞き終えたイレナは怒りが湧き出ていた。


「何が予言を恐れてだ!確定もしていない予言を信じた結果がこれか!クソ!」


 イレナの言い分は最もだ。予言は『未来』を見るが『今』の結果によって未来は大きく異る。


 だが、それ以前にアルクとイレナにとって迫害とは許されない事であった。


 何故ならクラシスから迫害の愚かさを嫌と言う程に教えられたからだ。


「それでどうする?」


「どうするって……私は太陽城に乗り込むって事か?それに関しては私は賛成だぞ?でもリラにも聞かないと」


 太陽城に乗り込むのを決定するのはリラだ。リラは夜狼族迫害の被害者である為、全ての決定権はリラにある。


「行きましょう!それで王様に直接会って話し合いたいです」


「決まりだな。それじゃあ全員で太陽城に突撃するか!」


 リラの答えを聞いたアルクは元気よく言うと、闇を解放して翼を顕現させる。


「最初から全力で行くのか?」


「そうすれば相手を準備させる時間を遅らせる事が出来る」


「そう言う事か……すまんが私は今は出来ない」


「知っているさ。だから俺がある程度揺動するから後で来れば良い」


「私も一緒に行きたいです」


「良いだろう。結構早く飛ぶが良いか?」


 リラは首を縦に振るとアルクはリラを抱える。そして、天高く飛翔して太陽城へ向かっていった。


「白蜘蛛は一緒に行かなくて良いのか?」


「ハヤスギテサムイ」


「そうか。それじゃあ一緒に近くまで行くか」


「ウン」


 イレナは白蜘蛛と一緒に龍魔力が完全に回復するまで走って太陽城へ向かった。


―――――――――――


 太陽城内で一人の人間の騎士が走っていた。その騎士とは鎧に身を包んだセイラであった。


 セイラは目の前の扉を勢い良く開けると、会議中だったのか衛兵総督とラクジャと各族長が居た。


「セイラ!?今は会議中だから入らないで――」


 ラクジャは会議中に入ってきたセイラを部屋から追い出そうとする為に、近くにいた衛兵に部屋から追い出す様に命令する。


「邪魔だ!ラクジャ王!闇が現れた!それも巨大な闇だ!こちらに向かっている!」


 セイラのその一言でラクジャの顔色が変わった。


「迎撃の準備は?」


「無理だ!ついさっき闇の反応を感じ取ったが凄い速さでこちらに向かっている!」


「ラクジャ様!昨日猫火族領で夜狼族と闇の使徒を確認したとの報告がございます!」


 急いで来たのか息を切らしながら会議室へ入って来た。


「分かった!セイラ。出来るだけ時間を稼いでくれ!俺達は早めに準備する!」


「頼んだ!」


 セイラはある程度状況報告をすると、聖剣部隊が居る所へ戻って行った。


「セイラ様!」


「闇は今どこにいる?」


「それが……既に真上に居ます……」


 部下である騎士の言葉に、セイラは上を見る。するとそこには闇の使徒であるアルクと、アルクに抱えられている獣人が居た。


「いつから居た?」


「少し前からずっとそこに居ます」


「そうか……少し奴の所へ行ってくる」


「はぁ!?では護衛を……」


「必要ない。邪魔なだけだ」


 セイラは護衛をいらない事を部下に言うと、アルクの所へ飛行した。


「久しぶりだな、アルク」


「貴方も元気そうですね」


「まぁな……お前が抱えている獣人はあの時の奴か?」


「そうです。今回はこいつ関連の問題で来まして……邪魔して欲しくないんですけど……」


「無理な話だな」


「そうか……じゃあ無理にでも――」


「ご主人!」


 リラの言葉と共にアルクは魔防壁を発動する。その瞬間、大量の光線がアルクを襲った。


(この魔法……外壁の塔で潜んでる奴らか!)


 アルクは魔法を撃って来た敵の居場所を直ぐに特定する。そして、外壁の塔で潜んでいる兵士目掛けて魔法を放つ。


 放った魔法は兵士に当たらずに、兵士の居る塔の天井に当てる。


 兵士はアルクの放った魔法が外れたのだと思ったのか、再び魔法を放とうとする。その瞬間、兵士の居る塔の天井が崩れ、兵士を下敷きにする。


「リラ。お前は先に中を進んでおけ」


「分かりました」


 アルクは魔防壁でリラを守りながら、太陽城の屋根へと下ろす。


「あの獣人を一人にして大丈夫なのか?」


「少なくともここに居る奴らに負ける程弱くはないですよ……それじゃあ俺を捕まえる為に全員纏めて来い!」


 アルクの一言で隠れていた聖騎士達が姿を表す。


 アルク自身はミリス教の騎士達が来ている事は知らなかった。だが、太陽城に来てから姿は見えないが、大勢の人間の気配がしていた。


「セイラ様。勇者達の方はどう致しましょう?」


「今こっちに来ている途中だろうから心配する事は無い。今は目の前にいる敵に集中しろ。気を抜いたら死ぬと思えよ」


 セイラは聖騎士達に警戒する様に指示を出す。だが、アルクは気付いていた。


 聖騎士達はアルクを相手にしても警戒が緩んでいる事に。


 恐らく聖騎士達はたった一人の敵相手に油断しているのだろう。それに加えてアルクと対峙した事のある人間はセイラのみ。


「それじゃあ……行こうか!」


 アルクは手始めに油断しきっている一人の聖騎士を襲う。突然の事に対応出来なかった聖騎士は訳も分からず鎖骨を折られてしまう。


 鎖骨を折られてしまうと腕を上げる事が出来なくなってしまう。


 アルクはそのまま鎖骨を折った聖騎士を蹴り飛ばす。


「油断するなと言っただろう!全力で殺しに行け!」


 油断していた聖騎士達は目の前で起こった出来事に、アルクを格上だと判断し、全力で襲い掛かりに行った。

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